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Funky Monkey Bloody
猿猫合戦
しおりを挟む山積みになっていた問題に更なる山を追加した結果になり、頭を抱えながら食堂に降りてきた俺達。
「…あ、戻ってきた」
「……何の話してたんだよ」
食堂では、嬢達穏健派組がサーミャ某の淹れた紅茶でティータイムに洒落こんでいた。
あらま、優雅ですこと。
トゥゼン坊っちゃんも見た目こそ粗野っぽいが、カップを傾ける所作は端々から高貴さがにじみ出ている。
トゥゼンが表舞台に出ることはほぼ無いとヘンリーは言っていたが、ちゃんとした貴族教育も受けていたようだ。
「いや何、ちょいと野暮用。あんたらは?」
「私達は情報交換を終えて少し休憩していたところよ」
「そいつは重畳。仲間内での情報の共有は大事だからな」
パンパンと柏手を打ちながら嬢の言葉に頷く。
「………」
……背後からキーシャの刺すような視線を感じるが無視した。
『貴様は情報を隠蔽しているだろう』という心の声をビンビン感じる。
情報は無闇矢鱈に切っても意味がねぇだろ。最も効果的な状況で切るからこそ活きるもんだ。
「ビットさん達もどう?サーミャのお茶」
「ん、いただくよ。キーシャはどうだ?」
「……ま、良いだろう」
誘いを無碍にするのも何なので、俺とキーシャもお茶会に加わることに。
「…おい、化け猫」
「なんだ?」
アルカ嬢の隣に掛けたキーシャへ、トゥゼンが三度突っかかった。
やれやれ、懲りないねぇ。
「これまでの経緯はアルカ達から聞いた。……一応、テメェが味方だって事にしといてやる。だが…妙な気は起こすんじゃねぇぞ?」
敵意自体は然程ではないが、明らかに邪険にした態度でトゥゼンはキーシャへ念を押す。
それをしばらく見ていたキーシャは。
「………くくっ、若いな。無理はするものではないぞ、少年?」
「っ!!」
その態度にぷっと吹き出し、頬杖を付いてニヤニヤとトゥゼンに視線を返した。
ああ、うん。ああやって背伸びしてる奴を見ると、誂いたくなるよなぁ。
「こ、の…!」
「トゥゼン」
「トゥゼン様」
「落ち着けと言いましたよね、お猿様?」
「う…」
嬢、サーミャ、ジャコに窘められ、トゥゼンは渋々引き下がる。
おいジャコ、明らかにトゥゼンに対して言葉が雑になってきてるぞ。もしかしてそれが素か。
「砂漠地方にて採れたニルギリに御座います。ご賞味下さい」
「お、あっちの方の茶は久々だなぁ。風味は強いけど、後味がすっきりしてて美味いんだよ」
「…詳しいな。…あ…美味い…確かに風味はしっかりしているが、くどくはないな」
キーシャがこの辺りじゃ珍しい茶の味に目を見開いた。
ふふん、飲み食いに関しては少しうるさいぜ?
しばらく懇親会を兼ねたティータイムを楽しんでいたが、そろそろ腹が減ってくる頃だ。
昼飯食ってから殆ど歩き通しだったからなぁ、今日のディナーはひとしおだろう。
「おーい、レイラちゃーん」
「何よ、不健全人間」
引っ張るねぇ、そのネタ。
「ひのふのみの…晩メシ6人前よろしく」
「はいはい。あんたのお菓子は?」
「もう焼いて冷やしてるから、食後でいい」
「わかったわ」と言ってレイラちゃんはジェイクの待つ厨房へ。
「ほう、ビット殿は菓子作りの心得が?」
「大抵の料理は一通りな。体力ねぇから量は作れねぇけど」
興味深げにサーミャが話しかけてきたので適当に返す。
あの熟練した紅茶の淹れ方を見ればわかるが、彼の料理に関する腕前は相当なものと見た。
バチッと、俺達の間で火花が散る。
「………家事歴1000年超えの俺を、越えられるかな?」
「ふふふ…胸をお借りするつもりで挑ませていただきます」
俺達は互いに不敵な笑みを向け合う。
いい好敵手になりそうだ。
「ここの店主のジェイクさんは、ビットさんに料理を教わったんですって」
「ジェイクさんの料理も美味でしたが、ビットさんのはそれ以上でした」
「性格は悪いが、料理の腕は評価してやってもいい」
「キーシャよ、お前俺を褒めてるの?それともけなしてるの?」
終いにゃ泣くぞ、オイ。
今日のディナーは予定通り、ブレードバッファローのステーキだった。
「…う、ウメェっ!」
