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帝国動乱
第14話 ドクター
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ひとしきり話し終えた後、俺は食堂を出た。その顔にはウルに日が傾くまで根掘り葉掘り近況を聞かれた疲れが浮かんでいた。何をそんなに聞くことがあるのかというくらいの質問の嵐に晒され正直もう宿に戻って寝たいくらいだ。だが、カームベルのメンバーはいつここを離れるかわからず、気まぐれにどこかに行くのも珍しくないため会える時に会っておく方がいいのだ。俺はそんな益体のないことを考えながら研究棟に向かっていた。
カームベルには構成員を三種の役割で差別化しており、その三種とは戦闘員、補助要員、研究員である。戦闘員はその名の通り標的となった人や魔物と戦うものたちだ。俺やノインがこの役割に当たる。次に補助要員は諜報、潜入を始め、戦闘員や当主のユニの身の回りの世話まであらゆる雑務を担当する。これにはフィリアやウルがこれに当たる。そして、最後の研究員は未知の毒や薬の作成から武器や防具の製造まで様々な物の制作を行う。これに当たるのがドクターと呼ばれる男だ。俺はその人物に会うために研究棟の一室に向かっているのだ。
しばらく何の変哲もない石造りの廊下を歩いていくと明らかに場違いな鋼鉄製の重厚な扉が目に入る。俺は扉から少し離れた石のブロックが積みあげて作ったような壁に近づきそのブロックの一つの力強く押す。するとそれはガコンと音を立てて凹み、分厚い扉が鈍い金属音を鳴らしながら開いていく。俺は空いた扉を抜け、遠慮なく中に入っていく。部屋の中には怪しげな液体が入った大きな水槽や様々な植物が入っている透明な箱、その他にも様々な物が散乱している。妙な異臭が漂う中奥に進んだ行くと白衣を着た男の後ろ姿が見える。
「ふむ、何か足りないか。理論的には完成のはずだが。色が想定よりもずっと薄い。材料? 配合方法? それとも工程に不備が? いや、それよりもまずはこの不完全なものがどのような効果をもたらすか確認しなくては。さっそく実験動物を連れてきて……」
男はぶつぶつと透明な瓶に入った液体を凝視しながらつぶやいている。目を血走らせ、歪んだ笑みを浮かべている姿はさながら不審者のそれだ。
「ドクター、今いいか?」
白衣を着た痩せた男は不意の後ろからの声に体をびくりと震わせた。
「なんだ、アイン君か。びっくりさせないでくれたまえ」
「別に驚かせたわけじゃない。俺は堂々とあの不快な音が鳴る扉から入ってきたんだ。むしろ、あんな音が鳴ってるのに築かない方がどうかしてると思うが」
「いやー、今新薬開発がいいところまで行っててね。つい気持ちが高ぶってしまったんだよ。これが完成すればあらゆる傷や病気の完治、失った血液もある程度回復できる画期的なものが出来上がるんだよ。素晴らしいと思わないか?」
ドクターは満面の笑みを浮かべ、無邪気な子供のようにはしゃいでいる。
「それで副作用は?」
「しばらくの間強い眠気に襲われるくらいかな」
俺は疑わし気な視線を男に向ける。
「そんな目で見ないでくれよ。本当なんだよ。でもこの薬は飲む者を選ぶんだよ」
「どうゆうことだ?」
「これは飲んだ瞬間飲んだ本人の大量の魔力と反応を起こすことで効果を発揮する。つまり、最低限の魔力もない人間が飲むと多分死ぬ」
「なんだ、それじゃあ結局病気を治すくらいにしか使えないな。しかも、潜在魔力が高いもの限定。俺には縁のなさそうな薬だな」
ドクターは手のひらを上の方に向けやれやれといった様子で肩をすくめる。
「分かってないなー。それでも医療に革命を起こすほどの薬だというのに。これだから戦闘バカは救えない」
「それくらい俺も分かっているし、十分その薬を開発したドクターのことはすごいと思ってるよ。だから、あまり拗ねるなよ」
ドクターは腕を組み、明後日の方を向きながら答える。
「別に拗ねてないし。それで君は私に用があるからここに来たんだろ? さっさと用を済ませて立ち去り給え。私は研究の続きをしなければならないからね」
やっぱり拗ねてるなと心の中で呟く。この子供っぽさが無ければ完璧なのにと俺はそっとため息をつく。
「ああ、そうするよ」
俺はそう言うと近くの薬品棚にある緑色の液体が入ったガラス瓶を取る。
「これ貰ってもいいか?」
ドクターは怪訝な表情を浮かべ、俺を見つめる。
「それかね? それはこの前君が使えないと言っていた致命傷でも完全に治すのと引き換えに半日の間筋肉が弛緩する薬だと思うのだが」
「この前はすまんな。よくよく考えてみるとこれは意外と使えるものだってわかったんだよ」
俺がそう言うとドクターの声のトーンがほんの少し上がる。
「そうか、そうか。いや、君も少しは私の研究の素晴らしさが分かってたようだね」
ドクターはこう言っているが俺はこの研究品の数々の凄さは十分分かっている。迷宮からたまに出土する<神薬/エリクサー>という副作用なしの完全回復薬があるためかすんで見えるが、そもそも副作用があるからと言ってどんな傷も治す薬など現在の技術ではこの人以外作れる人間はいないだろう。だが、うかつに褒めすぎると調子になってしまうため口にはあまり出さないだけである。
「そうかもな」
