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出会い
9話 帰り道
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体育の授業が終わった日の放課後は、なんとなく体がだるい。
教室の窓から入る夕方の風も、少しだけ温かかった。
水野は椅子に座ったまま、机の上に頬をつけていた。
「疲れた……」
小さくつぶやく。
体育で走ったわけでもないのに、なぜか体が重い。
周りでは帰る準備をしている人が多い。
部活の人はもう教室を出ていったし、残っているのは帰宅組ばかりだった。
水野はゆっくり顔を上げる。
そして、隣を見る。
西村はまだ席に座っていた。
教科書をカバンに入れているところだった。
なんとなく、その様子をぼんやり見てしまう。
西村は特別目立つタイプじゃない。
クラスの中心にいるわけでもないし、ずっと一人でいるわけでもない。
でも、なぜかよく話している。
気づけば、毎日。
水野は少しだけ考える。
最初は、本当にただの隣の席だった。
入学式の日にたまたま座っただけ。
でも今は、なんとなく話す相手になっている。
特別な理由はない。
ただ、会話が続く。
そして、その会話はいつも同じ言葉から始まる。
「ねぇ」
水野は思わず少し笑った。
そのときだった。
「ねぇ」
横から声がする。
水野は顔を上げた。
「なに?」
西村がプリントを持っている。
「これ今日提出?」
水野は少し考える。
「それ、明日だよ」
「まじか」
西村は少し安心した顔をした。
「危なかった」
水野はくすっと笑う。
「焦りすぎ」
西村は肩をすくめた。
「昨日やってないから」
「やってないんだ」
「今からやる」
「えらい」
西村は少し笑う。
「普通だろ」
水野はすぐ言う。
「それ便利だね」
二人で少し笑う。
教室にはもうあまり人がいない。
夕方の光が窓から差し込んで、机の上をオレンジ色にしていた。
水野はふと聞く。
「帰るの?」
西村はうなずく。
「帰る」
「部活ないの?」
「入ってない」
「そうなんだ」
少し沈黙が流れる。
水野は少しだけ迷う。
でも、なんとなく聞いてみた。
「一緒に帰る?」
西村は一瞬止まった。
ほんの少しだけ驚いた顔をする。
「……いいけど」
水野は立ち上がる。
「じゃあ帰ろ」
西村もカバンを持つ。
二人で教室を出る。
廊下には夕方の光が長く伸びていた。
階段を降りる。
靴箱で上履きを脱いで、外靴に履き替える。
校門までの道。
特に急ぐこともなく歩く。
しばらく沈黙が続く。
でも、不思議と気まずくはない。
水野は空を見上げる。
少しオレンジ色の空。
そのとき、西村が言った。
「ねぇ」
水野は横を見る。
「なに?」
西村は少しだけ考えてから言った。
「体柔らかいんだな」
水野は少し笑う。
「そう?」
「うん」
「西村は普通だったね」
「それ褒めてる?」
「たぶん」
西村は少しだけ笑った。
二人で歩く。
道はだんだん分かれていく。
家の方向が違うからだ。
分かれ道のところで止まる。
水野が言う。
「ここだね」
西村もうなずく。
「だな」
少しだけ沈黙。
水野は少しだけ考えてから言った。
「また明日」
西村は軽くうなずく。
「うん」
水野は歩き出す。
数歩進んでから、ふと振り返った。
西村もまだそこに立っていた。
目が合う。
水野は少しだけ笑う。
そして言う。
「西村」
西村が顔を上げる。
「ん?」
水野は少しだけ考えてから言った。
「今日はありがとう」
西村は少し首をかしげる。
「なにが?」
水野は笑う。
「なんとなく」
西村は少しだけ考えて、それから言った。
「普通だろ」
水野はまた笑った。
それから手を軽く振る。
西村も小さく手を上げた。
そのあと、西村は一人で歩きながら思った。
今日もやっぱり言えなかった。
「水野」
その名前を。
代わりに、また同じ言葉を使ってしまう。
