あの人と。

Haru.

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本編

99 side.リディア

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 まさか私の休日を狙ってユキ様に毒を盛るなど……ユキ様に何か良からぬことが起きぬようにと、気を配っていたつもりでしたがまだ甘かったようですね……


 今日の休日、私はとある人と会っていたのです。その方もお城勤務で、私と同様に今日は非番でした。なので少しお茶でもと誘い2人で情報交換をしつつお茶を楽しんでいたのです。
 とある人とは、ですか? 内緒、です。まだユキ様にも言っておりませんからね。

 ついでにとお昼も共にし、その後にまた食後のお茶を楽しみつつ和やかに談笑していた頃、報せは届きました。



「リディア様、お休みのところ失礼いたします。神子様のお食事にトピティアが混入されました。ダグラス部隊長は現在調査へ。神子様は現在陛下の元におりますのでそちらへ向かっていただきたく」

「なんだと?!!」

「なんですって?!!」

 2人で一斉に立ち上がり、顔を見合わせてすぐさま動き出しました。

「リディア、速く行ってやれ」

「ええ。あなたも、色々とお願いしますよ」

「もちろんだ」

 私はユキ様の元へ。あの人は……まぁ、色々とやることがあるのです。あの人に任せておけば大抵は安心ですし。




 本来城内は全力で走るなど言語道断ですがそんなことに構っていられません。1秒でも速くユキ様の元へと全力で駆け抜けます。すれ違う人全てが驚いた様子でこちらを見ていますが知りません。私はユキ様の元へ行かねばならないのです。

 ユキ様はご無事でしょうか?

 泣いておられないでしょうか?

 不安に震えていらっしゃらないでしょうか?

 速く、速く、ユキ様の元へ……!

 広いお城にその時ばかりは正直苛つきました。もっと狭ければユキ様の元へもっと速く着けたのですからね。



 乱れる息も構わずに必死に走り、漸くついた陛下のお部屋の前で1つ深呼吸をしてから入室の許可をと騎士へ申し出ればすぐに許可は下り、中へ入ることが叶いました。

 陛下のお部屋でカウチに座るユキ様のお顔色は大変悪く、まさに蒼白といったご様子でした。それでも私を視界に写したユキ様が少しばかりほっと息を吐かれたのには少しばかり安堵いたしました。

 ユキ様には加護のおかげで毒の影響もなく、ダグラスの対応が良かったため毒物もお身体に残っていないという話を聞いて大変安心いたしました。
 
 ……それでもユキ様にトピティアという大変危険な毒物を盛った事実は変わらないのですから犯人への恨みと怒りは変わりませんが。たとえトピティアではなく軽い痺れ薬程度だったとしても許しませんしね。


 毒を盛られたことによってユキ様がお食事やお飲み物をとれなくなる可能性を心配しましたが、どうやら私どもユキ様専属より出されたものならば通常通り口にできるようでした。それには本当に安堵いたしました。

 陛下が出されたお茶にも警戒していたようですからやはりらユキ様の恐怖というものは相当なものでしょう。ユキ様にとって毒など身近なものではなかったでしょうから当然のことでしょう。

 この先はユキ様が口にされるものは全て私が管理・用意し、ダグラスやラギアスにも託しておきましょう。それぞれが常にいくつか持つようにしていたら安心です。魔法収納の中は時間が経過しませんので食物もほぼ半永久的に保存できますしね。





 私がユキ様の元へたどり着いて暫くしたところでダグラスが戻りました。その瞬間ユキ様はダグラスに飛びつき必死にしがみついていらっしゃいました。

 ……やはり不安や恐怖を大変我慢していらしたのでしょう。

 ユキ様はダグラスを待つ間に涙を見せることもなく、怖いと口にされることもありませんでした。ただただダグラスと揃いの指輪とブレスレットを撫でて静かに待っていたのです。おそらくそれでダグラスを思い出して耐え忍んでいたのでしょう。

