【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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地雷といつか ※嘔吐・モブ注意

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    何かよく分からない模様が描かれている赤い絨毯の廊下を歩いていく。所々に飾られている絵画や壺はすべてどれだけの値段がつくのか考えるだけでも恐ろしく、絶対に触れないよう注意しながら慎重に進んだ。
    教えられた通りにやってきた先に、重そうな金で出来た二枚扉の部屋。こんなに輝く扉を毎日見てたら瞳が金色になりそうだと思うが、王子はアクアマリン色の瞳だ。

    普通、王族の部屋の前には騎士が常に見張っていそうなものだが騎士の姿はない。そのことに首を傾げながらも厚さがありそうな金色の扉をコンコンと叩いてみる。応答なし。扉が分厚くて室内に聞こえていないんじゃないかと思い、もう一度強めにノックしてみる。…応答なし。
    俺は一度大きなため息をその場につき、金色の取っ手を掴み、思いっきり扉を開けた。そこには。

「あぁん!あっ!ライナスさまぁ…!」
「ん…?あぁ、やっと来たか」
「あぁ!そこ、そこだめぇ…あん!」
「王子ぃ…キス、してぇ」

    女性の矯声がなまめかしく耳を襲う。部屋の中央に何人寝られるんだというほど大きな天蓋付きのベッド。その上で女性を組みしき腰を振っているライナス第一王子。組みしいている女性とはまた別の女性が王子に顔を寄せ、キスをねだっている。

    俺は、数秒間、思考が停止した。自分の目に映っているものが信じられなくて、呼吸すらも止まっていた。

「なんだ?お前も交ざっていくか?」

    額に汗を滲ませながら髪をかきあげる王子は、挑発的にいつもの少しつり上がった目で視線をなげ、口角をニヤリと愉快そうに上げた。
    俺は彼の言葉と表情に一気に思考がクリアになり、持っていた王子の指輪を思いっきりベッドに向かって放り投げ、勢いよく扉を閉めてその場から走り出した。

    腹の奥から酸がせりあがってくる。酸っぱい匂いが口の中に広がる。俺は目についたトイレを見つけるとそこに飛び込み、思いっきり胃液を吐き出した。
    一度吐いても気分はよくならなかった。胃やその他の器官が身体の裏側から足許まで下がり何か汚いものと共に再び喉元までせり上がってくるような、そんな感じだった。
    何度も便器に向かって色のない液体を吐き、少し落ち着いたと思ったら再び波が押し寄せてくる。胃の中がぐるぐるとして、ずっと気持ち悪かった。

「ミト!大丈夫か!?」

    突如、背後に人の気配がしたと思ったらアルウィンの焦る声が耳に届き、少し吐き気がおさまる。俺は口許を水で濯ぎ、そっと顔を上げた。

「アルウィン…」
「いつの間にかミトの姿がなくて焦った。聞けばトイレに行ったというのに全然帰って来ないから探知してみればなぜ王子の宮殿に…凄く顔色が悪い。説明は後でいいから一旦浄化魔法をかけてやる。おいで」

    両手を握られてアルウィンと向かい合う。その体温にホッと息を吐く。体内を爽快感が駆け抜け、気持ち悪さが少しずつ薄れていく。俺は目を瞑ってその感覚だけに集中した。
    そしてエレベーターに乗ったときのような僅かな浮遊感を感じた後、目を開ければそこは自分の部屋だった。転移魔法で連れ帰ってくれたらしい。

「気分はどうだ?少しは良くなったか?」
「…うん、ありがとう」
「今水を持って来させる。横になって待っててくれ」

    アルウィンがそっと俺の身体をベッドに横たえてくれて、使用人を呼びに扉の外に出るのを音だけで感じていた。だいぶ吐き気は通りすぎていったものの、胸のムカムカはそう簡単にはなくならなかった。

    ついさっきまで俺と魔力訓練していたライナス第一王子が、女を抱いていた。しかも1人ではなく2人ベッドの上にいた。
    俺が指輪を届けに来たと伝えられているはずなのに、行為を止めることなくあの状態を見せたということは。

