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「あの…」
「ん?」
「これで私がもし、『付き合います』って言ったら、それって元カレと同じになりません?」
「え、何?付き合ってくれるってこと?」
「いや、そうなったらあまりにも節操なし過ぎませんかっていう…」
「なんで?別に二股かけてるわけじゃないし全然よくない?俺、吉村がアイツとくっつく前から吉村のこと好きだったんだよ。あんなぽっと出との恋愛と一緒にされちゃ困る」
先輩は私がうじうじと悩み、躊躇っていることをあっさりと解決するようにそう言い放った。
「外で立ち話すんの寒い」と言われたので、とりあえず移動することにする。前と後ろではなく隣に並ぶと、薬指と小指だけを絡めるように手を繋がれた。なんだか、振り払いたくなくて、そのままにしておくと、先輩は何も言わずにゆっくりと歩き始める。
「私さっき、真面目に恋愛してたつもりって言ったんですけど」
「うん」
「真面目に恋愛するっていうのがどういうのなのかはよくわかんないんです」
「ははっ、確かに俺にもわかんねえわ」
私に歩幅を合わせて歩きながら繋いだ手を揺らす横顔を見つめる。
「でも今日いろいろ聞いて、考えて。なんだコイツって思われるかもしれないけど、澤田先輩とのこと、ちゃんと考えたくて」
「………ん?」
軽い女だと思われるかもしれない。もしかしたらまた急に別れを切り出されるかもしれない。でも、なぜかそれでもいいと思えた。
「付き合いたい」というより「隣にいたい」が近いような気はするのだけれど。
「何それ」
「何って…」
「吉村も俺のこと好きなの?」
「は、はい…まだ、これからもっと好きになれそうだけど…」
好きだ!と自信をもって頷くにはまだ時間が足りないと思った。これから仲を深めていく余地がたくさんあるし、深めていきたいという意欲もある。
しかし、先輩は口元に手を当てて「嘘だろ…ドッキリ的な何か…?」などと言うから、薬指と小指だけで繋がっていた手を、恋人繋ぎのように繋ぎ直してみる。すると、一瞬驚いたような気配の後、力強くぎゅうっと握り返された。
「……じゃあ付き合う?」
「…はい。よろしくお願いします」
「…っ……まじか…まじかー……!」
先輩は額に手を当てて天を仰ぐ。その声があまりにも嬉しそうで、なんだかこちらがきゅんとしてしまう。今にも繋いでいる手をぶんぶんと振り回し始めてしまいそうなくらいのテンションで、先輩は「すげー嬉しい」とはにかんだ。
「俺、さっきも言ったけど一途だから。もし万が一 浮気したり二股かけたりしたら殺して」
「嫌ですよ。変なこと言わないでください」
「大事にする。幸せにする。いっぱい話して、恋人っぽいこといろいろしてさ、真面目に恋愛しよう」
ふふっと笑いながら頷くと、先輩は「くっそ可愛いなまじで」と頭を抱えている。いつもと何も変わらない、なんならフラれた日の方が気合いが入った格好やメイクだったのだけれど、そんな風に言われるとやっぱりちょっと嬉しい。先輩は私を慰める天才かもしれない。
とりあえず、さっき話題に上がったカフェに行ってみようということになり、ぶらぶら歩きながら話をする。
「私のこと、その…いつから好きだったんですか?」
「んー、補佐だった時期の後半くらいかな」
思っていたよりも前で驚いていると、先輩は続ける。
「俺は気にしないけど、一応直属の上司と部下みたいな感じだったしやりづらくなるだろうから、補佐から外れたら告ろうかなと思ってたら、補佐外れる直前に彼氏できたとか言われて絶望した」
「なんかすいません…」
「それはいい。謝るとこじゃない」
がやがやしていたところから、だんだんと人通りが減ってきている。カフェはこの先の曲がり角を曲がったところにある。
「はじめのうちは割とうまくいってるみたいだったし、まあ吉村が幸せならいいかと思ってたけど、最近はそうでもないのかなって時が増えてたから。まあ正直…狙ってた」
「…幸せじゃないように見えてました?」
「うん。俺吉村のことめっちゃ見てるからわかる」
自信満々にそう言われて、ちょっと怖いような、感心してしまうような複雑な気持ちになる。でも、そんな先輩だからこそ、いろいろな契約をどんどんとって来られるのかもしれないとも思う。
「あ、ここ…なんですけど」
目的地に辿り着いたけれど、なんだか様子がおかしい。真っ暗で人の気配がないのだ。
扉に近付くと、貼り紙が貼られているのに気付く。
「え!」
「なんて?」
「マスターが体調悪いから今日はお休みですって…」
「あーなるほどね。インフルとかかもな」
「ごめんなさい、よく確認すればよかったです」
時刻は8時過ぎだから他にも入れそうなお店はあるけれど、ここまで無駄に歩かせてしまって申し訳ない気持ちになる。しかし先輩はそんな私の頭をぽんぽんと撫でる。
「一緒に歩いてるだけで楽しいからいいよ。でも…」
でも?
