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Undeadman meets Vampiregirl

女たらし(自覚あり)

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 教会を出てギンと落ち合い、改めて青猫亭を目指して歩を進める途中。

「…………あ」

「うん?」

 俺が歩みを止め、先を歩いていたギンが振り向いて首を傾げた。

「そうだ、俺、朝帰りじゃん…」

「………あんらまぁ」

 顔から大量の冷や汗を流しながら呟く。
 俺の言葉の意味を察したギンは口に手を当てて目を細めた。

「レイラちゃんに殺される…」

 青猫亭に宿泊してるのに他所に泊まったなんて知れたら、レイラちゃんに取っては営業妨害以外の何ものでもない。
 ヤバい、状況が状況だったから完っ全に忘れてた…!
 こりゃ何か貢いで……って無一文だった俺ぇ!
 ………ここは俺のヒモスキルを全力で使うしか無い。

「………ギン、金貸してくれ。今度ロハで相手するから」

 天下の往来で躊躇いなくギンに土下座しました。

「………仕様のないねぇ。頭上げな」

 俺の醜態を見ていられなかったのか、ギンは呆れたようにため息をつき、胸の谷間に手を突っ込む。
 ………え、お前財布そんなトコに入れてんの?

「ほれ」

 豊満な谷間から財布を取り出し、金貨を数枚俺に手渡した。
 金貨て。お前ホントに金持ちな。

「ありがとうございますお姐様」

「心にもないこと言うんじゃないよ」

 俺の軽口にギンはピシャリと言い放ち、煙管に火を点ける。

「あの子はあんたにとって代えの効かない存在なんだ。おちゃらける暇があるなら、ちゃんと見ておやり」

「…………スマン、恩に着る」

 立ち上がり、改めて頭を下げた。






「………恩に着るついでに、プレゼント選びのアドバイスよろしく」

「………アホ」





 それから一時間後、『麦わら帽子の青猫亭』前。

「ふぅー!ふぅー!」

 フライパン片手に鼻息荒く暴れるレイラちゃん。

「どうどう、どうどう」

 それを後ろから羽交い絞めにして押さえるギン。

「………………謝ったじゃん、俺」

「うるさい!問答無用!」

 そして脳天にフライパンを叩きつけられて地面に沈む俺。
 うん、顔見た瞬間ボコられた。
 レイラちゃんのフライパンには勝てなかったよ…。
 いや、ティーン未満の子供でもない限り、誰が相手でも勝てやしないけどな。
 下手すりゃ野良猫に負ける自信があるぞ。

「一晩中娼館に入り浸るなんてバカじゃないの!?」

「だからごめんなさいってば…」

 再三謝り、俺は懐から紙包みを取り出してレイラちゃんに手渡した。

「…………何よこれ?」

「袖の下に御座います。どうぞお納め下さいませ」

 へへぇ、と改めて頭を下げる。
 胡乱げな目をしたままレイラちゃんは中身を取り出し、目を見開く。

「……これ」

「はは、レイラちゃんに似合うかと思って」

 中に入っていたのは、竪琴ハープを模したブローチだった。
 U字になった棹の部分は淡い光を放つ銀、弦は金に水晶の粉を振ってきらめいている。

「(選んだのはあたしだけどね)」

「(余計な事言うなっ!?)……さ、さあ、付けてみて」

「う、うん…」

 俺とギンがアイコンタクトで喧嘩する中、レイラちゃんがブローチを胸に留めた。
 スカートとシャツの上にカーディガンを羽織っただけの格好だが、胸のそれが強すぎず弱すぎず、いいアクセントになっている。
 ……うん、似合う似合う。

「ホントに今日はごめんねー。こんな事で許してくれるとは思ってないけどさ、それでも何かしたくて」

 先程までの謝意はどこへやら、俺は贈ったブローチがよく似合っている事が嬉しくてニコニコと笑い、レイラちゃんの頭を撫でる。

「………ありがと。これに免じて許してあげる」

「どういたしまして。んでこっちこそありがとう」

 前髪で目元は見えないが、照れた様子でレイラちゃんは俺を許してくれた。
 とりあえず、トドメは刺されずに済んだ。

「(…………よくもまあそんなに歯の浮くような台詞が出るねぇ。伊達に年食ってないってかい?)」

「(うるせぇババア)」

 アイコンタクトでの喧嘩はしばらく続いた。





 とりあえずレイラちゃんに許されたのでさっさと宿に入る。
 中に俺たちの喧騒が伝わっていたのか、宿泊客達は苦笑しながら俺に手を振っていた。

「お気の毒様だな、ビット」

「あー、もう慣れたよ」

 客の一人に茶化され、頭を掻きながら苦笑する。
 実際、あのお転婆さんは帰りが遅くなる度あんな感じだしな。

「あー腹減ったー。ジェエエェェイク。メシくれぇー」

「………わかったから、大人しく待ってろジィさん」

 長テーブルの一席に腰掛けて店主ジェイクに声を掛けると、赤髪に紫の目をした男が顔を出して素っ気ない返事をする。
 やれやれ、相変わらずの無愛想っぷりだねぇ。
 なんであんな男に今は亡きレイラちゃんの母親は惚れたんだか。
 …………本当に、なんで惚れたんだか。

