魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

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帝国動乱

第19話 絵空事

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 あれから一晩が経った。宿に入った後俺は部屋でゆっくりと休養をとり、シンシアとノインも外には出なかったようだ。シンシアたちの居場所は俺が渡した黒い武器を通して知ることができる。これは俺自身の魔法とレガリアの魔法の複合である<血の痕跡/俺トレース>をのおかげだ。

 俺の血を混ぜて強化した武器のある場所を取れだけ離れていても知ることができる便利な魔法である。さらにこれの応用で強化した物体を置いた場所に転移する<転移地点/ディメンションポイント>もある。これのおかげで普段の転移の制約である<空間把握/ディメンショングラスプ>の効果範囲である一キロメートルを超えた場所にも移動できる。

 移動する距離に応じてそれなりの魔力を要求されるがそれを差し引いても有用な魔法だ。そろそろ部屋を出てシンシアたちと合流しようかと立ち上がろうとした時部屋に近づいてくる人の気配を感知する。この反応はエミリーに渡した金貨を入れた袋の反応だ。そう確信するのと同時に扉が軽く叩かれる。



「ブラッド様、今よろしいでしょうか?」



「いいぞ。中に入ってくれ」



「失礼します」



 扉を開け入ってくるエミリーの顔には相変わらず朗らかな笑みが張り付いていた。俺は台の前にある椅子に座るように手で示す。エミリーは素早くその椅子に座る。



「それで何か用か?」



「ブラッド様はもうお分かりになっていることだと思いますが<天壊>についてです」



「第一皇子と手を切れと説得してくれということか?」



「そのとおりです」



 それを聞き俺は顎に手を当てる。ハイルは帝国の騒動については完全にこちらに任せると言った。そう断言した以上あいつは手を出してこないということはギルドを動かした人間は一人しかいない。



「ゼフテロス王も無理を言ってくれる」



 エミリーはただ笑みを浮かべているだけだった。だが、それは暗に俺の発言を肯定しているのだろうということは感じ取れた。



「あの方はできるだけ表の人間だけで事態を収拾させたいですよ。現状このような大きな出来事の始末をつけるのはいつも裏の方々ですから」



「確かに手に負えないような大きな出来事は裏が始末をつけている。王がその現状を憂慮するのも分かる。だが、それなら俺に頼るのもまずいだろう」



「いえ、今のあなたになら頼っても問題ないでしょう。今のあなたは王国の攻略者<虚空>のブラッド様ですから」



 俺はふっと息を漏らして笑う。確かに立場上はそうだろうが人の心は一つだ。表と裏どちらを優先するかと言われれば間違いなく俺は裏のことを優先する。例え完全に表の世界から姿を消すことになろうとも。だから、彼女の発言は欺瞞だ。彼女自身も分かってて言っているのだろう。国の保身と俺の決意の確認のためにわざと口にした節がある。その証拠に彼女は今までのような心地の良い笑みは浮かべていない。その代わりに俺を威圧するような眼差しを向けている。



「そうだな。今の俺なら王国の意思で動かしてもらって構わない。だが、勘違いはするなよ。お前たちと俺たちは対等だ。それを努々忘れないようにしろとお前の主たちに伝えておけ」



 一瞬だけ放たれた恐ろしいほどの魔力圧にエミリーは筋肉が硬直し、冷や汗が流す。彼女は自分を落ち着かせるように呼吸を整えると再び顔に笑みを貼り付ける。



「分かりました。確かに伝えさせていただきます。それで今回の件は引き受けてもらえるということでよろしいですね?」



「ああ、引き受けよう。だが、あくまで説得をしに行くだけだ。相手が断固としてこちらの要求を拒否すると言えば俺も無理に道理を押し通そうとはしない。それでいいよな?」



「ええ、もちろんです。私方としましても公に攻略者同士の戦いが行われるのは承服しかねますので」



「ならばいい。出来るだけ早く<天壊>のもとに向かうとしよう」



「ありがとうございます。こちらが<天壊>の住まいの場所でございます」



 差し出されたのは帝都の地図である。その一部に赤い印が付いており、そこが目的の場所を示していることが分かる。俺は地図を綺麗にたたむと異空間にしまう。 



「了解した。依頼の是非はどうやって伝えればいい?」



「私は誰が皇帝になったかわかるまで帝都に滞在します。ですから私の部屋を訪ねてくださればいいですよ」



「そうか。あまり期待せずに待っていてくれ」



「いえ、期待しておりますよ。あなたは『王国』の英雄ですから。それではよい報告を待っています」



 そう言うとエミリーは席を立つ。俺は先ほどの話の後にこのようなことを言うエミリーの面の皮の厚さに思わずため息をつく。それならば少しくらいこき使ってもいいだろうと俺は思う。



「エミリーさん。一つお願いをしてもいいか?」



 扉に手を掛けようとしていたエミリーがこちらを振り向く。



「ええ、何なりとお申し付けください」



「もう少ししたら弟子たちがここに来る。君は俺の代わりに彼女たちを帝国のギルドに連れていき活動できるように手続きをしてやってくれ。俺は忙しくなってしまったからな」



「分かりました。それ程度のことならお任せください」



 エミリーは胸に手を当ててほほ笑む。



「それとこれを渡してそれを参考にして自分たちで修行しろと伝えてくれ。頼んだぞ」



 俺はそれだけ言うと黒い穴の中に姿を消す。それを見つめる彼女の顔には笑みは浮かんでいなかった。
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