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帝国動乱
第16話 心機一転
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俺たちの目の前には一面に生い茂る草原が広がっていた。真上から照らされる陽光と程よく吹く風が心地よさを感じさせる。
「とりあえず<鎧牛/アーマードブル>の生息地まで行くぞ」
そう言うと俺は雑草を踏みしめながら歩いていく。隣にシンシアが小走りで近づいてくる。
「先生、今日は何で鎧牛を狩るのですか?確か鎧牛はこの前戦ったワイバーンよりも弱いと思うのですが」
シンシアは心底不思議という様子で尋ねてくる。
「そのことか。まあ、深い理由があるわけじゃない。ただ、今現在のお前の実力を測るのに鎧牛は適しているというだけだ」
「それってどういうこと何でしょうか?」
「まあ、すぐに分かる。ほら、お出ましだ」
そう言って俺はやや左方向を指さす。そこには全身を岩のような外殻で覆われ、頭からはねじれた角を生やす一匹の獣がいた。それはこちらを一瞬見るが意に介した様子は見せず足元の草をむしゃむしゃと食べている。
「先生、あの岩みたいな剛毛の強度はもしかしてワイバーンの鱗よりも硬いのですか?」
「その通りだ。鎧牛は特殊な分泌物を出して毛を鋼鉄を凌ぐ強度にする。お前がこの前身に着けた魔力操作を使っても真正面から切りかかっては傷一つ付けられない」
まあ、だからこそ野生の鎧牛は他の生物を見つけても攻撃を仕掛けてこず、襲ってきたものにのみ反撃してくる。自分の防御力に余程自信があるのだろう。だが、その慢心が仇となる。確かに外郭自体は恐ろしく硬いが体の所々毛の継ぎ目のようなものがある。そこを正確に魔力を籠めて切りつければあっさりと狩ることができる。もちろん、このことはシンシアに渡した書物には記していない。今回はこのような弱点を見抜きそこ突くための訓練なのだ。
「最低限の情報は与えたところで狩りを始めるぞ。まずはお前だけでやってみろ」
そう言ってシンシアの肩をポンと叩く。彼女は無言でこくりと頷き肯定を示す。
「ノインは手を出すなよ」
ノインはあくびを噛み殺しながらぽつりぽつりと答える。
「ん。言われなくても手なんて出さない」
二人がそんな会話をする中シンシアは一人で鎧牛に近づいていく。シンシアは目標まで数メートルの地点で止まる。
「<誘導する光線/トランスレイ>」
シンシアは魔法を発動し、体の周りに五つの光弾を浮かべる。徐に右手を突き出すと光の玉から光線が放たれる。それぞれの光線が鎧牛に当たる直前に曲がり頭、足、腹、背中、尻に着弾する。その衝撃で土煙が舞い、鎧牛の姿が見えなくなる。
その光景に俺は目を見開き、彫像のように固まっていた。それはそうだ。数日目を離した間に一か月間習得できなかった新たな魔法の使い方を身に着けているのだから。これは正直うれしい誤算だが横でにやにやしているやつのせいであることが気がかりだ。
「ノイン、お前何かしたの?」
「別に。ただシンシアと戦った。それだけ」
俺は顎に手を当て思案する。おそらくノインが行動を起こしたのはユニが何らかの指示をしたからだろう。その内容を聞き出したいところだがカームベル内では当主の指示が優先度が一番高く、その指示内容は当主自身の口以外からは話してはならないというルールがある。そのため聞くことはルール違反だ。まあ、大体の予想は立つためこのことをこれ以上考えるのはやめようと俺が思考を打ち切ると同時に鎧牛の野太い鳴き声が響く。
光線で剛毛の表面は焦げているものの大したダメージは見られない。激高した<鎧牛/アーマードブル>はシンシアへと真っ直ぐ突っ込んでくる。シンシアは右手に握った漆黒の剣の腹に左手を押し付け盾のように構える。鎧牛が構えた剣に激突し、その勢いのまま後方へとシンシアは押し込まれていく。
