【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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可愛いって言われると嬉しい

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    ライナス第一王子からの最悪な嫌がらせを受けた次の日、俺が訓練に来ないと思っていたのか一瞬目を見開いた後、ニヤニヤとご機嫌そうな笑みを初めて向けられた。その笑顔にあれはやはり嫌がらせだったのだと確信する。
    まさか指輪を忘れていったところまでは偶然だよなと思いつつも、王子は俺との訓練が終わり次第いつもすぐに女を抱いているのかと勘繰ってしまう。

「貴様、僕の指輪を投げてよこしやがって。ちんちくりんには刺激が強すぎたようだな!」
「あー…頭狙えばよかった」
「何だ?ぼそぼそ喋るな!聞こえるように話せ!」
「何でもありませーん!早く今日もやろう」

    指輪を届けてやったお礼も言えなければあんなものを見せて謝罪の1つすらないとは。いや、こんな我が儘暴君王子に謝罪を期待する方がバカなんだが。

    いつも通り手を握られようとして、昨日の女を抱いていた彼の姿がフラッシュバックする。1人ならまだしも2人の女に同時に触れた手に触られるのがおぞましくて思わず手を叩き落としそうになった。スッと手を避けるだけに留めただけ俺は偉い。
    掴もうとしていた手がなくなったことに片方の眉を上げて怪訝そうな顔をする王子。一旦充電しないと今日の訓練は無理かもしれないと思い、俺は少し離れたところで剣の手入れをしてこちらを見守っていたアルウィンの元に走り寄った。

「ミト、どうした。やはり今日は休むか?」
「ううん。でもね、王子に手を握られようとしたら拒否反応出ちゃってさ。アルウィンに少し手を握ってもらいたくて。アルウィンの体温で先に保護して、終わったらまた上書きしてほしい。あいつの手、気持ち悪いから」
「…分かった」

    俺の言い様がひどかったからか、苦笑しながらもアルウィンの手がそっと俺の両手を包み込む。ぎゅ、と握られ合わさっている掌からお互いの体温が溶け合って同じ温度になっていく。少し剣だこが出来ている太くて長い指の感触も愛おしく感じる。

「この僕を待たせて何をしている!魔力を流しているわけでもあるまいな?」

    せっかく良い気持ちだったところに邪魔が入り、俺は小さくアルウィンにお礼を言って彼の手を離す。またいろいろ嫌味を言われる前に適当に謝って、俺は訓練に集中し始めた。

    今日のライナス王子の魔力はいつもの繊細さが薄れ、若干波打っているように感じるのは気のせいだろうか。俺は首を傾げながらもそれを終えると、いつも通り自分1人で魔力が生まれないか指先に集中する訓練をしていく。
    やはり今日も何の気配もなくがっくりと肩を落とす。可能性が0に近いことをしているのだからそう簡単にいくとは思っていないが、やはり何の成果もないと先の見えない迷路の中にいるようで、焦りと不安がじわじわと襲う。
    今日もだめなのかとか何とか言っている王子の嫌味を右から左に聞き流していると。

「ミト様、頑張られているようですね」

    妖怪が王宮に来た日以来、久しぶりにルーサー大神官がやって来た。どうやら少し前から俺たちの訓練の様子をテラスから眺めていたようだ。

    白地に金の刺繍が施されたローブに包まれ、栗色の長い髪を今日は斜めに三つ編みをしている。
    最近授業でおじいちゃん先生に教えてもらったが、高位貴族の中では髪の長さ=地位の高さらしい。それを知ったときはだから国王、宰相、大神官は髪の毛がやけに長いのかと納得した。
    王子は肩までの長さだから確かに高位ではあるものの、まだ正式な王太子ではないし本人も今の長さより伸ばすのが嫌だと言って勝手に切っているそうだ。

