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第十一章 黒の主、博物館に立つ
262:とある兎幼女の一日
しおりを挟む■ティナ 兎人族 女
■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘
おはようございます。
朝、目を覚ましベッドから身体を起こすと、隣のベッドのお母さんは居ません。いつもの事です。
お母さんはみんなの朝食の用意もしているので早起きです。
私もお母さんのお手伝いをしたいので一緒に起こしてと言っているんですが、いつも起こしてくれません。
ご主人様も「子供は寝るのが仕事だ」と言います。
私だってご主人様の侍女ですし、ちゃんとお仕事したいのに。ぶー。
一人で侍女服に着替え、お顔を洗ってから食堂に行きます。
私はいつも最後の方なのでほとんどお手伝いする事も出来ないまま席に着くと、美味しそうなお母さんのパンが出て来ました。
やっぱりお母さんのパンが一番美味しいと思います。
ちなみに食堂に来るのが一番遅いのは、大抵ツェンお姉ちゃんかラピスお姉ちゃんです。
ご主人様からは「あんな大人になっちゃいけません」と言われます。
はんめんきょーしと言うのだそうです。二人ともすごく強いし、背も高くてすごくカッコイイと思うんですが……。
朝食の席で、今日の予定を言われます。ご主人様の予定が最初にあって、それに付きそう人がまず決められます。
それから迷宮に行く人、お屋敷で仕事をする人、個々で用事がある人など、大体はエメリーお姉ちゃんが振り分けます。
私は迷宮組ではありませんでした。残念。
でもお仕事を頑張ります! 私もご主人様の侍女ですから!
朝一は、ポルお姉ちゃんと畑のお世話です。
お屋敷の庭にある畑はポルお姉ちゃんが管理を任されています。
ポルお姉ちゃんが迷宮に行ったりする時は、フロロお姉ちゃんやミーティアお姉ちゃん、お母さんもお世話したりしてます。
「バジルとローズマリーはもう収穫できるです。ガーリックもいけそうです」
「はーい。えっと、こっちの葉っぱ切ってもいい?」
「大丈夫ですよー」
畑は小さいですけど、ご主人様の要望で色々な香草や豆類を育てています。
これで美味しいお料理が食べられると思うと、私も張り切って収穫します。
お肉もただ焼くんじゃなくて香草を使うとすごく美味しくなるらしく、最初にご主人様から教えてもらった時にお母さんが驚いていました。
それからはお母さんも畑のお世話を率先してお手伝いしています。
畑の脇には茸を育てる為の原木も並べてあります。これはもうポルお姉ちゃんしかお世話出来ません。
色々な茸がポルお姉ちゃんのスキルでニョキニョキ生えてくる。見ていて楽しいです。
でも私、実は茸が少し苦手。みんなは焼いたシイタケとか好きなんですが、私はちょっと……。
ピザに乗ってる茸とかは好きなんですが。
ポルお姉ちゃんの前でそんな事は言えませんけど。
畑のお世話が終わるとお屋敷の掃除をお手伝いします。
すでに今日の掃除担当のウェルシアお姉ちゃんが進めているので、私とポルお姉ちゃんも参戦します。
基本的には生活魔法の<洗浄>を使える人が掃除をしますが、ちゃんと拭いたりする所もあり、そういう所は私がやります。
私、生活魔法使えないので……。
お母さんは使えるので種族特性どうこうじゃないと思うんですが、ご主人様にステータスとか<カスタム>してもらっていても未だに使えるようになりません。
生活魔法が使えればもっとお手伝い出来ると思うんですが、残念です。
多分、もう少し大きくなれば使えるようになると言われたので、それまで我慢です。
いくら<洗浄>で簡単に掃除出来ると言っても、お屋敷は広いので時間は掛かります。
特に総合神殿の神像などは、<洗浄>ではなく一つ一つ、手で拭いたり磨いたりするので大変です。
間違えて倒したり、壊したりしたら怒られます。神様に。
気を付けて、ゆっくり丁寧に掃除しましょう。
「では神殿はお任せしますわ。わたくしは娯楽室と応接室をやってきますので」
「はーい」「了解ですー」
ウェルシアお姉ちゃんと分担してやる事にしました。
娯楽室と応接室も結構大変なんですよね。ごちゃごちゃしてるし。
そうこうしていると、侍女教育中のエメリーお姉ちゃんとリンネお姉ちゃんに会いました。
リンネお姉ちゃんは家事も出来ますし、戦闘も大丈夫みたいですが、侍女教育は苦手みたいです。
私もいっぱいお勉強したので大変なのはよ~く分かります。
頭にお盆を乗せたリンネさんがフラフラしています。
「こ、この体勢のまま歩くとかっ! 難しいですネ!?」
「ほら、段々と背中が丸まって来ましたよ? 一つ一つの所作に注意を払わねばなりません」
「ひぃぃ……う、美しい所作とはこんなに大変なものなのですネ……」
「ああ、ちょうどいい所に居ましたね。ティナとポルにもお手本を見せてもらいましょう」
ん? 呼ばれました? 私とポルお姉ちゃんでエメリーお姉ちゃんの所に行きます。
そしてすぐさま、ポルお姉ちゃんの頭にお盆、私の頭にショートソードを乗せられます。
あー、なんか久しぶりですねーこれ。
とりあえず侍女の姿勢になります。手はおへそで組む感じでビシッと。
「おおおっ! ティナちゃんもポルちゃんも小さいのに見事ですネ! 美しい!」
「「えへへ~」」
「ポル、ティナ、そのままちょっと走って見て下さい」
「「はーい」です」
スタタタと走ります。姿勢をキープしてショートソードを乗せたまま走るのはコツがいるんですよね。
ずっと姿勢に気を付けて生活していると自然と出来るようになるものです。
「うわわ……なんでそれで走れるのか……不思議ですネ……」
「見ていて侍女の姿勢が自然でしょう? リンネも慣れればこれくらいは出来るようになるという事です。ご主人様の侍女であればこれしきの事、出来ないわけがありません」
「おおお……侍女道は険しいですネ……」
姿勢がよくなると戦うにしても強くなるようです。身体が動かしやすいとか。
私は実際に戦う前に侍女教育をいっぱい受けたので実感はなかったのですが、元々戦っていたツェンお姉ちゃんとかがそう言ってました。
リンネお姉ちゃんも魔物と戦っていたそうなので、多分実感出来るようになると思います。
お昼休みを挟んで掃除の続きをし、ようやく終わったところで地下訓練所に行きます。
私としてはこれからが本番です! ふんす!
