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第十一章 黒の主、博物館に立つ
261:魔竜剣、大放出スペシャル!
しおりを挟む■ジイナ 鉱人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
「おおー! メルクリオも四階層に行けたのか!」
『おおー』パチパチパチ
夕食の席でフロロさんから報告があった。
どうやらリンネさんの初探索の際に殿下たちにちょうど会ったらしい。それで聞いたと。
サロルートさんたちは三クラン合同でリッチを突破したのに対し、殿下は自分たちだけで突破。
私たちが言えた義理ではないが、それは本当に素晴らしい事だと思う。
しかし四階層に行っただけではSランク認定はされないようだ。それはサロルートさんたちも同じ。
そうなると私たちがSランクになったのは四階層への初到達に加えて、やはり炎岩竜を倒したのが大きいのだろう。
それを考えると、私たちと同じSランクである【赤き爪痕】というクランは竜を倒せるほどの実力という事だろうか……気絶しないまでもイブキさんに簡単に投げられたらしいし、殿下たちとの差はあまりないようにも思えるが……。
そんな思考をしていたら、その【赤き爪痕】の報告も飛び出した。
何でも、玉座の間の先、螺旋階段の上でガブリオルという例の獅人族が息を引き取っていたというのだ。
「ええっ!?」「まじか!」「おおっ!」「うわぁ」
みんなの反応は様々。さすがに死んで喜ぶ人は居ないが、ツェンさんやラピスさんは笑みを浮かべている。エメリーさんは頷いている。
私もあの時、リッチ狩りをしていたので経緯ややりとりは知っている。
だから「やっぱりリッチは倒せなかったか」と納得する反面、どこか残念な気持ちもある。
迷宮で死亡すれば死体は迷宮にとりこまれる。おそらくガブリオルという人は死んですぐだったのだろう。
他の人は死に、迷宮に消え、一人だけが残されたと。
証拠もないので予想にすぎないが。
「メルクリオたちも帰りのリッチ討伐の方が難しかったと言っておった。【赤き爪痕】は行きで戦う事もなく、帰りが初戦だったのだ。やはり厳しかったのだろう」
「なるほどな。嘗めたままリッチに挑んでも行きだったら撤退出来たかもしれないな。たらればだけど」
仮にもSランクだというのに帰りのリッチ戦では正面扉の方に逃げることさえ出来なかったのか。
それほどまでにリッチが厄介なのか、【赤き爪痕】が驕っていただけなのか……。どちらとも言えそうだ。
ともかく殿下から本部長にも報告されたらしいし、私たちとしては【赤き爪痕】を警戒する必要がなくなったのは確かだ。
それを喜んでいい場面ではないが、私としては今回の一件で、改めて迷宮というものの恐ろしさを感じた次第だ。
Sランクでさえ簡単に全滅する。その事実は重く受け止めなくてはならないと思う。
翌日、私は鍛治工房に籠る。
いや、最近はずっと籠っているから、今日も籠るだけだ。
博物館の警備やら何やらは、改築が終わるまで手を付けられないので、やる事と言えば【魔竜剣】だ。
最初の試作からユアさんと協力し色々と検証してみた結果、分かった事がある。
竜素材と魔石、接合材の属性を合わせる事で、魔法の威力が増す事が確認出来た。
風竜と炎岩竜の素材に同じ風魔石を付けてみた所、風竜の方が断然強かったのだ。
だからと言って炎岩竜だと火属性しか使えないというわけではない。
試しにミスリルで普通の【魔法剣】を作り、そこに同じ魔石を付けてみたが、威力は同じくらいだった。
つまり魔法の威力だけ見れば、【同属性の魔竜剣】>【別属性の魔竜剣】≧【普通の魔法剣】となる。
武器の攻撃力を見ればミスリルよりも竜素材の方が強いのは当たり前なので、これはもう【魔法剣】ではなく【魔竜剣】一本に絞って作るべきだ、というのが結論。
もちろんご主人様やみんなにも報告し、早速【魔竜剣】製作に取り掛かっているというわけだ。
ご主人様からは優先順位を決めて順番に作るよう依頼がされた。
というのも量が多いのだ。
魔剣・聖剣保持者以外は、杖と弓の人以外ほぼ全員が一新される事になる。
ティナちゃんのレイピア、ツェンさんのナックル、ヒイノさんの直剣、私の槌、ドルチェちゃんの槍、ラピスさんの槍、パティちゃんの短剣、リンネさんのショーテル。
それが終われば、エメリーさんの予備武器が盛り沢山。
さらにミーティアさんの予備武器やネネちゃん、シャムさん、イブキさんの予備武器に魔竜剣があってもいいんじゃないかという意見まで出ている。ご主人様、気軽に言わないで下さい。
そんなわけで順々に作っているのだが、魔竜剣は私だけで完結するものではないので、ユアさんと入念な打ち合わせをし、どんな武器にどんな大きさの魔石をどこに入れるかを決めながら作っている。大変な作業だ。
使う本人の意見なども聞き込み、それを取り入れ、ついでとばかりにご主人様の好みまで加わってくる。ご主人様、ちょっとどっか行ってて下さい。
「ティナのレイピアは二本な。双剣にするから」
「えっ」
「長さを変えるか、それが悩ましい。あっ、左右のレイピアで別の魔法を使えるようにな」
「えっ」
ホント、ご主人様、気軽に言いすぎですよ。毎度の事だけど。ティナちゃんもはしゃいでるし、嫌とは言えないし。
ユアさんは「ひぃぃぃ」って顔色悪いし。
ポーション飲んだ方がいいんじゃないですか?
