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黒魔法と21年前の事件
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―――キィ、キィ。
またあの謎の音と共に謎の人物が夢の中に現れる。しかし今日は、ひどく目の前の彼が取り乱しているように見えた。
黒く長い髪が怒りに震えて逆立っているように見える。赤と青のオッドアイが吊り上げられ、美しい美貌が般若のような形相に変わっている。
それはあまりにも恐ろしい顔で、初めて見るような、見たことがあるようなものだった。
今すぐこの夢から抜け出したいと強く思うと、不思議とそれは叶うこととなった。今日は短かったなとホッと胸を撫で下ろしながら意識を沈めていった。
―――キィ、キィ。
***
とんでもない経験をしたようなしてないような、まだあれは夢だったんじゃないかと思いながらアルウィンとぎこちないおやすみの挨拶をして本格的な睡眠に入った次の日。
夢の中でさっきの続きを見たらどうしようと勝手に不安になっていたがそれは杞憂に終わり、気持ちのいい目覚めで朝を迎えた。
夢は見たような気がするが、今回は重だるさもなく、昨日はお酒を飲んでしまったみたいだが二日酔いになっている気配もなく、憎たらしいほどスッキリとした朝だった。
さすがに2日連続で同じベッドで眠ることもなく1人で眠れたことが快眠に繋がったのか、お酒を飲んだことで血行が良くなり安眠出来たのか、はたまたアルウィンと濃厚な接触をしたことが一因なのかは分からないが。
ベッドからおりてカーテンを全部開ける。空気の入れ換えのために窓も開けると、夏の朝の爽やかな風が顔に当たった。
この国は夏でも30度を越えることは滅多になく、空気がカラッとしていて湿気もない。日本の夏とは違いとても過ごしやすい夏だった。
青く澄んで絹のように光る空を眺めていると、ふと、この空には似合わない黒いものが目の前を横切っていった。
俺はまた妖術かと身構え、その黒い飛行物体を目で追う。やはりそれはどう見ても俺の知る蝙蝠と同じ形をしていて、目で追っていたはずなのにいつの間にかきれいサッパリ消えていた。
この底辺界には黒い生物はいないと聞いているが、俺はもう二度もこの目で黒い生物を目撃している。本当にいないのなら俺が見ていたものは何なのか、やはりいつの間にか消えたということは妖術の幻影なのか、妖術だとしたらどんな意味があるのか。謎が謎をよび、頭を唸らせているとアルウィンが隣の部屋からやってきた。
「おはよう。朝から難しい顔をしてどうした」
「アルウィンおはよ。いやー…ついさっき目の前を蝙蝠…黒い鳥のような生物が横切っていったんだ。見間違いではなかったよ」
「黒い生物を…?」
訝しむアルウィンが俺の横まで来て窓の外を探るように見渡す。もちろんすでに蝙蝠らしきものは消えているため、何もいやしない。
「妖怪の気配も妖術が使われた痕跡もないな」
「え、そうなの?分かるもんなの?」
「あぁ。妖術はかなり特殊な周波を放っているから使われてからしばらくはその場に妖術の気配が残る。俺も二度目の襲撃で気付いたがな」
「ってことは俺が見たものは妖術ではないってこと…?」
「そうなる。見間違えでないなら、本当に黒い生物がこの底辺界に新しく生まれたか、もしくは…可能性は極めて低いが闇魔法もしくは黒魔法を使える何者かが近くにいることになる」
「闇魔法はビンスカースの集団が使っていた魔法だよね?黒魔法っていうのは?」
「黒魔法は……この世界で魔界に住む魔界人にしか扱えないと言い伝えられている。底辺界では半ば幻の魔法のようなものとして言い伝えられているが、俺は黒魔法は実在すると思っている」
「闇魔法もしくは黒魔法っていうのはどういうこと?この2つなら黒い生物を産み出せるの?」
「いや、闇魔法はそんなことは出来ないはずだが黒魔法に一番近いと語られているんだ。黒魔法はいろんなものを黒く染められ、善のものも邪悪なものに変えてしまうという恐ろしい魔法だと書記には書かれている。俺の両親は……その黒魔法をかけられ邪悪な心に染まった隣人に殺されたんだ」
「え…」
突然の情報量に脳が追い付かない。今の話では話が矛盾しているように感じて頭を捻った。
「でも黒魔法は魔界人にしか使えないんでしょ?魔界人がわざわざ底辺界におりてきて黒魔法をかけたってことなの?」
