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ボクと台風と宇宙人
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「ボクと台風と宇宙人」
右京之介
台風が過ぎ去った翌日。ボクは学校の帰り道を一人で歩いていた。
夜中の台風は怖かったなあ。大きな雷が近くに落ちたみたいだし。
ボクも春から中学生。六年間通ったこの道ともサヨナラだ。
家族でよく行っていたカレー屋さんはもう閉店したし、アルミ加工の工場も閉鎖した。
光陰矢の如しとはこのことだなあ。
ボクは少しだけ寄り道をして宝探しをしていくことにした。台風の後は海岸にいろいろな物が打ち上げられているんだ。
「あっ、お宝発見!」さっそく、漂着物の中から見つけたのは魔法のランプだった。でも、フタが付いてないなあ。まあいいか。「おおっ」ボクは二個目のお宝を見つけた。直径十センチくらいの銀の玉だ。「やばい。本物のお宝だ!」百万円はするぞ。さらに…。
――今日のボクはついている!
木板の裏から出てきたのは白い卵型で大きさは二十センチくらい。真ん中に赤いボタンが付いている何かのスイッチのような物だった。
さっそく押してみようと思い、赤い部分に指を置いたが、もしかして、爆破スイッチかもしれないと思った。
どこかが爆発するのか? 海? 砂浜? 山?
まさか、ボクの家?やっぱりやめておこう。
その後もお宝を探したが目ぼしいものは見つからず、ランプと銀玉とスイッチを、本日の戦利品として持ち帰った。
ボクは自分の部屋に入ると、ランプと銀玉を机の奥に隠した。なんといっても百万円だ。ゲームソフトは買い放題。駄菓子は食べ放題。夢は膨らむなあ。
スイッチをあらためて見てみた。う~ん、押してみたい。でも家が爆発したら……。
そのとき……。
――コンコン。
窓をたたく音がした。あわててスイッチを机に隠すと、窓に近づいてみた。カーテンを開けてみると、外にボクと同じくらいの年の見かけない男の子が立っていた。
(キミは誰?)(ボクは北極星人だよ)(北極星人って?)(まあ、知らないのも無理はないね。火星人ほどメジャーではないから)(よくわからないんだけど用件は何?)(海岸で白いものを拾ったでしょ。それを返してほしいんだ)
――やばい。なんで知ってるんだ?
(でも、あれはボクが拾ったものだから)(拾ったからといって自分のものにはならないよ。まずは交番に届けなくちゃね)(まあ、そうだけど。なんで交番を知ってるの?)(北極星にも交番くらいあるさ)
――ボクはここで弱みを見せてはいけないと思い、知ったかぶりをすることにした。
(……だろうね。あの有名な北極星なんだから、交番くらいあるだろうね)
最初、北極星人だと言われてウソだと思ったけど、途中からこの子は本物の宇宙人だと気づいた。だって、さっきからボクは声を出していないんだ。彼とボクはテレパシーで会話をしているんだ。それに、この子はさっきまで窓の外に顔だけしか見えてなかったのに、いつの間にかボクの隣に立っている。瞬間移動だ! しかも、三十センチくらい宙に浮いているんだ。昨晩の雷が落ちたと思ったのは宇宙船が不時着したときの音に違いない。
そのとき、お母さんの声がした。
「ご飯だよ! 今日は冷ややっこだよー」
「分かった。すぐ行くから!」
ああ、早く結論を出さなくては。お母さんに北極星人の存在なんて知られたくない。
でも、このスイッチは渡したくないし。
ボクはさっき拾った二つのお宝を机から引っ張り出した。
(こっちならあげるよ。魔法のランプさ。フタは取れているけど、魔人が出てきて願いをかなえてくれるんだ)(それはカレーのルーの入れ物でしょ)
げっ、そうだったのか。だからフタがないんだ。閉店したあのカレー屋さんの落し物か。(じゃあ、これはどうかな。百万円もする銀の玉だよ)(それはアルミホイルを丸めて叩いて磨いたものだよ。ユーチューブで見たよ)(も、もちろん、そうだよ。あの有名な北極星にもユーチューブはあるだろうからね)
銀玉は閉鎖したアルミ加工の工場の落し物か。
ボクはあきらめた。そして、スイッチを北極星人に渡しながら聞いた。
(それは何なの?)(これはランチャームだよ。じゃ、ありがとう)
北極星人は瞬間移動を使おうとしたが、なぜかベッドの足につまずいた。
(イテテ)
北極星人が帰った後、スイッチがベッドのわきに落ちているのに気づいた。さっき、つまずいたときに落としたようだ。迷うことなく、赤いボタンを押してみた。
「ブシューッ」黒い液体が吹き出した。
わっ、何だ。恐る恐る舐めてみると…。「なんだ、しょうゆか」
しょうゆの入れ物のことをランチャームと呼ぶ。
北極星人にとってしょうゆは宇宙船の貴重な予備燃料だったのだ。
そうとも知らないボクはランチャームを持って食卓に向かった。
もちろん、しょうゆは冷ややっこにかけてみる。
北極星人は予備燃料を落としたことに気づかず宇宙に飛び立った。
果たして燃料は北極星に帰るまで持つのだろうか?
