23 / 23
Funky Monkey Bloody
いざマイロへ
しおりを挟む
「吸血種の海賊?」
「ああ。そいつらが排斥派かも知れねぇって情報」
二日酔いでグロッキーな猿と猫をそれぞれの部屋のベッドに放り込んでおき、アルカ嬢、ジャコ、サーミャ某を俺の部屋に連れて来た。
ギンの放った私兵の報告により、排斥派と思しき連中が山ひとつ越えた港町、マイロに潜伏しているらしい事が分かった。
ギンの持ってきた報告書に目を通したが、元々マイロを拠点にした、義賊的な吸血種の海賊が居たのだが、最近になって別の海賊船が停泊するようになり、2つの海賊団が小競り合いを繰り広げるようになってマイロの住人は対応に困っているそうだ。
海賊は時折陸に上がって人間を数人攫っており、攫われた人間は翌日血を抜かれた状態で見つかっている。
しかし、見つかった状態に明確な違いがあり、元からいた方に攫われた場合は軽い貧血程度で済んでいるが、新参者に攫われた人間はカラカラに乾いたミイラの状態で見つかるとのこと。
要するに吸血種同士の戦争状態である。
新参者の海賊とは恐らく、アルカ嬢達みたいに、常人種との共存を選んだであろう義賊を排除しようと画策する排斥派の刺客だと、この情報から予想できる。
………拙いな、こりゃ。
「下手すりゃ、街一つ地図から消えるかも知れんぞ」
「なっ…」
俺の物騒な発言にアルカ嬢は表情を歪ませる。
「……確かに、可能性としては高いですな」
「サーミャ某は分かるか」
「これでも元文官ですからな」とサーミャは頷いた。
「…どういうこと?」
「アルカ様は血を飲むのを忌避なさっているので自覚はありませんでしょうが、吸血種は血を飲むことで本来の力を発揮できるようになります。ただでさえ常人種より遥かに強いその吸血種が2つの陣営に分かれて徒党を組み、戦っている。即ち…」
「戦いが長引けば長引くほど、加速度的に街の人間は血を吸われて死んでいく。人が消えれば街が機能しなくなるのは道理だ。元々居た義賊とやらがいくら調整しようが、新参連中はお構い無しにミイラにしてたんじゃ、焼け石に水にしかならんだろ」
俺とサーミャ某は全く同じ見解で頷き合う。
そしてこのまま戦いが続くなら、マイロの住人は確実に吸血種という人間に恐怖と拒絶を抱く。
排斥派の狙いはそれだ。
恐らく街から逃げ出す人間は必ず出てくるし奴らはそれを敢えて見逃す。街から逃げた理由を移った場所へ吹聴させるために。
常人種に『吸血種は常人種では到底敵わないバケモノ』という根源的な恐怖を植え付け、吸血種という存在を絶対的なものとするための見せしめに。
……元々俺にゃ関係ない話ではあるが、知っちまった手前、そしてアルカ嬢達穏健派に加担した手前放っとくのも忍びない。
「さーて、準備に取り掛かりますか」
「…ビットさん?」
よっこらせっと立ち上がり、俺が部屋を出ようとすると、アルカ嬢が慌てて呼び止めた。
「どこに行くの?」
「ちょいとばかし、根回しに」
首を傾げるアルカ嬢を横目に、俺は宿を出た。
……まずは、あそこか。
「……冒険者を寄越せだぁ?」
俺が最初に訪れたのは冒険者ギルド。
俺の依頼にカウンターに座っている、支部長のゲルドは怪訝な顔でそう口に出した。
「おう、ちっとばかし血生臭い依頼なんだけど、頼めるか?」
「…旦那が血生臭いって言うなら、相当だな」
禿頭を撫でつけながら、ゲルドは難しい顔で悩んでいる。
基本的に冒険者達の意思を尊重しているギルドだが、わざわざ死地に送り出す程非道ではないという事だろう。
「旦那、取り敢えず話だけでも聞かせてくれるか?」
「あー…話、な」
ゲルドの質問に俺は若干口ごもった。
流石に吸血種同士の戦争に介入すると大っぴらに話すのはマズい。
それに、穏健派の存在はまだガルサで明るみに出すのも少々早計な気もする。
「場所を移そう。出来れば外部に漏らしたくない話だ」
「……そうかい。じゃあ執務室で話すのがいいか」
ゲルドの案内で、俺達はゲルドの執務室に場所を移す。
「ここなら盗み聞きする奴は居ないだろう。さぁ旦那、その血生臭い依頼の詳細を聞かせてくれ」
「ああ。……実は、マイロで吸血種の海賊が争っているらしい。んで、俺はその戦争に介入せにゃならん」
「………成る程。確かにそれは大っぴらに話しちゃマズいな」
流石ゲルド、触りを話しただけで俺の言いたいことを察してくれたらしい。
単純な戦力として冒険者を使いたい。
今の話を要約するとそういうことだ。
「だが、基本的に魔物と戦う事が専門の冒険者に、傭兵の真似事をさせるのはなぁ…」
「いや、お前の懸念も尤もだが、俺達は別に戦争そのものに参加するつもりは全くねぇ。必要なのは、マイロまでの護衛程度のもんさ」
ガルサからマイロまでの山ひとつ越える道中で、山賊なり魔物なりと遭遇する可能性を鑑みて、戦力が多いに越したことはない。
それと、マイロで争っている海賊のどちらかに接触した場合、十中八九戦闘になる。
嬢達吸血種は自衛が出来ても、俺が人質になっちゃあんまり意味が無い。
蛇共やキーシャとの戦いがそのいい例だ。
だから、嬢達以外に俺個人を護衛出来る誰かが必要なのだ。
「……俺達?まさか、あの銀ランクのアネさんや新人の二人も関わってんのか?」
「…あ、しまった」
口を滑らせてしまった事に、俺は思わず口を手で覆う。
俺としたことが、少々油断していた。
吸血種同士の戦争に介入するということをゲルドが、先日冒険者となったアルカ嬢や、銀ランク冒険者のキーシャと関連付けるのは当然だった。
………いや、まあ、いずれは話すつもりだったんだが、ここで前倒ししちまっても問題ねぇか?
