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公爵家に招待される
しおりを挟むそれからまたしばらくは授業と魔力訓練の日々の中で徐々にだが俺の中に芽生えた魔力の量が増えてきているとライナス王子に指摘された。
王子とは宮殿に招待されたときになぜか首筋にキスマークをつけられてからというもの、やけに何度も王子の宮殿に招待しようとしてくる。そのたびにアルウィンが間に入って断るということを何度か繰り返していた。
アルウィンと王子が対面するとなぜか火花が散っているように見えるほど雰囲気がよろしくない。国のツートップの実力者が喧嘩でも始めたらただではすまないので、いつもヒヤヒヤとしながら見守ることしか出来ていない。
最近は妖怪村の監視も平和なようで、どうやらおじいちゃん先生による陰魔法の効果で簡単に妖怪村を出られないようにしているらしい。
難しい単語や専門用語を使って説明されたからどんな原理なのか全く分からなかったが、とりあえずおじいちゃん先生のおかげで俺の命を狙う妖怪からは守られている。
そして今日はエレノア様から公爵家での小さなお茶会に招待をされてこれから向かうところだ。パーティーほど畏まった場ではないが、高位貴族の邸宅にお呼ばれしたのだからそれなりに緊張はしている。
話を聞き付けたライナス王子ももちろん行くと言い張り、なぜか王子専用の馬車ではなく俺たちの馬車に3人乗って行く事になった。
そして現在、アルウィンと王子のどちらが俺の隣に座るかで絶賛揉めているところだ。
「僕の命令が聞けぬのか!僕はこの国の第一王子だぞ!」
「殿下は第一王子なのですから1人で広々と座って頂きたいのです。殿下を差し置いて私が1人で座るのは失礼に当たります」
「僕がそれで良いと言っているのだから良いだろう!」
「そうもいきません。本来、殿下には殿下専用の馬車に乗って頂きたいところを百歩譲って同乗させて頂くのですから、少しでも快適にお過ごし頂きたいのです」
「見え透いた嘘をつきやがって!この頑固者騎士めが!」
「もう、2人ともやめて!王子は王子様なんだから1人でふんぞり返って座ってなよ。俺の隣に座って足が当たっただの狭いだの言われても嫌だし」
「なっ!ぼ、僕がそんな心の狭いこと言うはずが…」
「今まで散々嫌味を言われてきましたけど?」
「…ッ、わ、分かった!よくよく考えれば正面に座る方がお前のちんちくりん顔がよく見えるしな!僕が1人で座る方が馬車も喜ぶだろう!」
「うんうんそうそう」
相変わらずこの暴君王子は余計な一言が多い。俺は頬を引きつらせながら無理やり笑顔を王子に向け、やっと出発できることにため息を吐く。向かう前から若干疲れてしまったが気を取り直して公爵家を目指した。
馬車の中でも出発前のやり取りが不服だったのか、王子は不機嫌そうにむすっとしているし、アルウィンも俺と2人きりの時とは異なり気軽には口を開かない。
俺が黙るとすぐに重苦しい沈黙が馬車内に流れてとっても気まずいため、俺はひたすら無意味な話をし続けた。沈黙よりはマシだったが、疲労感はさらに増した。
馬車に揺られて20分ほどで公爵家に到着すると、アルウィンが先に降りていつものように俺をエスコートして降ろしてくれる。それを見ていた王子がなぜかさらに不機嫌になっていて、今日はすこぶるご機嫌斜めだなと思いつつ、エレノア様に会えばそれも改善するだろうと特に気にしなかった。
公爵家の正門が開いた先にエレノア様が男の子と手を繋いでこちらに手を振って待っている。彼女の隣にはご主人の公爵らしき人物も穏やかな笑みを浮かべて佇んでいた。
「ライナス、ミトちゃん、アルウィン殿、ようこそいらっしゃいました。こちらが主人のウィンストン公爵、この子は息子のネッドです」
「姉上、本日はお招き頂きありがとうございます。ウィンストン公爵もお変わりなさそうで。ネッドも大きくなったではないか」
「…らいなしゅ王子、に、ねっど・う、うぃんしゅ、たんが、お挨拶いたしましゅ」
拙い発音ながらも一生懸命練習したのだろうなと分かるネッドくんに俺の目はハートマークになってしまった。さすがのライナス王子も可愛い甥っ子の挨拶に胸打たれたようでよく出来たと言わんばかりにネッドくんの頭を優しく撫でていた。
「エレノア様、今日はご招待頂けてとても嬉しいです!ネッドくんも初めまして!俺は異世界から来たミトって言います。黒髪黒目は見慣れないかもしれないけど怖くないから仲良くしてね」
「…みゅと?」
「ぐっ、かわいい…うん、みゅとでいいよ!」
「みゅと!ははうえ、みゅとほしい」
「え」
「あらあらまぁまぁ、さすが私の息子ですわね!ミトちゃんの可愛さにもう気付くなんて」
