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伯爵家
第3話 魔法
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「では、始めるとするか」
「はい、宜しくお願い致します」
「まずは今の君に何ができるのか聞いておきたいのだが」
「そうですね。剣術は父に少々習いました。あとは……」
シンシアは口を歪ませ、言い淀む。実際のところ大体の事情は察しているのだ。おそらく魔法がうまく使えないのだろう。この状況で口をつぐむ理由は数えるほどしかないのだから。
「魔法の使用で事故でも起こしたか」
「分かっておられたのですか…」
少女はばつが悪そうに俯く。余程答えたのだろう。拳を握りしめ、唇が切れるほど強く歯を噛み締めている。だが、俺はいい傾向だと思った。大抵、魔法がうまく使えない理由は自分を傷つけるかもしれないという恐怖が原因となることが多いからだ。しかし、この少女の反応を見る限り怯えているようには見えない。むしろ、上手く使えないことを悔やんでいるように見える。このようなタイプは努力を惜しまないだろう。俺は仮面で覆われた口をほんの少し釣り上げた。
「そんな悲壮な顔をしなくても大丈夫だぞ。君は確実に魔法が使えるようになる」
「本当ですか」
少女はぶつかるのではないかというほどの勢いで俺に詰め寄った。その縋るような瞳はまるで捨てられまいと必死に主人に媚を売るペットのようで嗜虐心を刺激される。だが、自分は教師役なのだからそんなことは考えるべきではないなとその思考を頭の隅に追いやる。
「ああ、もちろんだ。それに俺自身も魔導士だ。必ず力になることを約束しよう」
シンシアは満面の笑みを浮かべてこくこく頭を揺らす。この態度を見るに余程精神が摩耗していたのだろう。自分のような怪しげな男の甘言をこうも簡単に鵜呑みにしてしまうのだから。それとも白金の冒険者の信用はこんなところにまで轟いているのだろうか。俺は益体のない思考を巡らす。
「ところで、君は魔力や魔法というものがどういうものか理解しているか」
「魔力とは魔法を生み出すためのエネルギーで、魔法はあらゆる物理的現象に左右されない特異な現象ということでしょうか」
「確かに間違ってはいないが抽象的すぎるな。まずはそこから教えていこう。また、質問があればその都度手を上げなさい」
「はい、先生」
シンシア素早く腰を下ろすと膝を抱え、右手を高く上げて笑みを浮かべながら返事をする。また随分と打ち解けたものだと俺は呆れるような表情を浮かべたが残念ながらその表情は少には見えない。
「魔力についてだがこれは体の細胞で生成されているため普段魔力は体中に満遍なく存在している。さらに、魔力そのものには様々なものを強化する性質があるんだ。そのため、魔力が多い人間ほど肉体強度や身体能力は必然的に高くなる。まあ、基本的に魔法が使える人間のほうが魔力が多くなる傾向があるから魔導士は強いというイメージがあるというわけだな」
少女はなるほどと言わんばかりにぶんぶんと頭を振った。その仕草はなんとも可愛らしく微笑ましい気持ちになる。
「さて、ここまでを踏まえて魔法の説明に移るぞ。魔法が使える人間とそうでない人間には異なる部分がある。分かるか」
「ええーと、魔導回路でしょうか」
「正解だ。魔導回路は心臓の中央部にある結晶体のことだな。この部分に魔力が送られることで魔力が魔法へと変化する。大抵の人間の魔導回路は風、炎、水、土、雷の五属性に変化させる性質を持つ。俗に属性魔法と言われる奴だな。だが、極稀にそれ以外の性質を持つことがある。それが特異魔法と言われている魔法だな。これは何とも言えない。正直無限に等しい種類があるため極端に弱い魔法もあれば極端に強い魔法もある。いまだに謎が多い魔法だ」
不意に手が上がる。雪のように白い手だ。
「一般的にどちらの魔法が強いのでしょうか」
「様々なことができ魔法の幅が広い特異魔法は戦闘以外のことで役に立つことが多く、逆にできることは少ないが単純な破壊力で言えば属性魔法のほうが上の場合が多い。要するに一長一短だ。だが、単なる力比べに限るなら属性魔法のほうが強いだろうな」
少女はこっくりと深くうなづくと次を促すようにじっと見つめてくる。
「話を戻すぞ。特異魔法は謎が多く同じ魔法の使い手は滅多にいない。元々、魔法が使える人間は千人に一人と言われている。その数少ない魔導士の中で特異魔法が使えるのは多くて一割ほどだろう。確かに極めるとなればすぐにとはいかないが使う段階まではどちらの魔法だろうと変わらない。つまり、魔力を魔導回路に流し、魔法を発動させるという行為は魔法の性質には左右されないということだ」
俺はシンシアに目を向けると体を小刻みに震わせ、抱えている膝から身を乗り出さんがばかリに顔を突き出していた。見るからに早く魔法を使ってみたいと思っているだろうと予測できる。ほんの数分前まで魔法はコンプレックスだと言わんばかりの顔をしていたのに現金なものだとまたもや呆れ混じりの目を向ける。しかし、自分の指導でこうなってたのだから教師冥利に尽きるなと頬を緩ませた。
