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彼と彼女の痴話喧嘩
⑥触れたくて仕方がないので
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結局、二人でいろいろ話をした結果、「今はとりあえず、できることをきちんとやろう」ということになり、午後の授業にも途中から参加して、最後の時間まで勉強した。美優には「あれ!もういいの?ちゃんと仲直りできた?」とあけすけに尋ねられたので、丁重にお礼を言っておいた。
そんなわけで「初めてのさぼり」は「初めての遅刻」になった。基本的に、お互い真面目なのだ。
帰り道。
二人で手を繋いで並んで歩きながら、ここ最近の話をする。
先輩が新しく始めたバイトは、放課後に小学生が自習をしにやってくる塾のような場所で、受付や掃除などをするものらしい。本当は勉強を教える方もやりたいけれど、流石に大学生以上でないと講師としては採用できないと言われているそうだ。でも先輩は「知り合いがやってるとこだから割とシフトの融通も利くし、教育系の仕事に興味あるからいいんだけど」などと言う。
今後のことをちゃんと考えている先輩に比べ、なんだかまだふわふわしている自分の進路に少し不安になるけれど、今はとにかく勉強あるのみ。先輩の計画を聞いて、モチベーションも保てそうな気がしている。
すると先輩が尋ねる。
「今日、この後は?」
「何もないです。あ、でもちゃんと勉強します!」
「じゃあうち寄ってく?勉強、見てあげるよ」
「えっ、ほんとですか?やった!」
先輩の家で勉強するのは久しぶりだ。
予備校の先生に質問に行くよりも聞きやすいし、何より先輩の解説はわかりやすい。だから教育系のお仕事は向いていると思う。
「今日は確か弟も部活で遅いから静かに勉強できるよ」
梓先輩には3つ違いの弟さんがいる。何度か会ったことがあるけれど、割とクールな感じの梓先輩とはタイプが違って、賑やかで可愛らしい少年のような雰囲気だったように記憶している。
しかし、そこで思い至る。ご両親もいつも結構遅くまでお仕事をしていることが多いから、これはもしかして。
大好きな先輩の匂いがするお部屋の中で、二人きりで、静かな空間で。
仲直りしたばかりで、何時間か前までくっついていた熱が燻っているのに、まともに勉強なんてできるのだろうか。
隣を見上げると、たまたま同じようにこちらを見ていた視線とぶつかった。
「あの…」
「ん?」
「…勉強見てもらいたい気持ちもすごくあるんですけど、それ以上になんていうか…」
先輩はいつももごもごしている私の言葉をちゃんと待ってくれるから、どうにかこうにか素直に伝える。
「おうちに先輩と二人きりだから、ドキドキしちゃって集中できないかもって…ちょっとだけ思っちゃった」
「…あー…そうか、確かにね」
先輩はすぐに合点がいったように天を仰ぎ、「俺も手を出さない自信はないかも」と笑う。
それならもう。
やる気になったはずなのに、すぐに決心が揺らいでしまうけれど、今日は特別だと自分を正当化する。
「場所変える?どっか喫茶店でも入る?」
「ううん、先輩のお部屋、行きたいです」
「……勉強は?」
「勉強も…するけど、それ以外も」
ー ちゃんと触れ合いたい。
視線に気持ちを乗せるように大好きな人を見上げると、少し驚いたような表情を浮かべてから、心底嬉しそうに笑った彼が耳元で囁くように尋ねてくる。
「…それってお誘いだと思っていい?」
「……恥ずかしいから 先輩にお任せします」
「あ、ずるいなーそれ」
先輩はそう言いながら「ちゃんと、しようね。勉強もそれ以外も」と繋いだ手を楽しそうに揺らした。
夕陽が溶けるような空を眺めながら歩く道は、なんだかいつもよりもドキドキした。
そんなわけで「初めてのさぼり」は「初めての遅刻」になった。基本的に、お互い真面目なのだ。
帰り道。
二人で手を繋いで並んで歩きながら、ここ最近の話をする。
先輩が新しく始めたバイトは、放課後に小学生が自習をしにやってくる塾のような場所で、受付や掃除などをするものらしい。本当は勉強を教える方もやりたいけれど、流石に大学生以上でないと講師としては採用できないと言われているそうだ。でも先輩は「知り合いがやってるとこだから割とシフトの融通も利くし、教育系の仕事に興味あるからいいんだけど」などと言う。
今後のことをちゃんと考えている先輩に比べ、なんだかまだふわふわしている自分の進路に少し不安になるけれど、今はとにかく勉強あるのみ。先輩の計画を聞いて、モチベーションも保てそうな気がしている。
すると先輩が尋ねる。
「今日、この後は?」
「何もないです。あ、でもちゃんと勉強します!」
「じゃあうち寄ってく?勉強、見てあげるよ」
「えっ、ほんとですか?やった!」
先輩の家で勉強するのは久しぶりだ。
予備校の先生に質問に行くよりも聞きやすいし、何より先輩の解説はわかりやすい。だから教育系のお仕事は向いていると思う。
「今日は確か弟も部活で遅いから静かに勉強できるよ」
梓先輩には3つ違いの弟さんがいる。何度か会ったことがあるけれど、割とクールな感じの梓先輩とはタイプが違って、賑やかで可愛らしい少年のような雰囲気だったように記憶している。
しかし、そこで思い至る。ご両親もいつも結構遅くまでお仕事をしていることが多いから、これはもしかして。
大好きな先輩の匂いがするお部屋の中で、二人きりで、静かな空間で。
仲直りしたばかりで、何時間か前までくっついていた熱が燻っているのに、まともに勉強なんてできるのだろうか。
隣を見上げると、たまたま同じようにこちらを見ていた視線とぶつかった。
「あの…」
「ん?」
「…勉強見てもらいたい気持ちもすごくあるんですけど、それ以上になんていうか…」
先輩はいつももごもごしている私の言葉をちゃんと待ってくれるから、どうにかこうにか素直に伝える。
「おうちに先輩と二人きりだから、ドキドキしちゃって集中できないかもって…ちょっとだけ思っちゃった」
「…あー…そうか、確かにね」
先輩はすぐに合点がいったように天を仰ぎ、「俺も手を出さない自信はないかも」と笑う。
それならもう。
やる気になったはずなのに、すぐに決心が揺らいでしまうけれど、今日は特別だと自分を正当化する。
「場所変える?どっか喫茶店でも入る?」
「ううん、先輩のお部屋、行きたいです」
「……勉強は?」
「勉強も…するけど、それ以外も」
ー ちゃんと触れ合いたい。
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「…それってお誘いだと思っていい?」
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「あ、ずるいなーそれ」
先輩はそう言いながら「ちゃんと、しようね。勉強もそれ以外も」と繋いだ手を楽しそうに揺らした。
夕陽が溶けるような空を眺めながら歩く道は、なんだかいつもよりもドキドキした。
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