まだ5歳のネッドくんにもしっかりエレノア様とライナス王子との血の繋がりを感じて微笑ましかった心が少し背筋が震えた。
そんな妻と息子を嗜めたウィンストン公爵にも挨拶をすませ、俺たちは早速邸内へと案内される。ライナス王子がいるからか、使用人も総出でお出迎えで、ずらりと並ぶ使用人の数の多さにさすが公爵家だなと目を見張った。
公爵家の庭はとても広く、色鮮やかな花が植えられた花壇がいくつもある。それを横目に外廊下を進み、正面の大きな木製の扉が開かれる。まず中に赤い絨毯が敷き詰められた長い階段がでかでかとあり、階段を登った先にはエレノア様らしき肖像画が飾られていた。
邸内の造りや肖像画は、結婚式で公爵から御披露目されプレゼントされたことなどを嬉しそうに話しながらゆっくりと歩を進めるエレノア様に合わせて俺たちも着いていく。ウィンストン公爵は執務があるため、また帰り際に顔を出すと言って別れた。
廊下の至るところに花瓶にいけられた花やネッドくんや家族3人の絵などが飾られている。この家はとても幸せに溢れていることがよく分かった。
お茶会の場として案内されたのは花柄の壁にファンシーな可愛らしい家具が置かれた、外の花壇が綺麗に見えるお部屋だった。可愛いものが大好きなエレノア様好みのお部屋でザ女子という感じだが、なぜか落ち着く雰囲気もあった。
既にガラステーブルの上にはアフタヌーンティーのように三段のケーキスタンドに色とりどりなお菓子やスイーツが並べられている。ティーポットやカップ、ソーサーも花柄で統一されていてとてもメルヘンだった。
円形上の大きなガラステーブルを囲むようにして4人で座る。俺の両隣はアルウィンとライナス王子で、エレノア様が俺の真正面、ライナス王子とエレノア様の間にネッドくんという位置だった。
本来、アルウィンは騎士なので王族と共にテーブルを囲むのはマナー違反らしいが、今日は正式な場でもないし俺がエレノア様にお願いしたことで共に座ることを許してくれたのだ。
使用人がティーカップに紅茶を注いでくれるのが終わると、早速俺は美味しそうなケーキに手を伸ばした。
「あら、ミトちゃんはケーキから行きますのね」
「あ…すみません、アフタヌーンティーのマナーはよく分かっていないんですが失礼でしたか?」
「とんでもございませんわ。この場にマナーなどいりません。食べたいものを食べたい分だけ食べてくださいな」
「みゅともケーキしゅき?」
「うん、大好きだよ。ネッドくんも好き?」
「うん!うちのシェフのケーキ、じぇんぶ美味ちいよ!」
「ネッドくんのおすすめはある?」
「んーと…こりぇ!こりぇ一番美味ちい!」
「じゃあこれを貰ってもいい?」
「うん!」
「…お前、ネッドと顔の幼さがあまり変わらなくておもしろいな」
ネッドくんのあまりの可愛さにゆるみきっていた顔を王子にバカにされじとりと睨み付ける。童顔なのは自覚しているが、5歳児ほど幼いわけがないだろうと心の中で悪態をついた。
そんな俺たちをくすくすと笑うエレノア様は、ネッドくんのお皿にケーキを取り分け、ネッドくんは小さなフォークを使って上手に食べ始めていた。
「あなたたち、またさらに仲良くなりましたわね。とても良いことですわ!そうだ、ミトちゃん。ケーキを食べ終わったらミトちゃんに着て頂きたいお洋服がありますの。着てくれるかしら?」
「…それはどんなお洋服なんでしょうか?」
「ふふ、それは見てからのお楽しみですわ!ライナスもアルウィン殿も普段と違うミトちゃんを見て驚くでしょうけど、絶対に似合いますから楽しみにしててちょうだいね」
「……」
ふふふ、と鈴が転がるように笑うエレノア様の笑顔に背筋が寒くなる。すごく嫌な予感がする。俺の推測が正しいのだとしたら絶対に着たくない。全力で断りたい。
「ふん、このちんちくりん顔では何を着ても子供っぽいだろうが、姉上の手にかかればそれなりに見れるものになるであろうな」
「私も普段とは違うミト…様を見れるのは楽しみですね」
しかし掩護射撃のように2人が発言したことにより、強制的にエレノア様の人形にされることが決まってしまった。
せめて美味しいケーキをたらふく食べて腹を膨らませ、服が入らなければいいなと思いながらひたすらケーキを口の中に押し込んだ。そんな俺を見てネッドくんもたくさん頬にケーキを詰めていて、小リスのように可愛いかった。
押し込みすぎたケーキを紅茶と共に飲み込み、その苦さに少し驚いたが甘いものと飲むにはちょうどいいのかもなと思う。同じ紅茶を飲んでいるはずのネッドくんが涼しい顔をしてカップを傾けているのを、感心して見ていた。
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