【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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パーティーで纏う色の意味

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    またしばらくは授業と訓練をこなす日々が過ぎていったとある日。今日も大した成果が得られなかった訓練終わりにライナス王子が意外なことを言い出した。

「おい、明日はお前、休みだったよな。どうせ暇なら僕とパーティーに出席しろ!」
「へ…?」
「侯爵家主催のパーティーに呼ばれたんだがお前はまだ一度もパーティーというものを経験したことがないだろう。それでは将来恥をかくときが来る。今から経験を積め。お前のお披露目パーティーがなかったことで、各高位貴族が異世界人を一目見たいといい加減うるさいからな」
「えぇ…パーティーかぁ…」

    日本生まれ日本育ちの一般家庭出身の俺には無縁のパーティーのイメージと言えば、腹の探りあい、うわべだけの付き合い、見栄の張り合いみたいなものばかりで楽しそうなイメージがない。
    王子のいう将来恥をかくというのがどういうことかよく分からないが、聖魔法を使えるようになった暁には盛大に祝われるのかもしれない。もしそうなったときにマナーの1つも知らなければ確かに恥をかくなと思案する。隣にいたアルウィンに助けをこうように見上げると複雑そうな表情をしていた。

「アルウィンはどう思う?出席した方がいい?」
「おい!僕が行くと言ったらお前も行くのだ。そいつにわざわざ聞くな!」
「殿下、国王様の許可なく勝手にミトをそういった場に連れ出すことは…」
「父上の許可なら取ってあるに決まっている!僕が考えなしで口にしていると思うなよ!」
「…失礼致しました」

    最近、ライナス王子は俺に対しては少し丸くなったなと思う反面、アルウィンに対しては前より当たりがきつくなっているように感じる。俺にはいろいろ話してくれたがアルウィンにはそうでもないからなのか、アルウィンに対してライバル心を燃やしているからなのかは分からないが。

「国王に許可取ってあるなら俺の意思は関係なくもう決定事項ってこと?」
「まぁそうだな、事前に伝えてやっただけ感謝しろ!お前の衣装もすでにこの僕が直々に選んでやって用意してあるぞ。僕の隣を歩くに相応しい装いでなくてはならんからな!」
「えー…まさかギランギランだったりめちゃくちゃ派手だったりしないよね?」
「僕よりは派手にはしていない。ちんちくりんのお前でもそれなりに見える衣装を用意したからこの後部屋に届けさせる。明日の10時には僕が部屋まで迎えに行って衣装の確認をしてやるからな!寝坊などせず準備しておくように!」
「はーい…」

    なぜかやる気満々といった雰囲気で鼻息荒く帰っていったライナス王子の後ろ姿を見送り、アルウィンと無言で視線を交わす。お互いやれやれと首を振りながら、明日への一抹の不安を拭えずにいた。

***

    次の日、きっかり10時に部屋の前に迎えにきたライナス王子に俺は文句を言うためにクワッと口を開いた。

「王子!なんだよこの衣装!」
「なんだ、ちんちくりんのお前でもそれなりに見えるではないか。やはり僕の感性に狂いはないな!」
「狂いすぎだろ!何で金色の刺繍と水色のフリフリがついたお坊ちゃんみたいな衣装なんだよ!恥ずかしくて今すぐに脱ぎたい!アルウィンもこれを着てから眉間にシワを寄せて一言も話してくれないし!」
「ふん!騎士よ、こいつが僕の色を纏っているのが気に食わないとでも言うのか?」
「え?王子の色?」
「金と水色は僕の髪と瞳の色だ。お前が一目で僕の庇護下にあると分かって手出しするやつはいない。良い牽制方法であろう?」
「あー、なるほど。王子なりに異世界人の俺が変な輩に絡まれないために考えてくれてたんだ。それは有りがたいけどこんな衣装着たことないから恥ずかしすぎる…」
「僕の隣に立つのだから堂々と胸を張っていればよい。その髪も少し整えてやるからこっちに来い」
「おわっ」

