惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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約束

11P

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 朔と夜通し話をした。彼らの死を悼むように。彼らを称えるように。決して忘れぬように。


「……酒呑童子の本名、知りたかったな」


「そうだね。私も、茨木童子さえも知らない名だからね。酒呑童子は己の過去については固く口を閉ざしていたし」


「生まれ変わってきたら、訊ねてみたい」


「きっと教えてくれるよ。君なら、彼とずっと繋がっている君なら、必ず打ち明けてくれる」


 思い上がりなんかではない。俺と酒呑童子は、確かに心で繋がっている。強い絆がある。胸の奥に熱いものを感じる。


 血は繋がっていない。家族でもない。恋人でもない。けれど、恋人以上の親友だ。


 早く会いたい。なんて言えば「そんな無茶を言うなよ」と酒呑童子に怒られそうだ。だが、これが俺の素直な感情だ。


 想えば想うほど、会いたい気持ちが膨れ上がる。苦しくなる。それでも、我慢して待つと決めたのだ。


 俺は我慢強いからな。ただ、ものすごい容姿が変わっていたり、むしろ女だったりしたら複雑だな。女だったら、とりあえず笑ってやる。


 本当に生まれ変わってくるという確証はないのに、来るであろう望む未来に思いを馳せると楽しくなる。


 酒呑童子が俺の前に再び現れる時、世界はどれほど変わっているのだろうな?いつか酒呑童子が言っていた、文明が進み何もかもが便利になり生活が楽になる、そんな時代になっているのだろうな。


 あぁそうだ。酒呑童子が帰ってきたら、また釣りをしよう。勝負だ。今度こそ1勝は取れるように、帰ってくるまでの間きっちり鍛えておかないと。


 俺は、隣で手を摩っていた朔の肩を叩いた。


「なぁ朔。あんた、釣りは得意か?」



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