「はい、宜しくお願い致します」
「まずは今の君に何ができるのか聞いておきたいのだが」
「そうですね。剣術は父に少々習いました。あとは……」
シンシアは口を歪ませ、言い淀む。実際のところ大体の事情は察しているのだ。おそらく魔法がうまく使えないのだろう。この状況で口をつぐむ理由は数えるほどしかないのだから。
「魔法の使用で事故でも起こしたか」
「分かっておられたのですか…」
少女はばつが悪そうに俯く。余程答えたのだろう。拳を握りしめ、唇が切れるほど強く歯を噛み締めている。だが、俺はいい傾向だと思った。大抵、魔法がうまく使えない理由は自分を傷つけるかもしれないという恐怖が原因となることが多いからだ。しかし、この少女の反応を見る限り怯えているようには見えない。むしろ、上手く使えないことを悔やんでいるように見える。このようなタイプは努力を惜しまないだろう。俺は仮面で覆われた口をほんの少し釣り上げた。
「そんな悲壮な顔をしなくても大丈夫だぞ。君は確実に魔法が使えるようになる」
「本当ですか」
少女はぶつかるのではないかというほどの勢いで俺に詰め寄った。その縋るような瞳はまるで捨てられまいと必死に主人に媚を売るペットのようで嗜虐心を刺激される。だが、自分は教師役なのだからそんなことは考えるべきではないなとその思考を頭の隅に追いやる。
「ああ、もちろんだ。それに俺自身も魔導士だ。必ず力になることを約束しよう」
シンシアは満面の笑みを浮かべてこくこく頭を揺らす。この態度を見るに余程精神が摩耗していたのだろう。自分のような怪しげな男の甘言をこうも簡単に鵜呑みにしてしまうのだから。それとも白金の冒険者の信用はこんなところにまで轟いているのだろうか。俺は益体のない思考を巡らす。
「ところで、君は魔力や魔法というものがどういうものか理解しているか」
「魔力とは魔法を生み出すためのエネルギーで、魔法はあらゆる物理的現象に左右されない特異な現象ということでしょうか」
「確かに間違ってはいないが抽象的すぎるな。まずはそこから教えていこう。また、質問があればその都度手を上げなさい」
「はい、先生」
シンシア素早く腰を下ろすと膝を抱え、右手を高く上げて笑みを浮かべながら返事をする。また随分と打ち解けたものだと俺は呆れるような表情を浮かべたが残念ながらその表情は少には見えない。
「魔力についてだがこれは体の細胞で生成されているため普段魔力は体中に満遍なく存在している。さらに、魔力そのものには様々なものを強化する性質があるんだ。そのため、魔力が多い人間ほど肉体強度や身体能力は必然的に高くなる。まあ、基本的に魔法が使える人間のほうが魔力が多くなる傾向があるから魔導士は強いというイメージがあるというわけだな」
少女はなるほどと言わんばかりにぶんぶんと頭を振った。その仕草はなんとも可愛らしく微笑ましい気持ちになる。
「さて、ここまでを踏まえて魔法の説明に移るぞ。魔法が使える人間とそうでない人間には異なる部分がある。分かるか」
「ええーと、魔導回路でしょうか」
「正解だ。魔導回路は心臓の中央部にある結晶体のことだな。この部分に魔力が送られることで魔力が魔法へと変化する。大抵の人間の魔導回路は風、炎、水、土、雷の五属性に変化させる性質を持つ。俗に属性魔法と言われる奴だな。だが、極稀にそれ以外の性質を持つことがある。それが特異魔法と言われている魔法だな。これは何とも言えない。正直無限に等しい種類があるため極端に弱い魔法もあれば極端に強い魔法もある。いまだに謎が多い魔法だ」
不意に手が上がる。雪のように白い手だ。
「一般的にどちらの魔法が強いのでしょうか」
「様々なことができ魔法の幅が広い特異魔法は戦闘以外のことで役に立つことが多く、逆にできることは少ないが単純な破壊力で言えば属性魔法のほうが上の場合が多い。要するに一長一短だ。だが、単なる力比べに限るなら属性魔法のほうが強いだろうな」
少女はこっくりと深くうなづくと次を促すようにじっと見つめてくる。
「話を戻すぞ。特異魔法は謎が多く同じ魔法の使い手は滅多にいない。元々、魔法が使える人間は千人に一人と言われている。その数少ない魔導士の中で特異魔法が使えるのは多くて一割ほどだろう。確かに極めるとなればすぐにとはいかないが使う段階まではどちらの魔法だろうと変わらない。つまり、魔力を魔導回路に流し、魔法を発動させるという行為は魔法の性質には左右されないということだ」
俺はシンシアに目を向けると体を小刻みに震わせ、抱えている膝から身を乗り出さんがばかリに顔を突き出していた。見るからに早く魔法を使ってみたいと思っているだろうと予測できる。ほんの数分前まで魔法はコンプレックスだと言わんばかりの顔をしていたのに現金なものだとまたもや呆れ混じりの目を向ける。しかし、自分の指導でこうなってたのだから教師冥利に尽きるなと頬を緩ませた。
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