「………ゲルド、今から話す事は絶対に外部に漏らすな。でなきゃお前が消されるぞ」
「………分かった」
俺が真面目な顔で話を切り出すと、ゲルドも神妙な面持ちで頷く。
俺は、吸血種が常人種との融和と決裂で2つの組織に割れていること、アルカ嬢が穏健派を率いている事、キーシャが嬢を狙う刺客として敵対していた事などを、嬢がキュリエ家の人間だと伏せた上でゲルドに話した。
「……成る程な」
「因みにこの話はヘンリーやギンも知ってる。海賊の話もギンに調べてもらったから確かだと思う」
「………ギンバァか…」
ギンの名前を口に出したら、ゲルドが遠い目をして窓の外を眺める。
ああ、お前もジェイクと同じであいつに頭が上がらなかったな、筆お…。
「旦那、勘弁してくれ」
だから何故お前らは俺の愚考を読み取れる。
「…………分かった。旦那の依頼は引き受ける」
「おっ、ありがとさん」
熟考の末、ゲルドは重々しくも頷いてくれた。
「ただし」
「あん?なんだよ。報酬には糸目を付けるつもりはねぇぞ」
最近仕事してたから、まとまった金が手元にあるし。
俺がそう答えると、ゲルドは「カネの話じゃなくて」と言葉を続ける。
「今回の依頼は、他の冒険者じゃなくて、俺が出る」
「……はぁ?」
「もし旦那がマイロに行ったきり帰ってこねぇって事になったら、俺がギンバァやジェイクやヘンリーに殺される。あんたはそのくらいみんなに貸しを作ってるんだよ」
「正直いうと、行かせないのが一番なんだろうけど、旦那は一度決めたら折れねぇからな」とゲルドは頭を振った。
…………。
「相っ変わらず、貧乏くじ引くのが大好きだな、お前」
昔からコイツは、自分が損する選択しかしない。
そういうとこ、嫌いじゃないけどな。
「大抵はあんたが引かせてるんだろ!?」
俺がゲラゲラ笑うと、ゲルドは呆れながらそう叫んだ。
続いて俺はゲルドを引き連れて、領主館へやってきた。
言わずもがな、ヘンリーにもマイロの実情を話しておく為だ。
「いやぁん、お姉様に先を越されちゃったわぁ」
「しかたねーよ。動いてもらったのはギンのほうが先だ」
しょんぼりしている筋肉モリモリのオ便所蟋蟀にそう言葉をかけてやる。
それに、お前に諜報活動での情報収集は期待してねぇし。
こいつに調べて欲しいのは、貴族界で流れている吸血種の情報。ギンが裏で流れている黒い噂なら、コイツは政治的な部分に食い込んでいる排斥派を洗って欲しいという意図がある。
排斥派が生まれてどれ位経っているか知らないが、今まで世間に知れ渡っていないのなら、恐らく貴族が後ろ盾になっている可能性が高い。
ヘンリーにはその辺りが適任だ。逆に言えば、貴族であるヘンリーにしか出来ない仕事である。
「それで、あたくしは今回何をすればいいのかしらぁ?」
「ああ、比較的近場とは言え、ここからマイロまで結構な距離がある。移動手段を貸して欲しくてな」
こいつ金持ちだし、馬車やライドディノの竜車なんかも数台持ってる。
その中の一つを融通してもらうためにこいつを尋ねたのだ。
「勿論良いわよぉ。丈夫で大人しい竜車を貸してあげるわぁ」
「サンキュ、助かる」
俺が礼を言うと、「どういたしまして~」とヘンリーは言ってゲルドに向き直る。
「ゲルド、ビットお姉様に何かあったら、承知しないわよ」
「分かってるよ。お前に言われるまでもねぇ」
二人は互いに拳を突き出し、ガツンと突き合わせた。
嘗てはジェイクとチームを組んでいた二人だ。その絆は深いのだろう。
………ゲルドの名誉のために言っておくと決して薔薇な関係ではない。
「旦那、俺にそっちのケはねぇよ」
「お姉様、ゲルドは友達よ」
だから何故心を読める。
根回しが完了し、俺は一旦宿へ戻った。
用意が出来たと言っても、移動手段と戦力の確保だけ。
竜車を引くライドディノのエサ代や食料の確保なんかも出来るだけ整えねば。
「つーわけでジェイク。保存食の用意頼むわ」
「………唐突だな。急な用事か?」
「まぁそんなとこ。材料費はこっちで持つから心配すんな」
「…あいよ。ジィさん達の部屋はそのままにしておく」
ジェイクはコクリと頷いてそう言ってくれた。
ちゃんと戻ってくる意思も察してくれたらしい。
「お父さん、部屋を私物化させちゃ…」
「いい。ジィさん達は常客だ。いつまで掛かろうが、ちゃんとうちに帰ってくる」
「………」
部屋の分だけ客を受け入れられなくなるとレイラちゃんが不満そうだが、ジェイクは有無を言わせない面持ちで黙殺した。
