【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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幸せな結婚話をしてたのに酒に酔う

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    使用人が白ワインを新しいグラスに注ぐのをぼんやりと見つめながら、王子がお皿に取り分けてくれた食事を食べ始める。それは確かにとても美味しくて、アルウィンにも食べさせたかったなと無意識に考えていた。
    夜とはいえ夏本番に差し掛かってきたからか、少し暑いなと思いシャツのボタンを上から2つ外す。使用人が全員下がったことでバルコニーに2人きりとなったタイミングで俺は話を切り出した。

「で、王子。突然夕食に誘うなんて何か相談したいことでもあるんでしょ?どうしたの?」
「…相談事などない。僕が理由もなく食事に誘うのはおかしなことなのか」
「え?本当に?強がりとかではなく?」
「そうだと言っている!…ただ、僕はお前にいろいろ話したが僕はお前のことをあまり知らないからいろいろ聞き出そうと思っただけだ」
「あ、そうなんだ。王子に興味を持たれるとは思わなかった。俺の何が聞きたいの?」
「そうだな、まずは…その首筋につけられている痕について説明してもらおうか」
「へ?」

    突然ピリピリとした空気がバルコニーに内に漂う。俺は自分の首筋に手を当て、何を指しているのか分からず眉を寄せながら首を傾げた。

「あ、痕って?」
「気付いていなかったのか?首筋にキスマークがくっきりと残っているぞ。どうせあの騎士につけられたんだろう」
「えっ!?う、嘘!」
「その反応は本当に身に覚えがないようだな。ならばお前が寝ている間につけたのか…姑息な奴め。お前も首筋を吸われたら普通気付くだろうが!何呑気に寝ているんだバカ者が!」
「うっ…」

    そのバカ者は首筋を吸われたことに気付かなかったどころか、今朝射精までさせられました、とは口が裂けても言えず、言葉が喉で詰まる。
    王子のアクアマリンの瞳が険しい視線を向けてくる中、俺は恥ずかしさで穴があったら入りたかった。

「え、と…いつから見えてた?」
「訓練のときにチラッと見えてまさかとは思っていたが、今ボタンを外したことでしっかり確認できたな」
「それは変なものを見せてしまってすみません…」
「突然敬語など使うな!変なものを見せた自覚があるなら僕の要求をのめ」
「はい、何なりと」

    気まずすぎて自然とかしこまった言い方になりながら、さりげなくシャツのボタンを閉め直す。帰ったらアルウィンに問い詰めなければと思い、まずは目の前のライナス王子の要求を聞くことにした。

「僕にも首を吸わせろ」
「……はい?」

    まだ頭がおかしくなるような暑さではないはずだが、第一王子としての立場と最近あった侯爵家襲撃事件の後処理作業が忙しくてどうかしちゃったのだろうか。念のため幻聴の線も考えて、もう一度聞いてみると。

「だから!僕にもお前の首筋を差し出せ!僕のつけた痕をあの騎士に見せた時、どんな反応をするのか楽しみだな」
「…そこまでアルウィンと張り合わなくても」
「別に張り合ってなどいない!ただ首を差し出せば許してやると言っておるのだ。さもなければ、将来一応は僕の妃候補のお前に触れた罰をあの騎士に下す」
「それは…うーん、分かったよ。それで許されるならどうぞ。ご飯食べ終わってからね」
「ふん、良いだろう」

    ライナス王子はアルウィンをライバル視している節がある。俺の首筋に痕をつけることが何の張り合いになるのか不思議だが、それでアルウィンが罰せられずにすむのなら王子の好きなようにさせるしかない。
    夕食中にたくさん話しかけて終わる頃には忘れていてくれないかなと思いつき、俺は王子にいろいろ話をふることにした。

