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1話 追放の儀
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昔、ソル・グラキエスは神童と呼ばれていた。
ある島で代々幻魔と呼ばれる怪物を討伐する家系に生まれた彼はその才を周囲に見せつける。
刀の腕前は達人と呼ぶのに相応しく、一族に伝わる魔操流という体内のエネルギー利用する武術も同い年の中では右に出るものはいなかった。加えて頭の出来も常人とは一線を画していた。
天から三つの才能を与えられた才媛として、三天の怪物と呼ばれるほどだ。
だが、そんな順風満帆なはずの彼の人生に暗雲が立ち込め始めたのは齢十二の時だった。
魔操流の奥義を習得できなかったのだ。
この奥義は『覚醒』と呼ばれ一族の戦士となるものは必ず身に付けねばならないものだった。覚醒を身に着けたものとそうでないものとでは天地ほどの実力の差が開いてしまう。それに一族の中で戦いを教わるものは余程の落ちこぼれ出ない限りこの技術をなんなく会得している。できないこと自体がありえないのだ。
だが、その一族のものなら誰でも会得できるはずのものを彼は得られなかった。もちろん、精一杯の努力はした。しかし、どうやっても『覚醒』だけは習得できなかったのだ。
そして、十五になった誕生日に彼の父であるゼルギルド・グラキエスにこう告げられた。
「覚醒を会得できないお前をこれ以上この家に置いておくことはできない。よってお前を追放する」
「ま、待ってください。僕は覚醒がなくとも戦えます」
「確かにそうかもしれんな。だが、我らが戦うのは幻魔だ。魔物の中でも最上位に位置する知性ある化け物だ。そんな奴らを相手に今のお前で本当に歯が立つと思っているのか? それにお前は我の子だ。半端なものをここに置くことはできん」
ソルは唇を噛み締める。彼自身も分かっているのだ。自分がこの場所に入れるほど力がないことを。
「分かっているようだな。では、明日お前を追放する」
話は終わったとばかりにゼルギルドはその場を去る。
彼の口にした追放とは一族の罪人や才なきものを処分するための場所へと送るということを意味する。実質死刑宣告だ。
ソルは重い足取りで母親の墓へと向かう。最後の夜はせめて最愛だった母のもとへと向かおうと考えたのだ。しかし、そこには先客がいた。腹違いの弟であるルス・グラキエスだった。
「よう、兄貴。調子はどうだ?」
ルスはにやにやしながら近づいて来る。
「よくはないさ。もうここにはいられないんだから」
「そうかそうか。それは残念だなぁ~」
ルスは愉悦がありありと見える表情を崩さず、白々しい言葉を吐く。
「まあ、でも仕方ないか。あの売女から生まれたんじゃグラキエスの秘儀を受け継げなくても」
挑発の色を孕んだ赤い瞳が妖しく輝く。ソルは激昂し、ルスの胸倉を掴む。
「訂正しろ! ルス!」
「するわけねーだろ!」
ルスの膝蹴りがソルの腹部へと突き刺さる。ソルは苦悶の表情を浮かべ、その場に膝をつく。
「ったく。処分されるお前にはもうそんな態度を取ることは許されないんだよ! まだ天才だった過去に縋ってんのかよ。本当に惨めだなぁ~」
ルスはやらやれといったように肩をすくめる。膝をついたソルを見下すと満足したのかその場を去っていく。
ソルは煮えたぎる怒りの感情を何とか呑み込み、母の墓の手前で手を合わせる。
(母さん、あのような暴言を許してしまう弱い僕をお許しください)
ソルは自分の不甲斐なさに打ちのめされ強く唇を噛んだ。唇からは顎にかけて赤い線が引かれる。
「あなたもそんな表情をするのね」
ゆっくりと近づいてきたのはルーナ・ステラという女だった。ソルやルスとは幼馴染であり、グラキエスの家に仕えるステラ家の息女である。そして、ソルの婚約者だ。
「それはそうさ。僕は仮に追放の儀を乗り越えられてもここには足を運ぶことは許されないのだから」
「……そうね。もうあなたはメリエルさんの……母親のお墓には来れない。でもあなたの心残りはそれだけなの?」
「もちろんこれだけなわけない。周りの期待に答えられなかったことや当主になって皆を導けなかったことも残念に思ってるよ」
ルーナは青い瞳に悲しみの色を宿し、ソルを見つめる。月明かりに照らされた藍色の髪が艶やかな光を放ち、より儚げな雰囲気を醸し出している。
「最後まであなたは人のことばかりなのね」
「それが僕の義務だからね」
「義務……か。でも、もうあなたにそれを背負い込む資格はないわよ。これからあなたは唯のソル」
ソルは少し困ったような表情を浮かべた。
「そうだね。もう僕はここにいるべき人間じゃない」
ルーナはそっと目を伏せ、踵を返す。
「本当に遺憾だわ。あなたには本当に期待していたから」
ソルは夜の光に映し出された美しい後姿を唯々呆然と眺めていた。
夜が明け、ソルの追放の日が訪れた。
「言い残すことはないか」
「ありません」
「そうか……。では、せめてもの選別にこれをくれてやる」
ゼルギルドは一振りの刀を投げ渡す。それはソルが普段使いしていた刀だった。
「ありがとうございます」
ソルは礼をいい、頭を下げる。
「別に構わん。それがあろうとなかろうと結果は変わらん。では、やるぞ」
ゼルギルドは右手を突き出す。すると、その手の周りに幾重もの魔法陣が浮かび上がる。膨大な魔力が大気を揺らす。
