恋人以上、永遠の主人

那月

文字の大きさ
上 下
164 / 268
ハーメルンのホラ吹き

15P

しおりを挟む

 酒吞童子と茨木童子の姿がどんどん小さくなっていく。いくら永遠の鬼追いであるあたし達でも、こんな高さから落ちたら死んじゃうわよ。


 でもあたし達、敵である彼らに助けられたのね。さっき見えた黒いキツネ面の男。あの人がミチカさんの記憶の中に出てきた男だわ。


 酒吞童子と茨木童子が恐れる男。人間なのか鬼なのかはわからない。わかったのはウザい男だってことだけ。


 少ししかいられなかったけど、鬼気は感じられなかった。だったら人間だっていうの?あの2人が恐れるのが、ただの人間?


 新たにわかったことはいくつかあるけれど、同時に謎も増えた。それ以上に、受け止めがたいショックなことが起こりすぎて何が何だか。


 とにかく今あたしが考えなきゃいけないのは。この絶賛自由落下中、もうすぐ地面に激突して死んでしまう結末を回避する手段よ!


 片腕でティンさんを抱え込み、もう片方の手で離れないようにあたしの手を握っているマクベス。こんな時に役に立つ魔法が使えたらいいのに。


 なんて後悔したって無理なものは無理。ビルの壁に足を付けて摩擦で何とかしようとしているけど、無理でしょ!落ちるスピードはほぼ変わらない。


 グングン迫ってくる硬いコンクリート。まだ、今回は死ぬわけにはいかないのよ。


 睨み付けてもどうしようもないけど、近づく地面を睨んでしまう。ってあれ?誰かが走ってきた。こっちに向かって両手を突き上げている?


「包み込め、ウィンディベール……ッ!」


 あたし達の体が、フワリと暖かい風に包み込まれて優しくゆっくりと、地面に降りていく。


しおりを挟む

処理中です...