とまぁそんな事があり、一つずつ順番に作っていく。私はクラン専属鍛冶師として無茶ぶりだろうが作る義務があるのだ。
実際には作るの楽しかったりするんだけど。
鍛治が好きな上に、誰も知らない【魔竜剣】というものを作るのだからテンションは上がる。
使用者とユアさんとご主人様と、打ち合わせしながらの作成というのは今までの鍛治とは比べ物にならないほど時間が掛かる。
それでも順調に作れてしまうのは、私の<鍛治>スキルとユアさんの<錬金術>スキルがご主人様の<スキルカスタム>によってカンストしているからだろう。
自分の能力でありながら、決して自分だけの力ではないと、毎度のことながら痛感する思いだ。
出来上がった魔竜剣は毎回、夕食時にご主人様から使用者に下賜された。
命名も全部ご主人様にお任せ。
ご主人様からは「ジイナかユアが名付ければ?」とも言われたが、なんとなくご主人様にお任せしている。
思えばツェンさんの武器を作った時に「これはドラゴンファングに決まりな」と言い出してからだ。
ドラゴンファングという名前に何か思い入れがあったのかもしれない。
それからは私が打つたびにご主人様が命名するという流れになってしまった。
さて、そうして幾日もかけて作り上げた魔竜剣はこちら。
・ティナ【疾風の魔竜細剣】【風壁の魔竜細剣】
ティナちゃんのレイピアは双剣にするという事で、右手用の【疾風】は使い慣れた<風の槍>。
左手用の【風壁】は少し短くして<風の壁>を使えるようにした。
素材は風竜の鱗、魔石はブライトイーグルの風魔石だ。
・ツェン【轟炎の魔竜拳】【炎壁の魔竜拳】
ツェンさんのナックルは火属性になった。水竜系の竜人なのだが攻撃力重視らしい。
素材は炎岩竜の甲羅、魔石はヘルハウンド。
<空拳>での単体攻撃の他、<炎の嵐>での広範囲攻撃が可能となった。
左手用のナックルは<炎の壁>を使えるようにしてあるので防御にも使える。
・ヒイノ【炎壁の魔竜剣】
ヒイノさんは防御重視という事で<炎の壁>を使えるように。まぁ攻撃も出来るんだけど。
同じく素材は炎岩竜の甲羅、魔石はヘルハウンド。
・ジイナ【暴風の魔竜槌】
私の魔法槌は土属性から風属性に変えた。
<穿岩の波>だと直線上の敵にしか効果がなかったので、<暴風の嵐>で広範囲に。
素材は風竜の牙、魔石はブライトイーグルの風魔石。
・ドルチェ【疾風の魔竜槍】
ドルチェちゃんは戦闘時に動く事が少ない(ご主人様に突進しないよう厳しく言いつけられている)為、盾を構えて足を止めたまま、<風の槍>を撃てるように。
槍の突きの動作と変わらないので、単純に距離が伸びた感じだ。
素材は風竜の鱗、魔石はブライトイーグルの風魔石。
・ラピス【轟炎の魔竜槍】
一方でラピスさんの槍は<炎の嵐>で高火力。
自身が<水魔法>に長けているので、逆に<火魔法>を求めた格好だ。
同じく素材は炎岩竜の甲羅、魔石はヘルハウンド。
・パティ【疾風の魔竜短剣】
パティちゃんの短剣は<風の槍>を撃てるように。
本人的には【風竜の短剣】でも一杯一杯なのに魔竜剣を貰っても……という感じだったので、とりあえず勝手に<風の槍>にした。
素材は風竜の鱗、魔石はブライトイーグルの風魔石。
・リンネ【風壁の魔竜曲剣】【炎壁の魔竜曲剣】
リンネさんのショーテルは左右で<風の壁>と<炎の壁>の二種類。
本人がまだクランでのパーティー戦闘に慣れていないので、攻防共に使える魔法にとりあえずした。
【風壁】の素材は風竜の鱗、魔石はブライトイーグルの風魔石。【炎壁】の素材は炎岩竜の甲羅、魔石はヘルハウンド。
一応、こんな感じ。
エメリーさんの大量発注はまだ手を付けていない。
結局、魔法の威力も重視しようという意見が出たので、竜素材に合わせて風と火属性に絞られた。
そして当然のようにご主人様がこう言う。
「やっぱり火属性の魔石が欲しい。博物館が落ち着いたら四階層に行こう」
火属性の【領域主】討伐大会が決定したらしい。
まぁユアさんの杖の時点でそう言っていたから遅かれ早かれという感じだが。
大多数は乗り気だが「亀は勘弁してくれ」という声もちらほら。
うん、私も反対です。亀、ダメ、絶対。
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