【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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明かされる異世界召喚の真実

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***

    ライナスは、バスタードと渡り合っていた中、異変に気付きそちらに視線を向けた。バスタードも同じく、予定になかった異常事態が起こっていることを察し、自分の主人の元へと素早く動いた。
    ドロモアは、暴れる治癒師をかっさらうように腕に抱え、血まみれのアルウィンの元に向かっていた足が鈍くなった。
    ディラードは、憎き恋敵を殺した感触に満足していた笑みを、凍らせた。
    アルウィンは、青白い顔でピクリとも動けなかったが、意識はまだかすかに残っていた。自分では、ミトに大丈夫だと語りかけているつもりでいた。

    ミトの周辺を、不気味な畏怖が隙間なく取り囲む。アルウィンの名を必死に呼んでいたミトは電池が切れた玩具のように静かになり、動かなくなった。
    そのままだらりと手足から力が抜けた状態で、ゆっくりとミトの身体が浮遊する。彼は首や肩をがっくりと落とし、煙のように上へ上へとのぼっていく。
    ゆらゆらと彼の周りを銀灰色のオーラが漂い、禍々しい何かがミトの内側から溢れ出てくるのを、ディラードは息をのんで見ていた。

「ぬ、ヌエ…どうしたというのだ?レティシア!ヌエに何をした!」
「ふふふっ…あなたの愛するヌエは、どうやったって魔界になど帰れないのですよ。なぜなら――」

    女神レティシアは興奮した様子で恍惚な笑みを浮かべながら、今にも絶頂にのぼりつめそうな表情でミトの姿を瞬きもせずに追っていく。
    銀灰色のオーラがミトの胸の前に集中して球体になると、それは風船のように一気に膨らんでいく。ミトの姿を隠すようにして大きく大きく膨らんだ球体は。

「―――彼はもう、死んでいるから」

    バゴォォォン!!! 噴火のように、弾けた。

    凄まじい暴風がありとあらゆるものを襲う。王宮の外壁に亀裂が走り屋根が崩れる。花壇の煉瓦がいくつも飛び散り、花はその美しさが幻であったかのように散り散りになった。
    王宮を守っていた多くの騎士や魔導師が遠くに吹き飛ばされ、脚力が桁違いのドロモアでさえ数十メートル後退りしてしまうほどの勢いだった。
    即座に守備魔法を発動させられたライナス、ディラード、バスタードは無傷であったが、他の人々はそうもいかなかった。吹き飛ばされた煉瓦や外壁、屋根の瓦が降ってきて怪我をする者が続出していた。元々の嵐と雷に加え、山が噴火したようなものだった。

    そして弾けた銀灰色の光が落ち着き、その中から現れたのは。

「な、んだと……!?死神――…!?」

    ディラードは、唖然として愛する者の変わり果てた姿に白目を剥いた。これほどの衝撃は、膨大な刻を生きてきて、初めてのことだった。

「どうやってヌエを異世界召喚に乗じて異世界人として底辺界に落としたか、気にしてましたねぇ、ディラード。教えてあげましょう」

    魔界人の証である赤い瞳は真っ黒に変わり、白目がない。雪のように真っ白な肌は骸骨のよう。黒髪は何百年も伸ばし続けたように長く、全身を黒いローブが包んでいる。手に大鎌を持つその姿はまさしく、この世界には存在しない、伝説とされている死神だった。
    
    人々は、魔王を目にしたときよりも、ずっとずっと大きな身の凍る恐怖心に声も出なかった。その大鎌で声を切り取られてしまったかのように、誰もが目にしている光景を受け入れられず、震える息だけを吐いていた。

