あの人と。

Haru.

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After Story

閑話 side.ダグラス*バレンタイン小話

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 ガチャリと扉が開く音が聞こえ、音の方へ顔を向けるとミカコさんがやって来たところだった。キョロリと部屋を見渡し、首を傾げるミカコさんはユキとよく似ていた。

「あら、ユキちゃんいないのねえ」

「今は厨房の方に行っています。なぜか俺はついてこないように言われ、こうして書類を処理していたところです」

「あらあら、その様子じゃお休みなのにユキちゃんたらダグラスちゃんをほったらかしていっちゃったのね」

 そう、今日は休みだったためユキとのんびりしようと思っていたのだが、ユキはやけに張り切った様子でラギアスを引っ張って厨房へ行ってしまった。たしかに料理が下手な自覚はあるし、今日は万に一つも俺に手を出して欲しくないような難しいものに挑戦したいのかと考えたが……除け者は少し面白くない。

 とりあえずユキよりもさらに小柄なミカコさんを立たせたままではいけないとカウチを勧め、リディアから預かっている茶と菓子を出した。ミカコさんは嬉しそうに微笑んで茶を味わうように飲んだ。やはり仕草までユキとそっくりだ。

「ふふ、でもユキちゃんを怒らないであげて? あのこ、きっと明日のための準備をしているのよ」

「明日は特に予定はありませんが……」

 何かの記念日でもなければ誕生日というわけでも休日というわけでもない。なんの準備だろうか。

「その様子じゃこっちじゃバレンタインの文化はないのねぇ」

「バレ……?」

 聞いたことがないが、ミカコさんの様子ではどうやら有名な文化らしい。ニホンの文化だろうか?

「バレンタインはね、女性から好きな男性にチョコレートを贈って想いを伝える日なの。まぁこれは日本独自のものなのだけれど。他の国だと男性から女性に贈り物をして愛を伝えるのよ」

「……そういえば去年の今頃にもユキが俺にチョコレートを作ってくれたのですが」

 あれはいい思い出だな。ユキが真っ赤になりながらチョコレートを口に含んだ状態でキスをしてきて……あの時のユキはたまらなく可愛かった。つい恥ずかしがるユキを言いくるめて殆どのチョコレートを口移しで食べたものだ。

「あらあら、バレンタインのことは言わずともダグラスちゃんにチョコレートを渡して満足したかったのねぇ。いつもより凝ったチョコレートだったんじゃないかしら?」

「そうですね。店で売られていてもおかしくない出来栄えで、味も最高でした。たしかにいつものユキの菓子より手が込んでいましたね」

 何気なく作ったのだと思っていたが……そうか、バレンタインという文化にちなんであのチョコレートで俺への想いを……

「ふふ、ユキちゃんたら張り切っちゃったのね。きっとユキちゃんのことだから明日もバレンタインのことは言わずにチョコレートのお菓子だけ差し出してくるでしょうね」

「そうですね、ユキなら教えてくれないでしょう。教えてくださってありがとうございます。今ならまだ花束くらいなら用意できます」

 男から女性へプレゼントを贈る国があったというならば、ユキの旦那の俺がユキにプレゼントを贈ってもおかしくないだろう? もっと早く知っていればユキによく似合う髪飾りや服を手配できたが、流石に今回は時間がない。ユキの手の込んだ菓子に対して花束は劣るが……それでも何もしないと言う選択肢はないからな。他に何か用意できるものがあればいいのだが……

「ふふ、きっとユキちゃんは喜ぶわ。メッセージカードも付けたりなんてしたらユキちゃんのきっと嬉しくて泣いちゃうわね」

「いいことを聞きました。花とメッセージカードをすぐに用意します」

 そうか、手紙か。ユキならきっととてつもなく喜んでくれる。普段から想いを伝えるようにしているが、たまには手紙として形に残すのも良いだろう。

「なら準備もあるだろうし私はもう帰るわね」

「ユキに何か用があったのでは?」

「様子を見に来ただけだから気にしないで。近いうちにまた来るわ」

「わかりました。お待ちしています」

 ミカコさんを見送り、俺は早速動き出した。花束はユキの好きなフェリアを中心としたものにしよう。温室から摘んでくるか。そのまま温室のテーブルでメッセージカードを書いてしまえばユキが早く戻って来てしまっても見られることはないな。