「でもようやく魔力が芽生えて本当によかったなぁ。属性魔法はどのくらいの魔力があれば分かるものなの?」
「今のお前のあと100倍の魔力がなければ属性までは分からないぞ。もっと精進しろ」
「げ、あと100倍か…まだまだ道のりは長いなぁ。たとえ属性が分かっても聖魔法じゃなきゃ意味がないし…どうにか聖魔法属性になってほしい!」
「…最悪、僕はお前を抱くからな。それが王子としての務めだと最近気付いた。駄々をこねていられるほどこの国は悠長にしていられん」
「あれほど男は抱かないって言ってたのに…でもやっぱりそうだよね。俺も最後まで粘るけどもし本当に無理そうだったら子供を産む覚悟を頑張ってするよ。絶対に結婚とかは遠慮したいけど」
「なぜだ?僕の子を産むなら僕の妃になるのが自然の摂理だろう」
「それだけは絶対いや!俺は一夫一妻の国で育ったから妻をたくさん持つような男の妃にはなりたくないの!って何度も言ってるだろ」

    アルウィンがいる国だから、この国を守るために俺に出来ることはしたいと思う。王子に抱かれるのは心底嫌だが、入れて出す作業だけだと思えば一瞬で終わりそうだしそこまで悲観的なことでもない。
    問題は出産の痛みだが、この国には優秀な治癒師やエレノア様のような薬師もいるのだから痛みを緩和させてもらえるかもしれない。
    自分が親になるという責任感も覚悟も今はまだ全く持てないが、アルウィンに恩返しを出来るとするならば今の俺の能力ではこれくらいしか出来ることがないのだ。
    だから最悪、ライナス王子との間に子供をつくって聖魔法持ちの子を授かりたいが、王子との結婚は話が別だ。俺の役目は聖魔法を使えるようになるか聖魔法持ちの子供を産むこと。それより先は自由にしていいはずだ。

「俺は絶対にライナス王子とは結婚しないから。それだけは譲れない」
「……なぜだ」
「だから何回も言ってるじゃん、俺は一夫…」
「僕がお前しか妃にしないと言っても断るのか?」
「へ?」

    言葉に強い意思を持ったような声と真剣な眼差しを向けられ、思わず持っていたフォークを落としそうになる。こんなに真剣な顔をした王子は初めて見た。

「な、にを…そんなこと出来るわけが…」
「僕は誰を妃に迎えようとどうでも良いと思っていた。邪魔にならない、大人しく言うことを何でも聞く女なら誰でもいいと思っていた」
「…クズですね」
「だが初めて僕自身の考えで、僕の妃にはお前がふさわしいと思った。僕のことを理解し、僕と同じく努力家で、共に隣に立ち未来を歩める人材だと」
「わぁ、あの王子に褒められてる…」
「真剣に聞け!…だから、お前が他の女を娶るなと言うならそうする。子供もお前との子だけで十分だ」

    目の前にいる王子は本当に俺の知っている王子だろうか。初対面の時こんなちんちくりんを抱けない、気持ち悪いと俺を睨みながら言ったり、この王子の宮殿で俺にわざと女を抱いているところを目撃させたり、毎晩違う女を閨に呼びつけていたという王子と同じ人物が発した言葉とは到底思えない。
    アルウィンもおかしくなっていたし、もしかして妖術か何かで洗脳でもされているのではと不安の芽が吹き出す。

「…本当にライナス王子ですか?妖術の幻影だったりしますか?」
「そんなわけあるか!僕の真剣な言葉を妖術のせいなどにしようとするなバカたれ!」
「えー…だって本当にライナス王子が言った言葉とは思えないんだもん。本当に自分の言っていることの意味か分かってる?」
「バカなお前とは違って僕は賢いのだから当たり前だ!お前が嫌だと言うのなら僕の妃はお前1人だ!これなら僕と結婚するだろう?」
「いや、しません」
「なぜだ!?」

    上から目線の王子に即答する。そういうことではないのだ。たとえ俺以外の妃を娶らないと言われようとも、俺が相手を愛し、相手に愛されていなければ俺は結婚したいと思えない。

