魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

文字の大きさ
33 / 39
帝国動乱

第16話 心機一転

しおりを挟む
 俺たちの目の前には一面に生い茂る草原が広がっていた。真上から照らされる陽光と程よく吹く風が心地よさを感じさせる。



「とりあえず<鎧牛/アーマードブル>の生息地まで行くぞ」



 そう言うと俺は雑草を踏みしめながら歩いていく。隣にシンシアが小走りで近づいてくる。



「先生、今日は何で鎧牛を狩るのですか?確か鎧牛はこの前戦ったワイバーンよりも弱いと思うのですが」



 シンシアは心底不思議という様子で尋ねてくる。



「そのことか。まあ、深い理由があるわけじゃない。ただ、今現在のお前の実力を測るのに鎧牛は適しているというだけだ」



「それってどういうこと何でしょうか?」



「まあ、すぐに分かる。ほら、お出ましだ」



 そう言って俺はやや左方向を指さす。そこには全身を岩のような外殻で覆われ、頭からはねじれた角を生やす一匹の獣がいた。それはこちらを一瞬見るが意に介した様子は見せず足元の草をむしゃむしゃと食べている。



「先生、あの岩みたいな剛毛の強度はもしかしてワイバーンの鱗よりも硬いのですか?」



「その通りだ。鎧牛は特殊な分泌物を出して毛を鋼鉄を凌ぐ強度にする。お前がこの前身に着けた魔力操作を使っても真正面から切りかかっては傷一つ付けられない」



 まあ、だからこそ野生の鎧牛は他の生物を見つけても攻撃を仕掛けてこず、襲ってきたものにのみ反撃してくる。自分の防御力に余程自信があるのだろう。だが、その慢心が仇となる。確かに外郭自体は恐ろしく硬いが体の所々毛の継ぎ目のようなものがある。そこを正確に魔力を籠めて切りつければあっさりと狩ることができる。もちろん、このことはシンシアに渡した書物には記していない。今回はこのような弱点を見抜きそこ突くための訓練なのだ。



「最低限の情報は与えたところで狩りを始めるぞ。まずはお前だけでやってみろ」



 そう言ってシンシアの肩をポンと叩く。彼女は無言でこくりと頷き肯定を示す。



「ノインは手を出すなよ」



 ノインはあくびを噛み殺しながらぽつりぽつりと答える。



「ん。言われなくても手なんて出さない」



 二人がそんな会話をする中シンシアは一人で鎧牛に近づいていく。シンシアは目標まで数メートルの地点で止まる。



「<誘導する光線/トランスレイ>」



 シンシアは魔法を発動し、体の周りに五つの光弾を浮かべる。徐に右手を突き出すと光の玉から光線が放たれる。それぞれの光線が鎧牛に当たる直前に曲がり頭、足、腹、背中、尻に着弾する。その衝撃で土煙が舞い、鎧牛の姿が見えなくなる。



 その光景に俺は目を見開き、彫像のように固まっていた。それはそうだ。数日目を離した間に一か月間習得できなかった新たな魔法の使い方を身に着けているのだから。これは正直うれしい誤算だが横でにやにやしているやつのせいであることが気がかりだ。



「ノイン、お前何かしたの?」



「別に。ただシンシアと戦った。それだけ」



 俺は顎に手を当て思案する。おそらくノインが行動を起こしたのはユニが何らかの指示をしたからだろう。その内容を聞き出したいところだがカームベル内では当主の指示が優先度が一番高く、その指示内容は当主自身の口以外からは話してはならないというルールがある。そのため聞くことはルール違反だ。まあ、大体の予想は立つためこのことをこれ以上考えるのはやめようと俺が思考を打ち切ると同時に鎧牛の野太い鳴き声が響く。

 光線で剛毛の表面は焦げているものの大したダメージは見られない。激高した<鎧牛/アーマードブル>はシンシアへと真っ直ぐ突っ込んでくる。シンシアは右手に握った漆黒の剣の腹に左手を押し付け盾のように構える。鎧牛が構えた剣に激突し、その勢いのまま後方へとシンシアは押し込まれていく。



 苦し気な吐息を漏らしながらも足に精一杯力を入れ<鎧牛/アーマードブル>の速度を落としていく。十分に勢いを殺すと剣の腹を相手の頭に押し付け転がるように宙に跳ぶ。態勢を整え、空中から鎧牛を見下ろす。



「<貫く光撃/スティンガー>」



 剣に光を粒子が集まり、眩い光を放つ。突きを放つように剣を突き出すとそこから圧縮された光の塊が放たれる。それは鎧牛の背中の焦げ跡にぶつかるとそのまま外殻を貫き、ぽっかりと穴を開ける。傷口から大量の血を垂れ流し、鎧牛はばたりと横倒しに倒れる。シンシアはふわりと着地するとすぐさま俺のもとへと駆けてくる。



「先生、今のどうでしたか?」



 シンシアは自信ありげな表情を浮かべながら質問してくる。俺は先ほどの光景にあっけにとられていたが軽く咳払いすると口を開く。



「見事だった。正直予想以上の成果を見せてもらった。よく頑張ったな」



 その言葉を聞きシンシアは喜色を浮かべ拳をぐっと握りしめた。



「だが、いつの間にあれほど自在に魔法が使えるようになったんだ?」



「それはノインのおかげです。休みの二日間でいろいろと魔法について教えてもらったんです」



 ノインの方に視線を向けると誇らしげな表情をしていた。少々の苛立ちを感じたがそれをぐっと飲みこむ。



「そうか。これからも色々と教えてもらえ。その方が上達が早いようだ」



「ん。私はにいよりも優秀だから」



「あまり調子に乗るな」



 俺はノインの頭に軽く手刀を下ろす。



「さて、それじゃあ死体を回収して次に行くぞ」



「はい」



「ん」



 俺は鎧牛の死骸に近づき異空間に収納する。その時傷口を改めて見たが完全にあの硬い外殻を貫いている。こんな芸当ができるのは上級冒険者くらいだ。彼女の実力は既にそのくらいまで達しているということだ。成長が早いとかそんな次元ではない。だが、その事実に俺は思わず仮面で隠れた口元を歪めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...