「………ジィさん、その刺すような視線はやめてくれ」

「刺すような視線じゃない。視線で刺している」

 こう、目から見えない槍がぶすぶすと。
 ジェイクは居心地悪そうな顔で、その視線攻撃を背中に受けながら調理を続ける。
 こいつは俺に頭が上がらない。絶対にだ。
 なにせ物凄くデカい貸しがある。しかも一生かけても返すことの出来ない貸しだ。
 なので俺は宿代とメシ代を大幅に割引した金額でこの宿に居着いている。
 貸しのことを知らないレイラちゃんは不当な割引に不満そうだったが、ジェイクの言葉に渋々従っていた。

「お父さんを睨むなっ!」

「ぶっ!」

 スコーンと後頭部を殴られてテーブルに突っ伏す。
 このように俺がレイラちゃんに頭が上がらないので結果、ジェイク→レイラちゃん→俺→ジェイクという謎の三竦みが出来上がっているわけだが。

「いってぇ…」

「ふはっ、相変わらず仲の良いこったね。…ジェイク、あたしにも朝飯頼むよ」

「……あいよ」

 俺の隣に座ったギンが注文すると、背中越しでもジェイクがしかめっ面のシワを更に深めるのがわかった。
 ジェイクはギンにも頭が上がらない。
 俺とは別の理由で弱みを握られているからだ。
 具体的に言うと筆お…。

「ジィさん、勘弁してくれ」

「おっと、考えてることバレた?」

 自らの女性遍歴を明かされたくないのか、俺の愚考を被せ気味に遮ってきた。
 一応死んだカミさんに操を立ててんのね。
 いや、そんな事しても過去は変わらんが。

「あたしのところにジェイクを連れてきたのはあんただろうに」

「うんまあそうなんですけどねー」

 ビット・フェン、趣味は女遊ばれと暗躍です。
 長い事生きてるとこういうことばっかり上手くなってやんなるね。

「…………つーか、お前当たり前みたいに飯食ってくつもりみたいだけど、帰んなくていいのか?」

「構わんさ。娼館街の元締めって言っても、金勘定してるだけだしね」

 俺が問うと、さして気にしていない風にギンが答える。
 まあ実際に働いてるのは娼婦達だし、そういうもんか。
 そんな感じで無駄話に花を咲かせていると、レイラちゃんが俺たちの朝飯を持ってきてくれた。

「はい、モーニングセット、お待ちどおさま」

「おっほ、来た来た。レイラちゃん、ありがとう」

「久しぶりのジェイクの手料理だ、楽しみだねぇ」

 いい年こいた二人がヒャッハー、と歓声を上げる。
 白パンとスープは昨夜と変わらず、ふわふわのオムレツにソーセージが三本、野菜スティックにマヨネーズ。
 うん、美味そう。

「いっただきま~す」

「いただきます」

 同時に呟き、俺たちはスープを口に含む。
 美味い!





「わざわざ送ってくれて悪いな、ギン」

「構わんさ。言っただろ?後味が悪いって」

 食事に舌鼓を打った後。
 俺は宿の玄関前でギンを見送っていた。

「いや、正直助かった。ありがとう」

「ふはっ。じゃあ今度目一杯サービスしてもらおうかね」

 カラカラと笑いながらギンが茶化すように言った。
 おっと、これはプレッシャーだな。気合入れねぇと。

「じゃあね。楽しみに待ってるよ」

「おう。………っと、忘れるトコだった。ギン!」

 背を向け、歩き出したギンの後ろ姿を見て俺はそれを呼び止める。

「なんだい?まだ何か……おっと」

 振り向いたギンは俺の投げ渡した物を慌てて受け取る。
 怪訝な顔をしつつ渡された包みを開くと、目を見開いた。

「これは…」

「送ってもらった礼だ。お前の髪に似合うと思ってよ」

 漆塗りのべっ甲で出来た、蝶を模したかんざしを手に取ったギンにニヤリと笑って答えた。
 蝶の羽に小さな宝石をあしらっている落ち着いたデザインだが、ギンの黒髪にはよく映える。

「気に入ったか?」

「…………んっとに、この男は…」

 簪をきゅっと胸に抱きながらギンが呟く。

「惚れなおしたよ、ヒモジジィ」

「おう、今後ともよろしく、金づるババァ」

 赤い顔で笑うギンの皮肉に、俺はケラケラと笑って答えた。
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