というのも、ジイナお姉ちゃんに作って貰った魔竜剣が上手く使いこなせないんです。
だから最近はずっと暇を見つけて練習しています。
右手の【疾風の魔竜細剣】はいいんです。今までのレイピアとほとんど変わらないですし、<風の槍>も使えます。
剣の攻撃力も上がったし、魔法の威力も上がりましたが、使い方自体は変わりません。
でも左手の【風壁の魔竜細剣】も一緒に使うとなると、全然変わっちゃいます。
双剣の使い方自体、よく分からないんですが、そこに<風の壁>まで加わると、頭がごちゃごちゃになります。
リンネお姉ちゃんがショーテルの双剣使いなので使い方を聞いてみたんですが、どうもショーテルはレイピアと全然使い方が違うそうで、あまりアドバイスは貰えず。
なので武器なら何でも使えるエメリーお姉ちゃんにも聞いてみたりしました。
「ご主人様がティナを双剣にしたのはおそらく二つの意味があると思います」
「二つ?」
「ええ。一つは短めで取り回しやすいレイピアを左手に持つ事で、防御をしやすいように。安全の為ですね。だから<風の壁>を使えるようにしたのでしょう」
それは私用の魔竜剣を作る時の打ち合わせでも言われました。
右手で攻めて、左手で守れるようにって。
言われた時は「なるほど!」って思いましたが、いざ使うとなると難しいんです。
「もう一つは、おそらくガーブのような使い手になって欲しいという事ではないかと」
ガーブさんって【天庸】の、ご主人様と戦った人ですよね?
ご主人様が「あいつが一番強かった」って言ってました。風竜よりも強いとかスゴイです。
「ガーブはティナと同じような長さの違う細身の双剣を使っていました。それを巧みに操り、ご主人様を剣技で圧倒していましたよ。私は見ているだけでしたが」
「はぇ~、ご主人様より強いとか信じられないです」
「少し動きを真似てみましょうか。私が見た範囲ですが」
エメリーお姉ちゃんがマジックバッグからショートソードを二本出し、ガーブさんの動きを見せてくれるそうです。
見ただけで動きを真似出来るってさすがエメリーお姉ちゃんです。
「こう動いてから……こう、そしてこう。ここからスルッと流れて、こう振る……」
「うわぁ」
「断片的かつ精度は低いのですが、確かこのような動きだったと思いますよ。もっとも、今の数倍は速いし巧かったですがね。侍女の誰とも違う動きですので、アドバイス出来るとしても実際に戦ったご主人様くらいだと思います」
それは身体の動かし方からして今までとは全く違うものでした。エメリーお姉ちゃんが戦っている時の動きとも違うし、ご主人様の動きとも違います。
まるで水が流れてるみたい。ニュルニュル動いてビュンビュン振ってました。
こんなの私に出来るんでしょうか……。
「動いてみて分かりましたが、やはりガーブも左手の剣は補助が主目的だと思います。左手で牽制して、右手で攻撃。攻撃を受ける時も左手。動く時のバランスを保つのにも役立っているみたいですね」
「うーん、難しいよぅ」
「実際にティナも今の私の動きを真似してみたらどうです? 何か掴めるかもしれません」
そこから少しずつ教えてもらう事になりました。
エメリーお姉ちゃんはリンネお姉ちゃんの教育もあるのに、私まで教えてもらっちゃって申し訳ないです。
でも早く使えるようにならないと! せっかくスゴイ剣を作ってもらったんですから!
ちゃんと使いこなして、ちゃんと戦えるようになって、今度四階層に行く時には私もいっぱい戦うんです!
今度はトロールキングとも戦いますからね! 絶対に! ふんす!
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