 温室に向かい、フェリアとフェリアに合うユキが好んでいる花を見繕っていくつか切り、手早く花束を作る。思ったより大きくなってしまったが良いだろう。きっと喜んでくれるはずだ。結構な量を切り取ってしまったため後で温室の手入れを手配しておこう。

 メッセージは……日頃からのユキへの想いを綴ろう。こうして改まるのは気恥ずかしくもあるが、これを読んだ時のユキを想像しながら書けばとあっという間に書き上がった。

 急拵えではあるが用意は整ったため、花束とメッセージカードを魔法収納に入れて部屋へ戻れば少ししてからユキも戻ってきた。可愛い笑みを浮かべながら寄ってきたユキを抱き上げるとふわりとチョコレートの香りがした。明日が楽しみだな。


**********


 翌日、終業時間になり報告書を手早く提出してから部屋へ戻った俺はユキと共に夕食を食べ、そして風呂も共に入った。風呂から上がって部屋に戻ればユキはいそいそと茶の用意を始め、俺はそんなユキの後ろに立って後ろ手に花束とメッセージカードを魔法収納から取り出す。

「ユキ」

「なぁに?」

 振り返ったユキの目の前に花束を差し出せばユキは目を見開いて固まった。

「ハッピーバレンタイン、ユキ。愛してるよ」

 昨日ミカコさんに聞いていた言葉を言えばユキはおずおずと花束を受け取って破顔した。その表情があまりにも綺麗で、バレンタインの存在を教えてくれたミカコさんに感謝した。

「知ってたの?」

「昨日ミカコさんが教えてくれたんだ。去年はそうと知らずすまなかった。今年ももっと早く知っていればもっといい贈り物を用意したんだが……時間がなくて花束とメッセージカードになってしまった」

「そんな、嬉しいよ。僕、ダグにチョコレートのお菓子食べてもらうだけで満足だったのに……すごく嬉しい。ありがとう、ダグ」

 大切そうに花束を抱きしめて、笑いながら涙を流すユキを抱きしめればすり、と擦り寄られてたまらなくなる。他にも何かユキがこっそり楽しんでいる行事があるのかもしれないな。今度ミカコさん達にニホンの文化を詳しく聞いておこう。夫婦で楽しめる行事があるなら俺だってユキを喜ばせたいからな。

「ダグから貰えるなんて思ってなかったからすごく嬉しい。僕からのバレンタインも受け取ってくれる?」

「ああ、勿論だ。昨日ミカコさんにバレンタインのことを聞いてから楽しみで仕方がなかったんだ」

 ユキが俺への想いを込めたチョコレートを作っていると考えたら楽しみになるのも仕方がないだろう?

「ふふ、一緒に食べよ! 今年は定番のガトーショコラと、マカロンとトリュフを作ったんだ」

「どれも美味そうだ。流石ユキだな」

 毎回ながらユキの作る菓子はどれも一流の料理人が作ったものと比べても遜色がないほどに見た目も味も良い。ユキは凝ったものは作れないと言っているが、俺からしたらどれもこれも凝っているようにしか見えない。

「えへへ、どんどん食べてね」

 その言葉に甘えて一先ずガトーショコラ一切れ、マカロン2個、トリュフを3つほど食べてみればどれもこれも俺好みの甘さで作られていてたまらなく美味かった。

 そこまで食べてからユキが動いていないことに気が付いて様子をみれば、俺が渡したメッセージカードを読みながら幸せそうに笑っていた。そんなユキがあまりにも可愛くて、そっとキスをするとユキは照れたように笑った。

 ああ、幸せだ。愛しい存在が笑っている幸せを噛み締めながら、俺はまたひとつキスを落としたのだった。


──────────
2020.02.14 作者の記憶違いにより多少変更しています。
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