    王子に腕を引っ張られて室内の鏡台の前に連れていかれる。衣装を着てから一言も話さないアルウィンに視線を向けるが、彼はひどく苦痛そうな、不快そうな表情をしていた。俺に似合ってない衣装だからなのか、護衛として隣に立つのが恥ずかしいからなのか…と考えて少し落ち込む。

    鏡台の前の椅子に強引に座らされ、王子はどこから出したのか掌にオイルのようなものを馴染ませるとそのまま何もしていなかった俺の髪の毛を後ろに撫で付けるようにして整え始めた。
    さすが美しいものが好きなだけあって毎日自分の髪も自分で手入れをしているのか、手付きが慣れている。

「すごい慣れてるね。こういうのって普通、侍女とかがやるもんじゃないの?」
「誰にやらせるよりも僕がやるのが一番美しくなるからな!僕のこのサラサラな髪も日々僕が手入れを欠かさずやっているからだ」
「ほぇ~王子って本当に器用だね」
「ふん、このくらい普通だ。ほら見ろ、額を出したらちんちくりんの童顔も少しはマシに見えるであろう」
「確かに。ここまでしてもらったんなら行くしかないか…髪の毛整えてくれてありがとう」
「ま、まぁ…お前が僕の色を纏っているのはなかなか良い気分だからな!さっさと行くぞ!」

    鏡の中にうつる自分は確かにいつもの自分よりも大人っぽく見えて王子の手腕に感心した。オイルをタオルで拭った王子にまた強引に腕を掴まれ、僕たちは部屋を出て外に用意されていた馬車に乗り込む。
    俺の後ろを黙って着いてきていたアルウィンが今何を思っているのか気になるが、王子のマシンガントークが止まずアルウィンに話しかける隙間すらなくいつの間にか馬車は侯爵家へと到着していた。

    馬車の中で王子がどういう人が侯爵でとか息子や娘はうんぬんとかパーティー内で注意することなど色々話してくれていたが、たぶん俺の頭には1割くらいしか入っていない。残りの9割はアルウィンのことを考えていたから。

    慣れた足取りで侯爵家の門をくぐれば王族のお出ましだからか、ずらりと左右に並ぶ執事やメイドたちが一斉に頭を垂れる。俺はその迫力に怖じ気づきながらも歩を進める王子に必死に着いて行った。
    侯爵家の正面入り口扉の前にはここの当主とその夫人、息子や娘っぽい人たちがにこやかに王子に向かって挨拶をし、歓迎の言葉を並べる。
    俺も異世界から来たことと名前を述べて簡単な挨拶をした後、当主自らの案内で侯爵家のパーティー会場へと足を踏み入れた。

「いいか、僕は挨拶回りなんて面倒なことはしないがいろんな人間が勝手に近寄ってくる。お前は僕が紹介するが絶対に僕から離れるな。僕と腕を組んだままどこにも行くなよ」
「わ、分かった」

    王子が小声で言った言葉にこくこくと頷きながら王子の腕にすがりつくようにして腕を組んだ。
    会場内は煌びやかなシャンデリアや絨毯、高級そうなテーブルには色取り取りの料理が並び、高位貴族だと分かる男女が美しい衣装を身に纏っていた。
    この国の第一王子が会場に入ったからか、彼らの視線が一気に俺たちへと集まる。半分は王子に、半分は異世界人である俺の黒色に注がれた視線だった。

    侯爵家当主が中央にある壇上にのぼり、王子と俺、そして名誉騎士であるアルウィンの紹介をおもしろおかしく話すのをぼんやりと聞きながら、斜め後ろに控えているアルウィンに視線をやる。バチ、と音が合ったように視線がぶつかったが、ふいっと先に逸らしたのはアルウィンの方だった。

    俺は使用人が取り分けてくれた料理が乗った皿を片手に、隣にいる王子の元に来る途切れない人の列を若干引きながら眺める。やはり一国の王子ともなればごますりされ、ペコペコされるのも仕事の一環なのだろうとげんなりする。
    俺にも話しかけようとしてくる人たちはちらほらといて、そのたびに王子やアルウィンが変わりに答え、俺は軽く挨拶の言葉を述べるだけですんだ。