「ほう…ビット殿のお弟子殿の実力、しかと堪能させていただきます」
一心不乱に肉を口に運ぶトゥゼンと、一口ずつ丁寧に切り分けてじっくり味わうサーミャ。
トゥゼンもサーミャもジェイクの料理を気に入ってくれたようで何よりである。
まあ、半端な料理を作らせる様な教育はしちゃいないからな、この位は出来て当然だ。
「うん、うまいうまい」
もっしゃもっしゃと俺も肉をむさぼり食う。
「リスか貴様は」
「うるへー。腹減ってたんらよ。……ごっくん」
そんな軽口の叩き合いも交えつつ、俺達はジェイクの料理に舌鼓を打った。
「……はー、食ったぁ食ったぁ」
「く…ふふ…ビットさん、お腹がすごい事になってるわよ?」
水風船みたいに膨らんだ腹を見て嬢が笑っている。
ははは、ブレードバッファローは中々市場に出回らんからな。今のうちに食いだめておくのさ。
…さて、腹も満たされた事だし、デザートの用意に取り掛かりますかね。
「……オイ、化け猫」
「…ん?なんだ?」
俺が厨房へ向かうために立ち上がると、またしてもトゥゼンがキーシャへ突っかかっていく。
「テメェ、いける口か?」
「………酒か。人並み、と言っておく」
どこから持ってきたのか、トゥゼンが酒瓶を取り出してキーシャを睨む。
「…っへへ。じゃあ飲み比べで勝負だ。どっちが上か分からせてやる」
「…………」
あらら、喧嘩すんなって釘刺されたもんだからそういうことしちゃう?
トゥゼンの意図はなんとなく読めた。
多分何かしらの勝負を持ちかけて、これから一緒にやっていく上でのアドバンテージを取りたいのだろう。
「………トゥゼン様」
「これだからお猿様は…」
「全くもう…」
嬢達はトゥゼンの行動に頭を抱えている。
そら呆れるわな。
「……まあ、良いだろう。レイラ、取り敢えず10本程酒を持ってきてくれ。度数は強めでな」
「…いいけど、お金は?」
「ビット・フェンから請求してくれ」
「オイ、ふざけんなお前」
俺がそう言うと、キーシャはしっしっと手を払い、さっさとケーキを仕上げに行けとジェスチャーする。
この馬鹿猫…。
「………程々にしろよ」
「それはトゥゼン・ウィノーヴ次第だな」
「テ、メ…!」
不敵な笑みを見せるキーシャの挑発に、トゥゼンは額に血管を浮かせて拳を握り込む。
あーあー、もう好きにしろ。
こうして、猿と猫の飲み比べ勝負が開戦した。
今回のデザートはフルーツをふんだんに使ったタルト。
さっくりとした生地とクリームの絶妙なバランスに頬を落とすが良い。
「……と、息巻いてはみたものの、食うのはアルカ嬢一人なんだよなぁ」
生地の器にホイップクリームを流しながら肩を竦める。
タルトと言っても器の大きさを小さめにした、所謂タルトレットだから女の子にも食べやすいはずだ。
男は物足りないと感じるだろうけどな。
クリームを流しこんだあとは、切ったり革を剥いたフルーツを乗っけて出来上がり。
生地を作るまでが少々面倒だが、それ以外は盛り付けるだけなのであんまり手間がかからんから良いな。
「よし…出来たぞー」
「待ってました」
タルトレットを盛った皿を両手に食堂に戻ってくると、アルカ嬢が文字通り垂涎の状態で両手を上げる。
女の子に対して失礼かも知れないが、お預けを食らった犬をイメージした。
「うぅ…美味しそう…」
「くふふ…いただきますっ」
指をくわえるジャコを横目に、嬢はタルトレットを躊躇いなく掴みとって口へ運ぶ。
…以前はバーガーにフォークをぶっ刺してたのに、すっかり下町料理に馴染んだな。
………あー…娘がこんなんなってるってキュリエ公爵サマにバレたら、タダじゃすまねーかも。
「んー!ひあわへー!」
「そりゃ良かった。………ジャコ、賭けに負けたっつっても、こんだけ量があるんだから、一つくらい食っても良いんじゃねーの?」
菓子を頬張って手足をバタつかせる嬢に苦笑しながら、俺はジャコにそう提案した。
「…………………………………いえ。勝負事に甘えは許されません!」
ものっそい悩んだ末、ジャコはそう答える。
意志が強いのね。どうでもいいけど。
「……失礼、アルカ様。後学のためにおひとつ頂いても?」
「んー…いいわよ?」
そんな中サーミャ某はちゃっかり相伴にあやかって俺のタルトレットを食ってるし。