 そんなユキ様を見て陛下がダグラスの夜間業務を暫く免除し、ユキ様の元へついているよう指示されたのは本当にありがたいものでした。

 ユキ様はおそらく暫くお一人では寝られないでしょう。悪い夢に魘されることもあるかもしれません。初めて向けられた殺意に平常でなどいられないはずです。

 なので夜はずっとダグラスが付いているのは安心できます。護衛としても申し分なく、ユキ様の安定剤としても1番の適任です。


 陛下のお部屋を辞し、ユキ様のお部屋へ向かう最中にユキ様はダグラスの腕のなかでお眠りになられました。その表情は苦しげな様子もなく、お顔色も大分良くなっていましたのでやはりユキ様にはダグラスが必要なのだと再認識いたしました。


「ユキ様は何か飲まれたか?」

「ええ。私が向かうまでに陛下が出されたお茶を警戒しつつも1杯、私が向かってからは私がお出ししたレモン水を2杯ほど飲まれましたよ」

 ユキ様を起こさぬよう小声で会話をしつつユキ様のお部屋へ向かいます。

「そうか……固形物は?」

「食欲がないようで何も。ご夕食はどうでしょうね……」

「少しでも食べられるといいのだが……」

「……私どもが出したものなら安心とおっしゃっていましたが、どうでしょうね。せめてスープだけでものんでいただけたら良いのですが……」

 あんなことがあったのです。いくら安心だと問題なく口にできるとしても、食欲が暫く戻らない可能性だって考えられます。お飲み物は問題なく飲めるようですので私どもが出したものは口にできるのは確かなのでしょうが……

「それも無理そうならば暫くは点滴、か?」

 この世界の治療方といえば殆どが魔法ですが、薬も存在します。栄養を補充するための点滴もございます。治癒師は数が少ない上、治癒魔法に使う魔力が膨大なこともありそれを補うための薬剤が存在するのです。ユキ様は魔法だけだとお思いだったようでそのことに大層驚かれていらっしゃいましたが。

「しかし今のユキ様はそれも警戒なさりそうですよ。むしろそちらの方が直接血管内に入れるのですから怖がられるでしょう」

「そうか……何か食べられたらいいのだが、な」

「そうですね……それが一番です」

 どうしても食欲が戻られないようでしたら、栄養満点のお飲み物だけでも飲んでいただきましょう。流石にご無理をさせてまで固形物を食べていただくわけにはまいりませんからね。



 そうして私どもが心配していたお食事でしたがユキ様は問題なくご夕食を食べられました。むしろご昼食をあまり食べられなかったからかいつもよりも食欲があったようで、好物ばかりを集めたとはいえ僅かばかり多めにご用意したご夕食を完食なさいました。

 そのことに私とダグラスがどれほど安堵したか……

 とりあえずお食事に関しては解決です。あとはユキ様のお心のケアですね……これはダグラスにしか出来ないでしょう。

 そちらはダグラスに任せ、私はもう一度愚かな貴族やその他力のある組織などを探りましょう。今回毒の混入を許してしまったのは私の調査が甘かった故に他なりません。二度とこんなことを許さないためにもより一層調査に力を入れねばなりません。

 ……本来ならば毒の混入を許してしまった我々ユキ様専属は罰されて然るべきなのですが……そうなればユキ様に新たな人間をつけることになりますし、周りを警戒せねばならない現在にそれはまずいので我々への罰は何もないのでしょう。
 それに何よりユキ様がそれを望まれないでしょうから、そのような事態にならぬよう陛下方が抑えてくださるのでしょう。

 今回の件で我々は周囲から大きな批判を受けることになるでしょうが、甘んじて受け入れます。ユキ様が安心できることが第一なのですから。

 ……それに批判を受けることで我々が受ける苦労など今回のことに対するユキ様の恐怖や不安に比べたらなんでもないことですから。
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