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本編
59 side.ダグラス
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──緩められたシャツから覗く艶やかな首筋、上気した頬、しっとりとした髪──
……俺の理性、帰ってこい。
俺は内心頭を抱えた。
「いっそのことダグラスを泊まらせてはいかがです?」
始まりはリディアの言葉だった。夕方になり、名残惜しいもののそろそろ部屋へ戻ろうとした俺に、ユキはまだ一緒にいたいと言った。俺ももちろんできるならずっと一緒にいたいが、果たして理性が持つかが心配だった。
騎士として精神統一など基本のことであるのに、ユキのことになると統一どころの話ではなくなる。ユキの一挙一動に心を揺さぶられ、理性の糸など何度も切れては慌てて結び直している。流石に無理やりことに及ぶわけにはいかないからな。
リディアにも「そんな様子のあなたは初めて見ました。正直薄気味悪いです」と真顔で言われる始末だ。
そんな俺が一晩中ユキと共にいるのは危ないだろうと、やんわり断ろうと思えばユキはどうやら迷っている様子で。そこにリディアがとどめとばかりに続けた。
「夕食はもちろん、朝食もご一緒にいかがです?」
「……ダグ、今日は泊まっていって?」
ユキが1人の食事を寂しがっているのはリディアも俺もとうに気付いている。たまに陛下方と食べると明らかに嬉しそうだし食事量が変わるからな。
寂しそうに1人で食事を摂る様子を見ると一緒に食べたくなるが、騎士や神官はいわば従者。従者が主人と席を共にするなどできない。俺の場合も恋人としての時間であれば可能だが、護衛としての時間は不可能だ。
ユキを見ていると規則なんざ破ってしまおうかとも思えてくるが、実際に破ってしまえば従者として相応しくないと専属を外されるやもしれない。陛下方はご理解下さるだろうが、他から声が上がればどうしようもなくなる場合だってある。神子の専属という座を狙っている者はかなり多いからな。下手な輩を近づけさせないためにも、俺たちは規則を守らざるを得ない。ゆえにユキは殆どの食事を1人でとることになってしまうのだ。
だからこそ、ユキにとって食事を共にするということはそれほど嬉しい行為となる。そんなユキが朝食まで共にできると言われれば俺を泊まらせることに賛成するのは当然、か……
……くそ、可愛い恋人のお願いを無視できるわけがないだろう! 今日は理性との戦い、だな……いや、夜はカウチを貸して貰えばなんとか……
「……わかった、泊まらせてもらう」
そういえば嬉しそうに微笑むユキ。この表情が見れるならもういくらでも我慢できる……と己に言い聞かせる。
「では夕食後に貴方は一度部屋に戻って着替えを持って来なさい」
「ついでに風呂も済ませてこよう」
「お風呂はここの使えばいいのに」
……他意はないのだろうが、普段ユキが使っている風呂など使えば俺は少しまずい。理性が飛ぶ。確実に。
「ユキ様がご入浴の間にダグラスも入浴を済ませておけば一緒にくつろげるお時間が増えますよ」
何となく察してくれたのだろう。リディアが助け舟を出してくれた。ありがたい。
「……!! わかった、じゃあそうする」
よかった、納得してくれたようだ。これで理性が飛ぶのは回避────
「じゃあ夜は一緒に寝ようね」
────できなさそうだ。
「いや、それは……俺はカウチで構わないん、だが……」
むしろカウチにしてくれ。一緒のベッドなどユキの部屋の風呂を使うよりまずい。
「だめだめ! 身体痛くなっちゃうよ!! それとも僕と寝るのはいや?」
「嫌なわけじゃなくて、だな……」
理性が飛ぶより身体が痛くなる方が何倍もましだ……! 俺と寝ることの危険性をわかっていないわけではないだろうに……!!
「……だめ?」
ぐっ……だめだ、潤んだ目で見つめられたら断れるわけがないだろう……
「わかっ、た……」
「やったぁ! ダグの腕安心するから今日はいつもよりよく寝れそう!」
「そうか、それはよかった……」
俺は今夜寝れるかわからないがな……
リディアやめろ。憐れみの目を向けるんじゃない。
そうして夕食も食べ終え、俺は一度部屋に戻り風呂に入ってから着替えを持って戻り、まだ風呂から出てきていないユキをカウチに座って待つことにした。
十分ほど待って出てきたユキの姿を目にしたところで回想は終わる。
端的に言おう。風呂上がりのユキは破壊力が抜群だった。風呂に入ったことで上気した肌にしっとりと水気を含んだ髪。リディアによるマッサージを受けたことによってより艶やかになった肌。
……この状態のユキと一夜を共に? 手を出せない状況でこれは拷問だろう……
くそ、リディアがユキの後ろで笑ってやがる。完全に面白がっているな……おい、大事な主人の貞操の危機だぞ、わかっているのか。
は? 何だかんだで無理矢理なんて出来ないのはわかってる? たしかに出来ないがな!! そこにどれだけの苦労があると……! いや、それをおもしろがっているんだよな、知ってる。お前はそういうやつだ……
「さぁユキ様、ご入浴の後は水分をおとりくださいね」
俺の隣に座りリディアから渡されたミルクティーを飲むユキ。俺はユキの口から覗く舌を凝視してしまう。
「……? どうしたの?」
視線に気づいたのだろう。小首を傾げながらそう言うユキ。
唇が僅かに濡れ、光を反射していてかなり扇情的だ。
ただでさえ煽られている欲を必死に抑える。
「……いや、なんでもない」
「そう? あ、ダグもなにか飲み物いる?」
「いや、大丈夫だ」
ミルクティーを羨ましがってると思われたのか……ユキの口を見て欲情していることがバレなくて良かったと喜ぶべきか……? もう少し危機感を持ってもらいたいな……
「そっか。
ん、ご馳走さま。リディアありがとう、美味しかった」
「それはよろしゅうございました。では私はそろそろ失礼いたしましょうか」
まてまてまて……!!
