あの人と。

Haru.

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After Story

side.ダグラス

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 ユキがずっと楽しみにしていた騎士団の入団式。ここのところ特に体調に変化はなかったし、昨日の夜は少しソワソワとしつつも抱きしめて頭を撫でているうちにすぐに眠りに落ちたから問題なくユキにも入団式を見せてやれるだろうと思っていたんだが……

 自力で目を覚ましたユキはどう見ても顔は赤く火照り、目もとろりと潤んでいた。明らかに熱がある。それなのに本人は一瞬首を傾げたあと何事もなかったかのようにベッドから降りようとするものだから捕まえて額に手を当てれば案の定熱かった。

 あれだけ楽しみにしていたユキには悪いが、こうなったら入団式を見に行かせるわけにはいかない。今の状態のユキを冬の寒空の下へ出してみろ。確実に悪化する。それでなくとも毎回の如く高い熱に魘されるんだ。外出を許可などできない。

 正直俺も今日はユキについていてやりたいが、第一部隊隊長である以上、入団式を欠席することはできない。取り敢えず昼には一度様子を見に戻ることにし、ユキの世話を一通りこなしたあと後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。



 先に治癒師にユキを診るようにと頼んでから打ち合わせのためにと団長の執務室へ着くと既に他部隊の隊長は集まっていた。

「申し訳ありません、遅れました」

 時間にはまだ少し余裕があったが、1番最後に来た者として謝罪を述べる。

「いや、まだ余裕があるから問題ない。ユキは大丈夫なのか?」

 ユキが熱を出したことはリディアに連絡済みの為、団長も知っていたのだろう。

「何かあれば呼ぶようにとラギアスに伝えてきましたので。一度昼には様子を見に戻ります」

「おう、そうしろ。んじゃ、打ち合わせを始めるとすっかね」

 そうして打ち合わせが始まったが、やることといえば最終確認のみ。ここ数年部隊長は変わっていないために入団式での部隊長の動きを知らない者もいない。一通り流れを確認したらすぐに打ち合わせは終わった。

 この後、このままこの部屋にいるメンバーは同時に入団式は向かう為、そのまま待機していると連絡石が震えた。おそらくラギアスだろうと、団長に断ってから部屋の端に移動し、応答するとやはり相手はラギアスだった。

「ダグラスさん、打ち合わせは終わりましたか」

「ああ、終わった」

「ならばご報告を。ユキ様はやはり風邪のようです。薬はいつも通りの量を毎食後に、もしも食事が不可能なら胃薬を共に服用。また、2食続けて食事が不可能なら軽い栄養剤を投与するか判断するため連絡するようにとのことです」

 食事か……朝はまだ食べられたが、今までの傾向でいくと昼はまだしも夜はおそらく食べられなくなるだろう。

「わかった。ユキの様子はどうだ」

「治癒師が来る前、一度俺がユキ様を入団式にお連れすることを望まれましたが、説得すると諦めたようです。少し眠りにくそうでしたのでダグラスさんのシャツを渡し、現在はシャツで包んだクマのぬいぐるみと共にお休みになられています」

 ……ユキならやりかねないと思ったが本当にラギアスに連れて行かせようとするとは……いや、諦めたのなら構わないのだが、頭はいいはずなのに何故いまだに自分の体調のことを理解しないのだろうか。そういうところが心配になるのだが……

「わかった。また何かあれば連絡しろ」

「はい。では失礼します」

「ああ」

 連絡石をしまい、元の位置へ戻ると団長が時計を確認した。丁度時間のようだ。

「うし、行くか」

 団長を先頭に執務室を出る。わざと仰々しくやる入団式は団長をはじめとした騎士団の指揮系統たる俺達の威厳を新入団員に知らしめる為だ。上に立つ者が舐められては組織として機能しなくなるから最初の印象付けは大事なことなんだ。



************



 入団式は例年通り何事もなく終わった。わざと仰々しくやるが、入団式の内容は大したことはない。勲章の授与式の方がもっと大掛かりであり、重要な式典だ。入団というのはあくまでも始まりにすぎず、その先の活躍こそが騎士として重要なことだからな。

 入団式では団長と王族の代表1人から激励の言葉が述べられ、新入団員が各部隊に配属される。特に模擬試合などもなく、正直見どころもこれといってない行事だ。……ユキは本当にこれを見たかったのだろうかとも思うが、ユキにとっては面白いかどうかは別なのだろうな。ただ友人であるサダンの記念すべき日を見届けたかったのだろう。

 式が終われば各部隊に分かれて顔合わせや今後の任務についてあらかた決めなくてはならない。俺も隊員を引き連れて会議室に入った。

「全員座れ。新人は前の方だ。……よし、全員名前と所属年数を言っていけ。新人は一回で覚えろとは言わないが、なるべく覚える努力はするように。ここにいるのは全員ではないからな」

 出来ることならこの顔合わせも放り出してユキの様子を見に行きたいが、そうもいかない。連携が必要とされる職務についている以上、お互いに顔を覚えておくことは必要だからな。

 全員名前を言ったところで新入隊員に教育係として古参の隊員をあてがっていく。もちろん古参の隊員には事前に通達済みだ。

「これから1ヶ月の間はそれぞれの教育係の元で同じ任務をこなし、覚えていくことになる。それぞれの任務や訓練日については昼食後に説明する。またここに集合しろ。解散!」

 バラバラと出て行く隊員達と共に俺も会議室を後にし、食堂へ向かう騎士の流れに逆らって城へ向かう。もちろんユキの様子を見る為だ。


 部屋へ着き、眠るユキの様子を見ると朝よりも辛そうに見えた。頭を撫でつつ体温を確認してみてもやはり朝よりも熱かった。出来ることなら変わってやりたい。

 そうして撫でているとユキは目を覚ましたが、ぼんやりとした様子で目も潤んでいた。

「だぐ……?」

「ああ。昼になったから一度戻ってきた。食べられそうか?」

「……ちょっと、だけ」

 やはり朝より辛いのか口数も少なく、目もあまり力が入っていない。とりあえず食べれるうちに少しでも食べさせてやろうと、膝の上に乗せてゆっくりと食べさせるといつもよりは確実に少なかったがある程度の量は食べられたようだ。それに安堵し薬を飲ませてからベッドに寝かせると、まるで行って欲しくないと、寂しいと訴えるかのような表情で見られて俺は昼からの打ち合わせはもう良いのではないかとすら思えた。

 ……いや、ここで俺が仕事に行かなければユキは自分のせいで仕事を休ませてしまったと、気に病んでしまう。ならば手早く終わらせてくる以外に俺が選ぶ道はない。ラギアスにはユキの容態が変わればすぐに俺と治癒師を呼ぶように言付け、急いで会議室へと戻った。


 ユキのことが気がかりでつい苛立ちが表に出ていたのだろう。隊員達は何かを察したのかいつも以上に手短に済むようにと動いてくれた。いつもなら希望者が多くて揉めるユキの部屋の前の夜間警護も今回はすぐに決まった。そうしてあとは情報交換をして終わりだという時、連絡石が震えた。ラギアスは無駄なことで連絡をしてこない。ということはつまりこうして連絡してきたということはユキに何かあったということだ。

「すまない。──何かあったか」

「ユキ様が戻されました! 治癒師も呼びましたが、顔色も良くありません」

「何!? わかった、すぐ戻る。……すまないが──」

「謝る必要はありません。あとは情報交換くらいでしょう。後で書類に纏めてお渡しします。神子様を守ることが我ら騎士の誇り。今の神子様には隊長が必要なのでしょうから、すぐに向かって下さい」

「悪い、助かる。いつも通り頼んだぞ」

「はっ!」

 我ながら良い部下を持ったものだ。後日何か褒美をやろうと考えながら、出せる限りの速さでユキの待つ部屋へと急いだ。

 ……どうやら隊員達はむしろ俺の機嫌が爆発する前にいなくなったことでむしろやりやすくなって良かったと思っていたようだが。結果として俺はユキの元へ帰れたのだからよしとしよう。
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