【逆レ】ゴスロリを喰む歪んだ旋律

悪魔ベリアル

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あの群衆が集っている時に聞こえる独特のざわめき。
人々が流れる水の様に支流を作り、様々な方向へと列をなして歩いている。
広場の様な駅のコンコース。
その片隅で田中クニオは、待ち合わせをしていた。

彼の年齢は29歳。
その体はすでに貫禄が出始め、頭髪も薄くて厚みがない。
当然、その雰囲気に見た目も合致している。
太い黒縁の眼鏡にふっくらとした顔。
手入れのしていない太い眉。
三白眼な細い目。
ぷっくりしたタラコ唇。
良く言えば、福々しい。
悪く言えば…、
あか抜けていない。
太った中年男性。

そんな彼の服装は、黒い皮のボディバッグを斜めがけにして、
上着は、襟元が大きく開いた、地味なグレイのリネンシャツ。
よれたデニムを履き、それを幅広の皮ベルトで締めている。

改札からコンコースへ出た正面。
線路と街の遠景が望める大きな窓の下。
無数の待ち合わせをしている人が佇んでいる。
その中に紛れて、彼もスマホを覗いて待ち人を待っていた。

【プチ 割3希望】
『駅前であえますか?』
【いいですよ】
『ホテル有で5どうですか?』
【あー(*´ω`)、ごめんなさい】
【それは、ちょっと…】
『そうですか…』
『じゃあプチで会いましょう』
【ありがとう♥】

『もう着いたよ、改札の前』
『グレイのシャツを着ているよ』
【いま行きますね♪】

クニオはパパ活募集をSNSでみかけ、その相手と待ち合わせをしていた。
雑踏から湧き上がる雑音と、たくさんの人々がクニオの前を流れて行く。

そんな人ごみの中から、ひときわ目立つ女性がクニオの目に入る。
ふりふりのヘッドドレスが動く度に揺れている。
白と黒のコントラストが際立つゴスロリドレスをまとった女の子。

彼女の大きく広がった、ハイウエストスカート。
その裾からは、幾重にも重なったフリルが花束の様にひらめき、
リボンとレースに飾り付けられたドレスは、彼女が歩くと花開く様に揺らめく。
そんな、特徴的な容姿の女性が、無色な人の群れの中を歩いている。

クニオは彼女を眺めていると、その視線に彼女は気が付く。
そして、人ごみの中を踊る様に回避しつつ、彼へと彼女は近づいて来た。

「あ、あのぉ…、く、クニオ…さん?」

彼の目の前へ到達したゴスロリの女性は、恐る恐ると彼へ名前を問いかける。
厚底の編み上げブーツを履いている彼女は、クニオより少しだけ身長が高かった。
彼女は、インナーカラーとメッシュの入った、服装に似合ったヘアスタイルをしている。

年齢は…、いくつだろうか?
未成年から感じる、"ミルク臭い"雰囲気というか…。
そんな幼さをクニオは相手から感じた。

フリルとリボンで豪奢に飾られ、見た人を威圧するゴスロリドレス。
彼女は、ソレに見合った濃いメイクをしている。
だが、実際の年齢は15、6だろうか?

着飾った容姿と違い、顔の印象からは幼い雰囲気が滲んでいた。
だがそれは、決して悪い意味ではない。
ゴスロリドレスとメイクが相互反応して、
彼女の存在自体は、不思議な妖艶さを醸し出していた。

目鼻立ちはメイクのせいか、ハッキリしている印象を受けた。
綺麗にまつ毛も生え揃い、ぱっちりとした大きな眼。
きゅっと、濃いアイシャドウ。
強く太い、アイライン。
瞳は印象的な青のカラコン。