それに申し訳なく思いながら、俺はレイラちゃんの頭に手を伸ばす。
「ごめんな、ちゃんと居ない間の部屋代も払うから、勘弁してくれ」
「………なんでコイツばっかり、特別扱いなのよ」
不満気にレイラちゃんは厨房から出て行った。
………本当に、ごめんな。
「保存食は干し肉と塩漬け野菜で良いか?」
「ああ。あとは乾パンと水、調味料も頼む」
「あいよ」
俺の注文にジェイクは二つ返事で準備に取り掛かる。
保存食の用意が出来るまでは、しばらくゆっくり出来そうだ。
「という訳で、出発は3日後だ。一応俺も路銀は用意しとくが、それぞれでちゃんと管理するように」
「……………」
「ははは、仕事が早いですな、ビット殿」
俺の話を聞いた嬢とジャコは唖然とし、サーミャ某はパチパチと拍手する。
はっはっはっ、このくらいどうって事ぁありゃしねぇよ。
「………ビットさん、本当に一体何者なの?ギンさんに何度も協力してもらったり、ゲルドさんを引っ張ってきたり、ヘレンさんから竜車を借りられたり…」
「何者と問われてもそんな大層な人間じゃねぇさ。ただ単にツテだけは持ってる、永く生きてるだけのジジィだよ」
皮肉っぽく口元を釣り上げて肩を竦める。
「俺なんぞの事より、坊っちゃんやキーシャにこの事を教えて、準備させといてくれ。俺はギンの所に行ってくる」
「……また出かけるんだ。どこに行くの?」
「カネはあるだけ困らねぇ。ちょいとばかし融通してもらってくる」
「そう。いってらっしゃい」
ぶらぶらと手を挙げて上着を羽織ると、背後でアルカ嬢はそんな事を言った。
……いってらっしゃい、ね。
「行ってきますよっと」
俺の口からその言葉が自然に出た。
「…………………」
「………睨むなよ。もう決めたことだ」
俺がギンの屋敷を訪ね、しばらくガルサを留守にすることを伝えると、ギンは無言で俺を睨みつけてきた。
「………あんたが居ないと、あの娘らの商売に支障が出るんだよ」
「そうは言ってもなぁ…」
頭を抱えるギンに俺は苦笑を返す。
俺が長期間仕事をしないと、娼婦たちのモチベーションがダダ下がりになるので、ギンとしては如何ともし難いというのは解らんでもない。
「一応、昔拉致られた時に、対策は打っただろう?」
「………幾ら小僧共を教育しても、あんたの腕には遠く及ばんさね」
「その場凌ぎがいい所だよ」と頭を振る。
ギンは昔俺が奴隷商に拉致られ、娼婦たちが仕事にならなかった時を教訓に、雑用係として囲っていた娼婦の息子達に俺の技を仕込む事を考えた。
娼婦が産んだ父親が不明な子供ばかりで、大人になった現在もギンの私兵として色々と頑張っている。
俺も割と真剣に手管を教えちゃいるのだが、百戦錬磨の娼婦たちを完全に満足させることは難しいというのが現状だ。
だが、ギンの言う通り、一時しのぎにはなるだろうし、俺もそうそう長い間ガルサを空けるつもりは無い。
「頼むわ。分かってくれ」
「………あのお嬢ちゃんは、あんたにそうさせる程なのかい?」
ギンの問いに、俺ははっきりと首肯する。
今あの娘を見捨てたら、俺の呪いを解く手段は永遠に失われる。
このまま見過ごすなんざ出来るか。
「………本当に、あんたは折れないねぇ」
「悪いな。年寄りは頭がかてぇんだ」
「あたしに言う台詞じゃないだろう」とギンは苦笑した。
俺も口端を釣り上げる。
すると、ギンはおもむろに立ち上がり俺の二の腕をがっちりと掴んだ。
「それじゃ、ちゃんと仕事はしてもらおうかね」
「あん?」
何故か嫌な予感を感じながら、俺はギンの顔を見上げる。
「あんたが出てくまでの間、あたしを満足させてもらおうか」
「ちょっ!?」
その言葉を聞いた瞬間、全身に寒気が走った。
逃げようとしたが、俺の腕を掴むギンの手は微動だにしない。
「おまっ、ふざけんな!」
「ふはっ。惚れた相手と暫く逢引き出来ないんだ。余韻は残しておきたいタチなんさ」
「ぎゃー!この性欲過多殺す気満々だァァァァァ!!!!」
ギンが全身からピンク色のオーラを全開にして、俺を奥へと引きずって行く。
死ぬ。絶対死ぬ。死なないけど精神的に死ぬ。
俺は訪れるであろう快楽地獄を前に、死を覚悟した。
3日後。
「………………………」
「び、ビットさん!?ビットさん!?」
宿の食堂に、アルカ嬢の悲鳴めいた声が響く。
大量の金貨が入った袋の横で、やつれて放心して天を仰ぐ俺。
