ユキ・シオン

天才小説家、高台寺笑也

８P

　本、落とした。いきなり笑也が叫んで、思わずビクッ！ってしてさ。ちょうど開いてたページが主人公カップルの最中の挿絵のページだったし。つい、投げた。


　怒られるって思って慌てて回収したんだけどよ、笑也はそれどころじゃないみたいだな。


　なんか、デジャヴ。ちょっと前にも同じようにインターホンの連打を聞いたよな？あの時は笑也が慌てて玄関に行ったけどさ、今回は相手がわかっているのかスッゲー嫌そうな顔をしてノロノロ。


「担当が来た。悪いけど、シオンさんは俺の友達で偶然近くまで来たから寄って遊びに来たってことにしてくれるか？大丈夫、擬人化種だってことは言わない。すぐに追い返すから」


　そう言って、１階に降りて玄関へ。「友達」って響きがちょっとくすぐったくて、俺は笑いながら笑也について行った。


　ピンポンの連打は収まっているが、ドアの向こうで何かガヤガヤ話し声が聞こえる。担当さんだけじゃねぇ、さっき言っていたコミック化で作画を担当する絵師とそのアシスタントか。


「近所迷惑ですよ、お月さん。突然決まったからって、突然来られたらいくら俺でも困ります。悪いけど、このまま帰ってください」


「突然押しかけてしまったのは謝るわ。でも、外に出る大事な用事って、友達と遊ぶこと？」


　ガチャッとドアを開けると、ワインレッドの細いフレームが格好いいメガネをかけた女性がいた。後ろに、髪がボッサボサの男と、小学生かってくらいちんまい女。