【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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真夜中に刺客が来たら腕枕された

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    俺への言動がすべて蜂蜜に砂糖を混ぜたような甘さになったアルウィンから逃げるようにおやすみの挨拶をしてベッドに潜り込む。ずっとドキドキしっぱなしだったから一旦1人になって心臓を落ち着けることに集中する。
    今日はなかなか眠れないだろうなと思った通り、静まった部屋の中に寝返りをうつたびシーツの擦れる音が響いていた。

    眠気が全然やってこないなと目を瞑りながら考えていると、フッ、と室内に魔力が流れる空気を感じて背筋が凍る。横向きで寝ている俺の背後に、明らかに人の気配があった。
    カーテンの隙間から月明かりだけが差し込んでいた室内。俺が向いている方向には壁につけられた小さめの丸鏡がある。その中に真反対に立て掛けてある全身鏡が映っていた。
    そしてその全身鏡の中に、真っ黒だが明らかに人だと分かるシルエットが映っている。その人物が両腕に何かを持ち高く上げていることも、それが今から振り下ろされそうなことも、持っているものがキラリと光ったことで刃物だということも分かった。
    薄く目を開けて鏡を注視する。アルウィン助けて!と心の中で叫びながらも、俺は刃物が振り下ろされる瞬間に動けるよう、神経を研ぎ澄ませた。

    そして、腕が動いた、瞬間。俺は勢いよくベッドの上を前に転がりベッドの下に落ちる。ドサリ、聞こえてきたのは俺がベッドから落ちた音とは別に、もう1つあった。

「ミト…!起きてたのか」
「…アルウィン?」

    パッと室内に灯りがつき、視界が明るくなる。俺は聞こえてきた声に安堵のため息をもらしながら立ち上がり、ベッドの反対側に視線を向けた。

「ひっ!」
「ミト、目を瞑ってろ。こいつを処分してくる」
「う、うん…」

    向けた先にあった光景は、俺に刃物を振りかざそうとした人物の胸に剣が突き刺さっていて、一目で死体だと分かるそれをアルウィンが片腕で持ち上げるところだった。
    アルウィンはしまったとでも言うような顔をしていたから、きっと俺には見せたくなかったのだと察する。俺はすぐに目を両手で覆ってベッドの影に隠れるようにして座り込んだ。

    転移魔法を使った気配がしてから数秒で、彼は俺の目の前に戻ってきた。その手には剣も血もなく、何事もなかったかのように綺麗だ。アルウィンは座り込む俺をそっと抱えてベッドの上に戻した。

「すまない。怖いものを見せてしまったな」
「…さっきのって」
「心配するな。ミトは俺が守る」
「俺、また命を狙われたんだ……暗殺者は誰なの?もうビンスカースの人間は全員捕まったんじゃないの?まさかまた別の人間に狙われ始めてるの?」
「落ち着け、ミト。大丈夫だ」
「何が大丈夫なの…?この部屋は結界があるから安全だったはずだよね?なのに何で今の人は侵入できたの?何者なの?」
「…ミト」

    暗闇にうっすらと見えた俺を殺そうとする人物のシルエットと、微かに感じた殺気。ビンスカースの人間に狙われることがないということは、俺を殺そうとする人間はもういなくなったはず。それなのになぜ俺はまた同じ人間に殺されそうになったのか。
    この世界に来てからずっと、誰かしらから殺気を向けられ続け、命を狙われている。この部屋は安全だと思っていたのにそうでないのなら、もうおちおちと寝ることも出来やしない。
    
「怖い思いをさせ続けて本当にすまない。今のヤツはビンスカースのやつが牢獄から逃げ出し、ここに転移してきたようだ。なぜこの部屋に入れたのかは分からないが…もう一度結界に穴がないか確認してみる」
「…ありがとう。でも今日はもう寝れそうにないや」
「そうだろうな…一緒に寝るか?」
「へ?」

    恐怖と不安に苛まれて眠気なんてどこかに吹っ飛んでいった。眠るのは諦めようとしていたが、アルウィンからの思わぬ一言に目が点になる。

「1人で眠れないなら子守唄でも歌うぞ。よく孤児院で子供たちに歌っていたからわりと得意だ」
「そうなの!?アルウィン、歌とか歌うんだ!?」
「子守唄くらいだけどな。ミトが眠りにつくまで歌ってやる」
「…俺、そこまで子供じゃないよ」
「大人でも1人では眠れない夜だってある。特に今日のようなことがあれば尚更だ。俺も隣とはいえミトの近くにいた方が何かあったらすぐ動けるし安心できる」
「でも2人で寝たら…俺はいいけど、アルウィンにとってはベッド、小さくない?」
「元々ダブルベッドのサイズだから大丈夫だ。ミトは安心して寝てくれ」

