【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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様子がおかしい宰相

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    しばらくトイレに籠ってこの苦しさから解放されるにはどうしたらいいか考えたかったが、コンコンと扉をノックする音と外からアルウィンの心配する声が聞こえてきてそんな猶予もなかった。
    俺は慌ててトイレから出て心配そうな表情を浮かべるアルウィンにお腹が少し痛かっただけだと説明する。尚も心配そうにするアルウィンの背中を押して、夕食を摂るために食事の間へと移動した。

    今日の夕食は久しぶりに国王と宰相も同席するとのことだった。おそらく俺が聖魔法を使えるようになるかどうか、進捗が聞きたいのだろう。
    国王と宰相がいるとアルウィンと一緒に食事が出来ないからあまり好きではないのだが、今日に限っては2人きりで食べなくてすむことに少し安堵していた。

    いつもの席に座り国王と宰相の到着を待つと5分ほどで彼らはやって来た。相変わらず眩しいくらいにピカピカと黄金に包まれた国王様と紺色のローブを引きずり丸眼鏡を押し上げる仕草が賢そうな宰相。
    軽く挨拶をすませ、彼らが席に着くといつもより豪華なお皿に乗った料理たちが次々と運ばれてくる。俺の後ろに控えているアルウィンはこの料理を前にお腹が空かないだろうかと気になってしまうほど美味しそうな匂いが部屋中に広がっていた。食事が開始されると早速国王が俺の魔力の進捗について尋ねてきた。

「すみません、毎日ライナス王子に協力頂いているんですがまだちっとも魔力がわく気配はなくてですね…」
「よいよい、あまり気にするでない。それよりもあのライナスとミトはだいぶ打ち解けていると報告を受けておるが誠か?」
「それはそうですね。最初の印象が最悪だったので今は普通くらいではありますが、前より関係値はよくなったと思います」
「なんと!アンガス国王様、これは大変素晴らしい進歩でございますね。誰にも心を開かず暴君王子の渾名がついていたライナス第一王子が、ミトには心を開いているなんて良い傾向ではありませんか!」
「そうじゃのう。ミト、ライナスは過去の深い傷があやつをああしてしまっているのだ。それはもう聞いておるか?」
「はい、聞いてます。何があったかについてもちょうど今日、王子本人の口から聞きました」
「ほう!そうであるか!いやはや、最初は2人の険悪さにどうしたものかと頭を悩ませたが自然と2人は距離を縮めておるのだな。良いではないか良いではないか」
「ええ、まさしくでございます。このデロリーも身を削って異世界召喚した甲斐がありましたとも!」

    あれ、ちょっと変な期待と誤解をさせてしまっているかもしれない。もしかしてこのまま行けば俺と王子が結ばれて子をなしてくれるとでも思ってそうだ。残念ながらそんな未来は絶対に来ない。断言する。
    しかしここで全否定してしまうのは彼らに悪いし、俺が聖魔法を使えるようになればいいだけの話なので何も言わないでおく。いくら話しても話は平行線になるのが簡単に想像つくからだ。ここは話題を変えて俺とライナス王子のことから遠ざけようと思い口を開いた。

「そういえば、この前エレノア様とお会いしました」
「うむ、その話も聞いておる。エレノアが久しぶりに玉座の間に顔を見せに来たと思ったらすぐにミトに会いに行くと言ってそそくさと出ていってしまったからのう。よっぽどミトに会いたかったのだろう」
「とても綺麗な娘さんですね。ライナス王子が自慢したくなる気持ちも分かります」
「わしもエレノアは最初の子であり一人娘ゆえ、大層可愛がった。しかし20歳という若さで嫁に行ってしまったのだ…デロリーが公爵家と縁を結ぶべきだと引かなくてな」
「と、当時は王族と公爵家に僅かではありましたが距離を感じましたのでペンドリック王国をより強固な国にしていくためには必要なことだったのでございますよ」
「もちろん分かっておる。しかし父親として娘を嫁に出すことほど辛いものはあるまい」

    一国の王でも一人の父親であることには変わらないもんな、と魚を咀嚼しながらうんうん頷く。俺の正面に座る宰相の視線は落ち着きがなく、若干汗を滲ませているのが気になった。

「あんなに綺麗で素敵な娘さんなら誰だって嫁に出したくないですよね。お身体を壊した時期があったのなら尚更心配でしょうし」
「そうなのだ。1年半ほど床に伏せってな。わしですら面会謝絶の時期があったくらいなのだ。もうすっかり元気になったから良かったものの、あの時期はわしも心配ばかりしておったような気がするの」
「今では息子さんも育てられていて第二王子のために薬師さんもされているなんて、すごく立派ですよね。あ、第二王子にはまだお会いしたことがないのでいつかお元気になったらご挨拶したいです」
「…だ、第二王子は繊細な方で常に体調不良と戦う日々でございます。まだしばらくは第二王子の病を知りつくしている者しか第二後宮には立ち入れません。ミトは聖魔法取得訓練に集中して頂きたい。第二王子もミトが魔力に目覚める頃には元気になっておいででしょう」
「わしですらデロリーに禁止されて中々第二王子には会いに行けぬのだ。文や好きな物をたまに届けさせておるがわしと会うと緊張するせいか体調を崩してしまうからのう」
「そうなんですね…近くにいる息子さんなのに中々会えないのも辛いですね。早く第二王子が元気になるといいなぁ」

