ユキ・シオン

からみつく

３P

　顔を上げると、悠一は目を見開いていた。黄色の目を、もうこれ以上開きませんとばかりに開ききって、口もポカーン。アホ面。それで鼻水を垂らしたら写メってやる。


「シオ――」


　コンコンコンッ。ドアがノックされた。上体を起こし、ユルユルと持ち上げられた、つないでいない方の手が俺の頬に添えられた瞬間だった。


「すみませーん。検診の途中で放置された、かわいそうな白猫の子はいますか？えーっと……ユキ・シオン君だっけ？」


「あ、はい！あ……っ」


　ノックをしたらしい男の声が聞こえた。ちょっとイヤミな感じだが、反射的に元気よく返事をしてしまった。


　つないでいる手の平がジットリ汗ばんで、ドアから目を離せずに呼吸を止めている悠一に気付かずに。顔が真っ青じゃないか。なんで俺、返事なんかしちまったんだよ。


　おかげでドアの向こうの男はドアを開けようとしてガチャガチャッ。カギがかかっていて開かないと気付くと「あれ？」と声を上げ、なぜかまたノック。


「ドクトルがなかなか戻って来れそうにないんで、僕が代わりに検診の続きをやろうと思うんですけど。どうですか？」


「い、いや、ここ、快適だし待ってますんでっ」


　今度はちゃんと拒否できた。この人だ。悠一の怖いものに関係があると思う、ドクトルが「あの子」と言っていた男。どんなに鈍いやつでもこれはわかるだろ。


　ドアを開けてはいけない。悠一は息をひそめ、ギュッと目を閉じる。俺の手を力一杯握り締め、痛いくらい。


　けれど、こんなにも悠一が怯えているのを知ってか知らずか。ドアの向こうの男はさらに悠一を震え上がらせる。


「うーん。準備はしているし、機材も電源入れっぱなしだからできればさっさと済ませたいんだけど。…………さっきから静かだけど、そこにネコヤンさんもいるよね？」