    アルウィンは親切心から言ってくれているのだと分かってはいるが、俺は恐怖や不安とは別の意味で眠れなくなるからどうにか断りたかった。
    好きな人と1つのベッドで一緒に眠るなんて心臓がいくつあっても足りない。アルウィンは俺を意識していないから簡単に一緒に寝るなんて言えるのだと思うと、やはり落ち込む。

「それじゃあアルウィンがゆっくり休めないと思うし…やっぱり1人でどうにか寝るよ」
「…俺と一緒に寝るのは嫌か?」
「え、いや?全然嫌じゃないけど…人と一緒に寝たことがないから落ち着かないと思うんだ。それに俺の寝相が悪くてアルウィンに何かしちゃったら悪いし」
「そんなことは気にするな。俺はミトのすべてを受け入れられる。お前を守るためにも、今日だけは一緒に寝かせてくれ」
「……分かった。よろしくお願いします」
「こちらこそありがとな」

    好きな人にそこまで懇願されてはどうにか断ろうとしていた俺の意思は呆気なく崩れる。こんな機会はもうないかもしれないし、たとえ寝たふりになろうとも好きな人と同衾出来る思い出を1つくらい持っていたっていいかもしれない。

    アルウィンのスペースを確保するために奥側に俺の枕を寄せ、自分の部屋から枕を取ってきたアルウィンがベッドにあがるのをドキドキしながら見守る。ふわりとアルウィンの香りが鼻腔を擽り、胸がドキリと高鳴った。
    なぜか枕が少し重なるようにぴったりとくっつけて置いたアルウィンは、腕を俺の枕に伸ばして横になる。俺はどうしたらいいのか分からず、思考も動きも一旦機能停止した。

「どうした?」
「え、っと…この腕は一体…?」
「どう見ても腕枕だが?この方が安心して眠れるだろう?」
「……」

    いや、全く安心なんて出来ませんが?むしろドキドキが加速して絶対に眠れませんが?
    とは言いたくても言えず、思わず黙り込む。きょとんと不思議そうな顔で俺を見上げてくるアルウィンに、俺は頭を抱えたくなった。

「俺は子供じゃないから腕枕は必要ないよ?」
「子供たちには腕枕も添い寝もしたことなんてない。俺がそうしたいと思うのはミトだけだ」
「へ、へぇ…」

    嘘なのか本当なのか一瞬分からなかったが、嘘をつく理由もないし嘘をついているような眼差しでもない。本気で言った通りのことを思っているんだろうが、それはそれで問題だ。どういう意味なのか、どういう意図があるのか、新たに考えることが増えてしまったじゃないか。

「おいで、ミト」

    好きな人にそんな甘い声と眼差しを向けられて呼ばれたら、断れるはずがない。俺は覚悟を決めてアルウィンの腕に頭をのせて彼にぴたりと寄り添うように寝転がった。
    掛け布団をしっかりかけ直してくれて、腕枕している方の手首を曲げて俺の頭を撫で始めたアルウィン。そして少し掠れたセクシーな声で子守唄を歌い始めた。

    初めて聞くアルウィンの歌声は優しいのに切なげで、エッジのきいた歌声だった。ゆったりとしたメロディーとアルウィンの少し掠れた声がとても合っていて、あれほど眠れないと思っていたのが嘘のように次第にうとうととしてくる。
    頭を撫でられている感覚と人肌の温もりも心地よく、さっきまで神経を研ぎ澄ませていた疲れなのか、だんだんと瞼が重くなり視界も思考もぼやけていく。

「おやすみ、ミト。よい夢を」

    どのくらいの時間が経っただろうか。最後に、アルウィンがそう言ったような気がしたところで、俺の意識は深い眠りの中に落ちていった。

***

     胸に赤黒い染みを作って息絶えている死体を眺めながら、彼は静かにため息をもらした。

「失敗しましたか。それにしてもあやつが私の命令に背くとは……仲良くさせすぎましたかね」

    ゆらり、長い白髪がお尻の高さで揺れる。紺色のローブの裾をギリ、と握りしめ、拳を怒りで震わせる。自分の駒が初めて意思を持って反抗をした、その事実に奥歯を噛み締める。

「あの方の言う通りならば早く彼を殺さなければ……決して誰にも知られてはならない秘密を知られてしまう前に」

    丸眼鏡を、かちゃりと上に押し上げる。そこから覗く瞳は、爛々と殺意に燃えていた。ペンドリック王国宰相、デロリー・フィッチは次の策を練り始めた。

***

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