【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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突然すべてが甘くなった騎士

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***

    ―――キィ、キィ。

    毎回、この夢を見るときに最初に聞こえるこの音は何なのだろう。何かの鳴き声にも聞こえるし、何かを引っ掻いているような音にも聞こえる。聞き慣れないのに、耳障りだとは感じない音だった。

    また少し遠くにあの謎の人物がぼんやりと見える。黒く長い髪が揺らめいているのははっきりと分かるのにどんな服装を着ているのかはあやふやでハッキリとしない。
    少しずつ、謎の人物が近付いてくる。またどこかで止まるのかと思いきや、今日は止まらずさらにスーッと近付いてくる。俺はついにその人物の顔が見えるのかと期待に背筋を伸ばした。

    その人物は、漆黒の長い髪と白い肌の持ち主だと分かる。遠目だと女性かと思ったが、近付いてくるたびにその身長の高さが明らかになってくる。
    アルウィンよりは高く、ドロモアよりは小さいと感じる身長が、手を伸ばせば届く距離まで近付いたことで分かった。その人物が、男だということも。

    俺は目の前の彼を見上げる。ぼやけていない顔が露になる。彼は、真っ赤なルビーのような左目と真っ青なサファイアのような右目を持つ、ゾッとするほど浮世離れした美しさを持つ男性だった。

    切れ長なのに存在感のあるオッドアイが真っ直ぐ俺を見下ろしている。片方の口角だけを上げて、不適に微笑んでいる。俺は、宝石のように輝くオッドアイを美しいと思うと同時に、なぜかこの世で最も恐ろしいと感じた。

『あえてよい』

    声は出ていないが、彼の薄い唇が動く。意味が分からず、本当に合っているのかと思い、彼の唇の動きに集中する。

『あえーてよい』

    "え"と"て"の間が少し長めなことに気付いたが、ますます意味の分からない言葉になってしまい困惑する。彼の声を聞きたいのに、俺も声が出せず意志疎通が出来ない。困ってしまい、彼のオッドアイを見つめることしか出来ない。

    その宝石のような瞳に、俺への憎悪と怒りがうつったような気がして心臓が震えた。しかし瞬きをした次の瞬間には慈愛のこもった瞳に見えてくる。そしてまた瞬きをすれば冷酷なほど冷たい瞳になっていた。
    俺の思い込みかもしれないが、瞬きをするたびにオッドアイから感じられる感情が違い、その不可解な現象に身の毛がよだつ。なぜかこのオッドアイから早く解放されたくて仕方がなかった。

    それまで動かなかった彼の左腕が、俺に伸ばされる。避けたくても身体が動かない俺は、呆然とその様子を見ているしかなかった。
    彼の手が俺の首筋に触れそうになった瞬間、目の前の彼が突然白い靄となって消えた。俺の意識も真っ白な世界に引きずり込まれた。

    ―――キィ、キィ。

***

    意識は覚醒したのに、なかなか目が開かない。瞼が重たい。全然持ち上がらない。
    すぐ隣に誰かの気配がする。温かい掌が俺の頭を撫でている。微かに香る匂いに、アルウィンのものだと確信して重たい瞼を何とか持ち上げる。
    ぼやけていた視界に一番最初にうつったのは頬の傷跡。そして次にワインレッドの髪色。最後に、シルバーの瞳が俺を見つめていて、その瞳がやけに甘い雰囲気を宿していて恥ずかしさから視線を逸らした。

「ミト、おはよう」
「お、おはよう…俺、気絶してた…?」
「あぁ。すまない、少しやりすぎたな。しっかり消毒はしたから安心してくれ」
「……うん」

    何を安心すればいいのか分からないが、気絶する前の出来事を思い出そうとするとアルウィンの顔をまともに見れなくなってしまうので一旦思考を放棄する。
    しかしなぜ、彼もまだ俺と一緒に俺のベッドの上にいるのだろう。肘をついた手に頭を乗せ、もう片方の手で俺の頭を撫で続けているのはどうしてなんだろう。甘い蜜のようなこの雰囲気は何なのだろう。

    法悦の笑みを浮かべながら俺を優しくも熱い眼差しで見つめるアルウィンの様子がいつもと明らかに違くて、どう反応していいのか分からず瞳がうろうろと動いてしまう。
    絶対に俺の頬は赤いし、挙動不審なことにも気が付いているはずなのにアルウィンが何も言わないから余計に戸惑っていた。とりあえず当たり障りのない時間の話から突いてみることにした。

「…今、何時?」
「もう21時だ。よく眠っていたな。夕食を食べていなかっただろう。今から用意してもらうか?」
「うーん、あまり食欲がないから大丈夫」
「食欲がない?どうした、具合でも悪いのか?」
「そんなことないよ。ただ眠ったはずなのに頭がやけに重いだけ。最近変な夢を見ている気がするんだよね。起きたら全然覚えてないんだけど」
「夢?それは困るな。俺は夢でもミトが出てくるのにミトの夢には俺は出てこないのか?」
「へっ!?あ、いや、うん…普段は全然夢を見ないし見てたとしても覚えてないから…」
「俺は夢の中でもミトと会えるのが嬉しいからすべて覚えているけどな」
「そ、そうなんだ…」