「………め、し」
「………これでも食べろ」
とっくの昔に二日酔いから解放されていたキーシャが、俺の口に大量の麦粥をドボドボと流しこむ。
あー…塩が染みる…色んな意味で。
「丸3日絞り取られたか」
「…………し、ぬ」
「死なない身で何を言う」
金貨袋と俺を肩に担いでキーシャは立ち上がる。
「竜車が届いた。ゲルド・ギランズも到着したらしい」
「……あー…じゃ…行く…か」
「お、おいおい…そんな状態でビットも連れてくのか?」
俺を心配するトゥゼン坊っちゃん。正直ありがたい。
「全ての準備を整えたのはこの男だ。連れて行かない道理はあるまい」
「それに」とキーシャは声を落とす。
「資格者を探すのに都合が良いだろう?」
俺にしか聞こえない音量でそう答えたキーシャに、俺は小さく頷いた。
俺一人では資格者を探すのにも限界がある。
だが、穏健派という組織に就いて手を貸し続ければ、何れは資格者を見つけられる可能性が高いと判断した。
殆ど根拠の無い勘に近い結論だが、決して現実味が無いことは無いだろう。
「………なんでテメェが仕切ってんだ」
「トゥゼン」
キーシャに突っかかりかけたトゥゼンをアルカ嬢が諌める。
「アルカ…でもよ」
「化け猫ケット・シーは味方です。味方同士でいがみ合っても仕方ないでしょう。第一負け犬……負け猿が何を言っても遠吠えです」
「………分かった!分かったよ!こないだの飲み比べで負けちまったのは事実だ、もう何も言わねぇ!」
ジャコの口撃にグサグサと傷口を抉られ、坊っちゃんは自棄っぱち気味にそう叫んだ。
やり口がえげつないが、納得させることが出来たらしいな。
「でも次は勝つ!」
「…ふっ。何度でも相手になってやろう?」
………懲りてはいないらしいが。
「サーミャ某…とりあえず…俺は寝るから…金庫番と食料管理…よろしく…」
「かしこまりました」
サーミャ某が頷き、俺達は宿を出る。
宿の外には、派手さはないがしっかりとした作りの竜車と、紫色のウロコをきらめかせた巨大なライドディノが二頭繋がれていた。
御者台には既にゲルドが禿頭に太陽光を反射させて、手綱を握っていた。
「来たか。ヘンリーの奴、いい竜を寄越しやがったな。人に慣れてるし、暴れる様子もねぇ」
竜の尾を撫でながらゲルドは自分の禿頭も撫でる。
その背には刃の付いた剛弓が背負われ、軽そうな革鎧に身を包んでいた。
弓を引く為の右腕は、服の袖越しでも鍛え上げられているのが見て取れる。
支部長に出世した現在でも鍛錬は怠っていないらしい。
「ゲルド」
「おう、ジェイク。レイラちゃんも」
「ゲルドおじさん」
ジェイク達を見とめたゲルドは二人へ手を挙げる。
「ジィさんを任せた」
「おう、任せとけ。お前のゲンコツはもう受けたくねぇからな」
冗談めかしてゲルドが拳を突き出し、ジェイクも頷いて拳を突き合わせた。
「さぁお嬢ちゃんら、見慣れねぇお二人さんも居るが、早く乗った乗った!」
「あ、は、はい!」
ゲルドに急かされて皆竜車へと乗り込んでいく。
「ハイヨー!」
「じぇ、ジェイクさーん!行ってきまーす!」
ゲルドの操縦で竜車は走り出し、アルカ嬢は窓から身を乗り出して見送るジェイク達に手を振る。
天気は快晴、絶好の旅行日和。
行き先は血生臭い海賊同士の戦争。
前途としては微妙だが、俺達の旅が始まった。
「ああ。そいつらが排斥派かも知れねぇって情報」
二日酔いでグロッキーな猿と猫をそれぞれの部屋のベッドに放り込んでおき、アルカ嬢、ジャコ、サーミャ某を俺の部屋に連れて来た。
ギンの放った私兵の報告により、排斥派と思しき連中が山ひとつ越えた港町、マイロに潜伏しているらしい事が分かった。
ギンの持ってきた報告書に目を通したが、元々マイロを拠点にした、義賊的な吸血種の海賊が居たのだが、最近になって別の海賊船が停泊するようになり、2つの海賊団が小競り合いを繰り広げるようになってマイロの住人は対応に困っているそうだ。
海賊は時折陸に上がって人間を数人攫っており、攫われた人間は翌日血を抜かれた状態で見つかっている。
しかし、見つかった状態に明確な違いがあり、元からいた方に攫われた場合は軽い貧血程度で済んでいるが、新参者に攫われた人間はカラカラに乾いたミイラの状態で見つかるとのこと。
要するに吸血種同士の戦争状態である。
新参者の海賊とは恐らく、アルカ嬢達みたいに、常人種との共存を選んだであろう義賊を排除しようと画策する排斥派の刺客だと、この情報から予想できる。
