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涙
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しおりを挟む「出て行ってくれないんですか?……とでも言いたそうだな」
「まったくもってその通りですけど?シオン君、今頃1人で泣いているんじゃない?恋人なら、追いかけて抱きしめて慰めてあげるんじゃないですか?それとも、僕を怒るために――」
「泣きそうなのは直也の方だろう?」
シオンが歯を食いしばって部屋から出て行ったあとも、俺はこの部屋を出ようとはしなかった。畳に座って、壁に背中を預ける。
「はぁ?意味がわからないなぁ。あーあ、シオン君がかわいそう。晩御飯を作るって言ってたけど、涙で視界がにじんで指でも切っちゃうんじゃない?まぁ、僕は食べないけど」
直也が言うように、シオンを追いかけたい衝動に駆られる。当たり前だろ。けどな、俺は我慢した。
シオンにはいつでも俺がついている。だが、直也には今、心を許せる頼れる人がいない。俺やシオンがいくら味方だって言っても、直也は笑ってヒラヒラ手を振る。
ここで背を向けてしまったら、直也は2度と誰も信じないと思った。シオンをあんな風に傷つけても、それが本心でも、清々したとは直也は思っていない。
俺にはわかった。たぶん、シオンにもわかったはずだ。あいつは誰よりも直也への想いが強いからなぁ。信じているからより一層、本心だとわかって傷ついた。
「言葉は諸刃の剣だ、って教わらなかったか?本音でシオンを傷つけておいて、お前の方が傷ついた顔をしているぞ。苦しいんだろ?」
直也は本当に、シオンのことが好きなんだと見ていてわかる。ちょっとイラッとするが。
その証拠に、シオンを傷つけるたびに苦しそうな表情が一瞬だけ見える。さっきシオンが出て行った時も、顔を背けながらも目はシオンの方を向いていた。
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