深淵のリベリオン ~一族から追放されたが真の力に目覚め、最強へと至る~

天野静流

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4話 溢れ出す闇

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 ソルの体から突如黒い靄が溢れ出した。まるで水が源泉から湧き出すようにどんどん黒い何かが流れ出す。化け物は未知の何かに首を傾げつつもソルの右腕を踏み潰すのをやめない。その腕に乗っている化け物の足に靄が纏わりつく。



 そして、次の瞬間化け物の足の一本が消失する。なんの前触れもなく足が消えたことに化け物は奇妙な声を漏らし、勢いよく後ろに跳ぶ。



「っクック……。はは……ハハハ!」



 ソルの歪な笑い声が響く。闇を纏いながら上半身をゆっくり起こし、徐に立ち上がる。



「あーなんかすっきりしたわ。何だかわかった気がしたよ。自分の『本質』ってやつを」



 ソルは赤い瞳を爛々と輝かせ、口元を三日月の形に歪めている。怪物は何かを察したのか先ほどまでのふざけた様子は鳴りを潜め、真剣な表情を向けている。化け物は足に意識を集中させた。すると、綺麗になくなった足の部分の肉が盛り上がる。黒ずんだ肉が脈打ち元の形を形成していく。



 ソルはその様子を見ても不敵な笑みを崩さない。化け物は地面の岩に罅ひびが入るくらい足に力を籠める。その力を利用して一気に体を加速させる。最初にソルとの距離を詰めた時よりも速度は上だ。一人の男目掛けて勢いよく四本の腕が振るわれる。だが、その攻撃が届く前に足と同様に闇に包まれその存在は根元からきれいさっぱり消えていた。



「まずは腕……」



 何をされたのか分からない怪物は再び距離を取ろうとする。だが、いつの間にか足元は黒い靄に覆われていた。



「次は足……」



 まるで刀で一刀両断されたかのように八本の足すべてが消失する。当然足を失った化け物は仰向けに倒れた。足を再生しようとするが治ったものから間髪入れず闇に食われる。



「今の気分はどうだ?」



 怪物は必死に闇から逃れようと腕も足もない体でもがいている。その様子に愉悦の笑みを浮かべながらソルは筋骨隆々とした胴体を踏みつける。



「おいおい、俺が質問してるんだから答える努力をしようぜ。まあ、お前の言葉は分かんないんだけどな」



 ソルはそう言って高らかに笑う。



「お前もここは笑う所だろ? さっきまで馬鹿みたいに笑ってたじゃないか。ほら笑えよ」



 ソルは足に力を籠める。足がどんどん沈んでいき化け物は苦しそうなうめき声を漏らす。だが、それでも足に力を籠め続ける。まるで催促するかのように。その意図を化け物も理解しているのか笑っているかのような鳴き声を必死に出す。



 ソルは満足したのか乗せていた足をゆっくり持ち上げる。



「やればできるじゃないか。ついでにこちらの言葉が通じていることも確認できたしよかった、よかった」



 ソルはうんうんと嬉しそうに首を振る。



「さて、それじゃあ質問だ。肯定なら縦に、否定なら横に首を振れわかったか?」



 笑顔で問いかけるソルに化け物は必死に首を縦に振って答える。



「まずは一つ目。お前はここで一番強い魔物という理解であっているか?」



 化け物は首を縦に振る。



「そうか。じゃあ、二つ目。地上に出る道はあの奥にあるのか?」



 ソルは広い空間の端にある入口とは違う場所の穴を指さす。化け物は首を縦に振った。





「なるほどな。じゃあ、最後の質問だ。心して答えろよ。お前が俺を笑ったのは俺が惨めで弱い弱者だったからか?」



 化け物の動きがぴたりと止まる。理解しているのだろう。この問いに自分の生死がかかっているのだと。そこから十数秒ほど沈黙が続いた。だが、意を決したように首を横に振った。



「そうか……。お前の意思は理解できたよ」



 ソルはとびきりの笑顔でそう答えた。そして、闇が化け物の体を貫いた。怪物が声にもならないうめき声のようなものを漏らす。その瞳から訴えかけられる感情は言葉を理解できなくてもソルに雄弁に語りかけていた。



「そんな目で見るなよ。別に俺は助けるなんて一言も言ってないだろ。唯、心して答えろって言っただけじゃないか」



 ソルは愉快そうに目を細め、死にゆく化け物を見下す。つまり、怪物が首を横に振ろうが縦に振ろうが意味などなかったのだ。ソル自身がいたぶられたからその返礼をしているだけだった。



「でもお前には感謝してるんだ。本当の俺を引き出してくれたんだからな。だから、このくらいで殺したやるんだよ。俺に恩を売っておいてよかったな」



 怪物の肉体はソルから噴出した闇に落ちていく。闇の中に消えていく化け物の瞳に最後に映っていたのは嗜虐的な笑みを浮かべたソルの姿だったことだろう。



 怪物のすべてを取り込むと壊れた両腕に闇を纏う。すると、何事もなかったかのように元通りになっていた。ソルは感触を確かめるため両手を開いたり閉じたりする。



「これは便利だな。取り込んだ生物の力を使えるってことか……」



 ソルはにやりと口角を上げ、水が噴き出している源泉の方へと向かう。手のひらから細く闇を出し、水の中に突っ込む。手探りで水の中を探索していく。すると、水流の弱い場所へとたどり着いた。そこは先ほどの池の中であった。



 ソルはそこで闇を展開し、沈んでいた武具を闇の中に沈める。水の中の闇を戻し、手に入れた武具をすべてぶちまける。



「俺の刀は壊れたからな。何か代わりのものがないものか……」



 出した武具を一通り見るが良さそうなものは見つからない。落ちている刀が足に当たり地面を転がった。錆びれた鞘が壊れ刀身が顕わになる。その刀身はまるで炭を凝縮して作ったかのよう真っ黒だった。



「これは……なんだ?」



 黒い刀というのは通常作られない。刀の切れ味と頑丈さを両立させるためには<真銀/ミスリル>という美しく輝く鉱石を使うしかないからだ。つまり、この刀はとんでもなく劣悪な刀か未知の素材で作られた新しい刀のどちらかの可能性しかない。常識的に考えればこんな場所に放置された刀がいい刀のはずがない。



 だが、ソルは黒い刀に魅力を感じたのかぼろぼろの鞘から抜き取りかつての愛刀が入っていた自分の鞘へとしまう。



「さて、もうここに用はないな」



 ソルは化け物に確認した出口へと真っ直ぐに向かっていった。
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