【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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目が覚めたらキスされていた

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***

    ぶわり、殺気を滲ませるワインレッドの騎士をこの国の第一王子はアクアマリンの瞳を細めて不敵に口角をあげながら見る。彼の肩には酔って眠ってしまった異世界人の黒い頭がもたれるようにして身を預けていた。
    剣こそは向けられていないが、第一王子に向かって殺気を向けるとは無礼者めとライナスは内心ごちる。さらに騎士を挑発しようと、第一王子はミトの髪の毛を撫でながらほくそ笑んだ。

「お前はこの宮殿に招待していないはずだが?」
「ミトに探知魔法をつけています。ミトの至近距離に人の気配がしたので危険が迫っていると判断し、勝手ながら転移魔法にてこちらに侵入させて頂きました」
「危険?この僕がこいつの危険になるとでも?本当に危険なのはお前の方ではないか。わざわざこいつが知らない間にキスマークなどつけやがって。言ったはずだ、こいつは将来僕の妃になる存在だと」
「先日お聞きしたのは"なるかもしれない"でしたが、いつからミトが殿下の妃になると断言するようになったのですか。ミトは絶対に了承しないはずです」
「ふん、つい先ほどまでこいつとその話をしていたところだ。このキスマークだってきちんとこいつの同意の上でつけたのだ。姑息なお前と違ってな」

    王子の勝ち誇ったような笑みにギリギリと拳の中で爪を立てる騎士は、目の前のプラチナブロンドの持ち主が王子でなければ殺していたかもしれないほどの激情にかられていた。
    わざわざミトのシャツをくいっと下にさげ、自分がつけたものとは別に真新しいキスマークを見せつけられ、目の前が歪む錯覚に陥る。必死に相手は第一王子だと自分に言い聞かせることで、アルウィンは理性を保っていた。

「同意…?一体どんな脅しをかけられたのですか。もし私を理由にしたのなら、それこそミトは私のために自分を犠牲にしたまで。勘違いしないで頂きたい」
「…!貴様…いつもこいつといるからって調子にのりやがって!」
「図星ですか。失礼ながら姑息なのは殿下のほうかとお見受け致します。ミトには酒を飲むなと忠告していましたが、無理やり飲ませたのではありませんか」
「違う!こいつが自ら飲んだのだ。水と間違った可能性はあるがな。酔ったこいつを見て確信した。僕はこいつを抱けるし、こいつは僕の妃にふさわしい」
「……ミトは嫌がります」
「こいつ以外の妃を娶らなければ話は別だろう。その意思も先ほど伝えてある。僕はこいつと結婚するべきだしこいつも僕と結婚するべきだ。部外者のお前は決して邪魔などするなよ。僕のものに手を出すなどご法度だ」
「ミトに意思を確認してからどうするかは決めます。そろそろミトを休ませなければなりません。私が転移で運びますので殿下ももうお休み下さい」
「ふん、もう少し共に時間を過ごしたかったが致し方あるまい。明日の訓練は二日酔いで出来ないなどあってはならんからな。早く帰って休ませろ。もちろん、運ぶ以外でこいつに指1本触れるなよ。これは第一王子としての命令だ」
「…善処します」

    アルウィンは頭を垂れ彼らに近付くと、ミトの身体を軽々と持ち上げる。ミトが王子に寄りかかっていた光景をやっと見なくてすむという安堵感と、自分のいない間に王子にどんな姿を見せたのかという嫉妬心で胸のうちはずっと強張っていた。

「それでは失礼致します」
「忘れるな、そいつは僕のものだ」

    最後の台詞は聞こえなかったふりをして、アルウィンはミトの部屋へと転移する。頬をピンク色に染めてむにゃむにゃと口許を動かす愛らしい寝顔をいつもなら可愛いと思うのに、今日は憎らしくも思えて大きく深呼吸をした。