………拙いな、こりゃ。
「下手すりゃ、街一つ地図から消えるかも知れんぞ」
「なっ…」
俺の物騒な発言にアルカ嬢は表情を歪ませる。
「……確かに、可能性としては高いですな」
「サーミャ某は分かるか」
「これでも元文官ですからな」とサーミャは頷いた。
「…どういうこと?」
「アルカ様は血を飲むのを忌避なさっているので自覚はありませんでしょうが、吸血種は血を飲むことで本来の力を発揮できるようになります。ただでさえ常人種より遥かに強いその吸血種が2つの陣営に分かれて徒党を組み、戦っている。即ち…」
「戦いが長引けば長引くほど、加速度的に街の人間は血を吸われて死んでいく。人が消えれば街が機能しなくなるのは道理だ。元々居た義賊とやらがいくら調整しようが、新参連中はお構い無しにミイラにしてたんじゃ、焼け石に水にしかならんだろ」
俺とサーミャ某は全く同じ見解で頷き合う。
そしてこのまま戦いが続くなら、マイロの住人は確実に吸血種という人間に恐怖と拒絶を抱く。
排斥派の狙いはそれだ。
恐らく街から逃げ出す人間は必ず出てくるし奴らはそれを敢えて見逃す。街から逃げた理由を移った場所へ吹聴させるために。
常人種に『吸血種は常人種では到底敵わないバケモノ』という根源的な恐怖を植え付け、吸血種という存在を絶対的なものとするための見せしめに。
……元々俺にゃ関係ない話ではあるが、知っちまった手前、そしてアルカ嬢達穏健派に加担した手前放っとくのも忍びない。
「さーて、準備に取り掛かりますか」
「…ビットさん?」
よっこらせっと立ち上がり、俺が部屋を出ようとすると、アルカ嬢が慌てて呼び止めた。
「どこに行くの?」
「ちょいとばかし、根回しに」
首を傾げるアルカ嬢を横目に、俺は宿を出た。
……まずは、あそこか。
「……冒険者を寄越せだぁ?」
俺が最初に訪れたのは冒険者ギルド。
俺の依頼にカウンターに座っている、支部長のゲルドは怪訝な顔でそう口に出した。
「おう、ちっとばかし血生臭い依頼なんだけど、頼めるか?」
「…旦那が血生臭いって言うなら、相当だな」
禿頭を撫でつけながら、ゲルドは難しい顔で悩んでいる。
基本的に冒険者達の意思を尊重しているギルドだが、わざわざ死地に送り出す程非道ではないという事だろう。
「旦那、取り敢えず話だけでも聞かせてくれるか?」
「あー…話、な」
ゲルドの質問に俺は若干口ごもった。
流石に吸血種同士の戦争に介入すると大っぴらに話すのはマズい。
それに、穏健派の存在はまだガルサで明るみに出すのも少々早計な気もする。
「場所を移そう。出来れば外部に漏らしたくない話だ」
「……そうかい。じゃあ執務室で話すのがいいか」
ゲルドの案内で、俺達はゲルドの執務室に場所を移す。
「ここなら盗み聞きする奴は居ないだろう。さぁ旦那、その血生臭い依頼の詳細を聞かせてくれ」
「ああ。……実は、マイロで吸血種の海賊が争っているらしい。んで、俺はその戦争に介入せにゃならん」
「………成る程。確かにそれは大っぴらに話しちゃマズいな」
流石ゲルド、触りを話しただけで俺の言いたいことを察してくれたらしい。
単純な戦力として冒険者を使いたい。
今の話を要約するとそういうことだ。
「だが、基本的に魔物と戦う事が専門の冒険者に、傭兵の真似事をさせるのはなぁ…」
「いや、お前の懸念も尤もだが、俺達は別に戦争そのものに参加するつもりは全くねぇ。必要なのは、マイロまでの護衛程度のもんさ」
ガルサからマイロまでの山ひとつ越える道中で、山賊なり魔物なりと遭遇する可能性を鑑みて、戦力が多いに越したことはない。
それと、マイロで争っている海賊のどちらかに接触した場合、十中八九戦闘になる。
嬢達吸血種は自衛が出来ても、俺が人質になっちゃあんまり意味が無い。
蛇共やキーシャとの戦いがそのいい例だ。
だから、嬢達以外に俺個人を護衛出来る誰かが必要なのだ。
「……俺達?まさか、あの銀ランクのアネさんや新人の二人も関わってんのか?」
「…あ、しまった」
口を滑らせてしまった事に、俺は思わず口を手で覆う。
俺としたことが、少々油断していた。
吸血種同士の戦争に介入するということをゲルドが、先日冒険者となったアルカ嬢や、銀ランク冒険者のキーシャと関連付けるのは当然だった。
………いや、まあ、いずれは話すつもりだったんだが、ここで前倒ししちまっても問題ねぇか?
