惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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気配

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 キツネも小娘も元々おしゃべりで、小夜は初めからリラックスして堪能していたが。他2人の女中も緊張していたのは最初だけで、今はもう楽しそうに笑い話に花を咲かせている。


 何よりキツネと小娘はそれぞれの境遇のせいもあって、こんな大勢で、しかも鍋を食べることなどなかったのだろう。笑顔が眩しい。


 それよりも、あえて口に出さなかったが。キツネよ。お前、女性恐怖症だったはずだよな?なのに女中の手をつかんで、しかも隣には小娘、反対側には手をつかんだ女中をはべらせているとか。


 小娘の影響で慣れたか?いや、それにしては目玉が飛び出そうなほどの急成長。こいつの女性恐怖症は、一生治るまいと覚悟していたんだがな。


 楽しそうにしているのなら、いいか。こいつも、もう大人だ。女性が平気になれば1人でも生きていけるだろう。番を見つけられるかもな。


 で、俺はというと。女どもの話の内容は理解できないし全く社交的でないので、1人で黙々と食っている。


 女4人の女子トークにキツネがついていけているのが恐ろしいな。俺にはやつらが何の話をしているのか、まったくわからぬ。異世界語だ。


 いっそ、気配でも消してしまおうか。そう思った矢先、空になった椀が目の前に差し出された。


「お肉と白滝と人参、それから春菊も入れてちょうだい。お肉は少なめでいいわ」


「自分で入れろ。セルフサービス、だ」


「あ、あんたねぇ。……というかあんたのお椀の中、白ばっかりね。お豆腐にネギに白菜に白滝に大根って」


「気にするな。しゃべってばかりいないでさっさと食え。どうせ、今日は食ったらあっちに戻るのだろう?」


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