「………」
「………」
で、向こうはまだ勝負を始めちゃいない、と。
トゥゼン坊っちゃんは腕を組んでキーシャを睨みつけ、キーシャは頬杖を付いたまま澄ました顔で酒が来るのを待っていた。
「お待ち遠様。同じものだと飽きるだろうから種類はまちまちだけど、10本持ってきたわよ」
「ん、ありがとう」
「へっ、待ちくたびれたぜ」
酒瓶と杯が二人の間に置かれ、レイラちゃんはそそくさと下がる。
「あ、レイラちゃん。俺にも酒。あいつらとおんなじのでいいや」
去り際にふと思いついたので注文すると、レイラちゃんは僅かに目を細めた。
「あんたも参加する気?」
「関係ねー俺が出たら無効試合になっちまうだろう。二人の飲み比べをツマミにするだけさ」
俺の返答に「呆れた野次馬根性ね」と肩を竦め、レイラちゃんは酒蔵に向かった。
「ルールは互いに一杯ずつ相手の杯に注いで、同時に飲む。半分飲んだら杯を交換してもう半分を飲み干す。それでいいな?」
「……良いだろう。勝負としては公平だ」
トゥゼンの提示したルールにキーシャは納得した。
……なる程な。同じ杯を半分ずつなら、条件は同じだ。
「…何故一杯を飲み干すんじゃないの?半分相手も飲むんだったら同じことじゃない」
タルトを齧りながら嬢がそう訊いてくる。
まぁ、飲み勝負なんてそうそうやらないだろうから、知らないのも無理も無いか。
「酒以外に混ぜものしないためのイカサマ防止だよ。自分の注いだ酒を半分相手も飲むんだから、水を混ぜたら一発でバレるだろ?」
同時に、毒を混ぜてもその毒入り酒を自分も半分飲まなければならなくなる。
猿だ短慮だと散々言われてるトゥゼンだが、中々頭は回るようだ。
ジャコの言葉を借りれば、猿知恵ってところか?
「へぇ…色々と考えてあるのね」
タルトに舌鼓を打ちながら嬢は感心している。
「はい、あんたの酒。結構強い……って、あんたには関係ないか」
「おう、ありがとさん」
酒瓶と杯を置いてレイラちゃんが去る。
「では」
「一献」
俺が手酌をしている間、二人は互いの杯に透明な液体を注いだ。
それを見てサーミャ某が立ち上がり、二人の間に立つ。
「では、僭越ながら私が審判を務めさせていただきます」
「よっ、待ってました!」
サーミャ某の進行に、客の誰かが茶々を飛ばした。
あら、いつの間にやら俺と同じ様に、野次馬根性で肴にしようとする奴がちらほら。
「これより、キーシャ殿、トゥゼン様の飲み勝負を開始いたします。………始めっ!」
サーミャが開始の合図に手を上げると、二人は同時に杯を半分煽った。
「……ちっ、何も混ぜちゃいなかったか」
「貴様もな。上手くイカサマすると踏んでいたが」
酒の残った杯を相手に渡しながら軽く舌戦を交え、杯の中身を飲み干す。
「……いい酒だ。悪くない」
「はんっ、いつまで酒を味わう余裕が保てるかねぇ?」
音を立てながら杯を置くと、周囲から歓声が上がった。
「よっ!ネコちゃんいい飲みっぷりだ!」
「金髪のアンちゃんも中々だぜ!」
やんややんやと囃し立てられながら、二人は再び杯に酒を注ぐ。
「ほー、二人共中々…」
俺はそれをツマミにくいくいと酒を飲んでいた。
…うわっ、これ蒸留酒じゃん。美味いけど、結構度数強いぞ。
俺はともかくとして、キーシャもトゥゼンも一杯とは言えストレートでこれを飲んでケロリとしているなら、二人共相当なザルだな。
これは中々先の見えない勝負になってきた。
さぁ、面白くなってきたねぇ。
10杯目。
同じ種類の2瓶が空になったので、別の酒を開けて勝負を続ける。
俺の瓶も空いたので追加注文したところ、炭酸を抜いて濾過した穀物系の醸造酒だ。結構な辛口でアルコールも強いがイケる。
「……ふむ、深みがあるな。美味い」
「はーっ、こりゃいいや」
お、まだまだイケるって顔。
白熱した戦いに酒が進む進む。
20杯目。
再び2瓶飲み干した二人はまだかなりの余力を残している様だ。
今度の酒はリンゴが丸ごと入ったブランデー。上品な香りが鼻をくすぐる。
「……ふぅ。どうした、少し顔が赤いぞ?」
「……ぷはっ。何言ってやがる、まだまだこれからだろうが」
頬に少し赤みが差しつつも、二人は余裕を崩していない様に周囲は更に盛り上がった。
こいつは酒が更に美味くなる。