何を言われるのか、その先の言葉を待つ。
「……とにかく、まだ帰したくなくてさ」
甘い視線を受け止めて、私はその場に立ち尽くす。
「そ、れは…」
「いや、大丈夫。悪い、返事に困るようなこと言って」
苦笑しながら手を繋ぎ直すその顔を見て、不思議な気持ちになってくる。結局、どんなときも、誰よりも私のことをちゃんと考えてくれているのだ。
「駅に戻るか」とスマホを弄り始めた先輩の上着の裾をつんと引っ張る。
「私も、まだ帰りたくないです」
人肌恋しいだけかもしれないと思われてしまうかもしれない。でも、まだ、一緒にいたいという素直な気持ちに抗えるほど、私は真面目ではなかった。
「ん?」
「これで私がもし、『付き合います』って言ったら、それって元カレと同じになりません?」
「え、何?付き合ってくれるってこと?」
「いや、そうなったらあまりにも節操なし過ぎませんかっていう…」
「なんで?別に二股かけてるわけじゃないし全然よくない?俺、吉村がアイツとくっつく前から吉村のこと好きだったんだよ。あんなぽっと出との恋愛と一緒にされちゃ困る」
先輩は私がうじうじと悩み、躊躇っていることをあっさりと解決するようにそう言い放った。
「外で立ち話すんの寒い」と言われたので、とりあえず移動することにする。前と後ろではなく隣に並ぶと、薬指と小指だけを絡めるように手を繋がれた。なんだか、振り払いたくなくて、そのままにしておくと、先輩は何も言わずにゆっくりと歩き始める。
「私さっき、真面目に恋愛してたつもりって言ったんですけど」
「うん」
「真面目に恋愛するっていうのがどういうのなのかはよくわかんないんです」
「ははっ、確かに俺にもわかんねえわ」
私に歩幅を合わせて歩きながら繋いだ手を揺らす横顔を見つめる。
「でも今日いろいろ聞いて、考えて。なんだコイツって思われるかもしれないけど、澤田先輩とのこと、ちゃんと考えたくて」
「………ん?」
軽い女だと思われるかもしれない。もしかしたらまた急に別れを切り出されるかもしれない。でも、なぜかそれでもいいと思えた。
「付き合いたい」というより「隣にいたい」が近いような気はするのだけれど。
「何それ」
「何って…」
「吉村も俺のこと好きなの?」
「は、はい…まだ、これからもっと好きになれそうだけど…」
好きだ!と自信をもって頷くにはまだ時間が足りないと思った。これから仲を深めていく余地がたくさんあるし、深めていきたいという意欲もある。
しかし、先輩は口元に手を当てて「嘘だろ…ドッキリ的な何か…?」などと言うから、薬指と小指だけで繋がっていた手を、恋人繋ぎのように繋ぎ直してみる。すると、一瞬驚いたような気配の後、力強くぎゅうっと握り返された。
「……じゃあ付き合う?」
「…はい。よろしくお願いします」
「…っ……まじか…まじかー……!」
先輩は額に手を当てて天を仰ぐ。その声があまりにも嬉しそうで、なんだかこちらがきゅんとしてしまう。今にも繋いでいる手をぶんぶんと振り回し始めてしまいそうなくらいのテンションで、先輩は「すげー嬉しい」とはにかんだ。
「俺、さっきも言ったけど一途だから。もし万が一 浮気したり二股かけたりしたら殺して」
「嫌ですよ。変なこと言わないでください」
「大事にする。幸せにする。いっぱい話して、恋人っぽいこといろいろしてさ、真面目に恋愛しよう」
ふふっと笑いながら頷くと、先輩は「くっそ可愛いなまじで」と頭を抱えている。いつもと何も変わらない、なんならフラれた日の方が気合いが入った格好やメイクだったのだけれど、そんな風に言われるとやっぱりちょっと嬉しい。先輩は私を慰める天才かもしれない。
とりあえず、さっき話題に上がったカフェに行ってみようということになり、ぶらぶら歩きながら話をする。
「私のこと、その…いつから好きだったんですか?」
「んー、補佐だった時期の後半くらいかな」
思っていたよりも前で驚いていると、先輩は続ける。
「俺は気にしないけど、一応直属の上司と部下みたいな感じだったしやりづらくなるだろうから、補佐から外れたら告ろうかなと思ってたら、補佐外れる直前に彼氏できたとか言われて絶望した」
「なんかすいません…」
「それはいい。謝るとこじゃない」
がやがやしていたところから、だんだんと人通りが減ってきている。カフェはこの先の曲がり角を曲がったところにある。
「はじめのうちは割とうまくいってるみたいだったし、まあ吉村が幸せならいいかと思ってたけど、最近はそうでもないのかなって時が増えてたから。まあ正直…狙ってた」
「…幸せじゃないように見えてました?」
「うん。俺吉村のことめっちゃ見てるからわかる」
自信満々にそう言われて、ちょっと怖いような、感心してしまうような複雑な気持ちになる。でも、そんな先輩だからこそ、いろいろな契約をどんどんとって来られるのかもしれないとも思う。
「あ、ここ…なんですけど」
目的地に辿り着いたけれど、なんだか様子がおかしい。真っ暗で人の気配がないのだ。
扉に近付くと、貼り紙が貼られているのに気付く。
「え!」
「なんて?」
「マスターが体調悪いから今日はお休みですって…」
「あーなるほどね。インフルとかかもな」
「ごめんなさい、よく確認すればよかったです」
時刻は8時過ぎだから他にも入れそうなお店はあるけれど、ここまで無駄に歩かせてしまって申し訳ない気持ちになる。しかし先輩はそんな私の頭をぽんぽんと撫でる。
「一緒に歩いてるだけで楽しいからいいよ。でも…」
でも?
何を言われるのか、その先の言葉を待つ。
「……とにかく、まだ帰したくなくてさ」
甘い視線を受け止めて、私はその場に立ち尽くす。
「そ、れは…」
「いや、大丈夫。悪い、返事に困るようなこと言って」
苦笑しながら手を繋ぎ直すその顔を見て、不思議な気持ちになってくる。結局、どんなときも、誰よりも私のことをちゃんと考えてくれているのだ。
「駅に戻るか」とスマホを弄り始めた先輩の上着の裾をつんと引っ張る。
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