(完)
右京之介
台風が過ぎ去った翌日。ボクは学校の帰り道を一人で歩いていた。
夜中の台風は怖かったなあ。大きな雷が近くに落ちたみたいだし。
ボクも春から中学生。六年間通ったこの道ともサヨナラだ。
家族でよく行っていたカレー屋さんはもう閉店したし、アルミ加工の工場も閉鎖した。
光陰矢の如しとはこのことだなあ。
ボクは少しだけ寄り道をして宝探しをしていくことにした。台風の後は海岸にいろいろな物が打ち上げられているんだ。
「あっ、お宝発見!」さっそく、漂着物の中から見つけたのは魔法のランプだった。でも、フタが付いてないなあ。まあいいか。「おおっ」ボクは二個目のお宝を見つけた。直径十センチくらいの銀の玉だ。「やばい。本物のお宝だ!」百万円はするぞ。さらに…。
――今日のボクはついている!
木板の裏から出てきたのは白い卵型で大きさは二十センチくらい。真ん中に赤いボタンが付いている何かのスイッチのような物だった。
さっそく押してみようと思い、赤い部分に指を置いたが、もしかして、爆破スイッチかもしれないと思った。
どこかが爆発するのか? 海? 砂浜? 山?
まさか、ボクの家?やっぱりやめておこう。
その後もお宝を探したが目ぼしいものは見つからず、ランプと銀玉とスイッチを、本日の戦利品として持ち帰った。
ボクは自分の部屋に入ると、ランプと銀玉を机の奥に隠した。なんといっても百万円だ。ゲームソフトは買い放題。駄菓子は食べ放題。夢は膨らむなあ。
スイッチをあらためて見てみた。う~ん、押してみたい。でも家が爆発したら……。
そのとき……。
――コンコン。
窓をたたく音がした。あわててスイッチを机に隠すと、窓に近づいてみた。カーテンを開けてみると、外にボクと同じくらいの年の見かけない男の子が立っていた。
(キミは誰?)(ボクは北極星人だよ)(北極星人って?)(まあ、知らないのも無理はないね。火星人ほどメジャーではないから)(よくわからないんだけど用件は何?)(海岸で白いものを拾ったでしょ。それを返してほしいんだ)
――やばい。なんで知ってるんだ?
(でも、あれはボクが拾ったものだから)(拾ったからといって自分のものにはならないよ。まずは交番に届けなくちゃね)(まあ、そうだけど。なんで交番を知ってるの?)(北極星にも交番くらいあるさ)
――ボクはここで弱みを見せてはいけないと思い、知ったかぶりをすることにした。
(……だろうね。あの有名な北極星なんだから、交番くらいあるだろうね)
最初、北極星人だと言われてウソだと思ったけど、途中からこの子は本物の宇宙人だと気づいた。だって、さっきからボクは声を出していないんだ。彼とボクはテレパシーで会話をしているんだ。それに、この子はさっきまで窓の外に顔だけしか見えてなかったのに、いつの間にかボクの隣に立っている。瞬間移動だ! しかも、三十センチくらい宙に浮いているんだ。昨晩の雷が落ちたと思ったのは宇宙船が不時着したときの音に違いない。
そのとき、お母さんの声がした。
「ご飯だよ! 今日は冷ややっこだよー」
「分かった。すぐ行くから!」
ああ、早く結論を出さなくては。お母さんに北極星人の存在なんて知られたくない。
でも、このスイッチは渡したくないし。
ボクはさっき拾った二つのお宝を机から引っ張り出した。
(こっちならあげるよ。魔法のランプさ。フタは取れているけど、魔人が出てきて願いをかなえてくれるんだ)(それはカレーのルーの入れ物でしょ)
げっ、そうだったのか。だからフタがないんだ。閉店したあのカレー屋さんの落し物か。(じゃあ、これはどうかな。百万円もする銀の玉だよ)(それはアルミホイルを丸めて叩いて磨いたものだよ。ユーチューブで見たよ)(も、もちろん、そうだよ。あの有名な北極星にもユーチューブはあるだろうからね)
銀玉は閉鎖したアルミ加工の工場の落し物か。
ボクはあきらめた。そして、スイッチを北極星人に渡しながら聞いた。
(それは何なの?)(これはランチャームだよ。じゃ、ありがとう)
北極星人は瞬間移動を使おうとしたが、なぜかベッドの足につまずいた。
(イテテ)
北極星人が帰った後、スイッチがベッドのわきに落ちているのに気づいた。さっき、つまずいたときに落としたようだ。迷うことなく、赤いボタンを押してみた。
「ブシューッ」黒い液体が吹き出した。
わっ、何だ。恐る恐る舐めてみると…。「なんだ、しょうゆか」
しょうゆの入れ物のことをランチャームと呼ぶ。
北極星人にとってしょうゆは宇宙船の貴重な予備燃料だったのだ。
そうとも知らないボクはランチャームを持って食卓に向かった。
もちろん、しょうゆは冷ややっこにかけてみる。
北極星人は予備燃料を落としたことに気づかず宇宙に飛び立った。
果たして燃料は北極星に帰るまで持つのだろうか?
(完)
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