ユキ・シオン

真実と嘘と現実

６Ｐ

　悔しい。悔しくて悔しくて、熱い涙がボロボロこぼれる。何で俺、先生にこんなにも一生懸命なんだろう。助けてくれたからって、普通はここまでするか？


　こんなにも轟木直也を憎んで、この手で殺してやろうなんて考えるか？


　轟木直也を殺して、俺も死ぬ。異常なのはわかってる。でも俺、もう…………手にした包丁が手放せねぇんだ。


「っ！！？なっ……あ、電話か。病院？……はい、もしもし？」


　風呂上がりにキッチンに立っていたら突然尻ポケットでケータイが鳴って、画面に表示された“病院”の文字に心臓が跳ねた。危うく、握りしめた包丁を落とすところだったな。


　ばっちゃんのことがあっていつ病院から電話がかかってくるかもしれないから、いつもケータイはいつも肌身離さず持っている。


　まさかばっちゃんに何かあったんじゃ？恐る恐る耳に当てると、優しそうな看護師さんの声。


　俺が大学生なのを知っているからすぐにつながったことに驚いていたが、ホッとしたように用件を続ける。今すぐ来てほしい、と。


　ただ、ばっちゃんの容態が悪くなったとかではない。眠っていたばっちゃんが目を覚まし、いきなり「ユキをここに連れてきなさい」と強く呼んだそうだ。


　いつもコロコロ温かく微笑んで、ほっこりするような優しい口調のばっちゃんが今日は命令口調。


　理由を聞いてもばっちゃんはただ「連れてきなさい」の一点張り。これはただ事ではないと、俺がまだ授業中だとわかったうえで電話をかけてきた。