魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

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帝国動乱

第17話 出発

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 あの後も数十匹の鎧牛と戦ったがシンシアとノインが難なく討伐した。そのためこのまま続けても無駄だと判断し、小一時間ほどで帰路についた。



「先生、今日はこれで終わりですか?」



「まあな。お前らが予想以上のレベルでこれ以上続けてもただの作業になってしまうからな」



 それを聞きシンシアは満足そうに頬を緩めた。



「それで一つ困ったことがある」



「どうしたんですか?」



 シンシアは俺の顔を覗き込むように質問してくる。



「もうお前たちの強さに見合う魔物はここら辺にはいなくなったんだよ。だから遠出しなくてはいけなくなった」



「そうなんですか? もし私に気を使っているなら大丈夫ですよ。私は野外生活での訓練なら多少は受けていますから」



「そうなのか。だが、それはいらぬ心配だ。遠出と言っても隣国の帝国に行くという程度だからな。一日あれば十分移動できる」



「そうですか。それなら安心ですね。それでいつ出発するのですか?」



 俺はシンシアが意外にも乗り気な様子を見てかすかに頬が緩む。シンシア自身も今自分が急成長していることを感じているのだろう。だから、より強い敵と戦う経験を欲している。その態度に俺は師としてできる限りのサポートはしてやろうという気持ちを抱きつつ口を開く。



「一週間後だな。出国の手続きをするのにそれくらいかかる」



「そんなにかかるのですか?」



 シンシアは普段よりも大きな声を上げ目を見開く。



「ああ、攻略者はそう簡単に国を出入りすることはできないんだよ」



「攻略者は国の戦力を左右するほどの巨大の力を持つ人たちだからそれだけ責任が伴う」



 今まで沈黙を保っていたノインが口を挟んでくる。



「まあ、ノインの言うとおりだな。巨大な力はそれだけ多くのものに意識的だろうと無意識的だろうと影響を与えてしまう。お前たちも攻略者になろうとするならその辺の心構えを持っておけよ」



「はい」



「ん」



 シンシアは元気よく笑顔で答えるがノインは興味なさそうにそっぽを向いている。俺は軽くため息を吐きながら迷宮都市への道を一歩一歩踏み占めていく。







 一週間ほどが経ち帝国への出発を迎える朝を迎え、三人は迷宮都市の門の前まで来ていた。この一週間俺は帝国の政争への準備や計画の確認を行うためシンシアたちは自由にしていた。この前のことを踏まえある程度自由な時間を与えた方が実力が伸びると思ったからだ。やはり年の近い人間と切磋琢磨する方が経験としては良質なのだろう。



 そんなことを考えていると馬の蹄の軽快な音と車輪のがらがらという音が聞こえてくる。



「あ、先生。来ましたよ」



 シンシアが指を指す方向を見ると大きな二頭の<黒馬/ブラックホース>が引く馬車とそれを操る御者が目に入る。その御者は見覚えがある顔でシンシアと俺は目を丸くする。馬車は三人の目の和えで綺麗に止まり御者をやっている人物が下りてくる。



「ブラッド様、シンシア様、お久しぶりです」



「あなたはあの時の受付嬢さんですよね?」



「ええ、その通りでございます。そしてこの度の御者を務めさせていただきますエミリー・サンクワーズと申します。以後お見知り置きを」



 エミリーは服の裾をつまみまるで貴族のようなきれいな所作で挨拶をする。だが、シンシアはその様子を怪訝な様子で眺めている。



「エミリーさん。何でギルドの受付嬢のあなたが御者なんてやるんですか?」



 エミリーは微笑みながらシンシアの質問に応える。



「それはですね、俺様のような攻略者の方が国外に出る際は私のようなギルドのものが同行することが義務となっているからです。ギルドとしましては貴重な人材であるブラッド様と連絡が取れない状況は最も作りたくない状況ですので遠くに行く際はギルドの随行員が同行するのです。今回は私ですね。ですからどれくらいの期間になるかわかりませんがよろしくお願いします。ブラッド様、シンシア様、ノイン様」



 その言葉にシンシアはよろしくお願いしますと言いながら頭を下げたがノインはじっとエミリーの方を見つめる。



「どうして私の名前を知ってるの? 迷宮都市のギルドの中には入ってないはずだけど」



 エミリーは余裕な態度を崩さずノインの質問に応える。



「ノイン様は王国の冒険者でいらっしゃいますから私が知っているのは当然でございます。それも将来有望な方ならなおさらです」



 エミリーは人当たりのよさそうな笑みをノインい向けているがノインの警戒レベルは今の会話で跳ね上がったことだろう。それは俺も同様であり、目の前の人物が一介の受付嬢ではないと確信した。まあ、おそらくそれも予測しての発言だったのだろう。ノインは不承不承といった様子でエミリーの方をじっと見つめる。



「そういうことにしとく」



「ありがとうございます」



 エミリーは綺麗に腰を折り曲げ一礼する。シンシアはその会話を不思議そうに聞いている。全く裏事情を知らないのだからそうなるのだろうがあまりにも間抜けの様子に思わず俺はかすかに吐息を漏らす。

シンシアはその様子に気づかなかったようだ。俺は改めて仮面をつけていてよかったと仮面の表面を撫でる。そして俺は気持ちを切り替えるように大きく息を吐いた。



「さて、挨拶はこれくらいでいいだろう。そろそろ出発したいのだが」



「そうですね。あまり長話をしてもいけませんね。では、みなさん馬車にお乗りください」



 エミリーはそのまま御者をするべく移動していく。三人は分厚い布をめくり馬車の中に入っていく。中はいくつかの木箱があるほかは何もなく一般的な馬車そのものだ。



「準備はよろしいですか?」



 エミリーは俺たちの方を振り向き確認を取る。俺は無言で頷くとエミリーは前へと向き直り、黒馬の手綱を振るう。黒馬は野太い鳴き声を発し歩を進めていく。その速さは徐々に加速していき、見る見るうちに迷宮都市が小さくなっていった。

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