すっと通った鼻筋。
目元と対照的に鮮やかな紅い唇。
その唇は、小さく可愛らしい花のつぼみのようだ。
ゴスロリメイクが映え、綺麗と可愛いが混じっている。

「は、はい、クニオです…。」

彼女の醸し出す雰囲気にあてられ、クニオは情けない声で応えた。

「よかったぁっ」

両手を顔の前で合わせ、彼女は微笑む。

「すっごい、人が沢山居てぇ」
「もしかしたら、出会えないかと思っちゃいました。」

そう言うと、彼女は少し乱れた自分の前髪を手直しした。
その仕草を見守りながら、クニオは心の中でガッツポーズをとる。
クニオの心境は、大物を吊り上げた気持ちで高揚していた。

パパ活は何回かした事あるが…。
こんな可愛い子に出会ったのは、始めてだ…。
でも、本当にこんな子がパパ活に付き合ってくれるんだろうか…?

クニオの心には、そんな不安が立ち込める。
だが、不安をかき消しつつ彼女へ声をかけた。

「あ、あの…、名前は…?」
「あっ。ごめんなさい…っ。」
「ボクの名前は、カイリって、呼んでください♪」
「カイリちゃん…っ」
「はいっ★よろしくっ♪」

カイリと呼ばれたゴスロリ美少女は、愛想よくクニオに返事をした。

「いいねぇ~っ」
「はい? 何がですっ??」
「自分の事を"ボク"って、言ったじゃん♪」
「ボクっ娘ってヤツ?」
「可愛いなぁ~っ♪」
「うふふっ、そうですかぁ♪」

たどたどしくクニオは、カイリの気持ちを持ち上げる。
それにカイリは、可愛らしく愛想笑いを返す。

「じゃ、じゃあ、早速…。」
「行こうか?」
「…ホテルで、イイよね?」

クニオは"ホテル"という単語を出して、相手がパパ活する気があるのかを確認した。
そして、彼女を案内する様に先に歩き出す。
すると、カイリは後ろから彼の腕をとり、積極的に自分の腕を絡ませた。

「ちょっと、待って♪」
「ごめんなさい…。」
「…ホテルはちょっと…っ。」
「ええ…っ!?」
「この後…、ボク…、」
「…用事があるんだ。」
「じゃ、じゃあ、レンタルルームとか…?」
「うぅん…、コッチに一緒に来てくれる…?」

そう言って、カイリはクニオの腕を引く。
そして、目的地を目指して歩き出す。
そんな、カイリの引っ張る力は強く、クニオは素直にカイリに従った。
雑多に人々がひしめく街中を、クニオと腕を組んだカイリは、フリルとリボンをなびかせ歩いて行く。
ふんわりとスカートが揺らぎ、ひらひらと彼女を飾るフリルが舞う。
人ごみの中を歩くその姿は、まるで流れが渦巻く海の中を優雅に進むクラゲの様だった。

駅前の雑踏から離れた二人は、近くにある大きなビジネスビルへと入った。
そこは、多くの会社事務所が入った雑居ビル。
巨大な吹き抜けのロビーに他に人は見当たらず、クニオとカイリしか居ない。
雑多に人が行き交う街中と違い、その場は閑散とした静寂が支配していた。
ここは役所の支所が入っていて、普段は一般の人も行き来する。
ゆえに、部外者が入っても不審には思われない。

ふわふわとゴスロリドレスを揺らめかし、カイリは率先してクニオを誘う。
エレベータに乗り込み、より人が少ない上階へと移動する。

「クニオさん、こっちですよ♪」

カイリは最上階のトイレへ、クニオを連れ込んだ。
男女用と別に存在する、多機能トイレ。
多機能トイレの大きなスライドドアを開き、クニオを招き入れる。
二人でトイレに籠ると、カイリは鍵を閉めた。

「…ここなら、誰も来ませんから♪」
「カイリちゃん…、何か…、」
「…手慣れてるねぇ…っ。」
「結構、こうゆう事してるの…?」

カイリの手際の良さに、クニオは圧倒されていた。
駅前で出会って此処まで来るのに、さほどの時間もかかっていない。
確かに此処なら、他の人の眼にも触れにくい。

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