苦し気な吐息を漏らしながらも足に精一杯力を入れ<鎧牛/アーマードブル>の速度を落としていく。十分に勢いを殺すと剣の腹を相手の頭に押し付け転がるように宙に跳ぶ。態勢を整え、空中から鎧牛を見下ろす。
「<貫く光撃/スティンガー>」
剣に光を粒子が集まり、眩い光を放つ。突きを放つように剣を突き出すとそこから圧縮された光の塊が放たれる。それは鎧牛の背中の焦げ跡にぶつかるとそのまま外殻を貫き、ぽっかりと穴を開ける。傷口から大量の血を垂れ流し、鎧牛はばたりと横倒しに倒れる。シンシアはふわりと着地するとすぐさま俺のもとへと駆けてくる。
「先生、今のどうでしたか?」
シンシアは自信ありげな表情を浮かべながら質問してくる。俺は先ほどの光景にあっけにとられていたが軽く咳払いすると口を開く。
「見事だった。正直予想以上の成果を見せてもらった。よく頑張ったな」
その言葉を聞きシンシアは喜色を浮かべ拳をぐっと握りしめた。
「だが、いつの間にあれほど自在に魔法が使えるようになったんだ?」
「それはノインのおかげです。休みの二日間でいろいろと魔法について教えてもらったんです」
ノインの方に視線を向けると誇らしげな表情をしていた。少々の苛立ちを感じたがそれをぐっと飲みこむ。
「そうか。これからも色々と教えてもらえ。その方が上達が早いようだ」
「ん。私はにいよりも優秀だから」
「あまり調子に乗るな」
俺はノインの頭に軽く手刀を下ろす。
「さて、それじゃあ死体を回収して次に行くぞ」
「はい」
「ん」
俺は鎧牛の死骸に近づき異空間に収納する。その時傷口を改めて見たが完全にあの硬い外殻を貫いている。こんな芸当ができるのは上級冒険者くらいだ。彼女の実力は既にそのくらいまで達しているということだ。成長が早いとかそんな次元ではない。だが、その事実に俺は思わず仮面で隠れた口元を歪めた。
「とりあえず<鎧牛/アーマードブル>の生息地まで行くぞ」
そう言うと俺は雑草を踏みしめながら歩いていく。隣にシンシアが小走りで近づいてくる。
「先生、今日は何で鎧牛を狩るのですか?確か鎧牛はこの前戦ったワイバーンよりも弱いと思うのですが」
シンシアは心底不思議という様子で尋ねてくる。
「そのことか。まあ、深い理由があるわけじゃない。ただ、今現在のお前の実力を測るのに鎧牛は適しているというだけだ」
「それってどういうこと何でしょうか?」
「まあ、すぐに分かる。ほら、お出ましだ」
そう言って俺はやや左方向を指さす。そこには全身を岩のような外殻で覆われ、頭からはねじれた角を生やす一匹の獣がいた。それはこちらを一瞬見るが意に介した様子は見せず足元の草をむしゃむしゃと食べている。
「先生、あの岩みたいな剛毛の強度はもしかしてワイバーンの鱗よりも硬いのですか?」
「その通りだ。鎧牛は特殊な分泌物を出して毛を鋼鉄を凌ぐ強度にする。お前がこの前身に着けた魔力操作を使っても真正面から切りかかっては傷一つ付けられない」
まあ、だからこそ野生の鎧牛は他の生物を見つけても攻撃を仕掛けてこず、襲ってきたものにのみ反撃してくる。自分の防御力に余程自信があるのだろう。だが、その慢心が仇となる。確かに外郭自体は恐ろしく硬いが体の所々毛の継ぎ目のようなものがある。そこを正確に魔力を籠めて切りつければあっさりと狩ることができる。もちろん、このことはシンシアに渡した書物には記していない。今回はこのような弱点を見抜きそこ突くための訓練なのだ。
「最低限の情報は与えたところで狩りを始めるぞ。まずはお前だけでやってみろ」
そう言ってシンシアの肩をポンと叩く。彼女は無言でこくりと頷き肯定を示す。
