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柒号
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しおりを挟む「…………ハル?……ハルヒ……?」
名前を呼んでも肩をゆすっても、彼女が目を開くことはもうない。若神子ハルヒは死んだ。
静寂があたりを支配し、ヒロキは目を閉じたハルヒの顔を見つめたまま微塵も動かない。瞬きすら。心臓さえも動くことを放棄したようだ。
徐々に体が熱を失い始めるとようやく、彼女が死んだんだと気づいた。
悲しみ、怒り、恨み、喪失感、絶望感、あらゆる負の感情がヒロキの体も心も支配し、震え上がらせる。
「あ、あぁ……あぁぁ…………っ、う……あぁぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!!!」
この時、皮肉にも月子は人間同様、心臓を損傷すれば死ぬということが証明された。
そんなこと、研究員以外は考えることができなかった、というかどうでもよかった。月子として生まれてこの世界を生き、そして死んだ最初の月子。
悲しみ、苦しみ、虚しさ、怒り、憎しみ。他、ありとあらゆる負の感情がヒロキから放たれ他の月子達も共感した。月子特有の心のつながりのないチユニもまた、1日中涙を流した。
それからだ、ヒロキがやけくそ、八つ当たりのように手当たり次第に女の子と遊ぶようになったのは。それも、一線を越えて。
ただの、度が過ぎる遊び。遊びに愛だの恋だのは微塵もない。ぽっかり空いた心の穴を、時間を、懸命に埋めようとしている。もう誰にも、何にも埋めることができない。
自殺しようとしたことも何度もあった。心がつながっているのでライトに気づかれ、兆候があれば両手首に電流が流れるリストバンドを常につけるようになった。
生きる意味を失い、死ぬこともできない。今はただ、主の「生きて」という命令のために生きているだけ。
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