    昨夜は同じベッドで眠り、今朝は恥部にまで触れてさらに関係値を深められたはずだった。しかしアルウィンはミトとの関係が深くなればなるほど、自分の独占欲が比例して膨らんでいることに気付き、いつかそれは爆発してミトを傷付けるのではないかと危惧していた矢先の今回のこと。
    ベッドにミトの小さな身体を横たえ、シャツのボタンを外していく。ずっと見えていた王子がつけたキスマークは濃く、そこに爪を立てたくなる衝動を必死に抑える。
    お酒を飲んだことで血行が良くなった唇はフルーツのように真っ赤で、アルウィンは我慢が出来ずにその唇にしゃぶりついた。王子の命令など、何の効力もなかった。

「…ん、ぅ」

    ミトの唇はあまりにも甘く、唇の隙間からもれるミトの声も脳髄に響き、アルウィンは全身が着火したようにカッと熱くなるのを感じる。何度も角度を変え、柔らかくて小さな唇を吸ったり食んだり舐めたりしているうちに、己の欲望が膨らんでいく。

「はぁ…ミト、俺以外の男に痕などつけられるとは…お前とずっとこの部屋で2人きりで過ごせたらどんなに良いものか」

    当初はお互い嫌悪しあっていたミトと王子の関係にも大きな変化があったのは明らかだった。王子がミトを気に入るのも時間の問題だとは思っていたが、まさか下半身が緩い彼が妃をミト1人にすると宣うほど入れ込むとは想像もしていなかったアルウィン。
    ミトの温かい頬を撫でながら、鼻先と鼻先を触れあわせながら眉間に力がこもる。この熱を、たとえこの国の第一王子だったとしても、他の誰だったとしても渡せない。渡したくない。

「ミト…俺にだけ愛されてくれ」

    他の誰かが自分と同じ感情を、視線をミトに向けていることすらも許せない。もっと早く自分の気持ちに気付けていれば、誰にもミトの魅力を知られないように対策していたのに。ミトに王子を上手く転がせなどと助言しなかったのに。
    アルウィンは己の過去の言動に後悔がやまず、それを誤魔化すようにミトの唇を堪能する。ピクリ、ミトの睫毛が揺れたような気がしても、アルウィンは口づけを止めなかった。むしろミトの意識を目覚めさせるように、どんどん深いキスを仕掛けていった。

***

    ふわふわと、気持ちのいい感覚の中にずっと浸っているように意識が揺蕩っていた。大好きな匂いがして、温かい熱に包まれていて、頭がほわほわとして、雲の上に乗っているような気分になる。
    次第に何かに優しく引っ張られるようにして意識が持ち上がっていく。この温かくて気持ちいい感触は何だろうと確かめるため、ゆっくりと目蓋を開いた。

「……ぇ」
「んちゅ、…はぁ、ミト……起きたか?」
「な、え、っ…?」
「悪いな、ミト。これはお仕置きだ」

    視界いっぱいにアルウィンのワインレッドの髪とシルバーの瞳が見える。自分の鼻先がアルウィンの鼻先に触れていて、唇にもなにかが触れている感触がある。
    俺は自分に都合のいい夢を見ているのだと思いながらふってきた口づけに、夢の中のキスでもファーストキスとしてカウントしても良いだろうかなんてバカなことを考えていた。

「ぁ…んぅ」
「ミトの口は小さいな…舌まで桃色で可愛い。もっと見たいから舌を出してくれ」
「ん」
「いい子だ」

    言われるがまま舌を出すと褒められて気分が上がる。そのまま俺の舌はアルウィンの口の中に入り、じゅるるるっと音を立てて吸われた。その瞬間ビリリと背筋に電流のような快感が流れ、肩が震える。アルウィンの舌が俺の舌と踊るように絡み付き、その生々しい感触にこれは本当に夢なのだろうかと頭が冴えてきた。

「ん、ミトの口の中も最高に美味だ。フッ…まさかこれは夢だと思っているか?夢ではなく現実だぞ。ほら、早く起きて俺に何をされているかしっかり見てくれ」
「へ…?」

    ずっとぽわぽわしていた視界と思考がスーッとクリアになっていく。これは夢なのではなく現実なのだと理解すると、一気に血の気が引いた。
    夢でなければなぜ俺はアルウィンにキスをされているのか。一体どうしてこんな状況になったのか。まさか酔って寝ぼけた俺がアルウィンを襲ってしまったんじゃないかと思い、肝が冷えた。

