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第一章・第2話
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**「知識の魔女と、赤い令嬢」**
王立魔法学院の図書館。
高い本棚の間の静かな席で、リナとアルカイドは向かい合って座っていた。
机の上には何冊もの魔導書が積まれている。
「……ここ」
メガネを押し上げながら、アルカイドが本を指さした。
「この魔法陣」
「風刃魔法の基礎構造」
リナが覗き込む。
「えっと……ここで魔力を回転させて……」
アルカイドは小さく首を振った。
「違う」
そして羽ペンで図を書き直す。
「回転じゃなくて**流れ**」
「空気の流れと魔力の流れを合わせる」
「そうすると……」
アルカイドが小さく呟く。
「威力、三倍」
リナは目を丸くした。
「すごい……」
「そんなこと考えたことなかった」
アルカイドは少し戸惑った顔をする。
「……普通は」
「怖がる」
「え?」
「私、魔法の話すると止まらない」
「だから……みんな嫌がる」
リナは少し笑った。
「私は好きですよ」
アルカイドの動きが止まった。
「魔法の話」
「すごく面白いです」
「アルカイドさんの説明、わかりやすいですし」
アルカイドはしばらく黙っていた。
そして小さく呟いた。
「……さん、いらない」
「え?」
「アルカイドでいい」
リナは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、アルカイド」
アルカイドは少しだけ顔を赤くしながら本をめくった。
「……うん」
---
それからしばらく。
二人は魔法理論について話していた。
主に話すのはアルカイドだ。
「炎魔法と風魔法」
「組み合わせると爆発する」
「でも制御できれば……」
「加速魔法になる」
リナは感心しながら聞いていた。
そしてふと呟く。
「アルカイドって……すごいですね」
「え?」
「魔法のこと、何でも知ってる」
アルカイドは首を振る。
「まだまだ」
「世界にはもっとすごい人いる」
だが少しだけ嬉しそうだった。
リナは本を見ながら考える。
(この人……)
(本当に魔法が好きなんだ)
そしてリナの頭の奥で、いつもの感覚が動く。
**「魔法構造解析」**
アルカイドが書いた図。
それを見た瞬間、情報が流れ込んできた。
**「理論:高精度」**
**「改善余地:小」**
リナは驚いた。
(すごい……)
(ほとんど完璧……)
アルカイドは気づかず話を続けている。
「それで、この魔法陣を――」
その時だった。
図書館の入口の方からざわめきが聞こえた。
「おい……」
「来たぞ」
「七星貴族だ」
アルカイドの肩がぴくっと動く。
リナが振り向く。
そこには一人の少女が立っていた。
鮮やかな**赤い髪**。
整った顔立ち。
高価そうな制服。
そして自信に満ちた立ち姿。
周囲の生徒たちが道を開ける。
「……誰?」
リナが小さく聞く。
アルカイドは小声で答えた。
「……七星貴族」
「フェクダ家」
少女はゆっくりと図書館の中を歩く。
その目が、リナとアルカイドに止まった。
そして軽く笑う。
「まあ」
美しい声だった。
「珍しい組み合わせね」
少女は二人の前に立つ。
「あなた、ベネトナシュ家の子でしょう?」
アルカイドが小さくうなずく。
少女は少し眉を上げた。
「そんな隅っこで本を読んでるなんて」
「もったいないわ」
そして視線がリナに向く。
「……で」
「そっちは?」
周囲の生徒が囁く。
「魔力ゼロの子だ」
「例の」
少女は興味深そうにリナを見る。
「あなたが噂の?」
リナは少し緊張しながら答えた。
「リナです」
少女は優雅に微笑む。
「私は**アリュール・フェクダ**」
その名前に、周囲がざわめいた。
フェクダ家。
七星貴族の一つ。
王国でも最上級の魔導貴族だった。
アリュールは軽く肩をすくめる。
「まあ、平民がここにいるなんて珍しいわね」
「学院も随分と寛大になったものだわ」
アルカイドが少し眉をひそめる。
だが何も言わない。
アリュールはリナに近づく。
「でも」
「少し興味があるわ」
彼女は手を差し出した。
「よろしく」
リナも手を出す。
二人の手が触れた瞬間――
周囲の生徒がざわついた。
「おい……」
「触ったぞ」
アリュールの唇が少し歪む。
彼女のスキル。
**【魅了】**
触れた相手の精神を支配し、好意を抱かせる力。
多くの人間が抗えない能力だった。
だが――
数秒後。
リナは普通に言った。
「よろしくお願いします」
アリュールの笑顔が、ほんの一瞬だけ止まった。
(……あれ?)
アリュールはリナを見る。
もう一度手を握る。
だが――
何も起きない。
リナは不思議そうに首をかしげている。
(……効かない?)