心中の気持ちを押し込め、そう言うと踵を返し、来た方向へと歩を進める。
「あ、分かってるとは思うけどこの借りは被検体になってもらうことで返してもらうからね。そのときは連絡するからすぐ来るように」
俺は振り向かず右手を軽く上げてひらひらと振り重厚な扉を通り抜けていった。
カームベルには構成員を三種の役割で差別化しており、その三種とは戦闘員、補助要員、研究員である。戦闘員はその名の通り標的となった人や魔物と戦うものたちだ。俺やノインがこの役割に当たる。次に補助要員は諜報、潜入を始め、戦闘員や当主のユニの身の回りの世話まであらゆる雑務を担当する。これにはフィリアやウルがこれに当たる。そして、最後の研究員は未知の毒や薬の作成から武器や防具の製造まで様々な物の制作を行う。これに当たるのがドクターと呼ばれる男だ。俺はその人物に会うために研究棟の一室に向かっているのだ。
しばらく何の変哲もない石造りの廊下を歩いていくと明らかに場違いな鋼鉄製の重厚な扉が目に入る。俺は扉から少し離れた石のブロックが積みあげて作ったような壁に近づきそのブロックの一つの力強く押す。するとそれはガコンと音を立てて凹み、分厚い扉が鈍い金属音を鳴らしながら開いていく。俺は空いた扉を抜け、遠慮なく中に入っていく。部屋の中には怪しげな液体が入った大きな水槽や様々な植物が入っている透明な箱、その他にも様々な物が散乱している。妙な異臭が漂う中奥に進んだ行くと白衣を着た男の後ろ姿が見える。
「ふむ、何か足りないか。理論的には完成のはずだが。色が想定よりもずっと薄い。材料? 配合方法? それとも工程に不備が? いや、それよりもまずはこの不完全なものがどのような効果をもたらすか確認しなくては。さっそく実験動物を連れてきて……」
男はぶつぶつと透明な瓶に入った液体を凝視しながらつぶやいている。目を血走らせ、歪んだ笑みを浮かべている姿はさながら不審者のそれだ。
「ドクター、今いいか?」
白衣を着た痩せた男は不意の後ろからの声に体をびくりと震わせた。
「なんだ、アイン君か。びっくりさせないでくれたまえ」
「別に驚かせたわけじゃない。俺は堂々とあの不快な音が鳴る扉から入ってきたんだ。むしろ、あんな音が鳴ってるのに築かない方がどうかしてると思うが」
「いやー、今新薬開発がいいところまで行っててね。つい気持ちが高ぶってしまったんだよ。これが完成すればあらゆる傷や病気の完治、失った血液もある程度回復できる画期的なものが出来上がるんだよ。素晴らしいと思わないか?」
ドクターは満面の笑みを浮かべ、無邪気な子供のようにはしゃいでいる。
「それで副作用は?」
「しばらくの間強い眠気に襲われるくらいかな」
俺は疑わし気な視線を男に向ける。
「そんな目で見ないでくれよ。本当なんだよ。でもこの薬は飲む者を選ぶんだよ」
「どうゆうことだ?」
「これは飲んだ瞬間飲んだ本人の大量の魔力と反応を起こすことで効果を発揮する。つまり、最低限の魔力もない人間が飲むと多分死ぬ」
「なんだ、それじゃあ結局病気を治すくらいにしか使えないな。しかも、潜在魔力が高いもの限定。俺には縁のなさそうな薬だな」
ドクターは手のひらを上の方に向けやれやれといった様子で肩をすくめる。
「分かってないなー。それでも医療に革命を起こすほどの薬だというのに。これだから戦闘バカは救えない」
「それくらい俺も分かっているし、十分その薬を開発したドクターのことはすごいと思ってるよ。だから、あまり拗ねるなよ」
ドクターは腕を組み、明後日の方を向きながら答える。
「別に拗ねてないし。それで君は私に用があるからここに来たんだろ? さっさと用を済ませて立ち去り給え。私は研究の続きをしなければならないからね」
やっぱり拗ねてるなと心の中で呟く。この子供っぽさが無ければ完璧なのにと俺はそっとため息をつく。
「ああ、そうするよ」
俺はそう言うと近くの薬品棚にある緑色の液体が入ったガラス瓶を取る。
「これ貰ってもいいか?」
ドクターは怪訝な表情を浮かべ、俺を見つめる。
「それかね? それはこの前君が使えないと言っていた致命傷でも完全に治すのと引き換えに半日の間筋肉が弛緩する薬だと思うのだが」
「この前はすまんな。よくよく考えてみるとこれは意外と使えるものだってわかったんだよ」
俺がそう言うとドクターの声のトーンがほんの少し上がる。
「そうか、そうか。いや、君も少しは私の研究の素晴らしさが分かってたようだね」
ドクターはこう言っているが俺はこの研究品の数々の凄さは十分分かっている。迷宮からたまに出土する<神薬/エリクサー>という副作用なしの完全回復薬があるためかすんで見えるが、そもそも副作用があるからと言ってどんな傷も治す薬など現在の技術ではこの人以外作れる人間はいないだろう。だが、うかつに褒めすぎると調子になってしまうため口にはあまり出さないだけである。
「そうかもな」
心中の気持ちを押し込め、そう言うと踵を返し、来た方向へと歩を進める。
「あ、分かってるとは思うけどこの借りは被検体になってもらうことで返してもらうからね。そのときは連絡するからすぐ来るように」
俺は振り向かず右手を軽く上げてひらひらと振り重厚な扉を通り抜けていった。
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