ユキ・シオン

優しくない優しさ

１６P

「ほんと、わかってないですねあなたは。いや、あなた方は。いいですか？僕は愚痴を聞いてもらうことはあっても、あなた達の家に遊びに行ったりなんかしない。気遣ってくれているのはわかるけど、僕は今でもネコヤンさんのことが好きなんです。諦めるために、線を引くと決めた。邪魔しないでください」


　真剣な表情でそう言うと、首輪に手を持って行き爪でカリカリと引っ掻く。イラついている。


「本気で恋をすると、たとえ相手に殺されそうになっても想いが消えることはない。僕は負けたんだ。新しい本気の恋をして、そっちに集中するために探す。わかりましたか？」


　怒っているというよりは呆れているのか。コクコクうなずく悠一に「ほんとかなぁ」と怪しむソランさんが、不意に俺に目を向けた。


　今の話って、もしかして。同じなんじゃないのか？直也の、今の状態と。


　ハッとした俺に、満足げに笑みをこぼしたソランさん。大きく伸びをしながら「あー、僕って優しいお兄さん」なんて笑う。


　ソランさんと直也は良く似ているから。同じ立場にあるから、大きなヒントをくれた。ありがとうございます。


　俺、帰ってまだイマイチわかってないっぽい悠一と話をします。俺達が今後、直也やソランさんとどう接するべきなのかとか。朝まで討論するぐらいの意気込みで。


　今度会う時はゆで卵の弁当を作ってくる。普通のゆで卵と、うずらの卵とか、味付きとか。


　すごく気分が軽くなった俺はソランさんにお礼を言って、頭の上にハテナを乗せた悠一と一緒に病院を出た。


　悠一、今日は夜食も作るからな。酒のツマミ？いやいや、真剣な話をするのに酒なんか飲ませねぇよ！