30杯目。
あれから3瓶空いた。
比較的小さめの杯だが、やはり二人で飲むと減りが早いな。
続いてはスタンダードなラム酒。今日のタルトの香り付けにも使った。
「……あー…美味い…」
「ははぁ…まーだまだ…」
流石に30杯ともなると結構酔いが回ってきたらしいな。
それでもペースが落ちていないのは十分感嘆に値するけど。
俺は更に熱を上げる勝負にグイグイ杯を煽った。
40杯目。
「ふぅー…まらのむのかー?」
「はぁー…ぎ、ぎぶあっぷしても…いいんらえ?」
流石に9本も飲めば相当ベロベロだな。
二人の顔は火が点いたかのように赤く染まり、まともに呂律も回っていない。
今まで軒並み強い酒ばっかりだったし、しかたねーか。
10本目の酒は………。
「………!やば、全員火気厳禁!」
俺はレイラちゃんが持ってきた瓶のラベルを見て慌てて叫んだ。
蒸留回数脅威の70回以上、アルコール度数95%超え、俺が以前キーシャを治療した時にも消毒薬代わりに使用したもの。
…………最強の蒸留酒のお出ましだ。
「………へっ…ここれ、トドメをさしてやらぁ」
「ふっ……くく…返り討ちにしてくれる…」
おいおい、息巻いちゃいるが、泥酔した状態で、ストレートでこんなん飲んだら死ぬぞ。
俺の懸念など知ったこっちゃない二人は酒を注ぎ、ごくりと一度唾を飲む。
「……いざ」
「……勝負!」
そして互いに半分を煽った。
「…………」
「…………」
お互い無言で杯を交換、そして。
「………んっ!」
「……もう…ダメだ…!」
その杯をキーシャは気合いで飲み干し、トゥゼンは杯を取り落としてテーブルに突っ伏した。
「………くっ…はぁぁぁぁ~~~~…!」
「うおぉぉぉぉぉっ!!!」
勝者であるキーシャは杯を掲げ、野次馬連中のテンションが最高潮に達する。
あぁ、面白かった。
俺は残っていた酒を一気に飲み干す。
「………ねぇ、ビットさん」
「うん?」
タルトを食べ終え、勝負の行方に手に汗を握っていたアルカ嬢に怖ず怖ずと声を掛けられた。
「えっと…そのお酒、何本目?」
「あー?………げ」
嬢の指差した先。
そこには二人が飲んだ量を遥かに越える本数の空瓶が綺麗に並んでいた。
どうやら二人の飲み比べに熱中しすぎて、気付かない内に相当飲んでいた様だ。
最初の蒸留酒が7本、醸造酒が6本、ブランデーが8本、ラム酒13本。
そして今開けたスピリタス。
「……35本目、だな」
「…………」
飲んだ量を聞いてアルカ嬢が絶句している。
イカンなぁ、他に興味が移るとすぐこれだ。
俺は基本的に泥酔しない。
正確には、不死人としての性質を持ったこの体が、アルコールの毒素を非致死レベルまですぐに分解してしまうので、ほろ酔い程度にしか酩酊しないのだ。
なので水や茶みたいにすいすいと飲めてしまう。
人間だった頃みたいに、二日酔いに悩まされないのは嬉しいがな。
「もしかして、ビットさんが飲み比べに参加しなかった理由って…」
「そ。俺が一人勝ちしちまうから、勝負にならねぇんだわ」
杯に酒を注ぎながらケラケラと笑う。
いやぁ、参った参った。
「はー…ねむい…」
「……んがぁぁぁぁぁ」
勝負が終わって気が抜けたか、それとも一気に酔いが回ったか、うつらうつらと船を漕ぐキーシャと、既に酔い潰れて爆睡しているトゥゼン。
それを横目に苦笑しながら、俺はスピリタスの入った杯を再び飲み干した。
飲み比べでどんちゃん騒ぎした翌朝。
『うぶ…おうぇぇぇぇぇ…』
『うっ…オロロロロロロ…』
朝イチに部屋を飛び出した猿と猫が真っ青な顔でトイレに駆け込んだのは自業自得だと言っておく。
「あんだけ強い酒かっぱかっぱ飲んでりゃそうなるに決まってんだろうに。アホだな」
「相変わらずオツム空っぽです」
トイレの前で水の入った瓶を手に、俺とジャコが肩を竦める。
『げほっ…こ、これで勝ったと思うなよ…次は…うっぷ…おぶぇぇぇぇぇ…』
『こほ…な、何度でも来るがいい…返り討ちに……おぼろろろ…』
「吐きながら言っても説得力ねぇよ」
ドアの隙間からキーシャに水を差し入れてやると、ドアの向こうで必死に水を飲み下す音が聞こえてくる。
ジャコも同様にトゥゼンへ水をくれてやったようだ。
全くよ、酒ってのは自分が飲める適量を、楽しく嗜むもんだぜ?