「な、なんで…俺、変なこと言ってアルウィンを困らせちゃった…?」
「俺ではなくまず自分を疑うのがミトらしいな。でも違うぞ。俺がミトを襲っている」
「えっ!?お、襲っ…」
「ミトの探知魔法の範囲内に人の気配がして迎えに行ったら殿下の肩にもたれるようにして酔って寝ていたミトがいてな。酒を飲むなと言ったのに飲んだお仕置きだ」
「それはごめん…でも何でキスなんて…」
「殿下にキスマークをつけられていただろう」

    酔った経緯を思い出したが王子にキスマークをつけられた記憶はなくて首を傾げる。確かにつけさせろとは言われたが、いろんな話をして忘れさせたと思ったのだが失敗したようだ。

「お、覚えてない…」
「どこまで覚えているんだ?」
「えーっと…どこだっけ。あ、そうだ。幸せな結婚について話してて、それで喉乾いたからお水を飲もうとして…それからどうなったんだっけ?」
「ミト……今後一切俺と2人きりの時以外でお酒を飲むのは禁止だ。1滴たりとも飲んではいけない。約束だ、分かったか?」
「わ、分かった!そういえば王子は?」
「ミトが酔い潰れたから連れ帰ってきた。明日の訓練を二日酔いで休むなどないようにと仰っていた」
「グラスに注ぐよう指示したのは王子なのに…」
「ミトがこんなに酒が弱いとは思っていなかったんだろう。魔力酔いの様子から相当酒にも弱いだろうなと見当をつけていたが、予想以上だった」
「お、俺も知らなかった…俺ってそんなに酒弱いんだ…」

    日本にいるときはほとんどお酒を飲む機会もなかったし、飲みたいという欲求がなかった。飲むとしてもチューハイくらいでそういえばいつも一口二口で寝ていた気がする。

「覚えていないときにこの痕はつけられたということだな。ならば責められる筋合いはないということだ」
「…何の話?」
「俺と殿下の話だから気にするな。だが覚えていなかったとしてもミトに俺以外の痕が残っていることが許せない。上書きさせてくれ」
「へ!?な、なにするの!?」
「キスまでして今朝はミトの恥ずかしい部分にも触れたんだ。もう少し触れてもいいか?」
「うぇ!?」

    やっぱりアルウィンの様子がおかしすぎる!俺に触れたいだなんてそんな甘い声で言われたら頷いてしまいそうになるが、彼には婚約者がいるのだ。今朝のはギリギリ性欲処理というか男同士の触れ合いの範囲内だったかもしれないが、これ以上の触れあいは倫理観的にアウトだ。

「だ、ダメ!アルウィンはまだリジーさんと婚約している身でしょ!裏切りになっちゃうよ!」    
「リジーのことを今言うな。必ず婚約は解消する」
「それでもダメ!そもそもなんで俺に触れようとするの!?欲求不満なの!?」
「……そうとも言うな」
「じ、自分で何とか発散して!俺はアルウィンに触れられると正常な判断が出来なくなっちゃうからもう触らないで!」

    断腸の思いでアルウィンの胸を押し退け、ベッドから転がるようにして落ちる。どうしてお仕置きや上書きと言いながらキスしたりそれ以上のことをしたがるのか分からないが、俺の護衛ばかりしていて女性と触れあっていないうちに本人も気付かないまま欲求不満状態なのかもしれない。
    リジーさんに会いに行ってほしくはないが、アルウィンのそういった欲求は俺が慰めるべきではない。好きな人に触れられてこれ以上俺の気持ちが欲張りになってしまっては、いつか離れなければいけないときに離れられなくなる。

「…分かった。すまない、ミト。もう許可無しに触れないからそんな目で俺を見ないでくれ」
「本当…?欲求不満になる気持ちは分かるけど自分で処理してくれる?」
「…あぁ。早くいろんな事を片付けると誓う」

    全然答えになっていない返答が返ってきたが、アルウィンは俺の嫌がることはしないという絶対的な信頼から、俺はホッと安堵のため息をもらした。アルウィンの股間が若干膨らんでいるように見えたのは、気のせいだと思うことにした。

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