   横目で宰相の顔色を伺いながらぽつりと溢す。宰相はやはり些細ではあるが挙動不審になっている。俺ではなく国王の表情や言葉を注意深く観察しているような雰囲気があった。
    何か様子がおかしいなと思いながらじっと宰相を見すぎてしまい、彼と視線がぶつかる。宰相はスッと目を細め明らかに作り笑顔を見せたので、俺もニコッと笑みを返しておいた。

「何はともあれ、私はライナス第一王子とミトが親しくなってきていることが大変喜ばしく思います。どうぞこれからも毎日共に時間を過ごし、聖魔法のためにもこの国のためにもお力添えをよろしくお願い致しますね、ミト」
「…頑張ります」

    それから食事を終え、食事の間の出口で彼らと別れた俺とアルウィンは部屋に戻った。アルウィンの食事は部屋に運んでくれるそうだ。
    自分の部屋に戻るとアルウィンが食事しているのを眺めながらさっきまでの宰相の様子を思い返す。僅かな違和感がずっと後ろを着いてきているように離れなかった。

「…ミト、何か考え事か?難しい顔をしているぞ」
「うーん、ちょっと…アルウィンはおかしいと思わなかった?宰相の態度」
「デロリー様の?あぁ、ミトは初めて見たかもしれんがデロリー様は大体、国王がエレノア様や第二王子の話題を話されるとき、あんな態度になるぞ」
「え?そうなの?」
「あぁ。いつも少し落ち着きなくそわそわとしていらっしゃる」
「それは何で?」
「エレノア様についてはデロリー様が婚約話を持ってきたから、ばつが悪いんだろう。第二王子にしてもデロリー様が面会許可を出さなければ国王はずっと会えずじまいだから気まずいのだと思うぞ」
「へぇ、なるほどね」

    それは確かに宰相が肩身の狭い思いをするのは当然かもしれない。しかし何となく腑に落ちない。気まずいというよりも、何かに怯えているような表情にも見えたのは気のせいだったのだろうか。
    まぁ俺が考えたところで国のことはよく分からないし、宰相も中間管理職的な立場で大変なんだろうと同情する。俺は深く考えるのをやめ、パンを大きな口で齧るアルウィンのセクシーな唇を無意識に見つめていた。

「……ミト?」
「んー?」
「そんなに見られながらだと…食べづらいんだが」
「え?あ、ごめん!ボーッと見ちゃってた」
「ミトの呆けた顔は変な気持ちにさせるからあまり見ないでもらえるか」
「う、うん…ごめん…」

    俺の放心顔はそんなにも見たくないほど変な顔をしていたのかと恥ずかしくなって咄嗟に顔を俯ける。好きな人に間抜けなアホ面を晒すなんて、と羞恥心に苛まれながら、俺はソファに深く背中を預けアルウィンが淹れてくれた紅茶を啜った。

「いや、誤解しないでくれ。決して変な顔だと言ったわけではないんだ。その、何と説明したら良いのか分からないが…ミトの気が抜けた顔はとても可愛らしくて…その、落ち着かない気持ちにさせるんだ」
「へ…?気持ち悪い顔じゃなくて?」
「そんなわけがない。ミトはどんな顔も気持ち悪いなんてことはあり得ないから安心しろ。どんな顔も、どんな表情もすべて可愛いのは間違いない」
「ぇ、あ、そうなんだ…」
「い…いや、男に可愛いは失礼だよな、すまない」
「ううん、全然…アルウィンになら可愛いって言われるの…ぅ、嬉しい…から」
「そ、そうか。なら良かった」

    お互い恥ずかしくなってもごもごと口を動かすから室内が変な空気になる。そんな空気を誤魔化すように俺は紅茶を音を立てて啜り、アルウィンは残りのパンを一口で食べきった。

「今日はそろそろ…寝るよ」
「あ、あぁ、そうした方がいい。暑くなってきたとはいえ腹を出して寝るなよ」
「そんなことしないよ。アルウィンもゆっくり休んでね、お疲れ様」
「ありがとう。おやすみ、ミト」
「おやすみなさい」

    食事を終えたアルウィンとおやすみの挨拶を交わして別れる。俺は寝巻きに着替えながらにやけた顔を抑えきれなかった。
    アルウィンはたまに俺を可愛いと言ってくれるが、やはり好きな人に可愛いと言われるのは顔がゆるんでしまうほど嬉しいものだ。今朝の目覚めはあまり良くなかったが、今日はよく眠れそうだと思いながら俺はベッドにほくほくな気持ちで潜り込んだのだった。

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