    思ってもみなかったことを言われて言葉を返すのがやっとだ。アルウィンってこんなに耳が落ちそうなほど甘い言葉を言う人だったっけ!?と内心で混乱と羞恥に襲われ、今すぐ暴れまわりたい。
    気絶する前に頬を吸われたり舐められたり、何かいろいろされていたことを思い出し、さらに頭がパンクしそうなほど感情が忙しかった。

「パンなら少し貰っておいたやつがあるからそれは食べられそうか?」
「あ……うん、それなら食べたい」
「今用意してやる。待ってろ」
「ありがとう。…っ!?」

    ベッドから起き上がってパンを用意してくれるというアルウィンは、ベッドから下りる前に俺のおでこにチュッとキスという爆弾を落としていった。俺はピシャリと石像のように固まり、しばらく瞬きも忘れて動けずにいた。

    な、何が起こっているんだ。アルウィンの様子が明らかにおかしい。今までも優しかったが、声の柔らかさが今までと桁違いだ。柔らかいだけじゃなく、トロリとした甘さまで感じる声だ。アルウィンに一体何があったのかと身構えてしまうほどの変化に、俺の心臓は一生フルマラソン状態だった。

    パンとジャムを用意してくれたアルウィンの姿が見え、何とか平常心を保っているフリをしながらベッドから起き上がる。しかし彼は俺の元にやって来ると、俺をお姫様抱っこしてソファまで運び始めた。もう、頭の中でずっと花火が打ち上がっている。爆発して頭ごと花火になってしまいそうだ。

「ア、アルウィン…!自分で歩けるよ…!」
「俺がこうしたいんだ。だめか?」
「へ…ぁ、いや、だめ…ではないけど…その、恥ずかしいっていうか…」
「恥ずかしがっているミトを見たくてしているんだ。許してくれ」

    そう言ってまた額にキスを落とされる。一周まわってアルウィンのことが心配になってきた俺である。
    ソファに座るのもアルウィンの膝の上で横抱き状態から変えてもらえず、アルウィン自らパンにジャムを塗って俺の口許に運ぶ始末。恥ずかしいを通り越して恐ろしくなってきた俺である。

「…アルウィン、何か変なもの食べた?」
「いや、今日もいつも通りの夕食をここに用意してもらってミトの寝顔を見ながら食べたぞ。最高に美味しかったな」
「熱とかない?頭をぶつけたりした?」
「どちらもないぞ。俺の熱、はかってみるか?」

    答える前にもうアルウィンの額が俺の額に押し付けられていて顔の近さに一気に熱が上がったのは俺の方だった。バッと顔を背けて何とか距離を作る。このままでは本当に動きすぎた心臓が止まりそうだ。

「フッ…熱、なかっただろう。ミトのほうが熱かったな?」
「う、うん、そうだね!俺、体温高いからさ!アルウィン、なんかいつもと違うけど何かあった!?」
「そうだな、新たな学びがあった」
「へ、へぇ…それは、良かったこと?」
「俺の人生で最も良かったことだ。目標も出来たしそれに向けて突っ走るのみだ」
「それなら良かったけど…あの、普通に座って自分で食べてもいい?」
「この体勢で食べるのはいやか?ミトに俺の手で食べさせたいんだ」
「ぅ、あ、の…嫌では全然ないんだけど!落ち着かないというか、子供や動物扱いみたいで恥ずかしいというか!」
「俺はミトを子供だとも動物だとも思っていないぞ」
「え、そうなの?」
「当たり前だ。1人の男として尊敬し、学ぶべき部分もたくさんあると思っている」
「それは…嬉しい」

    子供やペット扱いされているからこんな対応なのかと思ったが、どうやら違うらしい。男として俺の憧れであるアルウィンに1人の男として褒められるのは純粋に嬉しくて顔がにやけてしまう。差し出されたパンにはむっと噛み付き、にんまりしながらもぐもぐと口を動かした。

「…可愛いすぎるな」
「んぇ?」
「いや、何でもない」

    小声で何かを溢したような気がして首を傾げるが誤魔化されてしまった。口許を掌で覆って視線をずらすアルウィンの頬が赤いような気がする。やっぱり熱があるのだろうかと心配になったが、俺の心配そうな目に気付いたアルウィンは俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「そんな心配そうに溢れ落ちそうな目で俺を見るな。食べたくなる」
「へ?食べる!?この世界は人間食べるの!?」
「フハッ、なわけないだろう!ただの比喩表現だ。ミトの丸くて黒い瞳はどんな味がするのだろうと思ってな」
「びっくりした~!絶対美味しくないから食べようとしないでね!?」
「まぁ…別の意味でいつか食べるけどな」

    アルウィンが最後にボソッと言った言葉はうまく聞き取れず首を傾げる。そんな俺がおかしいのか、アルウィンが目を細めながら声を出して笑う姿に俺も自然と笑顔になっていた。
    好きな人が笑っていると意味はよく分からなくても同じように嬉しい。彼の笑顔は、精巧な顔を少し幼くさせ、いつまででも見ていたい笑顔だった。

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