12 / 110
獣人の危険性と王子の集中力
しおりを挟むウィルマとドロモアを見送り、俺も早く元の場所に戻らないとアルウィンに心配をかけると思い足を踏み出そうとしところで。
「ミト!無事か!」
目の前に転移魔法で突然現れたアルウィンに、抱き締められた。いきなり目の前に現れたのも驚いたが、何よりアルウィンの腕に強く抱き締められているという事実に心臓がひっくり返りそうになるほど驚く。
パチパチと瞬きを繰り返し、アルウィンの顔を見上げれば、眉間に皺を寄せて焦ったような表情を浮かべていた。
「ミト、どうした?どこか痛むのか?」
「あ……ううん!大丈夫!心配かけてごめん」
「店の前に戻ったらお前がいなくて焦った。すぐに探知したが変な場所にいるから何事かと思ったぞ」
抱き締める腕を離され残念だなと思っていたが、そのままの流れでペタペタと俺に異常がないか顔や頭を触られてまた心臓が跳ねる。
あまり触らないでほしい。もっと触ってほしい。相反する気持ちを抱えがながら俺はさっきまでのことを彼に話すかどうか迷っていた。しかしいつか獣人村に行きたいという願いを叶えるには俺1人ではどうにもならないから、アルウィンに正直に話すことにした。
「えー…と、実は獣人の子供に出会ったんだ」
「…なんだと?」
「なんか獣人村を出て遊びたがっていた人間の街に下りてきたみたいなんだ。びっくりして不安そうな表情だったから声をかけたら家は近いっていうし迷子かなって。フードを被ってて最初は獣人だと気付かなかった」
「子供の獣人が…何かされたか?」
「ううん、すっごくいい子で可愛かった。歩いてたら突然目の前に虎が現れたときはびっくりしたけど。その子のお兄さんが迎えに来てくれたんだ」
「虎?虎の獣人に会ったということか!?」
ガシッと肩を掴まれて迫力ある険しい表情で顔を近付けてくるアルウィンに、何かまずいことでも言ったかと内心怯える。俺がこくこくと頷くと、彼は目を僅かに見開いた。
「な、何かまずかった?」
「虎は…虎の獣人は今この底辺界にいる獣人の中で一番強いと推定されている。数百年前の闘いのとき、妖精や妖怪とは別に虎獣人による腕の一振りで100人近くの人間が死んだと言われているんだ。獣化したときは頭から噛みついて食いちぎったとも言われている」
「え…知らなかった」
獣人は腕力や鋭い牙でその力を示したとは教えられたが、特定の種類がどのくらいの人間に攻撃したのかまでは詳しく聞かされていなかった。
ドロモアの逞しく太い腕を、虎の姿のときのグルルという唸りを思い出す。彼を恐れたくはないが、今の話を聞くと本当に少しでもウィルマに何かあったら俺は殺されていたかもしれないなと戦慄した。
それでも俺が話した彼らは見た目や種族に違いはあるものの、俺たち人間と同じ感情を持ち、中身はたいして変わらないんじゃないかと思う。こちらから攻撃しないかぎり手を出してこないことがそれを物語っている。
「最も危険とされている虎の獣人にミトが会ったなんてなんと国王に報告すればよいか…」
「でも普通に話せたよ?兄のドロモアに最初ちょっと威嚇はされたけど弟のウィルマがすぐに説明してくれたから感謝っぽいことも言われたし。今度獣人村に遊びに行くねって約束もしたんだ」
「獣人村だと?ミト、いいか。確かに獣人も妖怪も人間から手を出さなければ攻撃しないとされてきた。だがこの前の妖怪たちはどうだ?お前に真っ先に攻撃をしてきただろう?獣人もそうじゃないとは言い切れない。あまりにも危険だ」
「でもウィルマとドロモアは俺と会っても攻撃なんてしてこなかったよ?」
「俺に認識齟齬魔法をかけられていることを忘れてないか?」
「あ」
そういえばそうだったと今さら気付く。俺は今、アルウィン以外からは黒髪黒目ではなく茶髪茶目に見えているんだった。確かに彼らの様子からして俺が異世界人だとは微塵も思っていないようだったことに気付く。
「人間界から底辺界に変わってから異世界召喚がされたのは今回のミトが初めてだ。妖怪と同じく獣人もお前が異世界人だと分かったら何をしてくるか分からない。獣人村に行くなんて虎穴に入るようなものだ。絶対に許可できない」
真剣な顔ですごんでみせるアルウィンから俺への心配と警戒が強く伝わってくる。いつか獣人と人間が交流出来るようになれたらいいのに、という甘い考えをしていた自分が恥ずかしくなった。
指切りまでして約束をしたウィルマの笑顔と無表情ながら歓迎すると言ってくれたドロモアには胸が痛む。しかし、もし俺を異世界人だと認識していたらまた全然違う態度だったのかもしれないと考えると、アルウィンの言う通りだなと思った。
「うん、確かにそうだよね…ごめん、俺の考えが浅はかだった」
「分かってくれたなら良かった。お前は優しいからな。すぐに他人の心に共鳴して寄り添おうとする姿勢は美徳だが危険でもある。俺が常にそばにいて見張っていてやらねばならんな」
「…うん」
それが彼の仕事だと分かっていても、アルウィンがずっとそばにいてくれるのは嬉しい。店の下で待っている間、1人になったことが不安でもあり寂しかったのだと今さら気が付いた。
それから俺たちはまた中心地に戻り、俺の気のすむまで観光を楽しんだあと、宰相に出迎えられ王宮の塔へと戻った。
これってアルウィンとの初デートだったんではと帰ってから気付き、お花畑思考の自分の頭を殴る俺をアルウィンは怪訝そうな顔で見ていた。
***
息抜きの王都観光を終えると、またおじいちゃん先生の授業と王子と魔力訓練の日々が始まる。もう結構な日数、王子から魔力を流され感覚は分かってきたから、俺1人で指先に集中して魔力の感覚を呼び起こそうとする訓練に入っている。
しかしそう簡単にはいかない。どう頑張って集中しても、どんなに指先に力を込めても、俺から魔力が湧いてくる気配はなかった。
「うぁ~…だめだ~」
「諦めるなバカもの!この僕が時間を使って教えてやってることを忘れるな!」
「う、ごめんって。でもちょっと休憩させて…疲れた…」
「ふん、相変わらず体力がない貧弱者め」
俺は王子と訓練している間にずっと敬語で話しているのがめんどくさくなり、口調はだいぶ崩して話すようになっていた。教えてくれるのは有り難いが、偉そうな口ぶりでずっとぐちぐちいろいろ言われていると丁寧な態度を取っている自分がバカらしくなっただけだが。
最初は敬語を崩した俺に反発していた王子だったが、次第にそれも言わなくなり、今では結構失礼なことも言っていたりする。
「ライナス王子は集中力が化け物すぎるんだよ…凡人の俺にはそんなに続かないんだって」
「凡人だからこそもっと努力せねばならないのだ!早くお前が聖魔法を使えるようにならねば本当に僕がお前を抱くはめになる!」
「うげぇ…疲れた身体に今そんなこと言わないでよ。気持ち悪い」
「吐くなら僕の半径30m外で吐け!汚物を見せようとするな!」
「王子が気持ち悪いこと言うからだろ!」
「殿下もミトも落ち着いてください。今日は日差しが強いこともあり余計に疲れが溜まるのでしょう。中で休憩されませんか」
研究熱心だった王子の集中力からすれば俺の集中力なんて虫けら同然なのだろう。いつも王子にしごかれてへとへとな俺に王子の嫌味が飛び、言い合いが始まりそうになるところを、剣の素振りなどをして見守っているアルウィンが止めにはいるというのが最近のお決まりの流れだった。
「休憩するくらいなら僕は宮殿に帰る!」
「うん、今日はもう帰ってくれ…また明日な。いつも感謝してるよ」
「う、うるさい!お前のためなどではなく僕のためだからな!僕のためにもお前はもっと頑張れ!」
「はーい。じゃーねー」