「ノインは手を出すなよ」
ノインはあくびを噛み殺しながらぽつりぽつりと答える。
「ん。言われなくても手なんて出さない」
二人がそんな会話をする中シンシアは一人で鎧牛に近づいていく。シンシアは目標まで数メートルの地点で止まる。
「<誘導する光線/トランスレイ>」
シンシアは魔法を発動し、体の周りに五つの光弾を浮かべる。徐に右手を突き出すと光の玉から光線が放たれる。それぞれの光線が鎧牛に当たる直前に曲がり頭、足、腹、背中、尻に着弾する。その衝撃で土煙が舞い、鎧牛の姿が見えなくなる。
その光景に俺は目を見開き、彫像のように固まっていた。それはそうだ。数日目を離した間に一か月間習得できなかった新たな魔法の使い方を身に着けているのだから。これは正直うれしい誤算だが横でにやにやしているやつのせいであることが気がかりだ。
「ノイン、お前何かしたの?」
「別に。ただシンシアと戦った。それだけ」
俺は顎に手を当て思案する。おそらくノインが行動を起こしたのはユニが何らかの指示をしたからだろう。その内容を聞き出したいところだがカームベル内では当主の指示が優先度が一番高く、その指示内容は当主自身の口以外からは話してはならないというルールがある。そのため聞くことはルール違反だ。まあ、大体の予想は立つためこのことをこれ以上考えるのはやめようと俺が思考を打ち切ると同時に鎧牛の野太い鳴き声が響く。
光線で剛毛の表面は焦げているものの大したダメージは見られない。激高した<鎧牛/アーマードブル>はシンシアへと真っ直ぐ突っ込んでくる。シンシアは右手に握った漆黒の剣の腹に左手を押し付け盾のように構える。鎧牛が構えた剣に激突し、その勢いのまま後方へとシンシアは押し込まれていく。
苦し気な吐息を漏らしながらも足に精一杯力を入れ<鎧牛/アーマードブル>の速度を落としていく。十分に勢いを殺すと剣の腹を相手の頭に押し付け転がるように宙に跳ぶ。態勢を整え、空中から鎧牛を見下ろす。
「<貫く光撃/スティンガー>」
剣に光を粒子が集まり、眩い光を放つ。突きを放つように剣を突き出すとそこから圧縮された光の塊が放たれる。それは鎧牛の背中の焦げ跡にぶつかるとそのまま外殻を貫き、ぽっかりと穴を開ける。傷口から大量の血を垂れ流し、鎧牛はばたりと横倒しに倒れる。シンシアはふわりと着地するとすぐさま俺のもとへと駆けてくる。
「先生、今のどうでしたか?」
シンシアは自信ありげな表情を浮かべながら質問してくる。俺は先ほどの光景にあっけにとられていたが軽く咳払いすると口を開く。
「見事だった。正直予想以上の成果を見せてもらった。よく頑張ったな」
その言葉を聞きシンシアは喜色を浮かべ拳をぐっと握りしめた。
「だが、いつの間にあれほど自在に魔法が使えるようになったんだ?」
「それはノインのおかげです。休みの二日間でいろいろと魔法について教えてもらったんです」
ノインの方に視線を向けると誇らしげな表情をしていた。少々の苛立ちを感じたがそれをぐっと飲みこむ。
「そうか。これからも色々と教えてもらえ。その方が上達が早いようだ」
「ん。私はにいよりも優秀だから」
「あまり調子に乗るな」
俺はノインの頭に軽く手刀を下ろす。
「さて、それじゃあ死体を回収して次に行くぞ」
「はい」
「ん」
俺は鎧牛の死骸に近づき異空間に収納する。その時傷口を改めて見たが完全にあの硬い外殻を貫いている。こんな芸当ができるのは上級冒険者くらいだ。彼女の実力は既にそのくらいまで達しているということだ。成長が早いとかそんな次元ではない。だが、その事実に俺は思わず仮面で隠れた口元を歪めた。
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