「え? もう?」
「ええ、お恥ずかしながら処理すべき書類が少々残っていまして……丁度本日はダグラスがここにいますし、できれば本日中に処理してしまいたいのです。いつもより早いですが、下がることをお許しいただけますか?」
嘘つけ……! お前が書類を残しているわけがないだろう。お前の処理速度の速さは知っているぞ……あまりにも速すぎて一時は城の文官に、という話まで上がったではないか。
しかしユキはそんなことなど知らない。ゆえにリディアの言葉を信じ、果てにはリディアを気遣う始末。
「そうだったの? それは大変。いいよ、大丈夫。お仕事頑張ってね」
「お気遣いありがとうございます。水差しとグラスはこちらに置いておきますのでご自由にお飲みくださいね。他に何かお飲み物や軽食が必要であればこちらのベルを鳴らしていただければすぐに参ります」
「ん、わかった。今日もありがとう、お疲れ様」
「はい、ごゆっくりお休みくださいませ。では失礼いたします」
……リディアが出て行き2人きりになった。
耐えれるか?
「あ、そうだ。ダグって普段から香油使ってるの?」
「使ってないが……なんでだ?」
嫌な予感がするのだが……
「あれ? なんかね、リディアがダグにこれをって。いくらでも使っていいって言ってたよ。肌に優しい? らしいよ。使う?」
ユキがそう言って渡してきたのは香油だった。しかも主に性行為に使われるもの。
……勘弁してくれ。
……俺の理性、帰ってこい。
俺は内心頭を抱えた。
「いっそのことダグラスを泊まらせてはいかがです?」
始まりはリディアの言葉だった。夕方になり、名残惜しいもののそろそろ部屋へ戻ろうとした俺に、ユキはまだ一緒にいたいと言った。俺ももちろんできるならずっと一緒にいたいが、果たして理性が持つかが心配だった。
騎士として精神統一など基本のことであるのに、ユキのことになると統一どころの話ではなくなる。ユキの一挙一動に心を揺さぶられ、理性の糸など何度も切れては慌てて結び直している。流石に無理やりことに及ぶわけにはいかないからな。
リディアにも「そんな様子のあなたは初めて見ました。正直薄気味悪いです」と真顔で言われる始末だ。
そんな俺が一晩中ユキと共にいるのは危ないだろうと、やんわり断ろうと思えばユキはどうやら迷っている様子で。そこにリディアがとどめとばかりに続けた。
「夕食はもちろん、朝食もご一緒にいかがです?」
「……ダグ、今日は泊まっていって?」
ユキが1人の食事を寂しがっているのはリディアも俺もとうに気付いている。たまに陛下方と食べると明らかに嬉しそうだし食事量が変わるからな。
寂しそうに1人で食事を摂る様子を見ると一緒に食べたくなるが、騎士や神官はいわば従者。従者が主人と席を共にするなどできない。俺の場合も恋人としての時間であれば可能だが、護衛としての時間は不可能だ。
ユキを見ていると規則なんざ破ってしまおうかとも思えてくるが、実際に破ってしまえば従者として相応しくないと専属を外されるやもしれない。陛下方はご理解下さるだろうが、他から声が上がればどうしようもなくなる場合だってある。神子の専属という座を狙っている者はかなり多いからな。下手な輩を近づけさせないためにも、俺たちは規則を守らざるを得ない。ゆえにユキは殆どの食事を1人でとることになってしまうのだ。
だからこそ、ユキにとって食事を共にするということはそれほど嬉しい行為となる。そんなユキが朝食まで共にできると言われれば俺を泊まらせることに賛成するのは当然、か……
……くそ、可愛い恋人のお願いを無視できるわけがないだろう! 今日は理性との戦い、だな……いや、夜はカウチを貸して貰えばなんとか……
「……わかった、泊まらせてもらう」
そういえば嬉しそうに微笑むユキ。この表情が見れるならもういくらでも我慢できる……と己に言い聞かせる。
「では夕食後に貴方は一度部屋に戻って着替えを持って来なさい」
「ついでに風呂も済ませてこよう」
「お風呂はここの使えばいいのに」
……他意はないのだろうが、普段ユキが使っている風呂など使えば俺は少しまずい。理性が飛ぶ。確実に。
「ユキ様がご入浴の間にダグラスも入浴を済ませておけば一緒にくつろげるお時間が増えますよ」
何となく察してくれたのだろう。リディアが助け舟を出してくれた。ありがたい。
「……!! わかった、じゃあそうする」
よかった、納得してくれたようだ。これで理性が飛ぶのは回避────
「じゃあ夜は一緒に寝ようね」
────できなさそうだ。
「いや、それは……俺はカウチで構わないん、だが……」
むしろカウチにしてくれ。一緒のベッドなどユキの部屋の風呂を使うよりまずい。
「だめだめ! 身体痛くなっちゃうよ!! それとも僕と寝るのはいや?」
「嫌なわけじゃなくて、だな……」
理性が飛ぶより身体が痛くなる方が何倍もましだ……! 俺と寝ることの危険性をわかっていないわけではないだろうに……!!
