36 / 110
俺が婚約者の立場なら
しおりを挟むアルウィンとライナス王子の視線がぶつかっている中、歓喜の声を上げたのはリジーさんだった。
「まぁ!ライナス第一王子にマクラウド男爵令嬢、リジー・マクラウドがご挨拶致します。ライナス様の粋な計らいに感謝致します」
「挨拶などはよい。さっさと婚約者殿と楽しんできたらどうだ?」
「いえ、私はミトと殿下をお守りする役目を持ってこの場におります。正式にリジーの婚約者として招待頂いたわけではありませんので、挨拶回りはかえって失礼に当たるかと」
「アルウィンったら本当に嫌になるほど真面目な人ね!」
「お前の護衛などなくとも僕の護衛は他にもたくさんいるからどうってことない」
「しかしミトの護衛は私1人です。私はミトのそばにいなければ…」
「だからこいつの面倒は僕が見ると言っておるだろう!お前以上の魔法を使う僕にこいつの護衛が務まらぬとでも?」
「滅相もございません。殿下に護衛のようなことをさせるわけには参りません。後から国王様と宰相様に知られたらお叱りを受けます」
「そんなの僕が上手く言えば大丈夫だ!婚約者殿、とっととその堅物を連れていけ。目障りだ」
「は、はい!」
「殿下!」
リジーさんがアルウィンの腕を引っ張って連れ出そうとするがそれでも尚アルウィンはライナス王子に強い視線を向けて動こうとしない。俺の護衛が自分しかいないという責任感から動こうとしないアルウィンに、俺は痛む胸を抑えながらアルウィンに話しかけた。
「アルウィン、俺のことは大丈夫だからリジーさんとパーティー楽しんできなよ。せっかく会えたんだしさ」
「ほら、ミトもこう言ってくれてるし行きましょう」
「…ミト様、俺はあなたの護衛です。護衛がそばにいないなど職務怠慢です」
「でも同じ会場内にはいるわけでしょ?何か異変があればアルウィンの能力ならすぐに助けてくれる。俺はそう信じてるよ」
「ですが…」
「アルウィン、リジーさんの気持ちも考えてあげて」
もし俺がリジーさんの立場なら、婚約者の自分よりも頑なに仕事を優先するアルウィンに悲しい気持ちになると思った。仕方のないことだとしても、理解と納得は決してイコールで結ばれるとは限らない。
俺が意思を込めて強く言ったからか、アルウィンは押し黙りリジーさんの顔をちらっと見る。彼女は不安そうな瞳をアルウィンに向けていた。それは庇護欲をそそられる瞳だと思った。
「…15分ほど、お側を離れます」
「うん、楽しんできてね」
「ありがとうございます!」
不安そうな表情から一転、リジーさんが嬉しそうな笑みを浮かべてアルウィンの腕を引っ張っていく。俺は自分で背中を押したにもかかわらず、彼らの後ろ姿を見ていられなくてライナス王子に向き直った。一言文句を言わなければいけないからだ。
「王子!ちょっと来て!」
「ふん、言いたいことは分かっている。感謝などはいら…」
「全然違う!いいから来て!」
なぜか感謝されると勘違いをしている王子を会場のすみの方に引っ張って壁際に追い詰めると、俺は彼を見上げて小声の上に怒りをのせた。
「俺、知らなかったんだけど!?婚約者しかその人の色を身に付けられないって!」
「なんだ、そのことか。お前の勉強不足を僕のせいにするな」
「そ、それはそうだけど!先生も教えてなんかくれなかったしどうやって知るのさ!俺が今この格好をしているってことはみんなに王子の婚約者だと思われているってこと!?」
「異世界人が召喚された理由を国民みんなが知っておるのだぞ。僕とお前は嫌がっているが、当然他のやつらはみんな僕とお前が結婚すると思っている。だからお前がその色を身に付けていることに誰も違和感など抱かん」
「もう~!そうならそうと早く言ってよ!俺が聖魔法を使えるようになれば王子とは結婚しないから一時的ですって言い回れたのに!」
「ふん、もう遅い」
鼻で笑う憎たらしいライナス王子に俺は怒っているのがバカらしくなって大きなため息をついた。これは俺がパーティーや社交は必要ないからとおじいちゃん先生に言ったせいでもあるし、自分の勉強不足が原因だ。知らなくていい分野などないのかもしれないと考え直した。
「はぁ…明日から先生に社交の授業も入れてもらおう…」
「それが賢明だな。お前はいつか僕の妃にかるかもしれんのだから」
「はぁ?なるわけない!俺も嫌だし王子だってあれだけ嫌がってただろ!」
「考え方が変わった。お前を妃にするのも良いかもしれん。抱くのは無理だが」
「お飾りの妃なんてまっぴらごめんだから!その変な考えさっさと捨ててくださーい」
「ふん、僕の妃になれたら何でも与えてやるのにか?不自由はさせないぞ」
「もうその妃って立場が不自由だから!あと俺は絶対に一夫一妻しか受け入れられないし好きな人と一緒になれないなら独り身でいるつもりなので!」
「…好きな人?お前、好きなやつがいるのか」
「べ、別に王子には関係ないだろ」
さっきまで隣にいた、ワインレッドの彼を思い浮かべる。しかし悲しきかな、彼は今婚約者とパーティーを楽しんでいるはずだ。俺がそうするように背中を押したんだから。
リジーさんは素直で明るくて良い人だ。きっとすぐにでもアルウィンと結婚したいはずなのに彼の仕事に理解を示し、健気に待ち続ける素敵な女性だ。