初めてだった。
自分のスキルが通じない相手は。
アリュールはゆっくりと手を離す。
そして微笑んだ。
だがその目は、興味に満ちていた。
「……面白いじゃない」
そう呟く。
図書館の窓から風が吹いた。
リナはまだ知らない。
この出会いが――
やがて
**七人の仲間**が集まる物語の始まりになることを。
第一章は、まだ始まったばかりだった。
王立魔法学院の図書館。
高い本棚の間の静かな席で、リナとアルカイドは向かい合って座っていた。
机の上には何冊もの魔導書が積まれている。
「……ここ」
メガネを押し上げながら、アルカイドが本を指さした。
「この魔法陣」
「風刃魔法の基礎構造」
リナが覗き込む。
「えっと……ここで魔力を回転させて……」
アルカイドは小さく首を振った。
「違う」
そして羽ペンで図を書き直す。
「回転じゃなくて**流れ**」
「空気の流れと魔力の流れを合わせる」
「そうすると……」
アルカイドが小さく呟く。
「威力、三倍」
リナは目を丸くした。
「すごい……」
「そんなこと考えたことなかった」
アルカイドは少し戸惑った顔をする。
「……普通は」
「怖がる」
「え?」
「私、魔法の話すると止まらない」
「だから……みんな嫌がる」
リナは少し笑った。
「私は好きですよ」
アルカイドの動きが止まった。
「魔法の話」
「すごく面白いです」
「アルカイドさんの説明、わかりやすいですし」
アルカイドはしばらく黙っていた。
そして小さく呟いた。
「……さん、いらない」
「え?」
「アルカイドでいい」
リナは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、アルカイド」
アルカイドは少しだけ顔を赤くしながら本をめくった。
「……うん」
---
それからしばらく。
二人は魔法理論について話していた。
主に話すのはアルカイドだ。
「炎魔法と風魔法」
「組み合わせると爆発する」
「でも制御できれば……」
「加速魔法になる」
リナは感心しながら聞いていた。
そしてふと呟く。
「アルカイドって……すごいですね」
「え?」
「魔法のこと、何でも知ってる」
アルカイドは首を振る。
「まだまだ」
「世界にはもっとすごい人いる」
だが少しだけ嬉しそうだった。
リナは本を見ながら考える。
(この人……)
(本当に魔法が好きなんだ)
そしてリナの頭の奥で、いつもの感覚が動く。
**「魔法構造解析」**
アルカイドが書いた図。
それを見た瞬間、情報が流れ込んできた。
**「理論:高精度」**
**「改善余地:小」**
リナは驚いた。
(すごい……)
(ほとんど完璧……)
アルカイドは気づかず話を続けている。
「それで、この魔法陣を――」
その時だった。
図書館の入口の方からざわめきが聞こえた。
「おい……」
「来たぞ」
「七星貴族だ」
アルカイドの肩がぴくっと動く。
リナが振り向く。
そこには一人の少女が立っていた。
鮮やかな**赤い髪**。
整った顔立ち。
高価そうな制服。
そして自信に満ちた立ち姿。
周囲の生徒たちが道を開ける。
「……誰?」
リナが小さく聞く。
アルカイドは小声で答えた。
「……七星貴族」
「フェクダ家」
少女はゆっくりと図書館の中を歩く。
その目が、リナとアルカイドに止まった。
そして軽く笑う。
「まあ」
美しい声だった。
「珍しい組み合わせね」
少女は二人の前に立つ。
「あなた、ベネトナシュ家の子でしょう?」
アルカイドが小さくうなずく。
少女は少し眉を上げた。
「そんな隅っこで本を読んでるなんて」
「もったいないわ」
そして視線がリナに向く。
「……で」
「そっちは?」
周囲の生徒が囁く。
「魔力ゼロの子だ」
「例の」
少女は興味深そうにリナを見る。
「あなたが噂の?」
リナは少し緊張しながら答えた。
「リナです」
少女は優雅に微笑む。
「私は**アリュール・フェクダ**」
その名前に、周囲がざわめいた。
フェクダ家。
七星貴族の一つ。
王国でも最上級の魔導貴族だった。
アリュールは軽く肩をすくめる。
「まあ、平民がここにいるなんて珍しいわね」
「学院も随分と寛大になったものだわ」
アルカイドが少し眉をひそめる。
だが何も言わない。
アリュールはリナに近づく。
「でも」
「少し興味があるわ」
彼女は手を差し出した。
「よろしく」
リナも手を出す。
二人の手が触れた瞬間――
周囲の生徒がざわついた。
「おい……」
「触ったぞ」
アリュールの唇が少し歪む。
彼女のスキル。
**【魅了】**
触れた相手の精神を支配し、好意を抱かせる力。
多くの人間が抗えない能力だった。
だが――
数秒後。
リナは普通に言った。
「よろしくお願いします」
アリュールの笑顔が、ほんの一瞬だけ止まった。
(……あれ?)
アリュールはリナを見る。
もう一度手を握る。
だが――
何も起きない。
リナは不思議そうに首をかしげている。
(……効かない?)
初めてだった。
自分のスキルが通じない相手は。
アリュールはゆっくりと手を離す。
そして微笑んだ。
だがその目は、興味に満ちていた。
「……面白いじゃない」
そう呟く。
図書館の窓から風が吹いた。
リナはまだ知らない。
この出会いが――
やがて
**七人の仲間**が集まる物語の始まりになることを。
第一章は、まだ始まったばかりだった。
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