感謝の言葉を述べると刺々しい声で叫びながらも頬を染める王子。素直じゃないだけで照れているともう知っている俺は穏やかな気持ちで彼の帰っていく姿を見送った。
使用人が入れてくれた紅茶を飲みながらテラス席で休憩する。アルウィンが炎を纏わせた剣を振る姿を眺めながら飲む紅茶は美味しかった。
ふと、テラス席の机にぎらぎら黄金に輝く太い指輪が置かれていることに気付く。これはライナス王子のもので、魔力を俺に流すときに手を繋ぐから訓練中は外しているものだ。
最初から着けてこなければいいものを着飾らなければ王族として恥をかくと豪語してた彼にとって、この高そうな指輪1つすら気を抜きたくないんだろう。
しかしそれが今俺の目の前にあるということは、彼が忘れていったということだ。俺はしばらくその指輪を見つめ、どうしようかと逡巡する。
使用人に渡して王子に届けるよう伝えたいが、この塔の使用人はどうやら王子の宮殿に足を踏み入れることは許されていない階級の者で構成されているから不可能。
ならばアルウィンに頼んで転移魔法で届けてもらおうと思うが彼は今真剣に個人で鍛練をしている。早く届けないと盗まれただの何だの王子がうるさそうだから出来れば今すぐに届けたい。
俺が届けるのはとても面倒だが、届けなければもっと面倒そうだなと思い、テラス席を立つ。近くにいる使用人にトイレに行ってくるとアルウィンに伝えるようお願いし、その場から離れた。
ライナス第一王子が住んでいる宮殿は俺たちがいる東塔と北塔の間にある。東塔と西塔の間に国王が住んでいたり執務が行われている王宮があり、その右斜め上に王子の宮殿があるということだ。
塔と塔を繋ぐ橋通路ではなく、外の通路から直接宮殿に向かう。確かすごい長い名前の宮殿だったような気がするが、全然覚えられないし興味もないから王子の宮殿と俺は呼んでいる。
俺の護衛はアルウィンだけだから誰も俺に着いてくる気配はない。普段通ることのない通路を、歩いている使用人たちが珍しそうに俺を見ているのが分かるが、誰も話しかけてはこない。俺はさっさと指輪を渡して帰ろうと歩く速度を上げた。
王子の宮殿に着くと、もちろん警備の騎士が宮殿の正門前にいて声をかけられる。俺が異世界人なのは見た目で分かるため、丁寧に接してくれるが怪訝そうな顔をしている。
俺は王子の忘れていった指輪を見せながら説明をし、直接俺から渡したいことを伝える。誰かに託して失くされたり盗まれたりしたら、僕の元に指輪が返ってきていない!と俺のせいにされていちゃもんを付けられたそうだからだ。
王子に確認を取ると言われしばらく待っていると、意外にも直接王子の部屋に来いとのことだった。誰かが案内してくれるのかと思いきや、口頭で道順を伝えられただけで1人で向かうよう言われ不安になる。
とりあえず、ライナス第一王子らしい全てが派手な内装に若干引きながら、教えられた通りの道順を進んでいった。
※次話冒頭、王子×モブ女注意
55
あなたにおすすめの小説
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
よく効くお薬
高菜あやめ
BL
昼はフリーのプログラマー、夜は商社ビルの清掃員として働く千野。ある日、ひどい偏頭痛で倒れかけたところを、偶然その商社に勤める津和に助けられる。以来エリート社員の津和は、なぜか何かと世話を焼いてきて……偏頭痛男子が、エリート商社マンの不意打ちの優しさに癒される、頭痛よりもずっと厄介であたたかい癒し系恋物語。【マイペース美形商社マン × 偏頭痛持ちの清掃員】
◾️スピンオフ①:社交的イケメン営業 × 胃弱で塩対応なSE(千野の先輩・太田)
◾️スピンオフ②:元モデル実業家 × 低血圧な営業マン(営業担当・片瀬とその幼馴染)
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる