あの人と。

Haru.

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本編

103 甘やかし

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「誰も巻き込まずに獣人を解放するにはどうしたらいいんだろう……」

 あの舞踏会では獣人への見方を変えた人もいるらしい。神様に聞いたから確かなはずだ。だけど、あの時の僕の行動によって侯爵は僕の毒殺を目論み、それに神官は巻き込まれた。少なからず神官の人生を変えてしまった。

 獣人を解放し、権利を回復させるのは僕の望みであるけれど、それによって他の誰かが傷つくのは本意ではない。ましてや人生を変えてしまうなど……それがいい意味でならまだしも、ね。

 リスクなしに何かを成すのは無理だとよく言うけれど、これはちょっと容認しかねる。

「あの時のユキの行動はけして間違っていなかった。時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり考えていけばいい」

「うん……」

 事件のことを聞いて自分が思っているよりも気分が落ちているのか考えがまとまらないし、今はもう何も考えずにゆっくりしよう。

 ダグが言うように、時間はたっぷりあるのだから。




「甘やかして……?」

 僕の1番の薬はダグの甘やかしだ。

 両手を伸ばせば優しく微笑んでそっと抱き上げてくれる愛しい人。

「いくらでも甘やかしてやろう。どうする、少し寝るか?」

「……その間にいなくなったりしない?」

「しない。ずっとユキの側にいる」

「じゃあ寝る……ダグ、このまま寝転がって?」

「了解」

 こういう時、いつもは座ったまま寝るけれど今日はなんとなく寝転がったダグの上で寝てみたくなった。

 抱き上げてもらったままダグにカウチに寝転んでもらい、僕もその上に寝転ぶ。

「重くない?」

「ああ、軽すぎるくらいだ」

「このまま寝ても大丈夫?」

「もちろん」

「じゃあおやすみなさい……」

「ああ、おやすみ」

 このまま寝てもいいか念入りに確認してからそっと目を閉じた。ダグの胸にピタリと頬をつけるようにするととくり、とくりとダグの鼓動が響き、心地よい眠りが僕を誘う。

 そのまま睡魔に抗うことなく意識を深い海へ沈める間際にふわりと柔らかな布がかけられた感触がした。リディアが寒くないようにとブランケットをかけてくれたのだろう。

 夏用の薄手のブランケットの中で優しく抱きしめられるのを感じながら心地よい眠りについたのだった。













「ユキ、そろそろお昼だぞ」

「ん、う……? おひる……」

 もうそんな時間……?

 ポンポンと背中を叩いて起きるよう促してくるけれど眠い。なんでこんなにって思うくらい眠い……

「軽くでいいから食べろ。なんなら俺が食べさせてやろう」

 ……それってあーん? ……いいかも。

「おきる……」

「くっくっ……そんなに食べさせてほしいのか?」

「ち、違うもん」

 違わないけど。

「なら自分で食べるか?」

「……食べさせてくれないの?」

 甘やかしてくれるんでしょう?

 少し拗ね気味になりながらじーっと目を見つめて言えばビシリと固まったダグ。それから少し苦笑を浮かべて。

「……しょうがないな、食べさせてやる」

 やったぁ!! きっといつもの倍は美味しく感じるよ!!!


「お二人ともお話が纏まったのならこちらへどうぞ。シルバーは1組でいいですか?」

 声がした方を見ればリディアがいつものテーブルにお昼を用意してくれていた。たしかに僕がダグに食べさせてもらうなら僕の分のシルバーはいらないや。

「そうだな、1組でいい。椅子も一脚でいいだろう」

「僕ダグの膝で食べるの?」

「俺が食べさせるのならばその方が都合がいいだろう?」

「そっか」

 椅子が離れてたら面倒か。僕たち身長違いすぎて僕が膝に座ってもダグの視界の邪魔にはならないし。

 まだダグの上で寝転がっていた僕をひょいと抱き上げそのままテーブルへ連れて行ってくれ、椅子に座った自身の上に僕を座らせるとまずは冷たいグラスを渡してくる。

「ほら、水分をとっておけ」

「はぁい」

 そこそこ喉も渇いていたため素直に飲み干せば眠気もバッチリとれて気分も爽快。なんで今この状況になってるんだっけ、って一瞬思ったけどまぁいっか、ってなったから降りることはしない。僕は甘えたいのです。

「何から食べる?」

「サラダかなぁ」

「ん。ユキは野菜もちゃんと食べるな」

 僕の口にサラダを運び、僕が咀嚼している間にダグは三口は吸い込んだ。……噛んでる?

 僕はちゃんと噛んでから飲み込んでから口を開く。

「野菜が好きなわけではないよ? 身体のためには食べないとって思うだけで」

 お肉か野菜かって言われたらお肉の方が好き。よく意外って言われるけどお肉が好き。特に牛さんが大好きです!!

「そうか、でも食べないより全然いいだろう」

「まぁそうかなぁ」

 二口目を運ばれまたゆっくり咀嚼する。ダグは相変わらず噛んでるのかわからない速度で食べていく。

 そんなことを繰り返してメインのチーズリゾットになった時僕は憤死した。

「ん、少し熱いか。少し待てよ」

「へ……」

 熱いから冷ますのはわかりますが……あぅ、ダグが僕用に自分が食べる時より少なめに掬ったリゾットを息を吹きかけて冷まして……ま、魔法とかではなく……?! 前に氷出してたじゃん……!

 そのままいい感じに冷めたのであろうリゾットを僕の口の前に差し出してきて……

「食べないのか?」

「た、食べる……」

 あ、味わからない……! 美味しいんだろうけども……!

 でもおかげさまで舌を火傷することもなくちょうどいい温度です、はい……うぅ、これは恥ずかしい……!!

「顔真っ赤だぞ? まだ熱かったか?」

 心配そうに覗き込むダグに必死に首を振って否定する。

「そうか? ゆっくり食べろよ。まだまだあるからな」

 正直もう胸はいっぱいですけどね……!


 そんなこんなで恥ずかしい思いをしながらリゾットも食べさせてもらい、最後にデザートのケーキはまた食べさせてもらったり逆に僕がダグに食べさせたりしてゆっくりいちゃいちゃした。

 リゾットは恥ずかしかったけど食べさせてもらうのちょっと癖になるかもしれない。

 ……だめだ、僕のダメ人間度がどんどん高くなっている……! 着替えさせてもらってお風呂入れてもらって食べさせてまでもらうなんてだめだ……!

 ……で、でもたまにだけならいいよ、ね……?



「たまにはこういうのもいいかもしれないな」

「う、うん!!」

 まさかダグも同じように思ってくれてたなんて! これならたまには食べさせてもらっていいですよね?!







「昼からは何をするんだ?」

「うーん、特にやりたいことはないなぁ……」

「ふむ……ならボードゲームでもするか?」

「ボードゲーム?」

 それはこっちに来てからやったことないや。

「戦略系のゲームだからユキは興味がないかと思っていたんだが、暇ならやってみるか?」

「やる!」

 どんなのかなってワクワクしながらリディアが用意してくれるのを待っていると、用途不明の真っ黒な板といくつかの駒が並べられた。

 どうするのかと思って見ていると、ダグが板のどこかをいじった瞬間に板の上にミニマムサイズの平原が現れた。

「どうやるの??」

 全く皆目見当もつかない。

「こっちとこっち、両側にフィールドがあるのがわかるか。ここにそれぞれの手持ちの駒を配置して闘わせるんだ。最初から全ての駒を並べてもよし、後から追加してもよし。自分の駒全てが倒されたら負けだ」

 示されたとこを見てみるとたしかに対戦者が向かい合うのであろう両側に小さな板がひっついている。

 なるほど、同じ戦力を持っている場合にいかに相手を倒すか考えるシュミレーションゲームってことか。結構本格的で面白そうかもしれない。

「やってみるか? 実際に闘わせるとは言っても血は流れないし子供でもできる遊びだからユキも問題なくできると思うぞ」

 流血は少し懸念していたけれどゲームなだけあってそれは心配ないらしい。

「やってみたい。でもこれダグに勝てるわけなさそう……」

 部隊長に勝つとか素人には無理ではないでしょうか。戦略のせの字も知りませんよ僕……

「はは、大丈夫だ。流石に手加減はするさ」

「むぅ……絶対手加減なしで戦えるようになるからね!」

 手加減されるのもそれはそれで悔しいものがあるのです!

「それは楽しみだ。とりあえず一度やってみるか」

 とりあえずやってみようと駒の説明を受ける。駒は全部で7種類。駒1つあたり50人で、軽歩兵が6つ、重歩兵が4つ、軽騎兵が3つ、重騎兵が1つ、槍兵が2つ、弓兵が2つ、投石兵が2つの計20駒1000人を動かすことになる。

 動かすタイミングや並ばせ方も結構細かく設定できて奥が深そうなゲームだ。


 僕も結構頑張ったけれど、やっぱりプロに勝つことなんてできなくて。少し食らいついたかと思えばまたやられてを繰り返して結局僕は一勝もできなかった。10戦以上やったのに……

「むぅ、悔しい……」

「はは、流石に俺も負けてはいられないからな」

「絶対いつか勝つ……!」

「楽しみにしておこう」

 大分はまってしまった僕はまた対戦することを約束させて今日のところはおしまいにした。結構頭を使ったようで思ったより疲れた。すかさずリディアが甘いお茶を出してくれて少し回復したけどね。

 ぐてっとダグにもたれかかりながら勝つ方法はないものかと思案する僕でした。
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