    しばらくそんなことを繰り返していると、誰かが遅れて会場に到着したようで、扉が開く。人々はそれぞれ談笑しているから全く気にした様子もなかったが、俺は何となくその扉が開くのを見つめていた。そして、そこから現れた瑠璃色の彼女に、思わず持っていたお皿を落としそうになった。

「あ、いたいた!第一王子の護衛としてやっぱりアルウィンも来てたのね!」

    瑠璃色の彼女―――アルウィンの婚約者であるリジーさんは、ワインレッド色のドレスを身に纏い、すぐにアルウィンの姿を見つけ駆け寄ってきた。アルウィンはいつも通り騎士の制服だが、彼女が纏っている色はアルウィンの色だと一目で分かるほど、2人が並んだ姿はお似合いだった。

「リジー、来てたのか」
「男爵令嬢だもの、ご招待頂いたの。アルウィンは何でいつも通りの格好なのよ!少しくらい着飾って来てくれたら良かったのに」
「俺はただの護衛騎士だ。今日は王子の護衛と…異世界人の護衛で来ているからな。浮かれている暇はない」
「ちょっと待って、異世界人ってまさか…ミトのことだったの!?前と髪色が違うじゃない!」
「あのときは俺が認識齟齬魔法をかけていたんだ。改めて紹介するがミトは異世界人だ」
「…この前はどうも。騙したみたいになってしまってすみません」
「そんなことはどうでもいいわ!アルウィンはミトの護衛をしていたってことなのね」
「そうだ。だから今日もミトのそばにいるのが俺の仕事だ」
「それは分かったけど…私はアルウィンも来るかもしれないと思ってお洒落して来たのに、相変わらず冷たいわね。でもちょうど婚約者をみなさんに紹介出来る場だし、ちょっとくらい付き合ってちょうだいよ。少しなら大丈夫よね?」
「それは出来ない。ミトのそばを離れるわけにはいかない」

    すぐ横で交わされる婚約者同士の会話にキリキリと胃が痛み始める。さっきまで食べていた料理がすべて逆流してきそうな、気持ち悪い感覚もあった。
    リジーさんの言葉の節々や様子からは、やはりアルウィンと結婚したいという意思を強く感じる。アルウィンは解消したいらしいが、それも俺がいるせいでいつ結婚できるかも分からず婚期を送らせてしまうから彼女のためを思ってのことだろう。
    俺がいるせいで2人は今も一緒にいることが出来ず、結婚をすることも出来ない。俺の存在が2人の邪魔をしてしまっている。その事実が肩に重くのし掛かり、胸を圧迫させた。

「それはそうよねぇ……ミト、もうこの世界には慣れたかしら?今日の髪型、とても素敵じゃない!」
「あ、ありがとうございます。だいぶここの生活にも慣れました。リジーさんもそのドレス…とてもお似合いですね」
「ふふ、ありがとう!アルウィンの色を纏えるのは婚約者である私だけだからアルウィンもいるパーティーでは大体この色を着るのよ」
「え……へぇ、そうなんですね」
「ミトはライナス王子の色じゃない!とても素敵よ!王子との子をなすために召喚されたんだもの、その色を纏えるのはあなたしかいないわ」

    リジーさんから落とされた爆弾発言に、俺はくらりと目眩がした。婚約者しかその相手の色を纏えない…そんな常識があるとは露しらず、俺はいつの間に王子の婚約者に仕立てあげられていたんだと面食らう。
    もしかしてこの服を着たときからアルウィンの様子がおかしかったのも、その常識のせいだったのかと合点がいく。アルウィンは俺が王子と結婚することも子をなすことも嫌だと知っているがもうパーティーに行くことは決定事項だったため、どう説明すればいいのか迷っていたのかもしれない。

「なんだ、名誉騎士の婚約者殿がいるのならお前はしばらく婚約者殿と過ごしたらどうだ。僕1人いればこいつの面倒なぞ見れる。たまには羽を伸ばしてこい」

    突然俺の後ろから気味が悪いほどにこやかな声が降ってきた。ライナス第一王子が、これまでにないほど美しい笑みをアルウィンとリジーさんに向かって見せていた。
    アルウィンとライナス王子の視線がぶつかり、一瞬火花が散ったように見えた。

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