    俺は休憩がてらテラス席に大神官と共に座る。王子はもう用はないと言わんばかりに去っていった。今日もこれから女を抱くんだろうかと考えそうになって、思考を切り替えた。

「ルーサーさん、俺にもいつか魔力は芽生えるでしょうか?魔力の源に関して何かご存知なことはないですか?」
「そうですねぇ…魔力の感覚を養うために第一王子から魔力を流してもらうのは良い案だと思います。しかし約600年前の異世界人に魔力がわき、治癒魔法を使えるようになったのは突然のことらしいですから…」
「ですよね…やっぱり突然使えるようになるのを待つしかないのかなぁ」
「そんなことはありませんよ、ミト様」
「え?」

    弱気になってしまっている俺に大神官はにこりと目尻にシワを寄せて穏やかな笑みを浮かべる。そばにいたアルウィンも大神官の言葉に反応を見せた。

「ルーサー大神官、何か知っていることがあるならミトにご教授願います」
「お願いします!」
「そんなこと言われずとも、もちろんです。まだ試していないことがあります。今度、神殿にいらしてみませんか?」
「神殿に?」
「はい。我が国は女神レティシア様を信仰しております。レティシア様は実際にこの世界の頂点である神界に存在し、水晶を通してこの国を見守って下さっていると言われています」
「女神レティシアについては習いました。見た目も心も凄く美しいとされている水の神様だと」
「ええ、その通りです。その女神レティシアの銅像が神殿に奉ってあるのですが、ただの銅像ではなく女神の前で祈りを捧げると不思議なことが起こるとされています」
「不思議なこと?」
「はい。妊娠が不可能な体だと言われた女性が祈りの後に妊娠したり、目が見えなかった者の目が祈るとたちまち見えるようになったり…それは不可能なことを可能にするほどなのです」

    それを早く教えてくれよ!と突っ込みたくなったが、ぐっと堪えた。もしこれで本当に祈りを捧げるだけで聖魔法が使えるようになったのなら、俺の今までの努力は何だったんだ。

「信じられないとでも言いたげな顔ですね」
「いや、だって…祈るだけで何でも叶うなら努力をしない人たちばかりになって国が衰退するんじゃないかって思いまして」
「さすがはミト様。努力されている方だからこその言葉ですね。しかし、何でも叶うわけではありません。というより、女神レティシアはすべての人間の願いを聞き入れるわけではありません」
「人を選ぶってことですか?」
「実際に神界から見られていて選んでいるのかは分かりかねますが、女神レティシアの銅像がある祈りの間に入れるのは、選ばれたごく僅かな人間だけなのです」
「祈る前に祈りの間に入ることが出来ない人もいるってことですか?」
「むしろ入れない人間の方が圧倒的に多いのです。女神レティシアは、何にも穢れていない純粋で美しい魂の持ち主だけを選ばれているのだと推測しております。ほとんどの人間は、目に見えない何かによって弾かれてしまいますから」

    本当にそんな神がかり的なことがあるんだろうかとつい日本人の感覚で思ってしまうが、ここは魔法があり妖精も妖怪も獣人もいる世界。頂点には神人がいるとされている世界。何があっても不思議ではない。

「俺がその祈りの間に入れるか、試してみるってことですね」
「ええ、何事も試してみなければ始まらないですから。私はミト様でしたら祈りの間に入り、女神レティシアと対面出来ると信じておりますよ」
「いやぁ…それならどんなにいいか…」
「ミト、自信を持て。お前ならきっと入れる」
「おや、アルウィン殿とミト様はずいぶん仲良くなられたのですね」
「あ…失礼致しました」
「違うんです、ルーサーさん。俺が頼んだんですよ。ずっとそばにいるアルウィンに堅苦しい話し方をされていると気が休まらないからって」
「ふふ、仲が良いことは謝るようなことではありません。どうぞ私のことは気にせずいつものようにされて下さい」

    2人きりの時のみ砕けた話し方をしていたアルウィンだが、ついいつものように俺に話しかけてしまい咎められるかもと慌ててフォローすると大神官は優しい笑みで流してくれた。