「………ゲルド、今から話す事は絶対に外部に漏らすな。でなきゃお前が消されるぞ」
「………分かった」
俺が真面目な顔で話を切り出すと、ゲルドも神妙な面持ちで頷く。
俺は、吸血種が常人種との融和と決裂で2つの組織に割れていること、アルカ嬢が穏健派を率いている事、キーシャが嬢を狙う刺客として敵対していた事などを、嬢がキュリエ家の人間だと伏せた上でゲルドに話した。
「……成る程な」
「因みにこの話はヘンリーやギンも知ってる。海賊の話もギンに調べてもらったから確かだと思う」
「………ギンバァか…」
ギンの名前を口に出したら、ゲルドが遠い目をして窓の外を眺める。
ああ、お前もジェイクと同じであいつに頭が上がらなかったな、筆お…。
「旦那、勘弁してくれ」
だから何故お前らは俺の愚考を読み取れる。
「…………分かった。旦那の依頼は引き受ける」
「おっ、ありがとさん」
熟考の末、ゲルドは重々しくも頷いてくれた。
「ただし」
「あん?なんだよ。報酬には糸目を付けるつもりはねぇぞ」
最近仕事してたから、まとまった金が手元にあるし。
俺がそう答えると、ゲルドは「カネの話じゃなくて」と言葉を続ける。
「今回の依頼は、他の冒険者じゃなくて、俺が出る」
「……はぁ?」
「もし旦那がマイロに行ったきり帰ってこねぇって事になったら、俺がギンバァやジェイクやヘンリーに殺される。あんたはそのくらいみんなに貸しを作ってるんだよ」
「正直いうと、行かせないのが一番なんだろうけど、旦那は一度決めたら折れねぇからな」とゲルドは頭を振った。
…………。
「相っ変わらず、貧乏くじ引くのが大好きだな、お前」
昔からコイツは、自分が損する選択しかしない。
そういうとこ、嫌いじゃないけどな。
「大抵はあんたが引かせてるんだろ!?」
俺がゲラゲラ笑うと、ゲルドは呆れながらそう叫んだ。
続いて俺はゲルドを引き連れて、領主館へやってきた。
言わずもがな、ヘンリーにもマイロの実情を話しておく為だ。
「いやぁん、お姉様に先を越されちゃったわぁ」
「しかたねーよ。動いてもらったのはギンのほうが先だ」
しょんぼりしている筋肉モリモリのオ便所蟋蟀にそう言葉をかけてやる。
それに、お前に諜報活動での情報収集は期待してねぇし。
こいつに調べて欲しいのは、貴族界で流れている吸血種の情報。ギンが裏で流れている黒い噂なら、コイツは政治的な部分に食い込んでいる排斥派を洗って欲しいという意図がある。
排斥派が生まれてどれ位経っているか知らないが、今まで世間に知れ渡っていないのなら、恐らく貴族が後ろ盾になっている可能性が高い。
ヘンリーにはその辺りが適任だ。逆に言えば、貴族であるヘンリーにしか出来ない仕事である。
「それで、あたくしは今回何をすればいいのかしらぁ?」
「ああ、比較的近場とは言え、ここからマイロまで結構な距離がある。移動手段を貸して欲しくてな」
こいつ金持ちだし、馬車やライドディノの竜車なんかも数台持ってる。
その中の一つを融通してもらうためにこいつを尋ねたのだ。
「勿論良いわよぉ。丈夫で大人しい竜車を貸してあげるわぁ」
「サンキュ、助かる」
俺が礼を言うと、「どういたしまして~」とヘンリーは言ってゲルドに向き直る。
「ゲルド、ビットお姉様に何かあったら、承知しないわよ」
「分かってるよ。お前に言われるまでもねぇ」
二人は互いに拳を突き出し、ガツンと突き合わせた。
嘗てはジェイクとチームを組んでいた二人だ。その絆は深いのだろう。
………ゲルドの名誉のために言っておくと決して薔薇な関係ではない。
「旦那、俺にそっちのケはねぇよ」
「お姉様、ゲルドは友達よ」
だから何故心を読める。
根回しが完了し、俺は一旦宿へ戻った。
用意が出来たと言っても、移動手段と戦力の確保だけ。
竜車を引くライドディノのエサ代や食料の確保なんかも出来るだけ整えねば。
「つーわけでジェイク。保存食の用意頼むわ」
「………唐突だな。急な用事か?」
「まぁそんなとこ。材料費はこっちで持つから心配すんな」
「…あいよ。ジィさん達の部屋はそのままにしておく」