「そこが今も分からないんだ。黒魔法をかけたのが本当に魔界人だったのか、それとも闇魔法を極めてかなり黒魔法に近いものを完成させたものをかけられたのか、もし魔界人の黒魔法だったのならその魔界人はどこに消えたのか……俺はずっとその謎を追っている」
「そう、なんだ…ビンスカースの連中は闇魔法を使っていたけど彼らの中にその犯人がいる可能性はない?」
「いや、ビンスカースの奴らの魔力量では黒魔法に近付けるほどのものは到底作れない。1人1人調べたがあいつらは違う」
「でもこの部屋に侵入出来るほどのヤツもいたんだよね?」
「あれは…」
そこでなぜか歯切れ悪く口を閉ざしたアルウィンを不思議に思う。考えたくはないが、何かを隠しているような雰囲気を感じ取ってしまい、俺は誤魔化すように声をあげた。
「とりあえず闇魔法は人間には使えるけど黒魔法は使えないってことは分かった!アルウィンのご両親が黒魔法のせいで亡くなったのだとしたら、黒魔法をかけたやつを必ず見つけ出して罰を与えないとね」
「…あぁ、そうだな」
「ちなみにどうして隣人が黒魔法をかけられていると分かったの?黒魔法はそれまでにも確認されていたってこと?」
「当時、突然隣人や親しい者に人々が殺害されるという事件が多発していたんだ。殺人者は元々善良な人々ばかりでどうして豹変し、殺人などという狂行に出たのか不明だった。犯人たちを捉えて魔力検査をしたところ、真っ黒な邪気が確認された。それによって言い伝えでしか知られていなかった黒魔法が存在するのではないかと言われるようになった」
「そんな事件が…それは何年前の話?」
「俺が5歳のときだから21年前だな。当時、国王様やデロリー宰相は身を粉にして働き、原因追求に奔走したと聞いている。しかし黒魔法らしきものを使った人物のしっぽすら掴めず、いつの間にか事件は終息し、今ではあれは黒魔法ではなくウイルス性の病気にかかった説が唱えられるようになっていた」
「あ、授業で20年ほど前に恐ろしい流行り病が蔓延したって習ったけどそれがこのことだったんだ…さらっと流されて終わったからこの国にも流行り病はあるんだなぁとしか思っていなかった。そんな重大な事件だったなんて…」
黒魔法についてもおじいちゃん先生の口からは聞いたことがなく、今日初めて知ったことだ。長年この王宮に務めているおじいちゃん先生が知らないはずがないから、意図的に俺には教えないようにしていたんだろうか。
もしくは元凶の人物を捕まえられなかったことを恥じ、国王もしくは宰相に教えるなと口止めをされていた可能性も大いにあるなと思った。
「黒魔法をかけられた殺人者たちはどうなったの?」
「全員、捕まってしばらくして発狂したのち、獄中で死んだと聞いている。しかも死体は炭となって消えたそうだ。だからこそそれ以上の調べが進まなかったとも言える」
「黒魔法をかけられた人も、黒魔法にかけられた人に狙われた人も死ぬなんて…胸糞悪すぎる」
「俺はずっと、21年前に黒魔法を使った人物を…もしくは魔界人を探している。この手で復讐するために」
握りしめた拳を見つめながら宣言するように呟いたアルウィンに何と声をかけたら良いのか分からない。俺はそっとアルウィンの拳の上に掌を重ね、包み込むようにして握りしめた。
「必ず見つけようね」
「ミトを俺の復讐に巻き込むわけにはいかない。その時が来たら復讐は俺1人でするから、ミトは応援だけしていてくれ」
「それは…足手まといになるかもしれないしそうさせてもらうけどさ。犯人を見つけるのは一緒に出来るでしょ?何年かかったとしても、必ず見つけよう」
「…ありがとう」
少しぎこちない笑みを小さく浮かべたアルウィンを見上げながら、俺は意識を空に向けた。もしまた黒い蝙蝠のようなものを見たら蝙蝠ではなく周囲に目を走らせてみようと決める。
黒魔法を使えるのは魔界人だけ。しかし闇魔法を極めると黒魔法に近くなるかもしれない。黒魔法は人の心を邪悪なものに変え、狂気の沙汰とも言える行動を引き起こす。
一体誰が、何を目的としてそんなことをしたのか、今もその人物は俺たちの近くに潜んでいるのか、俺が見た蝙蝠が本当に黒魔法によって姿形を変えられた鳥なのであれば何のために俺の周りを飛ばせているのか。
おぞましい何かがすぐ近くにいるような気がして、俺は夏だというのに寒気を感じてぶるりと背筋を震わせた。夏の空は、高かった。
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