ユキ・シオン

drug of love

７P

　柔らかい。轟木直也の、本来の心からの微笑み。それを、俺に見せてくれた。口では「大嫌い」だと言っていても、これはかなり嬉しいな。


　が、落ち着いても股間は腫れて痛いらしい。ちょっとうつむき気味に、そそくさとリビングを出て行ってしまった。


　朝食にシリアルとスムージーか。そんなの、俺もシオンも経験ないな。明日大学が終わったら、３人でスーパーに買い出しにでも行ってみるか。


　なんて考えながら、俺もリビングを出てシオンが眠る部屋へと向かう。


　途中、直也が入っているはずのトイレの前を通った。１度だけコンッとノックして「ありがとな」と声をかけ、中でガタガタ音がして苦笑。


「悪趣味」


　という呪詛を背中で聞いて、俺は寝室の前で足を止め目を閉じる。


　俺の魅了、心を奪う力。その恐ろしさを思い知らされた。こんなにも相手を傷つけてしまうのかと。こんなにも自由を奪ってしまうものなのかと。


　こんな力、必要ない。香さんは「擬人化種の頂点に君臨する、王になるにはこれ以上ない力じゃ」と言うが、俺はそうは思わない。


　直也は生粋の人間だから、ただただ俺に惹かれて我を失うくらいだったが。昔、俺が研究所で大事故を起こした時はもっと酷かった。


　直也も多少は感じていたように、俺達擬人化種にはフェロモンがある。発情している時はとても濃く発せられる。そしてそれは人間よりも動物の方が影響を受けやすい。


　研究所で俺の力をもろにくらった擬人化種達は、俺を求めるだけの心のない人形と化していた。