ジェイクはコクリと頷いてそう言ってくれた。
ちゃんと戻ってくる意思も察してくれたらしい。
「お父さん、部屋を私物化させちゃ…」
「いい。ジィさん達は常客だ。いつまで掛かろうが、ちゃんとうちに帰ってくる」
「………」
部屋の分だけ客を受け入れられなくなるとレイラちゃんが不満そうだが、ジェイクは有無を言わせない面持ちで黙殺した。
それに申し訳なく思いながら、俺はレイラちゃんの頭に手を伸ばす。
「ごめんな、ちゃんと居ない間の部屋代も払うから、勘弁してくれ」
「………なんでコイツばっかり、特別扱いなのよ」
不満気にレイラちゃんは厨房から出て行った。
………本当に、ごめんな。
「保存食は干し肉と塩漬け野菜で良いか?」
「ああ。あとは乾パンと水、調味料も頼む」
「あいよ」
俺の注文にジェイクは二つ返事で準備に取り掛かる。
保存食の用意が出来るまでは、しばらくゆっくり出来そうだ。
「という訳で、出発は3日後だ。一応俺も路銀は用意しとくが、それぞれでちゃんと管理するように」
「……………」
「ははは、仕事が早いですな、ビット殿」
俺の話を聞いた嬢とジャコは唖然とし、サーミャ某はパチパチと拍手する。
はっはっはっ、このくらいどうって事ぁありゃしねぇよ。
「………ビットさん、本当に一体何者なの?ギンさんに何度も協力してもらったり、ゲルドさんを引っ張ってきたり、ヘレンさんから竜車を借りられたり…」
「何者と問われてもそんな大層な人間じゃねぇさ。ただ単にツテだけは持ってる、永く生きてるだけのジジィだよ」
皮肉っぽく口元を釣り上げて肩を竦める。
「俺なんぞの事より、坊っちゃんやキーシャにこの事を教えて、準備させといてくれ。俺はギンの所に行ってくる」
「……また出かけるんだ。どこに行くの?」
「カネはあるだけ困らねぇ。ちょいとばかし融通してもらってくる」
「そう。いってらっしゃい」
ぶらぶらと手を挙げて上着を羽織ると、背後でアルカ嬢はそんな事を言った。
……いってらっしゃい、ね。
「行ってきますよっと」
俺の口からその言葉が自然に出た。
「…………………」
「………睨むなよ。もう決めたことだ」
俺がギンの屋敷を訪ね、しばらくガルサを留守にすることを伝えると、ギンは無言で俺を睨みつけてきた。
「………あんたが居ないと、あの娘らの商売に支障が出るんだよ」
「そうは言ってもなぁ…」
頭を抱えるギンに俺は苦笑を返す。
俺が長期間仕事をしないと、娼婦たちのモチベーションがダダ下がりになるので、ギンとしては如何ともし難いというのは解らんでもない。
「一応、昔拉致られた時に、対策は打っただろう?」
「………幾ら小僧共を教育しても、あんたの腕には遠く及ばんさね」
「その場凌ぎがいい所だよ」と頭を振る。
ギンは昔俺が奴隷商に拉致られ、娼婦たちが仕事にならなかった時を教訓に、雑用係として囲っていた娼婦の息子達に俺の技を仕込む事を考えた。
娼婦が産んだ父親が不明な子供ばかりで、大人になった現在もギンの私兵として色々と頑張っている。
俺も割と真剣に手管を教えちゃいるのだが、百戦錬磨の娼婦たちを完全に満足させることは難しいというのが現状だ。
だが、ギンの言う通り、一時しのぎにはなるだろうし、俺もそうそう長い間ガルサを空けるつもりは無い。
「頼むわ。分かってくれ」
「………あのお嬢ちゃんは、あんたにそうさせる程なのかい?」
ギンの問いに、俺ははっきりと首肯する。
今あの娘を見捨てたら、俺の呪いを解く手段は永遠に失われる。
このまま見過ごすなんざ出来るか。
「………本当に、あんたは折れないねぇ」
「悪いな。年寄りは頭がかてぇんだ」
「あたしに言う台詞じゃないだろう」とギンは苦笑した。
俺も口端を釣り上げる。
すると、ギンはおもむろに立ち上がり俺の二の腕をがっちりと掴んだ。
「それじゃ、ちゃんと仕事はしてもらおうかね」
「あん?」
何故か嫌な予感を感じながら、俺はギンの顔を見上げる。
「あんたが出てくまでの間、あたしを満足させてもらおうか」
「ちょっ!?」
その言葉を聞いた瞬間、全身に寒気が走った。