俺はアルウィンへの恋心とは別に、リジーさんの恋の邪魔をしようだなんてこれっぽっちも思わない。アルウィンにはリジーさんがお似合いだと思うし、俺より婚約者のそばにいるのは当たり前だ。
王子の質問にそっぽを向いて答える俺をどう思ったのか、突然王子は俺の手首を掴み、人の隙間をぬって歩き出した。後ろから王子の護衛たちが着いてくるのを煩しく思ったのか、王子は舌打ちを溢した後、俺を抱き上げた。
「へっ!?」
「落ちたくなければ掴まってろ」
浮遊感を感じて慌てて王子の首にしがみつき、ぎゅっと目を瞑ると、初夏の生ぬるい風が頬に当たる。恐る恐る目を開けてみると、侯爵家の噴水が下に見え、ライナス王子の浮遊魔法で飛んでいるのだと気付いた。
「ちょ、ちょっと!何してんの!?怖いんですけど!?」
「ふん、良い気味だ!お前が癪に触ることばかり言うのが悪い。ほら、しっかり掴まらないと落とすぞ」
「ぎゃー!や、やめて!落とさないで!生意気なこと言って悪かったってば~!」
「くはは!良い声で鳴くじゃないか!」
俺を抱き上げている腕をゆらゆらと揺らして脅かす王子に、俺は悲鳴を上げながら王子の身体にしがみつく。彼がくしゃりと顔を歪め声をあげて笑った顔は、初めて見る彼の心からの笑顔だった。人を苛めて楽しむサディストめ、と思いつつ、初めて見る王子の本物の笑顔は人形めいておらず、人間らしかった。
「殿下!何をされているのです!」
良い気になって大笑いしている王子と悲鳴を上げる俺の元に、アルウィンが焦った顔で現れた。転移魔法と浮遊魔法を使って俺たちを追ってきたのだと察する。その顔は険しく、唇をぎゅっと締めた厳しい表情で俺たちを睨み付けるようにして見ていた。
「アルウィン!このバカ王子を止めて!」
「なっ、バカとはなんだバカとは!この僕に向かって失礼にも程がある!」
「自分で浮遊できない俺を持ち上げて落とす素振りをする悪趣味な王子をバカ王子って言って何が悪いんだよ!」
「この僕がお前ごとき落とすはずがないだろう!」
「本当に落としたりなんかしたら絶交だから!二度と口聞かないから!」
「う、うるさい!少し遊んでやっただけではないか」
「いいから早くおろして~!アルウィーン!」
「殿下!ミトを危険な目に合わせないで下さい!今すぐに地上におりてください!」
「あーあー!分かったと言っておるだろう!」
アルウィンの針のように鋭い声が飛んでくると、やっと少しずつ高度が下がっていく。あと少しで地面に足が触れる、というときだった。
―――ドゴォォン!!!
一瞬何が起こったのか分からなかった。ちょうど雷のように、光と音がほんの少し違和感をなしてずれたような感じだった。
重々しい響きと共に凄まじい爆風が駆け抜け、俺は誰かに抱えられてまた浮遊していることに気がついた。ライナス王子かと思いきや、俺を抱えている腕はアルウィンだった。
「な、なに…?」
「ミト!無事か!」
「う、うん!何が起こったの…?」
「爆発だ。侯爵家が爆発したようだな。煙が出ている位置から見るに、恐らく厨房で爆発があったのだろう」
「ごほっ、おいお前たち大丈夫か?…大丈夫そうだな。せっかくの僕の美しい衣装が台無しだ」
「殿下!すぐに護衛を連れてお戻り下さい!」
「殿下!」
「ライナス殿下!」
アルウィンの一声と同時に侯爵家から急いで出てきた護衛の騎士たちがライナス王子を取り囲む。王子は爆発が事故かどうか護衛に聞き、どうやら違うようですという言葉がやけに耳に残った。
俺は映画の世界を見ているようにしばらく呆然としていたが、アルウィンの険しい顔を見てハッと瑠璃色の彼女を思い出した。
「ア、アルウィン!何でここにいるの!?リジーさんは!?今の爆発に巻き込まれてるんじゃ…」
「会場は爆発箇所と正反対の位置だからおそらく大丈夫だ。たとえ少しの時間でもミトから離れていると落ち着かなかった。今回の爆発も原因は分からないが恐らく狙いは……。ミト、俺にお前を守らせてくれ」
「…アルウィン。でも、婚約者を放っておくのは…」
「前にも言っただろう?リジーは親が決めた婚約者なだけで結婚する気はないと。何度も婚約解消の申し出をしていると」
「それ…本当なの?」
アルウィンの言葉に声を返したのは、俺でもライナス王子でもなかった。高めの丸い女性の声。リジーさんのものだった。
57
あなたにおすすめの小説
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
よく効くお薬
高菜あやめ
BL
昼はフリーのプログラマー、夜は商社ビルの清掃員として働く千野。ある日、ひどい偏頭痛で倒れかけたところを、偶然その商社に勤める津和に助けられる。以来エリート社員の津和は、なぜか何かと世話を焼いてきて……偏頭痛男子が、エリート商社マンの不意打ちの優しさに癒される、頭痛よりもずっと厄介であたたかい癒し系恋物語。【マイペース美形商社マン × 偏頭痛持ちの清掃員】
◾️スピンオフ①:社交的イケメン営業 × 胃弱で塩対応なSE(千野の先輩・太田)
◾️スピンオフ②:元モデル実業家 × 低血圧な営業マン(営業担当・片瀬とその幼馴染)
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる