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王子の過去と横暴の理由
しおりを挟むライナス王子に言われたことを守りながら一生懸命指先に魔力を集める感覚を集中させてみるが、やはりうんともすんとも反応しない。俺はがくりと肩を落としてふらふらと近くのベンチに座った。
「こら!勝手に休むでない!」
「だってぇ~…もう終わりの時間だし、今日は疲れちゃったよ…何でいつまでたっても魔力がわいてこないんだろ…やっぱり異世界人には無理なのかなぁ」
「なに弱気なことを言っているのだ!1000回失敗しても1回成功するためには1000回の失敗を詰まねばならんのだぞ!諦めるな!」
「もちろん諦めてはないよ。でもたまには他の方法を試してみるのもありじゃない?他に方法ってないの?」
「魔力に一番詳しいボードン先生とこの僕が最短で魔力を呼び起こす方法がこれだと決断したのだ!他に方法があったとしてもそれはさらに遠回りになるだけだぞ、そんなことも分からんのか!」
「あーごめんって。そんなに怒らないで王子も座って休もうよ」
ちょっとこの方法に飽きてきた俺は別の方法はないのか探ってみたが、確かに王子とおじいちゃん先生が一番可能性の高くないものを教えるはずがない。きっとこの方法が最短で最高の可能性を秘めているのだ。
俺に促された王子はぶつくさ文句を言いながらも俺の隣に座る。斜め前にもベンチはあるのに隣に座るのか、と内心驚きながらも顔には出さなかった。
「王子って訓練が休みの日とかは何してるの?ほら、昨日みたいな日。俺とアルウィンはアルウィンの育った孤児院に行ってきたんだけど楽しかったよ」
「そんな話などどうでもよい!僕はお前たちと違って忙しいのだ!外交の仕事ではお茶会やパーティーに出席したり、魔道師たちから新作魔道具の相談を受け助言したり、地方の侯爵や伯爵から要望を聞いてまとめ父上に報告したりととんでもない忙しさなのだぞ!」
「え…そんなことしながら毎日俺の訓練に付き合ってくれてるの…?」
「そうだと言っておるだろう!少しはこの僕を敬う気になったか!」
「うん、なんかいろいろごめんね…訓練する日、少し減らそうか?大変じゃない?」
「女を抱いてストレス発散してるから問題ない」
うげ、今の発言さえなかったら完璧だったのに。少し反省して態度を改め、敬おうと思っていたのに。王子はことごとく自分で俺の地雷を踏んでいくやつだった。
「前言撤回でお願いしまーす」
「なんだと!…お前は本当に思いどおりにならないやつで困る」
「え、まさか今まで関わった人みんな思い通りになるなと思ってたの?」
「無論だ。僕は動かしたい人間は動かしたいように動かすからな!お前くらいだ、操縦不能なのは」
「あんた…人間をチェスの駒かなんかだと思ってるのかよ…やっぱりそうなっちゃった理由は裏切られたことが関係してるの?だから俺以外友達がいたことないの?」
「なっ!?う、うるさい!友達を欲しいなどと思ったことがないからいなかっただけだ!そんなくだらない非生産的なものを作るくらいなら新しい魔法技を作り出す時間にあてる!」
「えー…」
もしかしてこの王子、ずっと魔力がお友達だったのか?寂しいと感じる自分に気付かないほど他人を深く寄り付かせず、魔力研究や勉強に熱中して生きてきたんだろうか。ここまで来るとそうなった原因である裏切られた内容が知りたくなってくる。
「エレノア様も心配してたけど、ライナス王子を裏切った人ってどんな人だったの?もしよかったら教えてほしい」
「…何のおもしろみもない話だがいいだろう、暇潰しに教えてやる」
期待半分諦め半分で言ってみれば、王子が話してくれる気になったことに嬉しさが広がる。さわり、風が吹いて王子の美しいプラチナブロンドが靡いた。
「王族には生まれたときから乳母が1人につき1人つく。僕の乳母は母上よりも10歳歳上の人だった。母上には会える時間が決まっており、それもあまり多くはなかった。しかし乳母は必ず毎日会う。それは乳を離れても6歳までずっとだった」
「うん」
「僕は乳母が大好きだった。優しくて強くておおらかで、一緒にいて癒される人でありいろんなことを教えてくれる人だった。だが……彼女は僕の母上である正妃に毒を盛って殺そうとしたんだ」
「え…」
「母親である正妃よりも自分の方が僕の母親に相応しいと思い込むようになったのだ。正妃さえいなくなれば僕の本物の母親になれると思ったらしい。そんなわけがないと少し冷静に考えれば分かることなのに、彼女はおかしくなっていた」
「毒を盛られた正妃様は大丈夫だったの?」
「幸い大事には至らなかった。もし本当にそれで毒殺されていたら僕は乳母を自分の手で殺していただろうな。母上は毒を盛られたことにより命に別状はなかったが、もう子を産めない身体になってしまったのだ」
「そんな…」
「僕は大好きだった乳母に母上を殺されそうになった彼女の裏切りと、母上を二度と子を産めなくさせてしまった原因が自分のせいであることに酷い苦痛を覚えた。僕が乳母に必要以上に懐かず、変な思い込みをさせていなければ、と」
想像以上に重たく暗い過去だったことに絶句しながらも今の話を聞いて王子が悪いだなんて言う人間はいないと思う。そんなことを思う人間がいたらそれはただの大馬鹿者か頭がおかしくなった奴だけだ。
