魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

文字の大きさ
35 / 39
帝国動乱

第18話 帝国

しおりを挟む
 朝早くから王国を出たこともあってか日が暮れかけるころには帝国の中心である帝都に到着した。道中一応警戒はしていたが魔物も一切近づいてこなかったためかなり暇だった。そのせいもあってか始めは気を張っていたシンシアもすっかり夢の中の住人とかしていた。

 ノインも目を閉じて休んでいるが常に周囲に気を配っており、ギリギリ目視できるかどうかという距離の魔物の気配にも反応していた。流石にこればかりは経験がものをいうため今実力が伸びてきているシンシアの調子を崩させないためにも俺は沈黙を保った。



 馬車が検問を抜けると螺旋の台地の上に建てられた巨大な城が目に入る。だが、俺にとっては特に興味を示す対象ではないためすぐに視線を外す。俯瞰するように街道の様子を眺めるているとあまり街に活気がないように思えた。まあ、単純にこの時間帯はこの区画の人通りが少ないだけかもしれないが。

 そんなことを考えていると馬車の動きが止まる。ノインは止まった覚醒したが、シンシアは止まった拍子に体のバランスが崩れ頭を荷台に軽く打ち付けた。シンシアは寝ぼけた様子で額を抑え、きょろきょろと周りを見渡す。だが、すぐに意識が覚醒したのかはっと我に返り恥ずかしそうに俯く。



「いくぞ」



 俺は素知らぬ顔をして二人の横を通り抜け、馬車を下りる。その俺の後ろをシンシアとノインが追従する。目の前には豪華な作りをした宿があった。



「今日はこの宿でお泊りください。お部屋の方は既に手配しておりますので。私もこの宿に居りますので御用の際は三〇六号室にお越しください」



「そうか、感謝する。だが、王国に無駄な借りは作りたくないからな」



 そう言うと俺は黒い空間から赤黒い麻袋のようなものを取り出すとそれをエミリーに手渡す。



「宿代とその他支援に関する謝礼だ。受けとってくれ」



 エミリーは困ったような笑みを浮かべるが素直に金の詰まった袋を受け取る。



「はい、確かに受け取りました。ですがあなたは王国に様々な面で貢献しているのですから狩りなどと思わなくてもいいのですよ?」



「俺の気持ちの問題だ。これを放置すればわずかだが心理的な隙を作ることになるからな」



「そうですか。私にはよくわかりませんが……」



 俺はエミリーの表情に一瞬影が落ちたような感覚を覚えたがそれが杞憂と思えるような朗らかな笑顔をエミリーは浮かべる。



「まあ、この話はもういいですね。私は帝国のギルドの方に用があるのでこれで失礼させていただきます。そういうことなのでこれを渡しておきますね」



 エミリーは荷物の中から封筒を取り出す。



「これをフロントのほうで出してもらえればお部屋の方へ案内されるはずですので。それではまた後日お会いしましょう」



「エミリーさん、さようなら」





 シンシアはエミリーに向かって手を振る。エミリーも笑みを浮かべ控えめに手を振り、馬車の御者台に上り手綱を引く。黒馬は野太い声を上げ前進していく。夕焼けに照らされたその姿もすぐに見えなくなった。

 エミリーの姿を見届けると徐に俺は口を開く。



「さて、まずは宿に入るか。部屋がどこにあるかを確認しなくてはならないからな。そこからは自由にしていいぞ。帝都を散策してもいいし、宿にいてもいい。だが、あまり夜遅くまで出歩くなよ。今の帝国の治安は決して良くはないからな」



「そうなんですか?」



 シンシアは疑問符が浮かぶような顔をする。その疑問に俺が答えようとするが俺よりも先にノインが口を開く。



「そう。今帝国は絶賛帝位争奪合戦中でしかも今一番有力視されている人物は民の人気もなく大半の貴族からもよく思われていない。それを第一皇子も理解しているから当然警戒レベルも上がるから街の雰囲気も物々しくなる」



「そうなんだ。ノインは物知りだね」



「このくらいの情報収集はできて当然」



 ノインは自慢げに薄い胸を張る。俺はカームベルの人間としては誇るほどのことでもないだろうと心の中で呟く。



「当然か……。私もこれからは戦う力を持つだけじゃダメなのかな」



 シンシアがぼそりと呟く。俺はシンシアの頭に手を置き、優しくなでる。



「そう急がなくてもいい。その手の技術はどうしても一朝一夕ではいかないからな。それに情報は他人から買うことの方が多いし俺が教えるべきだと思ったらちゃんと教える。だから今は目の前のことだけに集中しておけ」



「はい!」



 シンシアは眩い笑顔を浮かべて答える。その傍らで会話を聞いていてはずのノインはいつの間にか俺の肩によじ登っていた。ノインは俺の耳元で不満そうにつぶやく。



「にいはシンシアに甘い気がする」



「そうか? 特に甘やかしてはいないと思うが」



「絶対甘い。だって私にはあんなこと言ってくれなかったし技術的な指導も最低限だった」



 その言葉はいつもより語気が弱く俺は感じた。



「それは仕方ないだろう。ノインは俺の弟子ではなくカームベルの構成員だ。カームベルの戦闘員は一刻も早く強くならなければならない。あいつはとは事情が違うだろう」



「……まあそうだけど」



 ノインは拗ねているような声音で不承不承といった様子で同意する。俺は大きく息を吐きノインの頭に手を乗せる。



「だが今のお前はただの冒険者だ。その間はちゃんとお前のことも見てやるし教えてほしいことがあれば教える。それじゃダメか?」



「……ダメじゃない」



 ノインはそっぽを向きながらするりと肩から降りる。その様子に俺は思わず仮面で隠れた口角が上げる。



「先生、ノイン、早く入りましょう」



 シンシアに元気よく呼ばれ二人は同じ歩幅で宿の方へ歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...