「ソル・グラキエス。お前を追放する」
その言葉を発した瞬間、ソルの姿は煙のように掻き消えた。
ある島で代々幻魔と呼ばれる怪物を討伐する家系に生まれた彼はその才を周囲に見せつける。
刀の腕前は達人と呼ぶのに相応しく、一族に伝わる魔操流という体内のエネルギー利用する武術も同い年の中では右に出るものはいなかった。加えて頭の出来も常人とは一線を画していた。
天から三つの才能を与えられた才媛として、三天の怪物と呼ばれるほどだ。
だが、そんな順風満帆なはずの彼の人生に暗雲が立ち込め始めたのは齢十二の時だった。
魔操流の奥義を習得できなかったのだ。
この奥義は『覚醒』と呼ばれ一族の戦士となるものは必ず身に付けねばならないものだった。覚醒を身に着けたものとそうでないものとでは天地ほどの実力の差が開いてしまう。それに一族の中で戦いを教わるものは余程の落ちこぼれ出ない限りこの技術をなんなく会得している。できないこと自体がありえないのだ。
だが、その一族のものなら誰でも会得できるはずのものを彼は得られなかった。もちろん、精一杯の努力はした。しかし、どうやっても『覚醒』だけは習得できなかったのだ。
そして、十五になった誕生日に彼の父であるゼルギルド・グラキエスにこう告げられた。
「覚醒を会得できないお前をこれ以上この家に置いておくことはできない。よってお前を追放する」
「ま、待ってください。僕は覚醒がなくとも戦えます」
「確かにそうかもしれんな。だが、我らが戦うのは幻魔だ。魔物の中でも最上位に位置する知性ある化け物だ。そんな奴らを相手に今のお前で本当に歯が立つと思っているのか? それにお前は我の子だ。半端なものをここに置くことはできん」
ソルは唇を噛み締める。彼自身も分かっているのだ。自分がこの場所に入れるほど力がないことを。
「分かっているようだな。では、明日お前を追放する」
話は終わったとばかりにゼルギルドはその場を去る。
彼の口にした追放とは一族の罪人や才なきものを処分するための場所へと送るということを意味する。実質死刑宣告だ。
ソルは重い足取りで母親の墓へと向かう。最後の夜はせめて最愛だった母のもとへと向かおうと考えたのだ。しかし、そこには先客がいた。腹違いの弟であるルス・グラキエスだった。
「よう、兄貴。調子はどうだ?」
ルスはにやにやしながら近づいて来る。
「よくはないさ。もうここにはいられないんだから」
「そうかそうか。それは残念だなぁ~」
ルスは愉悦がありありと見える表情を崩さず、白々しい言葉を吐く。
「まあ、でも仕方ないか。あの売女から生まれたんじゃグラキエスの秘儀を受け継げなくても」
挑発の色を孕んだ赤い瞳が妖しく輝く。ソルは激昂し、ルスの胸倉を掴む。
「訂正しろ! ルス!」
「するわけねーだろ!」
ルスの膝蹴りがソルの腹部へと突き刺さる。ソルは苦悶の表情を浮かべ、その場に膝をつく。
「ったく。処分されるお前にはもうそんな態度を取ることは許されないんだよ! まだ天才だった過去に縋ってんのかよ。本当に惨めだなぁ~」
ルスはやらやれといったように肩をすくめる。膝をついたソルを見下すと満足したのかその場を去っていく。
ソルは煮えたぎる怒りの感情を何とか呑み込み、母の墓の手前で手を合わせる。
(母さん、あのような暴言を許してしまう弱い僕をお許しください)
ソルは自分の不甲斐なさに打ちのめされ強く唇を噛んだ。唇からは顎にかけて赤い線が引かれる。
「あなたもそんな表情をするのね」
ゆっくりと近づいてきたのはルーナ・ステラという女だった。ソルやルスとは幼馴染であり、グラキエスの家に仕えるステラ家の息女である。そして、ソルの婚約者だ。
「それはそうさ。僕は仮に追放の儀を乗り越えられてもここには足を運ぶことは許されないのだから」
「……そうね。もうあなたはメリエルさんの……母親のお墓には来れない。でもあなたの心残りはそれだけなの?」
「もちろんこれだけなわけない。周りの期待に答えられなかったことや当主になって皆を導けなかったことも残念に思ってるよ」
ルーナは青い瞳に悲しみの色を宿し、ソルを見つめる。月明かりに照らされた藍色の髪が艶やかな光を放ち、より儚げな雰囲気を醸し出している。
「最後まであなたは人のことばかりなのね」
「それが僕の義務だからね」
「義務……か。でも、もうあなたにそれを背負い込む資格はないわよ。これからあなたは唯のソル」
ソルは少し困ったような表情を浮かべた。
「そうだね。もう僕はここにいるべき人間じゃない」
ルーナはそっと目を伏せ、踵を返す。
「本当に遺憾だわ。あなたには本当に期待していたから」
ソルは夜の光に映し出された美しい後姿を唯々呆然と眺めていた。
夜が明け、ソルの追放の日が訪れた。
「言い残すことはないか」
「ありません」
「そうか……。では、せめてもの選別にこれをくれてやる」
ゼルギルドは一振りの刀を投げ渡す。それはソルが普段使いしていた刀だった。
「ありがとうございます」
ソルは礼をいい、頭を下げる。
「別に構わん。それがあろうとなかろうと結果は変わらん。では、やるぞ」
ゼルギルドは右手を突き出す。すると、その手の周りに幾重もの魔法陣が浮かび上がる。膨大な魔力が大気を揺らす。
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