「俺は俺が好きな人であり、俺を好きな人と結婚したいんだよ。政略結婚でも契約結婚でもなく、恋愛結婚がしたい」
「恋愛結婚…?なんだそれは」
「王子は恋愛したことなさそうだもんね…人を恋愛的な意味で好きになったことないでしょ?」
「…それは僕が魔法を好きの"好き"とは違うのか」
「全然違うよ。相手がそばにいなくてもその人のことを無意識に考えちゃうし、その人の言葉で一喜一憂したり胸が張り裂けそうなほどドキドキしたり苦しくなったり…幸せな気持ちにもなるししんどい気持ちにもなる。それが恋だよ」
「……」
「俺は好きな人と結婚していつまでも愛して愛される関係の結婚をしたい。お金のためや国のための結婚なんて絶対に嫌なんだ。それでは未来の俺が幸せにはなれないから、今の俺が未来の俺が幸せになれるように頑張らないと」
「…女共は王子の妃になれれば幸せだと言うぞ」
「それは彼女たちの考えであって俺はそうは思わない。ライナス王子も自分の幸せとは何なのか、真剣に考えてみてもいいかもしれないね。いつか本気で心から結婚したいと思えるほど大好きな人と出会えたらいいね」
「…それがお前だ」
「それは違うよ。王子は別に俺のことを好きじゃない。過去の苦しさを話せた初めて出来た友人だから、他とは違うと勘違いしているだけ。頭で考えず、心が求める人と結婚できたら幸せだと思う。第一王子としての立場だと難しいのかもしれないけど」

    日が長くなった夏の空がグラデーションに染まるのを、遠い目で見つめる。オレンジと紺色の間がちょうどアルウィン色に染まっていて、俺は胸をきゅうとさせながら彼を思い浮かべた。
    俺も本当は、アルウィンと結婚したいと思う。だけど彼は婚約者がいる身だし、俺のそばにいてくれるのはそれが彼の仕事だからだ。
    いつかアルウィンへの恋心を捨てて、また新しい誰かを好きになる自分が想像つかないけれど、俺は将来、幸せな結婚が出来るだろうか。

    空の色と場の雰囲気も相まって感傷的な気持ちになりそうになり、誤魔化すように目の前のグラスを口に持っていく。液体を飲み込んですぐに、飲んだものが白ワインだったことに気が付いた。
    まずい、と思いはしたものの、喉が乾いていたのかとても美味しく感じられ、もう一口喉に流し込む。そういえば白ワインは初めて飲んだなと思いながら頭がポーッとしてきた。

「…僕の妃にはお前がふさわしい」
「んえ?そうれもないよ~」
「おまっ…いや、いい。もっと飲め。その白ワインは美味しいだろう」
「うん!とっれも美味ひぃ」
「っ…身体が揺れてるな。危ないから支えるために隣に行くぞ」
「うん?王子も飲みらいの?おいで~」

    ライナス王子がイスを俺の隣まで移動させるのをぼやけた視界で捉える。俺の隣に腕がつくほどピッタリとくっついた王子は、俺のグラスに白ワインをさらに注いだ。

「ふはっ、王子にちゅいれもらっれる~」
「お前は本当に酔いやすいのだな。ここまで酒に弱い奴は初めて見たぞ。まぁ、悪い気はしないが」
「ん~ふわふわしれ楽しい~でも暑くなっれきた…脱いれいい?」
「…シャツのボタンを弛めるだけならいいぞ。どうせ指に力が入らなくて出来ないだろう。僕がやってやる」
「ふふ、ありあと~」

    王子の指先が首筋に触れてその擽ったさにクスクスと肩が揺れる。ボタンがいくつか開いたのか、首もとにひんやりとした感触がある。王子の掌がとても冷たかった。

「ほら、これで少し冷えるだろう。僕の氷魔法で冷気を流してやってるんだから感謝しろ」
「そうらの?王子はすろいね~」
「…これ以上は寒くなるから止めておいてやる。どうだ、涼しくなったか」
「うん!なっらよ~!」
「……お前の首筋は、美味そうだな。忌々しい痕がなければ完璧だったものを」
「んえ~?食べれも美味しくないろ~」
「うるさい。罰だと言っただろう」

    その言葉を最後に、王子のつむじがすぐ目の前に見えちくりと首筋に痛みを感じた。プラチナブロンドの毛先がくすぐったくて身をよじろうとしたが、肩と腕を押さえられていて動けない。
    じゅうっと大きな音が耳に届いたとき、その場の空気が一瞬にして変わるのが酔った頭でも分かった。

「……ミトから離れて頂きたい」

    大好きな人の声のはずなのに恐ろしく低く、剣を向けられたような殺気を感じたが、俺の記憶はそこまでだった。

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