逃げようとしたが、俺の腕を掴むギンの手は微動だにしない。
「おまっ、ふざけんな!」
「ふはっ。惚れた相手と暫く逢引き出来ないんだ。余韻は残しておきたいタチなんさ」
「ぎゃー!この性欲過多殺す気満々だァァァァァ!!!!」
ギンが全身からピンク色のオーラを全開にして、俺を奥へと引きずって行く。
死ぬ。絶対死ぬ。死なないけど精神的に死ぬ。
俺は訪れるであろう快楽地獄を前に、死を覚悟した。
3日後。
「………………………」
「び、ビットさん!?ビットさん!?」
宿の食堂に、アルカ嬢の悲鳴めいた声が響く。
大量の金貨が入った袋の横で、やつれて放心して天を仰ぐ俺。
「………め、し」
「………これでも食べろ」
とっくの昔に二日酔いから解放されていたキーシャが、俺の口に大量の麦粥をドボドボと流しこむ。
あー…塩が染みる…色んな意味で。
「丸3日絞り取られたか」
「…………し、ぬ」
「死なない身で何を言う」
金貨袋と俺を肩に担いでキーシャは立ち上がる。
「竜車が届いた。ゲルド・ギランズも到着したらしい」
「……あー…じゃ…行く…か」
「お、おいおい…そんな状態でビットも連れてくのか?」
俺を心配するトゥゼン坊っちゃん。正直ありがたい。
「全ての準備を整えたのはこの男だ。連れて行かない道理はあるまい」
「それに」とキーシャは声を落とす。
「資格者を探すのに都合が良いだろう?」
俺にしか聞こえない音量でそう答えたキーシャに、俺は小さく頷いた。
俺一人では資格者を探すのにも限界がある。
だが、穏健派という組織に就いて手を貸し続ければ、何れは資格者を見つけられる可能性が高いと判断した。
殆ど根拠の無い勘に近い結論だが、決して現実味が無いことは無いだろう。
「………なんでテメェが仕切ってんだ」
「トゥゼン」
キーシャに突っかかりかけたトゥゼンをアルカ嬢が諌める。
「アルカ…でもよ」
「化け猫ケット・シーは味方です。味方同士でいがみ合っても仕方ないでしょう。第一負け犬……負け猿が何を言っても遠吠えです」
「………分かった!分かったよ!こないだの飲み比べで負けちまったのは事実だ、もう何も言わねぇ!」
ジャコの口撃にグサグサと傷口を抉られ、坊っちゃんは自棄っぱち気味にそう叫んだ。
やり口がえげつないが、納得させることが出来たらしいな。
「でも次は勝つ!」
「…ふっ。何度でも相手になってやろう?」
………懲りてはいないらしいが。
「サーミャ某…とりあえず…俺は寝るから…金庫番と食料管理…よろしく…」
「かしこまりました」
サーミャ某が頷き、俺達は宿を出る。
宿の外には、派手さはないがしっかりとした作りの竜車と、紫色のウロコをきらめかせた巨大なライドディノが二頭繋がれていた。
御者台には既にゲルドが禿頭に太陽光を反射させて、手綱を握っていた。
「来たか。ヘンリーの奴、いい竜を寄越しやがったな。人に慣れてるし、暴れる様子もねぇ」
竜の尾を撫でながらゲルドは自分の禿頭も撫でる。
その背には刃の付いた剛弓が背負われ、軽そうな革鎧に身を包んでいた。
弓を引く為の右腕は、服の袖越しでも鍛え上げられているのが見て取れる。
支部長に出世した現在でも鍛錬は怠っていないらしい。
「ゲルド」
「おう、ジェイク。レイラちゃんも」
「ゲルドおじさん」
ジェイク達を見とめたゲルドは二人へ手を挙げる。
「ジィさんを任せた」
「おう、任せとけ。お前のゲンコツはもう受けたくねぇからな」
冗談めかしてゲルドが拳を突き出し、ジェイクも頷いて拳を突き合わせた。
「さぁお嬢ちゃんら、見慣れねぇお二人さんも居るが、早く乗った乗った!」
「あ、は、はい!」
ゲルドに急かされて皆竜車へと乗り込んでいく。
「ハイヨー!」
「じぇ、ジェイクさーん!行ってきまーす!」
ゲルドの操縦で竜車は走り出し、アルカ嬢は窓から身を乗り出して見送るジェイク達に手を振る。
天気は快晴、絶好の旅行日和。
行き先は血生臭い海賊同士の戦争。
前途としては微妙だが、俺達の旅が始まった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる