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魚は釣れても角は釣れない
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しおりを挟む「嫌だ、帰らない。僕が……異端児の僕がそばにいたら、父上に迷惑がかかる」
和紗に背を向け、川下の方に歩く敦彦。うつむいているせいで長い前髪が、1歩踏み出すごとにユラユラ揺れる。
「あんたがウダウダグジグジクドクド闇を吐いて家出する方がよっぽど、お父様の迷惑よ。愚痴は私が聞いてあげるから、あつ君は今すぐ私と家に帰るの!い、い、わ、ねっ!?」
「ぐぅっ!?さ、さささささささぶっ!い、いきなり川に突き飛ばすなんて、酷い……」
「あーあ、頭まで完全にビショ濡れね?これじゃあ早く帰ってお風呂に入らなきゃいけないわ。さ、行きましょ?寒いなら私が手をつないでいてあげるわ」
バッシャァーンッ!!あろうことか和紗は、どんどん離れてしまう敦彦に向かって走り勢いはそのままにドンッ!と丸まった背中を突き飛ばした。
おかげで敦彦は頭から川に突っ込んでしまった。やっと目が覚めたか?ガタガタ歯を慣らして震え、したり顔の和紗を睨む。
幼なじみ、もとい世話係のなせる業か。濡れた着物がピッタリ体に張り付いて、体の細さが際立っている敦彦に手を差し出せばニコッと微笑んだ。
彼女なりの優しさのつもりなのだろう。しかし敦彦は、何か裏があると思ったのか彼女の手を取ることなく歩き出す。
「和紗には、僕の苦しみなんてわからないよ」
その呪詛は、和紗の耳にしっかり届いていた。本当に誰かを呪い殺してしまいそうなほどの悲しみと、恨みの入り混じった呪詛。
その呪詛の意味を、敦彦の苦しみの理由をわかっている。和紗は、キュッと口を引き結んだ。
言いたい。かわいそうな彼に「私にはわかる」と、言ってあげたい。けれど、嘘は吐けない。黙り込んでしまった和紗を、敦彦は足を止め振り返った。
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