「まだ6歳の子供にそこまで考えるのは甚だ無理だし、ライナス王子が責任を感じる必要なんて少しもないよ。悪いのはすべて毒殺しようとした乳母だけ。自分を責めないで」
「もちろん分かっているし母上もそう言って下さった。もう姉上と僕がいるから子はいいのだと。しかし僕は自分を許せなかった。僕が乳母に必要以上に懐き、彼女から必要以上に好かれたからこうなってしまったのなら、もう二度とそうならないように誰とでも距離を置き、僕は横暴に振る舞うようになったのだ。それがもう染み付いてしまって直せと言われても無理だがな!」
「…そっか。話してくれてありがとう。王子のこと、少し知れて良かったよ。何と言うか…上手いことは何も言えないし言うべきでもないんだろうけど…俺はライナス王子がどんなに偉そうだったり横暴に振る舞っていたとしても、隠しきれない優しさとか、妥協しない努力家なところとか、口では素直になれないけど照れてる可愛いところとか、全部素敵だなって思ってる。まぁ、嫌なところもあるけど!」
言ってて少し恥ずかしくなったのは俺の方だった。照れ隠しで最後に付け足した言葉にへへっと笑って見せる。王子はアクアマリンの瞳をうろうろと迷子のようにさ迷わせ、頬には赤みが帯びていた。
「あ、照れてる?やっぱりちょっとくさい台詞だったよな…」
「……」
俺が頬をかきながらそう言うと、珍しく王子はだんまりと口を引き結ぶ。いつもなら「うううるさい!」くらい言って照れ隠しするのに、と訝しげに思っていると。
「…お前は、僕を天才ではなく努力家だと分かっているのだな」
「え、もちろん!みんな分かってるんじゃないの?」
「いや、ほとんどの人間は僕の魔力量が多いのは生まれつきで魔力量が多いから強く美しい魔法が出せると思っている。僕が必死に裏で研究したり練習したりしていたことなんて知らないからな」
「確かに生まれもった才能やセンスはあると思うよ?でもその能力を無駄にせずさらに伸ばす努力をしたのは間違いないだろうなって魔力を流されるたびに感じるもん」
「僕は人に見せる努力は努力ではないと思っているから人に評価されなくても分かってもらえてなくても全然構わなかった。姉上が分かっていてくれたからそれ以外の評価はどうでもよかった。だが…お前は気付いてくれるのだな…」
「そりゃそうだよ。これだけ毎日一緒に訓練しているんだし。それに俺だけじゃなくてアルウィンも気付いていると思うよ?」
「…そこであの騎士の名前を出すな!」
俺とエレノア様だけじゃなくて他にも王子の努力を知っている人はいるよ、ということが伝えたかったのになぜか一気に不機嫌な顔になってしまったライナス第一王子。
分かりやすいと思っていた王子の突然の変化に戸惑うものの、1つ思い浮かんだことがあった。
「もしかして…アルウィンをライバル視してる?」
「ら!?し、してない!僕にライバルなどおらん!」
「あー…ね、うんうん、王子は王子だよ。大丈夫大丈夫」
努力家で秀才のライナス王子とは真逆のタイプが感覚派で天才肌のアルウィンだ。魔力の波が荒々しいにもかかわらず、それを使いこなしてとても強い魔法と剣術をかけ合わせている。
何でもすぐに感覚を掴み、自分のスタイルに出来てしまうからこそ初めて妖怪や獣人と戦闘になってもあれだけやり合えたのだと、おじいちゃん先生の授業を受ければ受けるほど思っていた。
秀才にとって一番羨望と嫉妬の対象となるのが天才だろう。凡人では天才に嫉妬を覚えることすらないが、優秀で天才に近い秀才だからこそ、感じるものがあるはずだ。
だがアルウィンにはアルウィンしか分からない苦労が、王子には王子にしか分からない苦労があったはずだ。それはどちらの方が、と比べるようなものでもないし決して比べることは出来ない。
「実は俺も努力をするのが好きだからライナス王子を見習ってもっと頑張ろうって何度も思ってるんだよ」
「…本当か?嘘ではあるまいな?」
「本当だよ。努力の仕方を学べる見本になる人が近くにいて感謝してる。いつもいろいろ言っちゃうけど、本当にありがとな」
「……」
猫のようにつり上がった形の目の中にあるアクアマリンの瞳を真っ直ぐ見つめながら言うと、少しだけそのアクアマリンが潤んだように見えた。本物の海のようだと思った。
それを隠すためなのか、俺よりも頭1つ分高いところにあった頭がとす、と俺の肩にもたれる。初めて王子から接触されたことに驚きながらも俺はそれを静かに受け入れた。
「…僕は、姉上と…お前に認めてもらえているなら…それでいい」
「うん、きちんと認めてるし心から凄いと思ってる。これで口調が優しくて物腰柔らかだったら完璧王子になっておもしろくなくなっちゃうから今のままでいいよ」
「…戯れ言を言うな。誰に何と言われようともこれからも僕は僕のままでいるから安心しろバカたれ」
「あは、それが王子らしい!」
肩にのしかかる王子の頭を軽くポンポンと撫でながら笑う。サラサラの髪触りがあまりに気持ちよくて、もう一度撫でようとした、とき。
「……遅くなりました」
アルウィンが、戻ってきた。
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