「この国の人々がずっと言っていた"異世界召喚の儀式"は、まったくの別物です。そもそもこの世界にはのです」

    女神レティシアは、ディラードのこの顔が見たかったのだと言わんばかりに、歓喜に昂った声でオペラ歌手のように流暢に言葉を紡いだ。

「この国の王と、私が殺した宰相、そして大神官に化けていた私の3人が行った儀式は異世界召喚などではありません」

    異世界召喚の本当の意味が、今、明かされる。


「あなた方が異世界召喚だと思っていたものは……死神を呼び覚ます―――…なのですよ」


    この世界に、真実が、追いついた。


***

    冥界召喚。それは、この世界で死んだ魂が逝く冥界に繋がる儀式。

    このピラミッド型の世界は、鏡となる冥界が逆三角形の形をして神界の上に存在している。
    魔界人以外は死ぬと全員冥界に逝き、再び生まれ変われる魂か一人一人審査される。審査が通れば魂レベルにあった界へと新たな命として落とされ、審査から落ちると魂を死神に喰われるのだ。

    そんな冥界を管理しているのが、死神である。

    死神は意思を持たず、ひたすら喰らうべき魂を喰らいつづけて冥界を支える存在だった。しかしそんな死神も永遠の命ではなく、ある一定の周期で代がわりしてきた。
    死神として選ばれるのは、前死神が燃え尽きた瞬間に冥界へとやってきた魂が最適とされ、死神になるのを拒否することは出来ない。こうして幾度も死神は受け継がれ、冥界は存在してきた。

    冥界は灰色の靄が充満した場所で、死神は常に一番低いところにいる。死神へと繋がる長い長い螺旋階段に冥界へとやってきた魂は順番に並び、審査を待つのだ。
    冥界で魂は意思をもって話したり魂同士で会話をすることは出来るが、記憶は残らない。しかしとある代の死神は愚神とされ、一つの魂が冥界の記憶を持ったまま人間界へと生み落とされた。

    そんな冥界の記憶を持つ男と当時の人間界で出会ったのが、女神レティシアである。

    彼女は魔界で魔王ディラードから屈辱的な扱いを受け、落とされた人間界で行き場のない憎悪と復讐心に取り付かれていた。そんな彼女は人間の美しい女へと姿を変え、ありとあらゆる男を弄び、自尊心を満たしていたとある日。
    誘っても靡かない珍しい一人の男の気を引くため、レティシアは魔界の話をおもしろおかしく話した。魔王にされたこと、監禁されている哀れな男のこと、どうやらその男は不思議な世界の記憶を持っていること、魔界から人間界に落とされ魔王をひどく憎んでいること。
    すべて真実であるが、もちろんこんな話を人間が信じるはずもないと思っていたからこそ、嘘をつくこともなくすらすらと淀みなく物語を語るように話した。

    この話をおもしろいと笑って自分に興味を持つだろうかと期待したが、そこで男は不思議な話をし始めた。それが自分は冥界の記憶を持っているというものであった。
    最初はレティシアも笑い飛ばした。冥界の存在など聞いたこともなく、死神といえば空想上の存在として知られているからだ。神界では神々の遊びとしてよく脅しの単語として死神は使われていた。

    しかし人間が空想するにはやけに筋が通った話だなと女神レティシアは思い直し、もし事実であるならばこれは復讐に使えるのではと考え始めた。
    死神がこの世界にやってきたらどうなるのかと男に尋ねれば、彼は「そりゃ大変なことになるだろうな。だが冥界に逝った瞬間の死神であれば、まだ冥界に染まりきっていないから分からねぇな。見てみたい気もするがな」とあっさりと答える。

    死神に染まると意思も理性もない化け物となり、ただただ旨そうな魂を選別し、喰らう存在。死神にとって甘美な魂は悪に染まった魂であり、それ以外の魂は興味もなさそうに生まれ変わりルートを進まされる。死神による審査とは、魂の味であった。