「……だめ?」
ぐっ……だめだ、潤んだ目で見つめられたら断れるわけがないだろう……
「わかっ、た……」
「やったぁ! ダグの腕安心するから今日はいつもよりよく寝れそう!」
「そうか、それはよかった……」
俺は今夜寝れるかわからないがな……
リディアやめろ。憐れみの目を向けるんじゃない。
そうして夕食も食べ終え、俺は一度部屋に戻り風呂に入ってから着替えを持って戻り、まだ風呂から出てきていないユキをカウチに座って待つことにした。
十分ほど待って出てきたユキの姿を目にしたところで回想は終わる。
端的に言おう。風呂上がりのユキは破壊力が抜群だった。風呂に入ったことで上気した肌にしっとりと水気を含んだ髪。リディアによるマッサージを受けたことによってより艶やかになった肌。
……この状態のユキと一夜を共に? 手を出せない状況でこれは拷問だろう……
くそ、リディアがユキの後ろで笑ってやがる。完全に面白がっているな……おい、大事な主人の貞操の危機だぞ、わかっているのか。
は? 何だかんだで無理矢理なんて出来ないのはわかってる? たしかに出来ないがな!! そこにどれだけの苦労があると……! いや、それをおもしろがっているんだよな、知ってる。お前はそういうやつだ……
「さぁユキ様、ご入浴の後は水分をおとりくださいね」
俺の隣に座りリディアから渡されたミルクティーを飲むユキ。俺はユキの口から覗く舌を凝視してしまう。
「……? どうしたの?」
視線に気づいたのだろう。小首を傾げながらそう言うユキ。
唇が僅かに濡れ、光を反射していてかなり扇情的だ。
ただでさえ煽られている欲を必死に抑える。
「……いや、なんでもない」
「そう? あ、ダグもなにか飲み物いる?」
「いや、大丈夫だ」
ミルクティーを羨ましがってると思われたのか……ユキの口を見て欲情していることがバレなくて良かったと喜ぶべきか……? もう少し危機感を持ってもらいたいな……
「そっか。
ん、ご馳走さま。リディアありがとう、美味しかった」
「それはよろしゅうございました。では私はそろそろ失礼いたしましょうか」
まてまてまて……!!
「え? もう?」
「ええ、お恥ずかしながら処理すべき書類が少々残っていまして……丁度本日はダグラスがここにいますし、できれば本日中に処理してしまいたいのです。いつもより早いですが、下がることをお許しいただけますか?」
嘘つけ……! お前が書類を残しているわけがないだろう。お前の処理速度の速さは知っているぞ……あまりにも速すぎて一時は城の文官に、という話まで上がったではないか。
しかしユキはそんなことなど知らない。ゆえにリディアの言葉を信じ、果てにはリディアを気遣う始末。
「そうだったの? それは大変。いいよ、大丈夫。お仕事頑張ってね」
「お気遣いありがとうございます。水差しとグラスはこちらに置いておきますのでご自由にお飲みくださいね。他に何かお飲み物や軽食が必要であればこちらのベルを鳴らしていただければすぐに参ります」
「ん、わかった。今日もありがとう、お疲れ様」
「はい、ごゆっくりお休みくださいませ。では失礼いたします」
……リディアが出て行き2人きりになった。
耐えれるか?
「あ、そうだ。ダグって普段から香油使ってるの?」
「使ってないが……なんでだ?」
嫌な予感がするのだが……
「あれ? なんかね、リディアがダグにこれをって。いくらでも使っていいって言ってたよ。肌に優しい? らしいよ。使う?」
ユキがそう言って渡してきたのは香油だった。しかも主に性行為に使われるもの。
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