「ねぇ」
たぶん明日も。
そしてそのやり取りは、少しずつ当たり前になっていく。
教室の窓から入る夕方の風も、少しだけ温かかった。
水野は椅子に座ったまま、机の上に頬をつけていた。
「疲れた……」
小さくつぶやく。
体育で走ったわけでもないのに、なぜか体が重い。
周りでは帰る準備をしている人が多い。
部活の人はもう教室を出ていったし、残っているのは帰宅組ばかりだった。
水野はゆっくり顔を上げる。
そして、隣を見る。
西村はまだ席に座っていた。
教科書をカバンに入れているところだった。
なんとなく、その様子をぼんやり見てしまう。
西村は特別目立つタイプじゃない。
クラスの中心にいるわけでもないし、ずっと一人でいるわけでもない。
でも、なぜかよく話している。
気づけば、毎日。
水野は少しだけ考える。
最初は、本当にただの隣の席だった。
入学式の日にたまたま座っただけ。
でも今は、なんとなく話す相手になっている。
特別な理由はない。
ただ、会話が続く。
そして、その会話はいつも同じ言葉から始まる。
「ねぇ」
水野は思わず少し笑った。
そのときだった。
「ねぇ」
横から声がする。
水野は顔を上げた。
「なに?」
西村がプリントを持っている。
「これ今日提出?」
水野は少し考える。
「それ、明日だよ」
「まじか」
西村は少し安心した顔をした。
「危なかった」
水野はくすっと笑う。
「焦りすぎ」
西村は肩をすくめた。
「昨日やってないから」
「やってないんだ」
「今からやる」
「えらい」
西村は少し笑う。
「普通だろ」
水野はすぐ言う。
「それ便利だね」
二人で少し笑う。
教室にはもうあまり人がいない。
夕方の光が窓から差し込んで、机の上をオレンジ色にしていた。
水野はふと聞く。
「帰るの?」
西村はうなずく。
「帰る」
「部活ないの?」
「入ってない」
「そうなんだ」
少し沈黙が流れる。
水野は少しだけ迷う。
でも、なんとなく聞いてみた。
「一緒に帰る?」
西村は一瞬止まった。
ほんの少しだけ驚いた顔をする。
「……いいけど」
水野は立ち上がる。
「じゃあ帰ろ」
西村もカバンを持つ。
二人で教室を出る。
廊下には夕方の光が長く伸びていた。
階段を降りる。
靴箱で上履きを脱いで、外靴に履き替える。
校門までの道。
特に急ぐこともなく歩く。
しばらく沈黙が続く。
でも、不思議と気まずくはない。
水野は空を見上げる。
少しオレンジ色の空。
そのとき、西村が言った。
「ねぇ」
水野は横を見る。
「なに?」
西村は少しだけ考えてから言った。
「体柔らかいんだな」
水野は少し笑う。
「そう?」
「うん」
「西村は普通だったね」
「それ褒めてる?」
「たぶん」
西村は少しだけ笑った。
二人で歩く。
道はだんだん分かれていく。
家の方向が違うからだ。
分かれ道のところで止まる。
水野が言う。
「ここだね」
西村もうなずく。
「だな」
少しだけ沈黙。
水野は少しだけ考えてから言った。
「また明日」
西村は軽くうなずく。
「うん」
水野は歩き出す。
数歩進んでから、ふと振り返った。
西村もまだそこに立っていた。
目が合う。
水野は少しだけ笑う。
そして言う。
「西村」
西村が顔を上げる。
「ん?」
水野は少しだけ考えてから言った。
「今日はありがとう」
西村は少し首をかしげる。
「なにが?」
水野は笑う。
「なんとなく」
西村は少しだけ考えて、それから言った。
「普通だろ」
水野はまた笑った。
それから手を軽く振る。
西村も小さく手を上げた。
そのあと、西村は一人で歩きながら思った。
今日もやっぱり言えなかった。
「水野」
その名前を。
代わりに、また同じ言葉を使ってしまう。
「ねぇ」
たぶん明日も。
そしてそのやり取りは、少しずつ当たり前になっていく。
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