ちゃんとしたい私たち

篠宮華

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関係

1.いつだって

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 明日は休みだ。そうでなければ、こんな風になることはない。ただ、帰路のことまで考えていなかったのはよくなかった。
 そんな時。

「起きろ若菜ー。織井くん来たよ」

 その声に、ゆるゆると瞼を開ける。お酒に弱いわけではないのだけれど、ちょっと飲み過ぎた。ボックス席の固い背凭れに背中を預けたまま、ひらひらと手を振ると、迷わずこちらへ近付いてきた彼は、私を見ながら友人に謝罪する。

「加藤さん、ごめんね」
「いーえ。織井くんが謝るところじゃないでしょ。むしろ 急に連絡しちゃってこっちこそ申し訳ないわ」
「いや、全然。そもそもこんな酔っ払ってぐだぐだになってる人、女子に頼めないよ」

 困ったように笑いながら、「若菜のことは俺が責任もって送るから」と、身長190センチくらいある体を小さく屈め、しゃがみ込んで私の顔を覗き込む。
 加藤さんと呼ばれたのは、一緒に飲んでいた友人 加藤七瀬かとうななせ。同じ高校の同じクラスに所属していた彼女とは卒業してからも仲良くしていて、今日は久しぶりに飲もうということになった。近況報告と言いつつ、話したかったことは、最近周りがどんどん結婚していくからご祝儀貧乏だとか、両親からの圧もしんどいだとか、距離感の近い同僚がどうしても苦手だとか、結局8割は愚痴なのだけど。
 七瀬が小さく溜息をついてから微笑み、腕を組む。

「…じゃあさ、こういうとき、織井くんじゃなくて他の男の子に頼むとかってなったらどう?」
「え?」
「織井くんって結局若菜とどうなりたいの?」

 七瀬の質問に宏隆は立ち上がり、私に背を向ける。
 何やら二人でごにょごにょ話しているけれど、あまりよく聞こえない。ついでに言うと、昔から変わらない見慣れた顔を見て安心したせいか、ますます眠くなってきた。
 いっそ寝てしまおうか。宏隆は背が高くて意外と力持ちだから、私のことも運んでくれそうだ。

 幼馴染みの織井宏隆おりいひろたかとは、小学校入学前からの付き合いだ。それからは小中高大とずっと一緒。志望大学まで同じだと分かったときにはさすがに驚いたけれど、とても仲がよかった親同士がすごく喜んでいたから、まあいいか と気にするのをやめた。まさに腐れ縁。
(…ちなみに、全部偶然だと言う彼を、一度だけ問い詰めたことがあるのだけれど「でも、部活とか職場とかは被ってないよ」と、何の問題もないだろうと言いたげな様子で返されて、まあそれもそうかと納得した。)

 しかも 宏隆は、転職したとか独立したとかで、1年前に私が今住んでいるアパートの隣の部屋に越してきた。ちょこちょこ残業のある私と違い、プログラマーをやっている彼は、在宅での仕事が多く、通勤時間がほぼない分、困った時などもいろいろと世話を焼いてくれる。部屋を行き来するだけでなく、彼の作ってくれたご飯を食べたり、夜中まで一緒に映画を見たりゲームをしたりすることもある。
 そのせいもあり今回のような、いざという時のお迎え係のようになっているようなところもある。
 社会人になってから2年目。
 勉強もスポーツも、とにかく器用でなんでもできる。でもそれをひけらかすことは一切なく、いつも私を気遣ってくれる。
 居心地がよくて、それはもうまるで……

 すると。

「あ、寝そうになってる!こら、若菜!」

 肩を強めに叩かれて、意識が覚醒する。

「…んー」
「織井くん来たからもう行くね!また連絡するから。元気出して!」
「ありがとぉー」

 少し焦ったように去っていく七瀬を見送ってから、よっこらしょと立ち上がる。よろめいた私の腕を、宏隆が横から支えるように掴んだ。

「帰ろうか。ちゃんと歩ける?」
「多分歩ける」
「そっか。えらいえらい」

 まるであやすように言われてちょっと恥ずかしくなった私は、甘えてばかりはいられないとようやく少し気を引き締める。

 引っ張られるように店の外に出る。
 夜風が気持ちよくて、でもちょっと冷える。デスクワークが多いとはいえ、ちゃんと衣替えをしなくてはいけない。上着を持ってくればよかった。
 そんなことを考えていると、肩に大きなパーカーがかけられた。思わず隣を見ると、「寒そうだったから」と当たり前のように言う。
 こうやっていつも宏隆は、事あるごとに先回りして、私のことを助けてくれる。
 誰よりも頼りになる……幼馴染み。
 素直にお礼を言うと、「俺の役目だから」と笑いながら腕を引かれたので、大人しく歩き始めることにした。


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