あいつらはそれを解っちゃいない。
「ビットさん、呆れてるみたいですけど、昨夜は見物に熱中してましたよね?」
「あ、バレてた?」
自分を棚に上げていた俺を、ジャコがじとりとした目で睨みつける。
いやぁ、他人の勝負事ってのは傍目から見ると楽しくってさぁ。
『き…きぼぢわるい…』
『しぬ…』
「………あんだけ強い酒を、あんな量飲んでりゃ、普通死んでるぞ。吸血種で良かったな」
『×☆○××…』
皮肉を交えつつ言ってやると、言語にならない恨み言が聞こえてきた。
何度でも言ってやる、自業自得だと。
とは言え、いつまでもこいつらがゲーゲーゲロゲロカエルになってるのもどうかと思うので、一応助け舟は出してやる。
「ジャコ、ちょいとばかしお使い頼めるか?」
「……あの、見た目はこんなですが、一応19歳です、私」
子供扱いに不満があったのか、カボチャ頭を震わせながら、語気を強めにそう返された。
ああ、そうだったの。ごめんね。
だから血晶魔法ブラッドアーツでナイフを多数作って構えないで…ってぎゃああああ!!!
ジャコに何を頼んだのかというと、ひとっ走り娼館街へと向かってもらった。
言わずもがな、ギンに相談するためだ。
あいつは大抵の事は大概こなせる天才様だ。
以前のように医者の真似事なんかもお手の物。
今回はアホ二人が二日酔いでダウンしてしまったので、その治療を頼む事にした。
「………酒40杯で酔い潰れるなんて、なっさけないねぇ」
「うるせぇ…誰だあんた…」
「くぅ…言い返せない…」
食堂のテーブルに突っ伏してグロッキーな二人を見て、ギンは呆れて笑いながらゴリゴリと薬草をすり潰している。
因みにギンは超がつく酒豪。こいつらの三倍飲んでも平然としていたのを覚えている。
………お前、常人種だよな?
「…そら、出来たよ」
数種類の薬草をすり潰し、それを薬鍋で煮込んだ汁をよそって二人に渡す。
………色は毒々しい紫色、コポコポと気泡が浮いていた。
………薬、だよな?
「……ど、毒か…!?」
「アホ、あたしが作った薬にケチつけんのかい?二日酔いにゃそれが一番さね」
煎じ薬を見たトゥゼンは怖気づいている。
うん。分かる。その気持ちすっげー分かる。二日酔いしない体質で本当に良かった。
「……が、害は無いんだな?」
「当然さね。いいからさっさと飲みな」
念を押すキーシャに呆れながらギンは苛立たしげにそう言った。
二人共おっかなびっくり器に口を付け、昨夜の飲み比べを髣髴とさせるいい飲みっぷりで一気に薬を煽った。
「………………まっず!」
そのままバタンとテーブルに突っ伏す。
………死んだ?ねぇ死んだ?
結論から言う。死んでなかった。
ただギンの薬の破壊的な不味さに気絶しただけだった。
………服薬治療を必要としない不死人で本当に良かった。
「悪いな、こんな事で呼び出して」
「構いやしないさ。元々あたしは隠居の身だからねぇ」
「それに」とギンは一拍置いて言葉を続ける。
「昨日、お嬢ちゃん達の言う、排斥派とやらと思しき情報を掴んだから丁度よかったよ」
「マジで?」
「まじで。しかも話自体はここ一ヶ月の間に流れたらしいよ」
そうギンは頷いて煙管を一飲。
思ったよりも早いな。
……今の時代、情報の流れは昔と比べて大分遅い。
にもかかわらず、その情報を掴むのが早かったということは…。
「思ったよりも近くか」
「ん。場所は山の向こう、港町マイロだよ。………なんでも、吸血種の海賊同士が小競り合いをしているらしいね」
応援ありがとうございます!
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