    彼はわざと、俺に女を抱いているところを見せたんだ。

    案内係をつけさせず俺1人で向かわせたのもきっとわざとだ。扉の前に通常なら騎士がいそうなのにいなかったのもわざと捌けさせ、俺自身に扉を開けさせた。自分は女の身体が好きなのだと分からせるために。俺への嫌がらせのために。

    そんな嫌がらせをしなくても俺だって王子に抱かれる気なんてこれっぽっちもないし、そのゆるゆるな下半身のために勝手に女抱いてろと思う。
    俺が気持ち悪くて仕方がなかったのは、もちろん他人の情事をあからさまに見てしまったのもあるが、一番は女性が2人いたというところだ。複数プレイが地雷すぎる俺には、嘔吐してしまうほど気持ち悪かった。

「ミト、水を飲め」

    水が入ったコップを持ってきたアルウィンがベッドに近付いてくる。俺は身体を起こし、アルウィンに支えられながらごくごくと喉を鳴らして水を飲みほした。はぁ、と溢した息と共に濡れた唇から雫が顎に滴る。それをアルウィンの親指がぐいっと拭ってくれた。

「何があった。王子に何かされたか?」
「…まぁ、されたといえば最悪の嫌がらせをされたかも」

    無意識にアルウィンの厚い胸に頭を預け、指輪を返しに行こうと思った流れから見てしまったことまでを簡単に説明する。口にしながらまた吐き気がぶり返してきて、アルウィンが優しく背中をさすり抱き締めてくれたことでやっと落ち着いた。

「どうして俺を頼ってくれなかった。俺が返しに行けばよかったものを」
「早く返さないと王子にいちゃもんつけられると思って…アルウィンの練習の邪魔をしたくなかったし、すぐ返しに行って戻ればいいやって思っちゃった。ごめん」
「謝ることはない。だがもう俺のそばを勝手に離れるな。ミトが嫌だと思うものは見せたくないし、聞かせたくない」
「アルウィン…」
「俺に気をつかうな。分かったか?」
「…うん、ありがと」
「明日の王子との訓練は休むと伝えるか?無理はしない方がいい。王子の姿を見るだけで思い出してしまうだろう」
「うーん…いや、訓練はするよ。これで休んだらまた嫌味言われそうだし。アルウィンが一緒なら頑張れる」

    甘えるようにアルウィンの腰に腕を回して抱きつく。彼もがっしりと包み込んでくれて、その温かさと落ち着くいい匂いに癒されると同時に心臓は高鳴っていた。

「ミトは本当に偉いな。よく頑張っている」
「早く聖魔法を使えるようになりたいからね。頑張るしかないもん」
「無理はしないでくれ。俺に出来ることがあるなら何でも言ってくれ。俺もミトの力になりたい」
「本当?じゃあ…たまにこうして、頑張れのハグをしてほしい。それと…頑張ったら、頭、撫でてほしい…かな」

    何を子供みたいなことを言っているんだと自分でも思うが、それがあるかないかで本当に頑張れる度合いが変わってきそうなのだ。子供扱いされたくないのに、子供のように甘えさせてほしい。
    そんな俺の我が儘を、アルウィンは目を瞬かせたあと、さらに抱き締める腕を強めながら言った。

「そんなことで良ければいくらでもしてやる。俺には我慢せず我が儘をたくさん言ってくれていい。全部受け止めるから」
「ありがとう。アルウィンも何かあったら俺に言ってね?頼りないかもしれないけど…アルウィンのためになりたいって俺も思う」
「あぁ、分かった。夕食は食べれそうか?」
「あと少ししたらたぶん……それまではもう少し、こうしていたい。だめ?」
「…もちろん、だめじゃない」

    アルウィンが唾を呑み込む音すらよく聞こえる距離。彼の喉仏が俺の前髪に当たっているのが分かる。とく、とく、と少し早い気がする鼓動はアルウィンのものだ。俺の心臓は、比べられないほどもっと早いから。

    ライナス第一王子のように、性欲処理や快楽を得るためだけに身体を重ねる人間も少なくはないだろう。人間の本能としてそれはおかしなことではないのだろう。
    だけど俺は、誰かと身体を交わらせるのなら。誰かを愛し、愛されるなら。そんな日が、いつか来るのなら。

    それは、最初も最後も、アルウィンがいい。

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