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帝国動乱
第18話 帝国
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朝早くから王国を出たこともあってか日が暮れかけるころには帝国の中心である帝都に到着した。道中一応警戒はしていたが魔物も一切近づいてこなかったためかなり暇だった。そのせいもあってか始めは気を張っていたシンシアもすっかり夢の中の住人とかしていた。
ノインも目を閉じて休んでいるが常に周囲に気を配っており、ギリギリ目視できるかどうかという距離の魔物の気配にも反応していた。流石にこればかりは経験がものをいうため今実力が伸びてきているシンシアの調子を崩させないためにも俺は沈黙を保った。
馬車が検問を抜けると螺旋の台地の上に建てられた巨大な城が目に入る。だが、俺にとっては特に興味を示す対象ではないためすぐに視線を外す。俯瞰するように街道の様子を眺めるているとあまり街に活気がないように思えた。まあ、単純にこの時間帯はこの区画の人通りが少ないだけかもしれないが。
そんなことを考えていると馬車の動きが止まる。ノインは止まった覚醒したが、シンシアは止まった拍子に体のバランスが崩れ頭を荷台に軽く打ち付けた。シンシアは寝ぼけた様子で額を抑え、きょろきょろと周りを見渡す。だが、すぐに意識が覚醒したのかはっと我に返り恥ずかしそうに俯く。
「いくぞ」
俺は素知らぬ顔をして二人の横を通り抜け、馬車を下りる。その俺の後ろをシンシアとノインが追従する。目の前には豪華な作りをした宿があった。
「今日はこの宿でお泊りください。お部屋の方は既に手配しておりますので。私もこの宿に居りますので御用の際は三〇六号室にお越しください」
「そうか、感謝する。だが、王国に無駄な借りは作りたくないからな」
そう言うと俺は黒い空間から赤黒い麻袋のようなものを取り出すとそれをエミリーに手渡す。
「宿代とその他支援に関する謝礼だ。受けとってくれ」
エミリーは困ったような笑みを浮かべるが素直に金の詰まった袋を受け取る。
「はい、確かに受け取りました。ですがあなたは王国に様々な面で貢献しているのですから狩りなどと思わなくてもいいのですよ?」
「俺の気持ちの問題だ。これを放置すればわずかだが心理的な隙を作ることになるからな」
「そうですか。私にはよくわかりませんが……」
俺はエミリーの表情に一瞬影が落ちたような感覚を覚えたがそれが杞憂と思えるような朗らかな笑顔をエミリーは浮かべる。
「まあ、この話はもういいですね。私は帝国のギルドの方に用があるのでこれで失礼させていただきます。そういうことなのでこれを渡しておきますね」
エミリーは荷物の中から封筒を取り出す。
「これをフロントのほうで出してもらえればお部屋の方へ案内されるはずですので。それではまた後日お会いしましょう」
「エミリーさん、さようなら」
シンシアはエミリーに向かって手を振る。エミリーも笑みを浮かべ控えめに手を振り、馬車の御者台に上り手綱を引く。黒馬は野太い声を上げ前進していく。夕焼けに照らされたその姿もすぐに見えなくなった。
エミリーの姿を見届けると徐に俺は口を開く。
「さて、まずは宿に入るか。部屋がどこにあるかを確認しなくてはならないからな。そこからは自由にしていいぞ。帝都を散策してもいいし、宿にいてもいい。だが、あまり夜遅くまで出歩くなよ。今の帝国の治安は決して良くはないからな」
「そうなんですか?」
シンシアは疑問符が浮かぶような顔をする。その疑問に俺が答えようとするが俺よりも先にノインが口を開く。
「そう。今帝国は絶賛帝位争奪合戦中でしかも今一番有力視されている人物は民の人気もなく大半の貴族からもよく思われていない。それを第一皇子も理解しているから当然警戒レベルも上がるから街の雰囲気も物々しくなる」
「そうなんだ。ノインは物知りだね」
「このくらいの情報収集はできて当然」
ノインは自慢げに薄い胸を張る。俺はカームベルの人間としては誇るほどのことでもないだろうと心の中で呟く。
「当然か……。私もこれからは戦う力を持つだけじゃダメなのかな」
シンシアがぼそりと呟く。俺はシンシアの頭に手を置き、優しくなでる。
「そう急がなくてもいい。その手の技術はどうしても一朝一夕ではいかないからな。それに情報は他人から買うことの方が多いし俺が教えるべきだと思ったらちゃんと教える。だから今は目の前のことだけに集中しておけ」
「はい!」
シンシアは眩い笑顔を浮かべて答える。その傍らで会話を聞いていてはずのノインはいつの間にか俺の肩によじ登っていた。ノインは俺の耳元で不満そうにつぶやく。
「にいはシンシアに甘い気がする」
「そうか? 特に甘やかしてはいないと思うが」
「絶対甘い。だって私にはあんなこと言ってくれなかったし技術的な指導も最低限だった」
その言葉はいつもより語気が弱く俺は感じた。
「それは仕方ないだろう。ノインは俺の弟子ではなくカームベルの構成員だ。カームベルの戦闘員は一刻も早く強くならなければならない。あいつはとは事情が違うだろう」
「……まあそうだけど」
ノインは拗ねているような声音で不承不承といった様子で同意する。俺は大きく息を吐きノインの頭に手を乗せる。
「だが今のお前はただの冒険者だ。その間はちゃんとお前のことも見てやるし教えてほしいことがあれば教える。それじゃダメか?」
「……ダメじゃない」
ノインはそっぽを向きながらするりと肩から降りる。その様子に俺は思わず仮面で隠れた口角が上げる。
「先生、ノイン、早く入りましょう」
シンシアに元気よく呼ばれ二人は同じ歩幅で宿の方へ歩き出した。
ノインも目を閉じて休んでいるが常に周囲に気を配っており、ギリギリ目視できるかどうかという距離の魔物の気配にも反応していた。流石にこればかりは経験がものをいうため今実力が伸びてきているシンシアの調子を崩させないためにも俺は沈黙を保った。
馬車が検問を抜けると螺旋の台地の上に建てられた巨大な城が目に入る。だが、俺にとっては特に興味を示す対象ではないためすぐに視線を外す。俯瞰するように街道の様子を眺めるているとあまり街に活気がないように思えた。まあ、単純にこの時間帯はこの区画の人通りが少ないだけかもしれないが。
そんなことを考えていると馬車の動きが止まる。ノインは止まった覚醒したが、シンシアは止まった拍子に体のバランスが崩れ頭を荷台に軽く打ち付けた。シンシアは寝ぼけた様子で額を抑え、きょろきょろと周りを見渡す。だが、すぐに意識が覚醒したのかはっと我に返り恥ずかしそうに俯く。
「いくぞ」
俺は素知らぬ顔をして二人の横を通り抜け、馬車を下りる。その俺の後ろをシンシアとノインが追従する。目の前には豪華な作りをした宿があった。
「今日はこの宿でお泊りください。お部屋の方は既に手配しておりますので。私もこの宿に居りますので御用の際は三〇六号室にお越しください」
「そうか、感謝する。だが、王国に無駄な借りは作りたくないからな」
そう言うと俺は黒い空間から赤黒い麻袋のようなものを取り出すとそれをエミリーに手渡す。
「宿代とその他支援に関する謝礼だ。受けとってくれ」
エミリーは困ったような笑みを浮かべるが素直に金の詰まった袋を受け取る。
「はい、確かに受け取りました。ですがあなたは王国に様々な面で貢献しているのですから狩りなどと思わなくてもいいのですよ?」
「俺の気持ちの問題だ。これを放置すればわずかだが心理的な隙を作ることになるからな」
「そうですか。私にはよくわかりませんが……」
俺はエミリーの表情に一瞬影が落ちたような感覚を覚えたがそれが杞憂と思えるような朗らかな笑顔をエミリーは浮かべる。
「まあ、この話はもういいですね。私は帝国のギルドの方に用があるのでこれで失礼させていただきます。そういうことなのでこれを渡しておきますね」
エミリーは荷物の中から封筒を取り出す。
「これをフロントのほうで出してもらえればお部屋の方へ案内されるはずですので。それではまた後日お会いしましょう」
「エミリーさん、さようなら」
シンシアはエミリーに向かって手を振る。エミリーも笑みを浮かべ控えめに手を振り、馬車の御者台に上り手綱を引く。黒馬は野太い声を上げ前進していく。夕焼けに照らされたその姿もすぐに見えなくなった。
エミリーの姿を見届けると徐に俺は口を開く。
「さて、まずは宿に入るか。部屋がどこにあるかを確認しなくてはならないからな。そこからは自由にしていいぞ。帝都を散策してもいいし、宿にいてもいい。だが、あまり夜遅くまで出歩くなよ。今の帝国の治安は決して良くはないからな」
「そうなんですか?」
シンシアは疑問符が浮かぶような顔をする。その疑問に俺が答えようとするが俺よりも先にノインが口を開く。
「そう。今帝国は絶賛帝位争奪合戦中でしかも今一番有力視されている人物は民の人気もなく大半の貴族からもよく思われていない。それを第一皇子も理解しているから当然警戒レベルも上がるから街の雰囲気も物々しくなる」
「そうなんだ。ノインは物知りだね」
「このくらいの情報収集はできて当然」
ノインは自慢げに薄い胸を張る。俺はカームベルの人間としては誇るほどのことでもないだろうと心の中で呟く。
「当然か……。私もこれからは戦う力を持つだけじゃダメなのかな」
シンシアがぼそりと呟く。俺はシンシアの頭に手を置き、優しくなでる。
「そう急がなくてもいい。その手の技術はどうしても一朝一夕ではいかないからな。それに情報は他人から買うことの方が多いし俺が教えるべきだと思ったらちゃんと教える。だから今は目の前のことだけに集中しておけ」
「はい!」
シンシアは眩い笑顔を浮かべて答える。その傍らで会話を聞いていてはずのノインはいつの間にか俺の肩によじ登っていた。ノインは俺の耳元で不満そうにつぶやく。
「にいはシンシアに甘い気がする」
「そうか? 特に甘やかしてはいないと思うが」
「絶対甘い。だって私にはあんなこと言ってくれなかったし技術的な指導も最低限だった」
その言葉はいつもより語気が弱く俺は感じた。
「それは仕方ないだろう。ノインは俺の弟子ではなくカームベルの構成員だ。カームベルの戦闘員は一刻も早く強くならなければならない。あいつはとは事情が違うだろう」
「……まあそうだけど」
ノインは拗ねているような声音で不承不承といった様子で同意する。俺は大きく息を吐きノインの頭に手を乗せる。
「だが今のお前はただの冒険者だ。その間はちゃんとお前のことも見てやるし教えてほしいことがあれば教える。それじゃダメか?」
「……ダメじゃない」
ノインはそっぽを向きながらするりと肩から降りる。その様子に俺は思わず仮面で隠れた口角が上げる。
「先生、ノイン、早く入りましょう」
シンシアに元気よく呼ばれ二人は同じ歩幅で宿の方へ歩き出した。
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