    レティシアは、そんな死神がこの世界に来たら、どうなるのだろうと強い好奇心がわいた。
    それからも冥界の記憶持ちの男と頻繁にあい、冥界で見たもの聞いたものをなるべくすべて詳細に語らせた。審査に通った生まれ変わりの魂がどうやってこの世界に落とされるかを聞くと、男はなにやら絵を書き始める。円の中に模様が描かれた絵を書き終えると、この円の中に魂が吸い込まれていくのだと男は言った。
    その絵を見て、レティシアはピンときた。これは冥界に繋がる魔法円のようなものではないかと。しかしもう1つ、男は別の絵を書き始め、終わるとこうも言った。「こっちは、死神の立っている下に描かれていた」と。
    さらにレティシアは閃く。この模様円こそ、前死神が燃え尽きた瞬間に死んだ魂が導かれる円なのではないかと。そしてそのまま新たな死神の位置に成り代わるのではないかと。

    死神が死ぬ周期はどれくらいだと男に聞けば、大体600年だと別の魂が噂しているのを聞いたという。獣人ほどの寿命しかないではないかと訝しんだが、どうやら死神が喰らえる魂に限度があるらしい。
    悪の魂を喰らい続け腹が満たされると燃え尽きるまでが約600年周期であり、もう少しで今の死神が燃え尽きる頃だという。

    レティシアはとんでもなく良いことを、そのときに思い付いた。
    魔王の一番大切な女王を冥界へと送り、死神の椅子に座らせたところで死神の下に描かれている紋様を人間界で描き、召喚の儀式を行えば女王は人間界へと現れるのではないか。
    それは突拍子もない、何の保証もない案であったが、これ以上にいい案はないように思えた。それからの行動は早かった。

    水の神としての神力はほとんどなくなっていたが、普通に生活する上での力はそれなりに残っていた。魅了魔法で次々と当時の神殿の人間たちを陥落させ、大神官の地位まであっという間に上り詰める。
    それまで信仰していた神は悪神だったと吹聴し、女神レティシアを信仰させるように仕向けると、祈りの間に当時の国王を入れ、自分の声を信託として聞かせた。異世界召喚をして異世界人を呼ばねば、この国に大きな災いが降りかかると。
    そして今から約600年前、女神レティシアは代々ペンドリック王国が聖魔法の結界を張ってきた、神聖な儀式が行われる場所で死神へと繋がる魔法円を描いた。これで人間界の準備は整った。

    問題は、ヌエをどうやって死なせるか、だった。今の死神が死ぬと同時にヌエに自分を殺させるしか方法はない。念のために仕込んでいた鏡でヌエと繋がれるが、どう言えば死へと誘導できるか思案した。
    魔界人は寿命が来るまで魔王の一声がなければ死ぬことはないとされている。魔王がヌエを殺すはずがないと分かっていたレティシアは、頭を悩ませた。
    そこで思い付いたのが、一時的に心臓を止め仮死化にするということだった。魔界人にとって劇薬となるのが、獣人の血である。
    女虎を誘拐してきたことで判明したことだが、獣人の血は魔界人の血の流れと心臓の動きを止め、体温を奪う。実際、女虎の血を舐めた魔界人が死んで生き返った話をレティシアは魔界で耳にして知っていた。
    一時的にすべての生体機能を失うため、死んだように見えるし実際に一度死んだと判定されるだろう。しかし獣人の血は時間が経つと魔界人の血と混ざり毒素が抜け、突如息を吹き返すのだ。

    レティシアは、仮死化状態のヌエが冥界に逝けるかどうか、賭けに出た。

    ヌエにはいつもそばにいる獣人の血を飲めば獣人と主従契約が成立し、獣人界に転移することが出来ると信じ込ませた。ヌエは獣人の血が魔界人にとって劇薬になることを知らされていなかったこともあり、ディラードから逃げたがっていたヌエの心の隙間に入り込むことは容易いことだった。
    あとはタイミングであった。レティシアは冥界の男から何度も話を聞き、その内容からおおよその日時を推測した。ヌエにはその日時に獣人の血を飲むように指示をした。

    そして約600年前、初めて冥界召喚の儀式が行われた。しかしレティシアは、ヌエを人間界へと召喚することに失敗した。タッチの差で現死神が燃え尽きる前に儀式が発動し、その死神が人間界に召喚されてしまったのである。


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