「ありがとうございます!神殿っていつでも行けるものなんですか?」
「ミト様が望むならいつでも。国王様に私から許可は取っておきますので、日時が決まり次第アルウィン殿にお伝えする形でよろしいですか?」
「はい!俺たちはいつでも行けるので!神殿は王宮からどのくらいですか?」
「馬車で1時間ほどの場所にございます。転移魔法で行くのもアルウィン殿なら簡単かもしれませんが、その間の風景や街並みを馬車で楽しむのも一興だと思いますよ。神殿の近くには小さな市場もありそこに寄ってみるのもいいかもしれませんね」
「この前、馬車に乗っていろんな景色を見れたのがとても楽しかったのでそうします!」
「ええ、ぜひ。あまり無茶だけはしすぎませんように。アルウィン殿、ミト様の護衛を常によろしくお願いしますね」
「かしこまりました」

    別れの挨拶をして、塔の敷地から出ていく大神官を見送った。俺はくるりとアルウィンを振り返り、背の高い彼に向かって背伸びしながらずっと抑えていた憤りを表に出した。

「ねぇ、今の話、もっと早く教えてくれてもよくない!?むしろ初日に連れていってほしかった!もしこれで祈りの間に入れたら、俺の今までの努力を返してほしい…!あの気持ち悪い王子とも手を繋がずにすんだのに!」
「ミト、落ち着け。気持ちは分かるが、神殿は神聖な場所だ。行くにも面倒な手続きが必要なんだ。それにあんな王子でも一応訓練に付き合ってくれているんだから、感謝しなければいけない。ミトの努力は何一つ無駄なことなんてない。ミトが頑張ってきた時間を否定してやるな」
「…確かに。うん、そうだよね。ごめん、ちょっと祈るだけで願いが叶うっていうのが俺的には許せなくて。努力した先にある成果だからこそ意味があると思ってきたからさ」
「それは素晴らしい考えだ。俺はそんなミトの考え方を尊敬している。もし祈りの間に入れたとしても聖魔法が使えるようになるとは限らないし、逆に祈りの間に入れなかったとしても聖魔法が使えないと決まったわけではない。そうだろ?」
「…っ!」

    アルウィンの言葉にハッとする。そうだ、アルウィンの言う通りだ。俺が俺の努力を否定したら絶対にダメだ。自分の努力は、自分の自信に繋がっていく。無駄なことなんて1つもないんだ。

「うん、そうだよな!アルウィン、ありがとう!」

    俺は勢いよくアルウィンの身体に体当たりする勢いで抱き付く。彼は少しもよろけることなく俺を抱き止め、フッと笑ったのが吐息で分かった。

「今日も頑張ったミトには、ハグとなでなで、だったな」

    俺の我が儘通り、彼の左手は俺の腰に回したまま、右手で俺の頭を優しく撫でてくれる。優しく細められたシルバーの瞳。口角が緩んでいて、頬の傷跡も少し上にあがっている。

「ふはっ、くすぐったい」
「ん?もう降参か?」
「やだ、もっとして」
「ミトは撫でられるのが好きなのか。犬みたいだな」
「子供扱いの次は犬扱いするの?」
「そういうことじゃない。可愛いって言ってるんだ」

    "可愛い"とアルウィンの口から初めて聞き、顔中から一面に湯気が湧き出すような気がして咄嗟に彼の胸に顔を埋めて隠す。嬉しくて恥ずかしくて、口がもにょもにょと無意味な動きをしてしまう。

「照れてるのか?」
「ぅ…ち、ちがうし」
「フッ…かわいいな、ミト」

    追い討ちをかけるように、耳元で囁くようにまた可愛いと言われ、熱中症になるかと思った。アルウィンはそんな俺の反応がおもしろいのか、それから何度も可愛い可愛いと連呼するのだった。
    その日の夜は、それを何度も思い出して頭から布団を被り、興奮して熱くなって布団から顔を出す。そんなことを繰り返しているうちに空は明るくなっていたのだった。

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